【1期作品】ニーナ涼大祭の話

「お祭りを開きましょう!」
ニーナタウンの某所、某日。ユウスが元気に言い放った。
「「お祭り……?」」
不審げに繰り返した住民たちを見回して力強く頷く。
「町興しです!」

【祭りの前日、あるいは数日前の話】

「ああっ! やっぱり素晴らしい……美しい……私!」

ニーナタウンのとある仕立屋。クローゼットとタンスが据え付けられた部屋には、普段は1つ2つ残して仕舞われているカービィ用のマネキンが、今日は舞台衣装のようなお洒落で絢爛な衣装を掛けられ整然と並べられている。
さらに特異な事に、普段は落ち着いた空気の流れるこの部屋で、本日は実にナルシシズムな声が響き続けていた。
「ああっ、美しい麗しい素晴らしい! 眉目秀麗とはまさにこの事! なんて愛らしいんだ! 愛を司る神が具現化したようだ! いやまさに愛そのものだ!」
気持ちの悪い事を言って両手を広げる、パステルカラーの球体。熱っぽい瞳を潤ませて、迸る言葉が止まる事はない。
「そしてこの衣装の似合いよう! 完璧か! 完璧なのか私っ!」
「ふふふ。本当ね。似合っているわよ、ローゼル。」
「おっと……失礼、オペラ。私のあまりの美しさに、つい我を忘れて愛を語るのに熱中してしまったよ。」
蝶ネクタイをキュッと結んだローゼルが鏡の前でクルリとターンする。そして「フム、角度をもう少し整えたほうが私の美貌を完璧に……」と再び鏡を覗きこむ。その様子を微笑ましそうに眺めたオペラが、白い蛾の羽を持つカービィに向き直る。
「ソマリちゃんはすごいわね。素敵な衣装をこんなに沢山作ってしまうんだもの。」
「お祭りのステージに使う衣装ですからね。いつも以上に張り切っちゃいます! オペラさんも、どんな衣装にして欲しいかイメージ固まりました?」
オペラはソマリに微笑みを返すと、並べられていた生地のひとつを手に取り、ゆっくりと眺めた。
「この布地、素敵ね。スパンコールがキラキラ反射して、まるで夜空を織ったみたい。」
「ホントですか? 嬉しいですー! 実は自信作なんですよ。」
オペラの言葉にソマリがはしゃぐ。
「オペラさんの舞台に、とってもとっても似合うと思います!」
「ふふ、嬉しい言葉をありがとう。じゃあ、この布を使って衣装をお願いできる?」
「お任せ下さい!」
メジャーを持ったソマリが、オペラの体のサイズを図っていく。ソマリが測定しやすいようにポーズを変えながら、オペラが世間話を続ける。
「ソマリちゃんは、お祭りの日は誰かと一緒に回るの?」
「んー、お友達に誘われたんですけど、当日はステージ衣装の着付けがあるから無理だって断っちゃいました……。」
「じゃあ、ステージが終わったら一緒にお祭りを回りましょうか。」
「オペラさんと一緒に? わーい! 楽しみです!」
「ふむ。楽しみ給え婦女子たち。私はステージを成功させる事に専念しよう。」
ようやくネクタイの位置に満足したのか、ローゼルがくるりと2人に向き直る。話していた女性2人はフフフ、と笑い合う。
テンションの差はあれど、次に発せられた3人の言葉は綺麗に一致していた。
「「「ああ、涼大祭の当日が楽しみ!」」」

「おっ……終わったぁ~……」
ムーンホールの一角。チラシの最後の一枚を貼り終え、カゲキがヘナヘナと地面にへたり込んだ。
「お疲れ様です、町長。」
「ボスって呼……あれ……? 合ってる……?」
「本当にお疲れのようですね……。」
苦笑した柊がお茶を差し出す。最後のチラシを貼った場所がたまたま柊の店の近くで、珍しく覇気の無いボスを見かねた柊が店から顔を出したという事情だ。
「なにも町長自らチラシ貼りに参加しなくても。」
「別の町から請け負った仕事だ、抜かり無いようちゃんと最後まで見届けてえ。」
「妙な所で律儀ですね。」
感心したような呆れたような(たぶん中間)の表情を作った柊だったが、すぐに薄い笑みを顔に貼り付ける。
「ボスはニーナタウンの祭りには行かれるので?」
「ちょっと様子見にな。『町興し』ってのは気になる。
ムーンホールの奴らも、誰か行ったりするのかねえ。」
「ええ。エーリさん辺りには恰好の稼ぎ時でしょうし、ナシラさんも行くと仰ってましたね。露店には珍しい魔法具が出ることもあるからコーパルさんも行かれるでしょうし。トリアさんもグレイさんと行くようですよ。」
「お前やたら詳しいな……」
「ええ、商売ごとですので。」
「商売ごと?」
柊がにっこりと笑いかける。
「私も出店致しますので、見かけた際はどうぞご贔屓に。」

スタビレッジに商人がやって来た。荷降ろしをする商人の世間話に混ぜ込まれた一言に、ジュウドが動きをとめた。
「涼大祭?」
「そうそう! 有名な観光地で行われるお祭りでね。今年が第一回なんだ。」
「ああ、ニーナでやるやつか。他の奴らに聞いてるよ。」
「もう? 田舎は情報早いなー。」
マーニーがケラケラ笑った。ジュウドは大したリアクションを見せることなく、淡々と否定的な言葉を紡ぐ。
「アルナスルやななかは行きたがってたが、俺は行かないつもりだぞ。」
「まあそう言わずに。知り合いに聞いたら、ウィスピーのりんごあめやら金魚すくいやら、かなりの量の屋台が出るって話だよ。「ゆけむり」の――終日帳(ヒネモストバリ)の人気の居酒屋に居る子も来るって言ってたし。サルヴェインスカイも姿を表すって噂もあるね。
 僕もくじ引きの店を出すんだ。ほらコレ。良かったら見に来てくれよ。」
マーニーが差し出したチラシに目を落とすと、
【空クジなし! 「マーニーのくじ引き店」豪華賞品多数。夏祭りで運試し!マジックアイテムをお得に手に入れちゃおう♪】
と胡散臭い文がポップなイラストと共に踊っていた。さらにチラシの端には
【同時開催! 「ドーラに乗ろう!」合体コピーも受付けます!(※別料金)】
などと書かれている。ジュウドは無表情のまま「ふーん」と呟き、マーニーにチラシを返した。
「俺はやっぱり興味出ないな。そもそも何だこのチラシ、怪しいぞ。」
「えーそお? フランクで見る人の心をグッと捉えるいいチラシができたと思ったんだけどなー。」
「ちなみにマジックアイテムって何だよ?」
「トリプルスターと虹のしずく。」
マーニーがサラリと言い放つ。ジュウドはマーニーのマフラーの首元を掴むと。
「お前それ前に俺から騙し取ったやつじゃねーかあああああ!」
前後に激しくシェイク、憤りを全力に篭める。
「はーっはっはっはっは! 取り返したかったら屋台に来てねぇ~!」
マーニーは全く動じない。快活に笑いながらちゃっかり宣伝まで言ってのける。ジュウドは怒りを発散しきれないまま喉を枯らす。
「首洗って待ってろコラああああ!」
「はっはっは、ジュウド君。キャラが迷子だぞぉ。」

「お祭り?」
ちょうどスタビレッジにかき氷を売りに来ていたななはは、姉のななかの言葉に、かき氷をつくる手を止めてぱちぱちと瞬きをした。
「うん! 8月1日から3日までの3日間やるんだって! ライちゃんは遊びに行くって言ってたし、レダ君は似顔絵描きのお店を出すみたい。」
対するななかはキラキラした目をななはに向ける。
それを受けたななはは微妙なリアクションしか返せない。ニーナタウンと言われても、『ホシガタエリアにあるちょっとした観光地』くらいの知識しか持ちあわせていない。世界有数の観光地であるジークフリートに居を構えて長い彼女にとってはお祭りのような騒ぎなどそれ程珍しい事でもないし、寒冷な土地に住む彼女には「涼大祭」という行事がいまいちピンとこない。
だから彼女の心が揺れ動いたのは、姉の次の一言が原因だった。
「それでね、かき氷の出店をさ。2人でやらない? ――いっしょに!」
いっしょに。
ななかとななはは普段離れて暮らしている。ホシガタエリアとフローズンカンティネント。別エリア同士は遠く、あまり気軽に会う事は無い。むろん手紙のやりとりはしているが、顔と顔を合わせたコミュニケーションは、2人が別々に暮らし初めてから本当に貴重になった。
だから、「いっしょに」という言葉は、ずいぶんと素敵に思えた。
「うん! 一緒にやろ!」
「やったー! わぁい、楽しみ!」
妹の返答を聞き、ななかが跳ねる。
「「はやくニーナのお祭りの日にならないかな!」」

「えっ、ナシちゃんニーナのお祭りに行くん?」
ムーンホールの書店。ナシラの経営するその店に立ち寄って世間話をしていたこのはが素っ頓狂な声を上げた。
「ええ。倉庫で眠っている本があるので、他の物もあわせてフリーマーケットでも開こうかと。」
「ええなー。うちも仕事なかったら一緒に行くんやけどなー。」
と、このはが耳をヘタらせる。ナシラは苦笑して「お疲れ様です。」と労いの言葉をかけた。
「それじゃあ、おみやげを買ってきましょうか。何かリクエストあります?」
「ほんならピーチデニッシュ買うてきてくれる? うち、あのお菓子好きやねん。」
「お魚みたいな焼き菓子でしたっけ。分かりました。」
「あと、それからな。」
内緒話をするみたいに口をすぼませ、このはがカウンターに身を乗り出す。
「お祭り、楽しんで来てな!」
「……ええ!」

「え~?! ヴィオさんしばらくメカノに来ないってどういう事?!」
メカノアートの昼下がり。ヴィオのキッチンカーの前で、大声を放つ少女が1人。
カウンターを挟んで目の前には、ぶっきらぼうを絵に描いたようなコックが店じまいの作業をしていた。
ヴィオのキッチンカーを見つけたニコだったが、タッチの差で最後の商品が売れてしまい、ぶーたれたままヴィオと話をしていた所だったのだ。
「観光地でやる祭りに出店する事になった。かなりの客が来るだろうから、食材集めと下準備に時間をだいぶ割かなきゃならん。」
「お祭り?」
ニコがぴくりと反応する。ハイテンションなイベントはニコの最も好むものだ。尋問されそうな気配を察し、ヴィオがニコに向かって先手を打つ。
「スマホ持ってるだろ。『ニーナタウン』で検索してみろ。」
言われたとおりにしたニコが、検索結果の一番上のページを開いて目を見開く。そこには大文字で、ニーナタウンでお祭りを開催する事、今年が第一回である事と、3日に渡って祭りが開催される事が記されていた。
「ふ~ん……」
ニコは実に楽しそうな笑顔を浮かべる。ヴィオの料理が食べられなかった事に関するイライラはすっかり頭から抜け落ちたらしい。弾んだ調子で、パッと駆け出した。
「ご飯食べたらー……ユリカちゃん誘いに行こうっと♪」

「ううう……カイレのばかー、うらぎりものー……」
ルトロは重い足を引きずって、メカノアート裏街近くの通りをノロノロと歩いていた。
告知サイトでニーナタウンの涼大祭の事を知ったルトロは、即座に友人であるカイレを祭りに誘ったのだが――

「ボクは警備の仕事があるので。」
「(´・ω・`)」
「……そんな心細そうな顔しないで。ボクのぶんまで楽しんできて下さい。」

「うえええ……仕事なんかサボタージュしちゃえばいいじゃないか! 真面目系! サイボーグ! おんなじ裏街仲間じゃないかー!」
上を仰ぎ、袖をバサバサさせながら歩く。
「だいたいカイレはいっつもがふぅっ?!」
「きゃあっ?!」
上を向いたまま歩いていた結果、誰かと正面衝突。盛大にすっ転んでしまった。
「い、いたたたた……ああっ、ごめんよ君! 大丈夫かい?! すまない前方不注意で!」
「あいたたた……あう~、ポリィはだいじょぶだよぉ、ポリィこそ上向いて歩いててごめんねぇ~。」
どうやら同じタイミングで上を向いたまま歩いていたらしい。ルトロは感心したような溜息をつく。
「あはっ、自分も上を向いて歩いてたんだ。同罪さ。」
「そうなのー? すごいねー、ポリィびっくりだよ! あ、ポリィはポリマって名前なの!」
「面白い偶然もあるもんだね。自分はルトロって名前だよ。」
「ルトロ……おねーさん? おにーさん?」
「お兄さん? お姉さん? どっちでも悪くないね、あはは!」
「ん~じゃあルートちゃんって呼ぶね☆」
「はっはっは! 面白いねポリィは!」
ケラケラ笑うルトロに、ポリマが首を傾げて言葉を投げる。
「ルートちゃんはどーして上を向いて歩いてたのー?」
「友達をニーナの祭りに誘ったら2秒で断られてねー! 涙が零れないようにってやつだね!」
「えーっ、ルートちゃんもなの?! ポリィもね、お友達誘ったのに断られちゃったのー!
 ナッスィーってば、せっかくニーナのお祭りに誘ってあげたのに『新しいお友達と行くから無理デース☆』なんて言ったんだよ!」
これまた奇妙な偶然! 2人はたちまち意気投合した。結果、
「ねっ、ルートちゃん! ニーナタウンのお祭り、ポリィといっしょに回ろーよ!」
「んんん? 良いのかい自分が一緒に行っちゃって!」
「ぜ~んぜん! てゆーかオッケー? むしろ大歓迎! あたしもルートちゃんみたいな面白い人と一緒に行けたら超ハッピーだよ~!」
ハイテンションな2人の会話はとどまる所を知らず。
晴天のメカノアートに、かしましい話し声が響き続けたという……。

たまたま街中で出会ったメカノゴーグルトリオ。雑談をしていたら、ニーナタウンで行われるというお祭りの話題になり、カルノとルーカスが「お祭りに遊びに行くついでにナンパしようぜ!」という方向性で盛り上がってしまっていた。
「カルノさんはともかくさ。」
傍らで佇んでいたハヤトが首を傾げる。
「ルーカスさんがそういう話をするのはちょっと意外だったな。」
「あ゛? 何だハヤト、どういう意味だそりゃ。」
「そりゃオマエあれだろ! 普段のオマエがあんまりにもアレだから、人魚とかナンパとか言い出したのが面白かったんだろ! あははは!」
「あ? 何だぁカルノ、文句あるなら聞こうか? ああ゛?」
カルノを捕まえ、頭に拳をぐりぐりめり込ませていくルーカス。
「冗談! ギブ! ギブ! うわあい! オンとオフがハッキリしてるって素敵だなぁ~!」
「だ か ら、仕事の顔の話はすんな思い出させんな! 恥ずかしいだろうがああああ!」
『ソンナニ嫌ナラ、仕事モ素デヤレバ、イイノニネ!』
「ルーカスさん真面目だからなあ。」
デコの正論に小さく返事を返すと、ハヤトは2人のほうに身を乗り出した。
「で、その夏祭りっていつ行くの?!」
「おっ、乗り気じゃねえかハヤト!」
ルーカスがハヤトに目線をやってニヤリと笑う。緩んだ手を振り払ったカルノが離れたところに逃げて、頭を押さえてうずくまる。
「えへへっ、面白そうじゃん! 可愛い女の子も気になるし、あと、」
ぐっ、と拳を握って期待顔。
「ナンパってした事無いからやってみたい!」
「ねえのかよ?!」
『ナニゴトモ、経験ダネ!』
「お前は止めなくていいのか?!」
「はーっはっはっはっは! 良いだろう! オレが直々にナンパの極意を教えてやるぜー!」
カルノが跳ね起きて高笑いを放った。しばし休んで復活したのか、すっかりすっかり調子を取り戻している。ただしまだ少し涙目だ。
「よーし、涼大祭に向けて、各自しっかり準備しとけよ!」
「「おー!」」

「ハトラ町長! 他の町にチラシを配り終えてきたぞ! あと、街の飾り付けもいい感じだ。」
「有難うございます、シアル。」
ニーナタウンの町長室にひょこりと顔を出したのはシアル。各方面に祭りの告知のチラシを配ったり、祭り当日も仕事の予定で忙しい、今回の影の功労者だ。
「他に仕事はあるかな?」
「そうですね、後でモートと……」
「シアルー! 警備のことで打ち合わせがあるんじゃがのー!」
「はーい! ふふ、先に向こうがお呼びのようだ。……それじゃハトラ、私はこれで。」
「それじゃあね、シアル。警備と花火役、頼んだよ。」
「ああっ、すっかり花火役として認識されてしまっている……!」
どんよりした雲を引きずりながらドアの向こうに消えたシアルと入れ替わりに、涼大祭の発案者であるユウスが駆け込んできた。
「先生! お祭りに出店してくれる参加者の出店の場所を割り振り終えました! かなりの数が集まったから大変でしたよ~。
 その人達に話を聞いてると、涼大祭に行こうって言っていた人達もかなりいるみたいで。賑やかになりそうですよ!」
「それは結構ですね。」
ユウスの話にハトラが柔和な笑みを返す。一息ついて、感慨深げな呟きも付け足した。
「最初は何を言い出すのかと驚いたが、あんがい好評みたいだね。」
「ふっふっふ、僕たちが頑張った結果です!」
自慢げな笑みを浮かべてやや胸を貼るユウス。ハトラもそれを否定せず、素直に労いの言葉をかけ。
「たくさんの人が来てくれるといいねえ。」
「来ますよ絶対! 成功させましょう!」
ハトラの呟きに、ユウスが拳を突き上げて宣言した。

様々な街で、あるいは村で。期待を、興奮を、膨らませ。

祭りが、始まる。

→スタビレッジ村民到着!
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