やあやあようこそクランクゼィッニッヒ

やあやあようこそクランクゼィッニッヒ! 外の世界はバレンタイン? いやいやここではトリック・オア・トリート!
クランクゼィッニッヒ・イディアールは、年中いつでもハロウィンパーティ! 毎日毎日オバケと一緒に、狂ったようなパーティさ! さあさあ君も! 大丈夫、一緒に狂えばきっと楽しいさ!
ショコラをあげよう。ケーキはいかが? ほらほらお菓子を用意しないと、君もあっという間にトリックさ! ほうらガトーショコラにブラウニー、ショコラタルトにチョコレート・パイ、ちょっとお洒落にオランジェット、チョコレートトリュフ、ボンボンショコラ、ロリポップチョコレート、チョコサラミ、生チョコレート……。
「侵食されてる!」
ホロウが机をバーン! と叩いた。机の上には山積みのチョコレート。今日街を出歩いてトリックオアトリートを仕掛けた戦利品である。もうね、全部チョコ。
「街の装飾や仮装もだいぶバレンタインっぽい!!! 聖バレンタインに3回くらい会ったよォ今日!」言うのに合わせて机をバンバン!と叩く。
向かいに座ってチョコレートをもふもふ食べていたエクサクムは「べつにいいじゃん、そんな気にしなくても」とけらけら笑う。
「よくないよォ! ここはハロウィンの街なんだからねェ!」
そういうアイデンティティ大事! 最後にもうひとつバン!と机を叩き、ホロウが勢いよく立ち上がる。「こうしちゃァいられない! ハロウィンらしく正さなきゃァ!」
エクサクムはまばたきをして、首を傾げた。
「なんでそこまでムキになるの?」
「愛とかよくわからないんだよねェぼく!!」
半ギレ気味に言い残したホロウは、館の扉を蹴破る勢いで街に繰り出した。

街に出れば、そこかしこでチョコレートがばら撒かれ、通りではカップルがイチャついていた。舌打ちをするホロウ。さてどうしてやろうか、と考えを巡らせる。
「トリックオアトリート!」
どん! と後ろから衝撃。転びそうになったホロウを、後ろから誰かが引っ張って支える。
振り返れば、ホロウに抱きついたエクサクムが笑っていた。
「ハロウィンしたいんでしょ?」
それを聞き、ほっ、と息を吐いたホロウは、困ったように頬をかいた。
「勢いで飛び出したんだから、お菓子なんて持ってないよォ」
「よーし、ならばイタズラだー!」
自身の腕に絡んでいるツタに手を添えて、エクサクムがキラリと目を光らせる。わあ、ウィップは勘弁!と逃げ出そうとしたところで
「こんばんはー。お菓子どうぞー」
横あいからチョコレート・バーを差し出され、ホロウがちょっと面食らう。
「わーい、ちょうだいちょうだい!」
エクサクムが横合いから手を伸ばし、貰ったチョコレートを齧って、「あま〜い! チョコレート好き!」とにこにこ笑う。
「ホロウさんも。お菓子どうぞー」
エノガがふんわりした笑みを浮かべてボンボンショコラを差し出す。差し出されるままお菓子を受け取ったホロウは、スミレ色のチョコレートに三角帽子と包帯をあしらった飾りがついているのを見て――毒気の抜かれた笑みを浮かべる。それを見て、エノガも にへら、と気の抜けた笑みを浮かべた。
「あ、そうか。今日ならハッピーバレンタインですねー」
「ゴオオオオオオオゥストッ!!」
ホロウの繰り出すゴーストは相手の魂をすっぱ抜く。魂が抜けたエノガはバタンと地面に倒れた。
エクサクムが慌ててホロウにしがみつく。
「ちょちょちょ、何やってんのホロウさん?!」
「ハロウィンだっつってんでしょォ!!!」
「いいじゃんバレンタインなんだから!!!ホロウさん過去に女性関係でなんかあっt」
「ファイアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
ホロウの操るファイアは相手の気力をゼロにする。思考力を奪われたエクサクムは地面に倒れた。

そのまま、チョコレートをばらまくカップルに辻ゴースト!
すれ違った聖バレンタインに辻ファイアッ!
勢いのままに街を走り抜け、少しでもバレンタインを感じさせる輩の魂を次々抜いていくホロウ!

普通なら止める立場である町長は、「グレイトッ! 意味不明すぎてステキ! 今日はバレンタイン禁止Dayにしちゃおっかっ!」とご機嫌。チョコレートをお店に並べている店主を次々に蜘蛛糸でぐるぐる巻きにしはじめる。

ゆえにノンストップッッッ! 止まらぬホロウの暴走ッッッ!!! ぶっちゃけキャラ崩壊ッ!!!!!!

チョコをもさもさ食べるエカルトを発見したホロウは、シュバババという効果音が聞こえそうなスピードで近づいて至近距離。
「トリックオアトリート?!」
血走った目でエカルトを睨む。無言でチョコを差し出すエカルト。ひったくるようにチョコを受け取って口に放り込み「ぐわああああああああああ?!」という叫びを残してホロウが倒れ込む。
ようやく思考力が戻ってきていたエクサクムがぎょっとして飛び起きる。
「え、な、なにしたのエカルト」
「……何も」
エカルト自身もチョコレートを齧り、もちもち咀嚼し、飲み込んでから口を開く。
「……外から来た奴にもらった。”隠し味”入りのチョコレート」
「なにそれ」
「一昨日食べたタランチュラに似ている」
なおももさもさチョコを食べ、嚥下し、新しいチョコに手を伸ばす。タランチュラってわりと美味しいらしいよね。
エカルトの目の前で、ホロウがふらりと起き上がる。ひええ危ないエカルト?!
「ッッッ素晴らしいッッッ!!!」
両手を上げてホロウが叫ぶ。
なんてイタズラごころに溢れたチョコレート! 可愛らしいお菓子と見せかけての不意打ちッ! 気狂いするようなエグさ! これが愛ッ! 愛を叫ぶ行事ッ!!! そう! バレンタインもハロウィンだったんや!!!
「ふふふ、ぼくとしたことがァ……取り乱しちゃって恥ずかしいナァ」
ホロウが帽子の端を持ち上げてにやりと笑う。一連の経緯を見ていた町長も大はしゃぎで「ワンダフル! 素敵すぎて頭がおかしくなりそう! じゃあバレンタインイベントいっぱいやっちゃおっかっ!!!」チョコレートをお店に並べていない店主を蜘蛛糸でぐるぐる巻きにしはじめる。

ワーオ! 今日もステキで無敵に狂った一日になりそうだ!
歓声が上がる! ハロウィン! ハロウィン! バレンタインもハロウィン!
ハッピーバレンタインアンドトリックオアトリート!!!
チョコレートを渡さないとイタズラしちゃうぞ!!!
さあさあようこそ、クランクゼィッニッヒ!

おしまい

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1件の返信

  1. より:

    サムネイルに使用したイラストは
    https://www.silhouette-illust.com/illust/13180
    さんからお借りしました

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