メカノゴーグラーズとバレンタイン対策

カルノ、ルーカス、ハヤト。
なにかとよくつるむこの三人は、全員ゴーグルをかけていることからゴーグラーズと呼ばれていたりいなかったりする。そんな三人だが今は目が死んでいる。原因は街の雰囲気だ。そこかしこの店に並ぶチョコレート。ピンクとハートにいろどられた電子広告。往来でいちゃつくカップル。つい今しがたもカフェの店内でチョコレートを渡してはにかむ女子とその彼氏とか、チョコレートケーキを「あーん」させあってるカップルとか、そういうのを見て
「ああ〜超うらやましい〜〜!!!」
「クソッ、甘い空気出しやがって……ッ!」
「2月14日は天国か地獄かの分かれ目だよね……」
それぞれ大きなため息をつき、天を仰いだり遠い目をしたり机に突っ伏したりした。
チョコが欲しい。
アテは無い。
カルノがスッ、と胸に手を当て、目を伏せる。
「求むるならばまず与えよ。さすれば与えられん」
「なんだコイツ」「急にリエン教徒らしさ出してきたよ」
「発想の逆転ってことだよっ!」
グッ! と拳を握る。
「逆チョコだあああああ!」
ああああ……あああ……ああ……
エコーが消えてたっぷり5秒経ってから
「「その手があったか!!!」」
ガタッ!と残り二人が立ち上がる。
この場にいる男子は全員、チョコ欲しさにちょっとバグっていた。
グーにした拳でガッガッてタッチするやつをワーッてやってから、「で、何を作ると女子ウケするんだ?!」真剣なまなざしをするルーカス。「いいの作らないとホワイトデーにお返しがもらえないからね」ハヤトも真剣な表情で頷く。フッ、とカルノは笑う。
「わかんね」
「「クソァ!」」
二人揃ってカルノの背中をスパーンッ!と叩く。カルノは「ぐえっ」という声を吐いて机に突っ伏した。
だがこんな事で諦める彼らではない!
しゃーねえ! 作って試していちばん女子ウケよさそうなやつを渡そうぜ!!

そんなわけで、やると決まれば行動が早い彼ら。ハヤトがレンタルのキッチンスペースを予約し、カルノが製菓店へと反重力ホバーボードを走らせ、ルーカスが包装用品店でラッピング用品を買い付けた。
そうしてキッチンスペースに集合した彼らは、広い机に材料を広げて意気込んだ。作るぜ!チョコレート!
繊細ジェットを外して手袋をつけるルーカス。三角巾を装着するハヤト。広いキッチンスペースにテンション上げて写真を取るカルノ。材料のチョコレートを味見するアーク。
「なぜアークが」
いつもはメカノアート裏町にいるアークが、いつの間にかサラリと紛れ込んでいた。別に3人がわざわざ呼んだわけではない。じゃあ、なぜここに? アークはにっこりと笑う。
「カルノ君のインスター(※自分の撮った写真や動画をおしゃれに加工して共有できるSNS)に投稿されてたから!」
「カルノォ!」
「インスターでアピるのは基本じゃん?」
いえーい、となおも自撮りをし、インスタ―に記事をアップしてやがるカルノ。あまり反省した様子はない。
アークは目をキラキラさせ、拳をグッ!と握る。
「バレンタインのチョコ作るんだよね! ボクも手伝う!」 
「食べるの専門じゃねえの?」「だから味見は任せて!」「作る気なしかーい」
とふざけ合いつつも、各々作業を開始した。

……小一時間ほど経っただろうか。

「なあちょっと見てくれ!」
カルノが全員に向けて手招きして、スマホの画面を見せる。
「作りやすくて女子ウケしそうなレシピ探してたんだけど、この動画のやつとかよくね?」
「おっ、いいな」
「そうじゃん? でもこっちの関連動画のやつもよくってさぁ」
「あー、たしかにいいね」
「つーか俺このシリーズ好きなんだけどさ、新作きてて」
「あ、面白いよねこれ」
「だろ? んで関連動画でこんなん見つけてさあ」
「なにこれ、こんなのあったの?」
「お、こっちも面白そうじゃねえ?」
さすがは世界有数の動画共有サービス。何気なく見ていても、飽きることなく次々に面白い動画を発見できる。
しばらく関連動画を見漁ってワイワイ盛り上がった。
「じゃねーだろ!!!!!」
気づいたルーカスの一言で、カルノとハヤトもハッとする。
動画は無しだ無し!!!! スマホは未だ関連動画に夢中のアークに預ける。
「ったくカルノてめえはよぉ! 俺を見習え!」といって、ルーカスが得意げにチョコレートを指し示す。「お、完成してんじゃん」少々無骨だが、ふつうに美味しそうなチョコレートトリュフだ。
「ラッピング次第では女子ウケしそうじゃん」
「そうだろ?なるべく多くの女子に配ろうと思ってる」
「なんでさ」
「この間、配送の仕事でヒンメルトロイメルへ行ったらよ。遺跡で発掘されたっつう『超強力惚れ薬』ってのが売られてて」
「……まさか」
「おうよ」
目に怪しい光をたたえて、ルーカスがクククと笑う。
「これでモテモテだぜええええ!」
ガッツポーズを決めるルーカス。ハヤトが即座に右手を構えて
「コピー能力【レーザー】!!!!」
チョコレートが蒸発する。
「ハヤトてっめぇぇえええええ!!!」
「自立システムにこうされる前に止めたことにむしろ感謝しろぉぉぉ!!!」
胸ぐらをつかみあげるルーカスと、ルーカスの手をつかみ返して怒鳴るハヤト。
ルーカスの手を振り払うと、
「もう! あとはボクのしか残ってないじゃないか」
と頬をふくらませる。「変なもん作ってんじゃねえだろうな」胡乱げな視線を送るルーカス。ふふ、そこは任せてよ!とハヤトは胸を張る。
「お菓子作りはね、計量と配合が大事なんだ。そういう細かいことはボクの得意分野だからね!」
これ味見分ね! と差し出されたアイシングクッキーは、食べればさくりと口の中でほどけ、確かに手作りにしてはまあまあ美味しい。ハヤトは自信満々に
「そして造形したものがこちら!」
「「ダッッッッッ」」
差し出されたクッキーはアイシングこそ繊細できっちりしているものの、なんといえばいいのかちょっと名状しがたいが、あえて言うならフロッツォに似ている。
「味はレシピ通りになるんだから、デザインで個性を出さないと」
「理屈はわかるよ? わかるけどお前……これ……モテる気あんの?」
「女の子向けなんだから可愛いほうがいいでしょ?」
「ああこれ可愛いイメージで作ってんだ……」
にこにこ笑うハヤト。
「じゃあラッピングしよっか!」
「「やめろ!!」」
わいわい言い合ってるので、なにかあったと気づいたらしい。アークがスマホから顔を上げて「どう? できt……」そこに並んでいたのは、空の皿、黒焦げの痕、なんか名状しがたい何か。アークが絶句する。ふるふる震えて
「お菓子で遊んじゃいけないって習わなかったの? 悪なの?」といって右手に大剣を構え「「「ストップストップ!!!!」」」
三人がかりでアークを抑えていると、入り口のチャイムが鳴った。
「……誰だ?」
不思議に思いつつドアを開けてみると、
「お〜やってるやってる!」「ちょー甘い匂いするじゃん!」「すごぉーい、広いキッチン〜!」ユリカ、ニコ、ポリマの女子組がキャッキャ言いつつ入ってきたため、男子たちは全員ビビる。ななななぜここに?!
「カルノ君のインスタ―に」
「カルノォ!!!」
「まじごめん」
カルノを小突きまわしているうちに、女子たちはキッチンスペースの一角に自分の荷物をさっさと広げてしまう。
エプロンに三角巾。小麦粉に砂糖に生クリームにアザランなどの製菓材料に、そして――チョコレート。
「バレンタインの用意なのよね!あたし達も一緒に作っていい?」
花が咲くような笑顔でユリカが問う。
顔を見合わせたゴーグラーズ達だったが――。
「「「「……もちろん!」」」」
――全員、そりゃもう勢いよく頷いた。
甘い空気の中、女子たちと一緒にお菓子作りに励むゴーグラーズ。
「出来上がったら、味の感想聞かせてね!」
「バレンタインにもう一回食べることになるんだから、正直に言いなさいよね!」と、ユリカ達はにこにこしている。
当初の計画は頓挫したけど、結果オーライ!
と、こっそりハイタッチするゴーグラーズであった。

おわり

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