【小説】ミナノと不思議なおだやか⑤

「ミナノと不思議なおだやか⑤」

朝。
窓から差し込む日差しと小鳥たちがさえずる音が聞こえてくる。私はその音と暖かな光を全身に浴びると、ゆっくりと目を開く。

そして大きく背伸びをするとまだ眠い目をこすりながらもベットから飛び降りる。

「なんだか嫌な夢を見たような気がするなぁ……」

そう呟きながら、コップにたっぷりと水を注ぐとそれをゆっくりと飲み干す。

コップを片付け、お気に入りの大きな緑色のリボンを整えながら、今日はどうしようか考えていたが、特にやることがあるわけでもないのでぼんやりとしていた。

そんなこんなで2,3分、のほほんとした空気の中リボンを整え終わると、とりあえず外出しようという考えにいたり周りを見渡す。すると、やっと今までのことが夢でないことに気がついてしまった。

ベッドの反対側にある少し間のあるスペースでグレイさんとトリアさん、そして傷跡がちらほらと見えるユリカさんがぐっすりと眠っていた。

そう、あれは夢なんかじゃなかった。みんながおだや化になってしまい、その感染を止めることもできずに私達はただただ逃げていた。

それでも希望があると信じていたユリカさんの意見に従い、私達はニーナタウンにも足を運んだ。

だけど、ニーナタウンも手遅れの状態で、唯一無事だったその町の町長に話を聞くと「ユウスさんが帰って来ないんですよね……知りませんか?」と逆に質問をされてしまった。

その後ニーナタウンを出た私達はトリアさんの能力で移動しつつ、ホシガタエリアをくまなく回った。

でも……無事な人は誰1人としていなかった。

こうして疲れきった私達はとりあえずこの私の家に戻ってきて、昨日の晩はそのまま寝てしまった。

「あー、ミナノおはよ……」

「あ、おはようございますユリカさん」

「……」
「……おはよう」

「ぐ、グレイさんとトリアさんもおはようございます!」

「ミナノ、外の様子は?」

「とりあえず誰もいないですし、ずっと静かなままです」

「そう…..」

そう呟くユリカさんの顔は疲れきっていた。最初はこんな状況でも元気だったユリカさんも、あまりの状況の悪さに最初の元気はなかった。

それも無理はない気がする……気持ちが完全に分かるわけではないけど、なんとなくどんな心境かは察っせる。

とにかくまだ元気な私がなんとかしなくちゃ……

私は朝食の用意を済ませると、皆さんを呼び小さなテーブルを囲んで朝食を済ました。

その後皆さんの支度が終わるのを確認し大きく深呼吸をすると、覚悟を決めて小さなドアノブを回して外に出た……

「な、なにこれ……」

「み、皆さん……?!」

家を出てものの5分。
ジュウドさんを心配しながら探していると、何もない草花だけが生える場所で多くの住民が倒れていた。

朝のりんご祭りに参加する予定だった人全員に加え、シンさん、モノカさん、そしてジュウドさんが倒れたまま動いてなかった。

「ジュウドさん!皆さん!ど、どう…どうして……」

「……大丈夫、気絶してるだけみたい」

「どうやらそうみたいだな」

そう言われて確認してみると、確かにジュウドさんをはじめとした全員がただ気絶しているだけみたいだった。

「でも、一体なんで……」

そう呟くと同時に、背後から大きな声で「ただいまー!」という声が聞こえてきた。

驚きつつも後ろを振り返ると、白く透き通った羽をぱたぱたさせながら綺麗な水色をした人がこちらに向かってきていた。

その人が羽の上下運動をやめ地面に足をつけると、周りを見渡し…..なんとも言えない表情で口を開いた。

「んーと……何これどういう状況?」

「あ、メビーさん……ぶ、無事だったんですね……!!」

「あ、ミナノさん!貴方はなんともないんですね」

「は、はい!でもなんでメビーさんだけ……」

そう質問されたメビーさんは、頭をかく仕草をしながら、「うーんと」と続ける。

「僕は今さっきまでジークフリートに戻ってたんですよ。それで今ちょうど帰ってきたところなんです」

「そうだったんですか…..と、とにかく無事で良かったで」

その瞬間、
ドスッ!

っという音が鳴り響く。
その場の空気は一瞬で凍りつき、みな今起きたことが理解できないまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。

零れ出す小さな呻き声に、舞い散る白い羽が目の前で何度も交差する。

その中心に位置していたはずのもう一人の語り手は、無残にも地面へと叩きつけられていた。

「あ、ああ……」

「そんな……」

「め……メビーさぁぁぁん!!!」

私は泣き叫びながらメビーさんのもとへと駆け寄ると、何度もメビーさんの名前を呼ぶ。

でも目を覚ましてくれる気配がない。

「ぐ、グレイ……アンタ……?!」

「に、兄さん……」

メビーさんの顔に暗い影が入りこみふと前を向くと、グレイさんがあの忘れもしない恐ろしい笑みをしてこちらを見つめていた。

「ああ……」

その顔を見た瞬間、私はもう何も考えられなくなっていた。この状況がどんな状況かさえ……

「君たちも仲間になろうよ(⌒︶⌒)」

「ミナノー!!」

ユリカさんはそう叫ぶと強烈な蹴りをグレイさんにお見舞いする。

「大丈夫ミナノ⁈」

「は…..はい」

「どうしたの?2人して」

「「!!」」

最後の声に反応してメビーさんの方に視線を戻すと、私は見なければ良かったと後悔した。

「メビー…..まさかアンタまで……」

「どうしたの、そんな顔して。おだやかじゃないなぁ」

メビーさんはそう言いつつ両手をこちらに向けて伸ばしてくる。

「だめ…..ここからじゃ避けきれない!!」

ユリカさんがそう叫んだ直後、突如ゴオオという風を切るような音と共に目の前が真っ暗になった……

「..ノ…ナノ!…..ミナノ!!」

「う……ん…」

「ああ、良かった!目を覚ました!!」

「ユリカさん……?」

まだ意識がもうろうとしながらも体を起こすと、安堵の表情をしたユリカさんと落ち着いた表情のトリアさんがこちらを見つめていた。

「えっと…..あれ…..」

なぜこんな状況になっているか思い出せず、ふいに頭を抱える。

「大丈夫だよミナノ!トリアが能力で助けてくれたんだ!」

「と、トリアさんが…..?」

そう言われてふとトリアさんの方を振り向くと、「べ、別に……」と呟きながら俯くトリアさんが見てとれた。

「トリアさん、ありがとうございます」

「だからいいよ、別に」

「まあ彼もそう言ってるこトだし、とりあえず無事でなによりじゃないかナ?」

「え…..?!」

聞き覚えのある声の主の方を咄嗟に振り向くと、木の上でぶらぶらと足を動かしながら白黒のツートンカラーのバンダナを深々と被ったラレイヴさんがこちらを見つめていた。

「ら、ラレイヴさん!あなたも無事だったんですね!!」

「んー、まア無事というかなんというか……」

ラレイヴさんは勢いよく木の上から飛び降りると、こちらに向かって歩きながら話を続ける。

「真実が分かっタ……ってところカな」

「どういうこと……?」

「まあまあ、順ニ説明するから待って」

そう言ってキッと目を一瞬赤く光らせると、「ふう……」と息をつきまだまだ生い茂るだろう草花が咲く地面に座りこむ。

「じゃア順に説明するよ。まずはなぜああもあの顔をした集団ガ広まったのか…..」

「アレはネ、ダークマターに取り憑かれた者タチが次々に他の者へとダークマターを分散させていルだけなんだ」

「だ、ダークマター……ですか」

「ソウ、そして恐らくアのグレイという人物に取り憑き型ダークマターの本体が取り憑いテいる」

「兄さんに…..」

「でもなんでそんなこと分かるの、アンタ」

「その質問にはコタエられないけど、とにかく分かル」

「えっと……じゃあここにいる皆さんが倒れていたのは……?」

「ああ、すまないネ。あれは僕がやったンだ。気絶させておけばとりあエズ被害拡大は防げるからね。…..まあジュウド君だけは巻き添えダカラあとで謝らないとだけど」

「なるほどね……」

隣でユリカさんがうんうんと頷く。
でもその話が本当なら……

私は思い切ってラレイヴさんに浮かんだ疑問をぶつける。

「あの、ラレイヴさん!」

「ん?ナんだい?」

「それならみんなはどうやったら元に戻るんですか⁈」

ラレイヴさんは問いかけを聞くと、一瞬ふっと笑い、口を開く。

「それなら簡単だヨ。グレイ君に取り憑いている本体を倒せバいい。そうすれバ皆元に戻る」

「そうですか……!!」

その答えを聞いた瞬間、今まで薄れていた希望が一気に溢れ出す。

これなら……この人達と一緒ならできるかもしれない。皆を元に……

「や、やるんですね、私達が……」

「よーし、一丁やってやるか!」

「……兄さんのためだ」

「皆覚悟はできタみたいだね。じゃあやろうか!」

「はい!!」

やるんだ、私達が。
皆のために……!!

次回、最終回‼︎

「ところで、なんで取り憑かれると皆あの顔になるの?」

「……さア?」

つづく。

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