「ミナノと不思議なおだやか②」
「ここがメカノアート…でも……」
スタビレッジから走り続けて2時間くらい経った頃、私はジュウドさんに言われた通りメカノアートに来ていた。
でも街には見渡す限り誰もいなく、耳を澄ませても聴こえてくるのはしーんとした静寂だけだった。
「ここはこういう街なのかな…?」
そう思っていると、突然背後から手を掴まれて後ろへと引っ張られる。
思わず「わわっ⁈」と言うと、後ろから囁くように「静かにして」と言う声が聞こえてきた。
私が後ろを振り向くと、そこにはピンクと白のツートンカラーの帽子を深々と被り、大きなヘッドホンをした白い体の女の子が息を潜めて立っていた。
その女の子は前後左右の確認をすると、「ふう……」と一息ついた。
「アンタあんな大通りで何してたの?」
「え、いや、えっとそれは……」
突然声をかけられた私は、また戸惑ってしまう。
「まあいいや。あいつらには見つからなかったし、アンタは運が良かったってことで!」
「あ、あいつらって….だ、誰のことですか⁈」
戸惑いながらも私が思い切って聞くと、女の子は「あー、それはねー」っと切り出した。
「おだや化になってしまった人たちのことだよ!」
「お、おだやか…..?!」
「そう!昨日から突然この街に住む住民がニコニコし始めて、そのニコニコした人に襲われた住民もニコニコし始めたことから、あたしがそう勝手に呼んでるんだよー!」
「え、えっとそれって…まさか……」
そこまでの話を聞いて私の脳裏に嫌な予感が走った。
もしその話が本当なら、もしかしてスタビレッジの皆さんも……
そう考えていると、女の子があまりにも嬉しそうな顔をしていることに気がついた。
疑問に思った私が声をかける。
「あ、あの……」
「んー?何ー?」
「な、なんであなたはそんなに嬉しそうなんですか……?」
そう聞くと、女の子は待ってましたと言わんばかりの顔で答える。
「だって面白いじゃんこの状況!」
「お、おもしろい……?」
「そうだよ!襲われた者が同じように誰かを襲う!これってゾンビと同じようなものだよね?そして生き残っている者はもうほとんどいない……まさにバイオ○ザードならぬおだやかハザードって感じじゃない!!?」
そこまで一息で言い切った女の子の目は子供が新しいおもちゃを買ってもらったかのように、キラキラと輝いていた。
「あ、そういえばアンタはなんでここに来たの?」
「あ、そうでした!わ、私、ジュウドさんに頼まれてヲヲッカさんという方に薬を作ってもらうお願いをしに行くんでした!」
「ヲヲッカー?あー、それならあたしも彼に会おうと思ってたんだった!」
「え?あ、あなたもですか……?」
「そ、確か3日くらい前に怪しい顔でディミヌと何か話してたからさ、あいつが今回の事件の犯人じゃないかって思ってね!」
「はっ、犯人って……」
その言葉を聞いて私は不安になっていた。ジュウドさんに頼まれた薬はなんとしても作ってもらいたいけど、もし犯人ならたぶん作ってくれないかも……
それどころか襲われちゃうかも知れない。そんな不安が一気に私にのしかかってきた。
「ま、あくまでたぶんなんだけどね!でも目的が同じなら一緒に行こうよ!あたしはユリカ!あんたは?」
「み、ミナノです……」
「ミナノか!じゃあ短い時間かもしれないけどよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします」
「じゃあ行こうかー!」
そう言ってウキウキしながら歩きだすユリカさんの背中を見ながら、私はその後をついていった……
「あの…..一ついいですか?」
「なーにー?」
「以前この街は自律システムというものが働いていると聞いたのですけど……」
「うん、そうだね」
「でもそんな風には見えないんですけど…..」
「あ、それね!今自律システムは最小限しか動いてないんだよ!」
「さ、最小限ですか?」
「そう!なんでか分からないけど、昨日自律システムに原因不明の攻撃があったらしくて、その修復に時間がかかってるんだって!だから今は警備システムも完全に動いてないんだけど、こんな状況だから違反者は出てないねー!」
「そう……なんですか」
不幸と不幸が重なったけどなんとかなってる……ってことなのかな……
そんな会話をしていると、道端に倒れている人を見つけた。
それを見た私は真っ先にその人の元へ駆けつけると、咄嗟に声をかける。
「だ、大丈夫ですか⁈」
「う、うう……」
「どうしたの?」
「ユ、ユリカさん!この人苦しそうにしてるんですけど、どうすれば……!!」
「あー、それならー」
っとユリカさんが言いかけたところで「ぐぅ〜」という音が聞こえてきた。それを確認したユリカさんは、手元から紅いりんごを一つ取り出すと、倒れている人の口へと放り込む。
「え、え⁈な、なんでりんごを?」
「ん?ああ、この倒れてる人はロイドって言うんだけど、たまに創作に夢中になりすぎて何日も飲まず食わずで動いてる時があるんだよ!」
「な、何も飲まず食わず…..ですか」
「今回は10日くらい姿を見てなかたったからー…最長記録更新なんじゃない?ロイド!」
楽しそうに話しているユリカさんにそう言われたロイドさんは、ただ「オ、オイシィ……」とだけ答えた。
そんな幸せに満ちたロイドさんの様子を見ていると、ユリカさんが「さ、行こうか!」っと言ってきたので、私たちはこの場を後にした。
しばらく歩いていると、今度はなんとも奇妙な光景を目にした。
3人の人が倒れていて、1人はうつ伏せで倒れていて、1人はビルに突き刺さり、もう1人は地面にのめり込んでいた。
私が慌てて近づくと、3人とも意識はなく、ただぐったりとしていた。
「ど、どうしましょうユリカさん!?こ、この人たちの意識が!意識が!」
「落ち着いてミナノ!大丈夫だから!たぶん!」
「落ち着けないですよ!だ、誰かー!お、お医者さんはいませんかー!!」
私が思いきり叫んで助けを求めると、背後からくすくすと笑う声が聞こえてきた。
咄嗟に振り返ると、そこには大きな液晶パネルの中で笑う黄色の体の女の子がふよふよと笑いながら浮いていた。
「えっと…..あなたは…..?」
「ア、私ハCode:D!周りのヒト達カラはデコって呼ばレテるヨ!」
「あ、デコ!アンタはなんでこの3人が倒れてるか知ってる?」
「ハイ!知ってマスヨー!今それヲ一部始終ミテタところナンデス!」
「なら教えてよ!ちょっと気になるし!」
「イイですヨー!」
そう言うとデコさんはうつ伏せで倒れている人を指して「まず…..」と切り出した。
「そこデ倒れてるノハ、私のマスターです!」
「ま、マスターですか?」
「ハイ!えっとそれでマスターがナンデそこで倒れてるカト言うト…..」
「言うとー?」
「つい10日ホド前にロイドさんにシュウリを頼んでいたお掃除ロボットが治ったノデ、マスターが取りに行ったンデス!」
「えっと……なんか話長そうだから、要点だけお願いできる?」
「あ、ハイ!そのあとナンダカンダあってマスターは超高速全自動飛行移動可式お掃除ロボ……りゃくしてヴ•UFFM(ウフーム)に乗ったトコロ、バランスを崩してソノヨウナ姿ニ……」
「だからロイドは倒れてたのかー…..うん、納得!」
っと、ユリカさんは楽しそうに笑っているけど、それならいっそうこの人が心配なんですけど……
そう言おうと思った矢先、ユリカさんの「じゃああのビルに突き刺さってるのは?」っという声に遮られてしまった。
「あ!あの人デスか?アノ人もまた笑えマシテ……」
「ふむふむ!」
「突然スゴイすぴーどデやってきたかと思ったラ、“やっはー!今日はオフだオフだオフだー!”と言いナガラ落ちていたヴ•UFFMにツマズキ、まっすぐにアノ建物に突っ込んでいきマシタヨ!」
「あー今はポリツィアもいないしハメが外れたのかな!?こんな状況じゃなかったらちょっと見てみたかったかも!」
っとユリカさんはますます楽しそうに笑っていたけど、本当に大丈夫なのか心配になってきた。
「あの…..」と声をかけようとしたところ、「じゃああそこで地面にのめり込んでるのは?!」っとまたまたユリカさんの声に遮られた。
「あの人ハー氷の足場をツクリながら、コレマタ超すぴーどでやってきて、“イヤッフゥゥゥゥ!!!今日はポリツィアもいない!人もいない!オレの邪魔をするやつは何もないィィ!!!”っとイイながラ、ヴ•UFFMに……」
「あ、引っかかって盛大にすっ転んだってことね!うーん分かっ….分かった!!」
ユリカさんは笑いを必死に堪えながら、納得したように頷く。
私はユリカさんが落ち着いたのを見計らって、なんとか声をかける。
「あの、ゆ、ユリカさん!この人達を早く治療した方が…..」
「だ、大丈夫だよ。この3人なら放っておいても大丈夫!それよりもいらぬところで道草食っちゃったね。そろそろ行こうか!」
「え、えっと……でも……」
「いいからいいから!」
直後私は背後から「私もツレテ行ってくださいー!」という声を聞きながら、ユリカさんに少々強引に引っ張られてヲヲッカさんの元へと向かって行った……
つづく。