【1期作品/小説】スタレダ分岐2

【スタビにレダがやってきた!(ライ編)】

 食欲をそそる美味しそうな良い匂いがして、レダはパッチリと目を覚ました。

「あっ!起きた?起きた?だいじょうぶ?きみ、あのあと倒れちゃったんだよー」

 目を開けて、まずレダの視界に入ったのは、にっぱあー!と弾けるような笑顔だった。
羽飾りのついたヘアバンドを付けた、幼さの残る女の子が、レダの顔を覗き込んでいたのだ。
それに動じる様子もなく、レダはパチパチと眠たげに瞬いて、女の子に応えるように頷いた。

「ねえねえ、きみの名前は?あたしはライっていうんだ!」

 反応があったことがよほど嬉しかったのか、女の子――ライはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねながらレダに無邪気な笑顔を見せて訊ねた。

「……ぼく、レダ」
「レダ?きみの名前、レダちゃんっていうの?……えへへ、そっかあ、レダちゃんかー!」

 ライは、大切な宝物を貰ったように嬉しそうに何度もレダの名前を復唱した。
当のレダは、相変わらず無表情のままだったが、自分を繰り返し呼ぶライを、心なしか不思議そうに見つめていた。
ついには歌でも歌いだしそうな雰囲気でレダの名前を復唱していたライだったが、ふと、思い出したように手を打って、「あっ、そうだった!」と声を上げた。

「ごめんね、レダちゃん!お腹すいてたよね?あのねあのね、ジュウドちゃんにおかゆ作ってもらったんだー!ジュウドちゃんはまだ食べるのはキツイかもって言ってたんだけどね、もしかしたら食べれるかもって思って、お願いしたんだ!……レダちゃん、おかゆ食べれる?」

 ライは小さな土鍋が載ったお盆を両手に持って、中身を見せるようにレダに差し出す。
土鍋の中に入っている玉子粥は、質素ながらも、今のレダにとってはこれ以上ないほどの至高のご飯だ。
しかも、お粥はまだほかほかと湯気を立てており、それがレダの食欲を更に煽った。
レダはこくり、と頷き返して感謝を述べると、ジュウドちゃんが作ったというお粥の入った土鍋を、お盆ごと受け取った。
……いや、正確には、受け取ろうとしたが、その行動はお粥を差し出した本人であるライによって阻まれてしまったのだが。

「あっダメだよ、レダちゃん!ビョーキのひとにはカンビョーするひとが食べさせてあげるものなんだよ!」

 本に書いてあった、と一体どこの本でそんな知識を得たのか、ライは真剣な表情でお盆を手に持ちながら言った。
これにはさすがのレダも驚いたのか、普段は伏せがちの目を開いてポカンとした顔でライの瞳を見返した。
 
 
 あれよあれよという間に、ライはすっかり看病する気まんまんでレダの傍に座っていた。
おままごとをしている女児のように、楽しそうな顔をしていた。

「はい、レダちゃん。あーん!」

 ライは大きめの匙で土鍋の中のお粥を掬うと、レダの口の前に差し出した。
初対面の相手に「あーん」をやられたら、いくらそれが可愛い女の子だとしても、普通ならば抵抗を感じて遠慮してしまうところだ。
だが、レダにはそんな常識など通用しなかった。あるいは、そのようなことを考えていられないほどに空腹だったのか。
一瞬の躊躇もなく、レダは小さな口を開くと、その中に匙を招き入れ、丁度良い具合に冷めていたお粥を啜った。
それを確認して、ライが匙を抜く。

「……おいしい」

 咀嚼し、味を噛みしめた途端に口の中一杯に広がる素朴ながら味わい深い優しいたまご粥の風味に、思わず、といった風にレダの口から感嘆の言葉が漏れる。
その言葉にライは破顔一笑すると、ふっふーんと誇らしげに胸を張って言った。

「ジュウドちゃんの作ったご飯は、ぜーんぶ!おいしーよ!」

 レダは無表情ながら羨ましそうに頷き、もっと、と今度は自分から口を開いて催促した。
そして、舌に感じる幸福を、ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。
 
 
 
「ごちそう、さま」
「ごちそーさまでした!」

 何故か一口も食べていないライまで食後の挨拶を言い、元気よく土鍋を掲げた。
それから二人は、土鍋を脇に置いて、しばらく他愛もない雑談をした。
と言っても、話しているのはほとんどライの方で、レダはそれにたまに返事をするだけで、ほとんど相槌を打つばかりだったのだが。
それでもレダは嫌な顔一切せず、寧ろ微笑ましいものを見るように目を細めて自ら聞き手に回っていた。
ライもまた、コロコロと変わる表情、跳んだり転がったりと少しばかり大袈裟なくらいの身振り手振りで、最近あった面白いこと、退屈なこと、嬉しかったことをレダに話して聞かせた。
レダはその話の中で、ここがスタビレッジという村だということを知った。
スタビレッジが良いところなのだろうということは、楽しそうに語っているライの姿を見れば、ありありと分かった。
まだ声を聞いたことも、顔も見たことのない、スタビレッジの村人たち。
その姿をどこかふわふわとした気分で思い浮かべながら、レダは目を閉じた。
 
 
 
「どうしたら飛べるようになるのかなー?ね、レダちゃん。……あれ?レダちゃん?」

 相槌を打つ気配が途絶えたことを不思議に思い、ライがその俯いた顔を覗き込むと、レダはすやすやと穏やかな寝息を立てて眠りについていた。
ライはちょっと驚いた顔をすると、にへっと顔を綻ばせた。

「おやすみ、レダちゃん!起きたら今度は、みんなでご飯食べよーね!」

 レダを起こさないようにと潜められた声は、これからますます賑やかになりそうな未来を想像して、楽しげに跳ねるのだった。

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