【捏造SS】思い出せない

「どうして、いつからこの店をやっているのか、わからないんだ。確か、誰かから…受け継いだような…」

その記憶はおぼろ気でうまく思い出せない。それ以前のことも、ぽつぽつと穴が開いているようだ。
「確かに、『誰か』いたんだ。誰だったかは思い出せない。たまに常連のお客さんに聞いてみたりもしたけれど、ずっと前から僕が店主だったって言うんだ。」
年配の方でも同様だ。僕がそんなに長く生きているはずがないのだが。

ふと思い出す。店の古い倉庫だ。もしかしたらあの中に何かヒントになるものが眠っているかもしれない。奥の奥にあるうっすらと埃のついた棚を探る。すると不意に小さな額縁が落ちてきた。
それに入っているのは白黒の写真だった。驚いたのは、その写真に映っているのは僕の姿だった。

困惑しつつも写真立て(額縁から訂正)から写真を取り外し、よく見ようとする。裏返すと日付と名前らしき文字が書かれていた。「…年×月×日没」その名前には見覚えがあった。祖父の名だ。
少しほっとした。常連の年配者は勘違いをしていたのだ。通りで自分の知らない話をされると思った。でもなんで、僕は祖父のことをすっかり忘れていたのだろう。

それだけが、まだ思い出せない。

end.

【「例えばの話」indexに戻る】

Twitterでこのページを宣伝!Share on twitter
Twitter

コメントを残す