【小説】夢夜にねがいを 第19話(この星をかけた最後の戦い②)

「な、なぜ2人がここに…⁈それに、その狙撃銃はユリカ君のアルペジオじゃ…?」
「説明は後です!ミナノちゃん、後ろで倒れている子をお願いします。僕はその間に時間稼ぎをしてきます!」
「う、うん!でも、あんまり無茶はしないでください…ユウスさん!」
「うん」
 2人は互いに頷くと、それぞれが背を向け自らのやるべき事へと取り掛かる。
 ミナノ君が倒れていたトア君の側に近寄り彼女を介抱すると同時に、遠くからは殴り合う衝撃音が響き渡り始める。
「ん……」
 軽い手当を受けトア君が目を開くと、目の前で顔を覗いていたミナノ君に気がつき「あわわわ⁈」と驚きの声を上げる。
 その反応にビクつきながらもミナノ君が「だ、大丈夫…ですか?」と声をかけると、トア君は腕から水色に発光する不思議な液体を生成し自身へとかける。
 するとトア君の傷がみるみるうちに薄れてゆき、数秒後には綺麗サッパリ消えていた。
 自身の能力で動けるようになったトア君はボクの元へと近づくと、先ほどと同じ要領で液体をボクに塗りたくる。
「痛みが徐々に和らいでゆく…よし、これなら動ける!ありがとう、トア君!」
「ううん、お礼ならこの人に言って。この人が助けてくれなかったら、また悪夢の中に行くところだったもん」
「そ、それもそうか…ミナノ君もありがとうね」
「ど、どど、どういたしまして!」
「ささ、他の4人もすぐに回復させないと!きみ…手伝ってくれる?」
「分かりました!」
 元気よく返事を返すミナノ君にほのぼのとしたものを感じながら、トア君が液体をビンに詰め手渡す様子を眺めつつ、2人が倒れてしまった仲間の元へと駆け出す後ろ姿を見つめる。
 なんて勇敢な少女達なんだろう。まだあんなにも小さいのに、必死に戦おうと頑張っている。それに比べて自分は…!
 情けない自分を奮い立たせるように固く握りしめた拳で頬を殴ると、雪の中に刺さっていた夢の剣を抜き取り前へと歩き出す。

 もう、ダークマターに取り憑かれたグレイとの戦いの時のようにはなりたくない。
 あの時のボクは何もできなかった。
 …けど、この戦いは……!

「ぐあああッ!」
「ユウス?!ぐっ!!」
「うぐう!!た、助かりました、ラレイヴさん」
 突如ユウスが飛ばされてきたので、しっかりと受け止めると彼はお礼を言いつつ立ち上がる。
「大丈夫かい?」
「ええ。ですが、とんでもない強さですよ…あれ。何発か入れたはずなのに、微動だにしないなんて…」
 歯を食いしばり、鋭い目つきで飛ばされてきた方向をユウスは見つめる。
 彼の視線の先では、かなりのダメージを負っているはずの覚嘘眼が平然な顔で距離を詰めて来ていた。
 流石に固すぎるだろ…と思っていると、背後からボクの名を呼ぶ声が聞こえてきて振り返る。
「ラレイヴー!」
「みんな!!」
 傷が治った証拠と言わんばかりに彼らは元気よく手を振ると、ボクの前に集まり…集結した。
「1人…2人……計8人」
「ようやく集結って感じだね!!」
「ああ、そうだな」
「まあ、疲れは残っているがな…」
 トア君達の治療を受け戻ってきた4人は、思い思いにそんな言葉を呟く。ふっと背後を振り向けば、覚嘘眼がすぐそこまで迫ってきていた。
 ボクはみんなの目と1人1人合わせると、夢の剣を構えて叫ぶ。
「行くぞみんな!!」
「「おおお!!!!」」
 凄まじい雄叫びと共に全員で7色の光を纏いながら、覚嘘眼へと突っ込んで行く。
 ボクらの大行進を目の当たりにした覚嘘眼は全てを薙ぎはらわんとウルトラソードを2対装備し、そのうちの一本を大きく振りかざした。
「おっと、やらせないよ!」
「ぶっ壊してやるよ!!」
「い、いきます!!!」
 だが、その攻撃をリゼとちひろがソードによる乱舞で防ぎつつ亀裂を入れると、ミナノ君が音響弾を放ちバラバラに粉砕する。
 覚嘘眼はその光景に一瞬動きを止めつつも、残ったもう一方の剣を横から薙ぎはらう。
「…させない」
「残念だが」
「道は開けてもらいますよ!!」
 しかしこの攻撃もアスタ、キア、ユウスのそれぞれの武器を合わせた強烈なストレートパンチにより、粉々に砕け散る。
「よし、今ならッ!」
「ラレイヴ!あたしも一緒に…!」
「……ああ、行こう!!」
 地面を力強く蹴りトア君と共に武器を失い隙だらけになった覚嘘眼の上を取ると、彼女と手を重ねて夢の剣を握りしめる。
 これで本当に最後だッ!!

「「いっけええええ!!!!」」

 ボシュッ…!!という音を立てながら夢の剣を覚嘘眼の左目に突き刺す。
 覚嘘眼は苦しそうな叫び声を上げるも、無抵抗のまま地面へと叩きつけられた。
 ボクは冷たい雪の上に無事足が着いた事を確認すると、トア君を抱えながらゆっくりと夢の剣を抜き出す。

「ボク達の勝ちだ…覚嘘眼」
 ボクはそう言うと、微動だにしない覚嘘眼に向けて言葉を続ける。
「1つだけ聞かせてくれ。君は事実上この星を勝手なエゴで乗っ取ろうとした。でも…本当はそんな事をしたくないという気持ちが少しでもあって、そのために迷いが生じた。違うかい?」
「……」
「…しかし自分ではもう自分を止められなかった。答えを出せなかった。だからボク達に答えを委ねようとしたのではないかい?」
「…………」
 覚嘘眼の目を見つめ、その中の心情を僅かだが感じ取り疑問が確信へと変わった。
「やっぱりそうだったんだね…」
 グリーンの話を聞いて悪夢の中にいると知らされた時から、おかしいとは思っていた。
 もし本当に覚嘘眼がボク達の事を邪魔だと思って潰しに来るのであれば、強制的に排除できたはず。現実の世界にいたアスタ達はともかく、悪夢の中にいたボク達はその気になれば瞬時に夢の中から消せたはずだから。
 でもそれをしなかったのは覚嘘眼自身に迷いがあり、まだ自制心があったから。
 だからターンオーバータワーでボクが暴走しかけた時、わざとトア君だけ何も入れ替えさせずに、もう一度ボクにチャンスを与えた。それはきっと、覚嘘眼自身とボクを重ねて見ていたから…というのもあったからなんだと思う。
 …それだけ、彼の夢への思いは本気だったという事。きっと今も彼自身がそれを1番理解しているのだろう。
 だけど…

「どう、トア君…」
「……」
「そうか……」
 トア君は何度も何度も治癒効果のある液体を彼に塗りつけては、首を横に振る。
 夢の剣の浄化する力でも、トア君の治癒でも治らない。彼は、もう……
 暗い顔をするトア君の頭をポンッと叩いて「もういい…」と呟くと、トア君は俯いたまま手の動きを止めた。
 ボクは一歩前に踏み出し、彼と目を合わせて口を開く。
「最後に何か言い残す事はあるかい?」
「……ア…ヤマ……」
 徐々に消えてゆく姿を気にも止めず、彼は…掠れた声を振り絞り
「アヤマチ…ハ、クリ……カエサナイデ…クレ」
 と残すと、光の泡となって消滅していった。

 ボクは彼の熱い想いへの敬意を示すため、胸に手を当てそっと目を閉じる。
 君の想いは…声は、しっかりとボクに伝わったよ。その答えはまだ出せないけど、今はゆっくりと眠ってくれ……

つづく。

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