【小説】夢夜にねがいを 第20話(終わりと始まり)

「やりましたね、ラレイヴさん!」
「お、おわ…終わったんですね!」
 ぞろぞろとやってくる中、飛んできた言葉に適当に相槌をうつ。
 確かに戦いは終わった。でも、覚嘘眼の気持ちを知ってしまったから、どうにも気分はスッキリしない。
 振り返れば共に戦ってくれた仲間たちは皆笑顔を浮かべていたので、ボクは浮かない気持ちを悟られないように笑顔を返す。
「それにしても…もうダメかと思った ユウスとミナノが来てくれなかったらボクらは負けていたよ」
「あははは…本当に間に合って良かったよ、アスタ」
「そこで質問なんだけど ここに来るまでに衝撃波みたいなやつ浴びなかった?」
「んー?あれかな?凄い風圧で飛ばされかけたやつ。あ、ミナノちゃんは結構飛ばされてたね」
「あ、はい!凄い風…でしたね」
「それで平気だったのか?お前たち」
「え?は、はい。それ以外は特に…何か受けたらマズイ風だったんですか?あれ」
 キアの質問にユウスが首を傾げると、ユウスに釣られてボク達も首を傾げる。
 受けて吹き飛ばされはしたみたいだけど、意識を失ってはいない。だけど2人とも特にダークマターと因縁があるわけでは…ないよね?少なくともミナノ君は同じ村に住んでいるから変化があれば気付くはず。
 だとすると、何が原因なのだろう。単に運が良かった…はないだろうし、ますます分からないな。
 ボクらが懸命に考え込んでいると、ちひろが手を挙げ思い切った質問を口にする。
「ねえ、2人はダークマターと何かしら関係があったりするの?」
「⁈お、おいちひろ。その質問は流石に…」
 周りの事を考えいち早くリゼがちひろの口を塞ぐが、ちひろの質問にミナノ君が答える。
「だ、ダークマター…ですか。特に…何かあったりはしませんが…」
「僕もないなぁ。これ以外にも戦った事はあるけど」
「あ、私も前に一度だけ!」
「ミナノちゃんもですか。僕は3回ですかね。特に宙船の時はダークマターに体を乗っ取られかけて大変でしたよ」
「ゆ、ゆゆ、ユウスさんもですか!実は私もな、なんですよ。あの時はもうダメかと…」
「「ん?」」
 気になる単語が飛び出しキアと2人で声を漏らす。
 ダークマターに乗っ取られかけた?しかも2人とも…?
「ちょっといいかな、ミナノ君、ユウス」
「え?」
 ボクは2人の手を取り意識を集中させると、ダークマターの力同士の共鳴を試みる。
 ……ん、これは…
「…分かった。どうして2人が無事だったのか」
「な、なんですか?」
「えーっとだね…」
 しかしこれは言っていいものなのか。言えばここにいる皆の正体がこの2人にバレる可能性が…
 なんとか誤魔化した言い方はないかと模索するがリゼの「早く言えよ」と言いたげな鋭い目に負けて正直に白状する。
「驚かずに聞いて欲しいんだけど…2人の中にはダークマターの力が残留している。それも微量ではなく結構な量だ」
「え⁈ダークマターの⁈」
「ああ。でも心配はいらない。残留していると言ってもダークマターの意識は全くないし、時間が経てば徐々に体から抜け落ちていくだろうから」
「そ、そうですか。良かったー…」
 ボクの発言で2人はホッと息を吐き、残りのメンバーはなるほどと首を縦に振る。
 あ、そうだ。2人がさっきの衝撃波の話に戻らないようにって言うのもあるけど、これも聞いておかないと。
「そういえばミナノ君。話は変わるんだけど、その銃はどうしたんだい?それにどうしてここに?」
「あ、そうですね!お、お話します」
 そう言うとミナノ君は彼女の身に起きた出来事を順次語り始める。

 今より2日前のこと。強くなりたいという単純な思いから、ミナノ君はユリカ君がいるメカノアートへと足を運んだ。
 そこでユリカ君に頼み込み、基本的な戦闘の訓練と銃を使えるようになる手ほどきを受けていたらしい。
 そして1日前、その日の訓練が終わりユリカ君と一緒にベットに入ったが、ユリカ君が寝るのを見計らって1人抜け出し、こっそりとアルペジオの射撃練習をしていたらしい。
 一生懸命に練習を続けていたミナノ君だったが、気がついた時には朝になっていたようで重い瞼を気合いで上げながら朝の散歩に出かけた。
 しかしその日の街は不気味なほどに静かで、以前にも同じ経験を〝おだや化事件〟でしていたミナノ君は踵を返しユリカ君の元へと戻る。
 どうにも嫌な予感がしたミナノ君はユリカ君に助けを求めるべく必死に起こそうとしたが、ユリカ君はどれだけ揺すっても起きなかったらしい。
 どうすればいいのか分からず、ユリカ君の家の前で行ったり来たりを繰り返しているところに、いつもの如く迷子になっていたユウスに出会う。
 ミナノ君がユウスに事情を説明すると、ユウスの「起きないなら夢の泉のに何かあったのかも」という発言に同意し、勝手にアルペジオを持ち出しここに向かってきて…今に至る。
 ちなみにミナノ君達より後にメカノアートを出発したアスタ達のが先に夢の泉に着いたのは、ユウスを先頭にして移動していたから…だそうだ。なんで迷子を先頭にしたんだろうね。
 とにもかくにもミナノ君達も運が良かったというか、なんというか…でも、なんだかそうなるのも仕組まれた運命だったのかも知れないと今なら思える。
 話を終えたミナノ君に「ご苦労様」と言うと、彼女はニコッと笑いながら「はい!」と返事を返す。

「さてと…いつまでも皆を悪夢の中に閉じ込めておくわけにはいかないからね。トア君、ウィッチの回復を頼むよ」
「うん!」
 元気よく返事を返してウィッチの元に駆け寄ると、ボクらを治したのと同じように治療を施す。
 するとピクリともしなかったウィッチの指先がヒクつき始め、ウィッチは目を覚ますと体を起こしてキョロキョロと周りを見渡し、ボクらを見下ろす形で宙に浮く。
「んああ…よく寝たわ」
「ようやくお目覚めかい、ウィッチ」
 ボクが皮肉混じりにそう言うと、ウィッチはムッとしながら口を開く。
「随分と偉そうな口して言ってくれるな、ラレイヴ?」
「そう見えたかい?」
「ああ」
「ふーん。ならそういう事で。それよりも、悪夢の中に囚われた人達を解放してやってくれ」
「…もし我が嫌だと言ったら?」
 なんともふざけた質問に対し無言で夢の剣をウィッチに向けると、ウィッチは「冗談だ」と言って指をパチンと鳴らす。
「これで悪夢の中にいたやつらは全員起きたはずだ。まあ、夢の中の出来事を覚えているやつはいないだろうし、例えいたとしても所詮は嫌な夢だったで終わるだろうな」
「お疲れ様。これで貸借り無しだね」
「ああ。ついでに協力関係というのもここで打ち切りだ」
 ボクらは互いに睨み合っていたが、ここでようやく安堵の息を吐き微笑し合う。

「それじゃあそろそろ帰ろうかな」
「そうだねー」
「お疲れ様」
「なんだかんだで楽しかったぜ!」
「…そうだな」
「あたしはくたくただよー…帰って麦チョコ食べたい」
「ははは…僕も疲れました」
「そ、それでは皆さん。また…会えたら…!」
 各々が共に戦った仲間に一言ずつ残すと、それぞれの帰路へと歩いて行く。
 ボクもくたびれたし、スタビレッジに帰ろうかな…あ、でもグリーンに今回のこと、話さないと。あれ?でもそういえばグリーンはどこに…?

 そんな疑問が頭を過ぎった時だった。
 凄まじい熱風が全身を焦がし、何が起こったのかも分からないまま後方へ数十メートル吹き飛ばされる。
 焼付く痛みに耐え、夢の剣を雪に差し込みなんとか立ち上がると、目の前には目を閉じたまま動かない…トア君の姿が映った。
「おい!しっかりしろトア君!!トア君!!!」
 倒れこむ彼女の名前を必死に叫ぶが、全く反応がない。
 疲労とダメージで重い足取りになりつつもトア君の側まで行き顔を覗き込むが、その目蓋は固く閉ざされたままだった。
「……」
 悲惨なのはそれだけじゃなかった。
 周りを見渡すと、これから笑顔で帰るべき場所に戻ろうとしていた仲間達が…1人残らず純白の雪の中に埋もれ、動かなくなっていた。
「何ガ…起きた。コレハ一体…イッタイどういう事なんダ。誰がコんな…‼︎」
「ボクだよ」
「?!」
 聞き覚えのある優しい声にゾクッとした悪寒を感じながらも顔を上げると、緑色の瞳を大きく見開いたグリーンがボクを見つめていた。
 涙を浮かべたグリーンの目は最後に会った時よりも深く淀んでいて、全てを飲み込んでしまいそうな程に底が見えない。
「グリーン…どうシテこんな事ヲ…」
「どうして?どうして…だって?それはこっちの台詞だよ!!!」
 グリーンは殺気を込めた言葉をボクに強く突き立てる。
「約束してくれたよね?必ず覚嘘眼を助けてくれるって!」
「た、確かにイッタ…けど」
「でも君は覚嘘眼を助けてはくれなかった!!それどころかその剣で彼を殺したんだ!!」
「ソレは違ウ!彼ハ自分を止めて欲しがってイタ!それに彼の命を救おうトモしたけど、もう手遅れだったンダ!!」
「そんな事ない!!ボクはずっと彼を見ていていたんだ!今回も全部見ていた!!だから分かる……君は他に助かる道があったかも知れないのに、彼を最後まで助けようとしてくれなかった!!裏切ったんだ!!!!」
「裏切っテなんかイナイ!!頼む、話ヲ聞いて……ぐあぁぁぁぁ!!!!」
 なんとか説得しようとするが、2度目の熱風に押されゴロゴロと雪の上を転がる。
「はあ…はあ……ぐううッ!!」
 先ほどに増して迫り来る痛みに歯を食いしばりながらグリーンの姿を捉えると、彼の姿が変わってゆく。
 背中からは幾重にも重なった翼が生え、頭上には天使の輪とは言いがたい真っ黒な輪が浮かび、透き通った緑色の瞳はドス黒く濁りきっていた。
 この形態、この圧倒的威圧感…どこかで聞いた事がある。自らの意思を失い、破壊だけが生きるための糧となってしまったものの辿り着く先…末路。

「ソウル化……」
 ボクは夢の剣を構え、憐れなモンスターとなってしまったグリーンと対峙する。
 こうなってしまったのは全てボクの責任だ。ボクが約束を守らなかったために、仲間も、グリーンも傷つけ最悪の展開を迎えてしまった。

 ……やるしかない。
 ボクが…グリーンを……!

『運命の選択』へとつづく。

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