【小説】夢夜にねがいを 第18話(この星をかけた最後の戦い)

〝世界が平穏な時を刻む中、その時は突然訪れしけり。空が真っ赤に染まり、淀んだ瞳が民を襲い世界は不穏な空気に包まれる。そんな時、どこからか七色の光と共に7人の勇気ある者が現れ、世界を平和へと導くであろう……〟

〝かの瞳が見るは5人の刃向かった者たち その者たちを殲滅するべく…かの瞳は強く開かれる だがたった1人の少女が…かの瞳に予期せぬ事態を与えるだろう〟

 ニーナタウンの遺跡で見つかった2つの予言書。
 この予言が仮に今のラレイヴ達を指していたとするならば、人数が合わないと誰もが思うことであろう。

 それが1人なのか、2人なのか……
 そしてそれが誰なのか……

 その答えは、誰にも分からなかった。

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「トア君、君は後ろに下がって隠れているんだ」
「え⁈あたしも一緒に…!」
「君には君にしかできない戦いがあるはずだ。傷ついた人を治すという戦いが…!」
「……‼︎分かった。でも無茶だけはしないでね!!」
「ああ!」
 心配そうな顔を浮かべて駆けてゆくトア君を見送りながら、ボクは力強く返事をする。
 さてと、どう動くか…と考え始めようとした矢先、覚嘘眼がウィッチの体から飛び出し、抜け殻となったウィッチの体はドサリと音を立ててその場に倒れる。
「なんのつもりだ…?」
 真っ黒な球体の姿に淀んだ青い瞳を宿した覚嘘眼はある程度の高さまで急上昇すると、やつの周りを周回している巨大な両腕を広げ渦々しい衝撃波を解き放った。
 

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「くっ!トア君!!」
 嫌な予感がして離れようとしていたトア君へと飛び掛かると、衝撃波が届く間一髪のところで手が伸び彼女の体を抱え込むようにしながら吹き飛ばされる。
 「ぐっ!!」と悲痛な声を漏らしてしまいつつもなんとか着地すると、トア君の無事を確認する。
「大丈夫かい、トア君!」
「んん…大丈夫みたい。ちょっと頭がふらふらするけど…」
「頭…?」
 着地の際にぶつけてしまったか…⁈と聞くが、トア君は頭を横に振る。
「おーい、トア!!無事か?!」
 先ほどのボクの叫び声に反応したのか、リゼが慌てた様子で駆けつけトア君の顔色を伺う。
 トア君が心配かけまいと何事もなかったかのような顔を浮かべると、リゼは安堵の表情を見せる。それにしても、今の攻撃は一体…?
「ホウ…ナルホド。ソノツルギノ、オカゲカ」
「なっ…どういう事だ⁈」
 覚嘘眼の謎の発言に問いをぶつけると、やつは地上へと降下しながら話を続ける。
「イマノハタダノ、ショウゲキハデハナイ」
「じゃあなんなんだよ!」
「コノホシニスム、ダ-クマタ-ノチカラヲモタヌモノノイシキヲ、キョウセイテキニ…オトシタ」
「……え?」
 今、あいつ…なんて言った?
 この星の住民たち全員の意識を、強制的に失わせただって…?ボク達ダークマターに因果を持つ者達以外を、全部…⁈
 いや、でもそれなら…
「何故トア君は無事でッ」
「イッタダロウ?オマエガモッテイル、ソノツルギノセイダト」
「夢の剣の…」
 …はっ!そういう事か!
 この剣は悪夢の中から抜け出す事ができたくらいの力を持つものだ。だから今の衝撃波からトア君を守るくらい朝飯前なんだ…!
「だとしても困ったな…トア君は守れたが、もうこの星で戦える者は…」
「あたし達しかいないって事だな」
 リゼの言葉に皆が息を飲む。
「トア…ラレイヴに言われた通り下がってろ。ここはあたしらがやる。行くぞキア!!」
「おう!」
「あっ、ちょっと待って…ったく、勝手だな!!」

 ボクの声を無視してキアと2人で覚嘘眼へと突っ込んで行くリゼ。その行動にやれやれと思いながらも後を追う。
「力を貸せ、テール!!」
 走りながらそう叫んだリゼは頭の髪飾りを外しカッターをコピーすると、帽子の中からヌルリと顔を出したダークマター?のようなものを自らの体に取り込み憑依させた。
 さらに並走していたキアは眼帯をズラし第3の目を開眼させると、盾のような銃を構え銃口を覚嘘眼へと向ける。
 あれがリゼとキアのダークマターの力を引き出した姿…最初から出し惜しみは無しということか…!
 キアは構えた銃からババババッ!と軽快な射撃音を奏でながら銃弾を放つと、何故か動かない覚嘘眼へとストレートにヒットさせ、やつは苦しそうな声を上げる。
「よし、ナイスフォローだキア!!」
 覚嘘眼の間合いに入ったリゼはカッターを投げるのではなく手に握ったまま何度も何度も斬りつけ続け、覚嘘眼を踏み台にして頭上へと飛び上がり
「ファイナルカッター!!!」
 と叫びながらやつを真上から大きく斬り裂いた。
「うわ、怖っ…でも続けて行こう。アスタ、頼むよ!!」
「ああ」
 向かい側ではちひろは左頬と左足から、アスタは額から少しだけだが別の目をそれぞれ開いて戦いへの覚悟を示していた。
 やはり彼らも…と思いつつも覚嘘眼へ向かっていると、アスタ達の方からバオバブバオバブブブ…….という聞き覚えのある音が響いてくる。
 気になったので目を凝らして見てみると、ストーン状態になったアスタがちひろの出した2対のミラーの間を反射するという行為を繰り返していた。
「今だ!いけぇ、アスタ!!」
 その声と共に覚嘘眼側の鏡がスッと消えると、何倍もの力が加わったアスタが美しい曲線を描いて覚嘘眼の顔面へドゴォッ!!と大きな音を立てながら衝突した。
 アスタはすぐさまストーン状態を解除し離れ、その反動でフラついた覚嘘眼へ右ストレートの重い一撃をお見舞いする。
「最後はボクがッ!」
 絶好のチャンスを逃すまいと覚嘘眼の懐まで踏み込むと、7色に輝く剣を思い切りやつの体へと叩き込んだ。
 何の反応もないまま素直に後方へと運動を続けた覚嘘眼は、数十メートル先まで吹き飛ばされる。

「おし、やったぜ!!」
「以外と呆気なかったねー」
「待て…あまりにも呆気なさすぎる。まだ何か…」
 とキアが言いかけた時、背中に熱い衝撃が走り前方へと転がってしまう。
 あ、熱い…!なんだ、今のは…⁈
 しかし考える間もなく目の前の空間に裂け目ができ黒鉛色のエネルギー弾が放出されるのが視界に映った。
「そういうことか!」
 状況を理解したボクは空いている左手で地面を殴り真横へと避ける。
 まだ響く背中の痛みに歯を食いしばりながら周りを見渡すと、みんなも自分と同じように先ほどの攻撃を受けていた。
「大丈夫か、みんな!!」
「ああ なんとか」
「くそっ…やりやがったなあいつ…!」
 全員ダメージを負いながらも立ち上がる姿を見てホッとすると、後ろを振り返りにんまりと笑った覚嘘眼を見つめる。
 どうやらまだまだ余裕があるみたいだね…それなら!
 ボクは眼を閉じ意識を集中させ戦闘体制に入ると、左手にダークソードを握り叫びながら地を蹴る。
「あいつの攻撃をさばきながら一気に叩き込む!何人か援護の方を頼むよ!!」
「任せとけ!!」
「ちひろって言ったか?あたしらもソードで応戦するぞ!!」
「分かった!」
 ボクの後に続くリゼとちひろも能力を変え武器をそれぞれソードに持ち替えると、四方八方から飛んでくるエネルギー弾を弾きながら共に覚嘘眼へと突っ走る。
 順調に進んでいるかのように思ったが、突如現れた一回り大きな空間の切れ目に道を阻まれ咄嗟に右手へと切り返す。
 その直後切れ目からはドス黒いエネルギー砲が打ち出され、ふぅっと息を吐く。
「危ない危な…⁈」
 気を緩ませた一瞬の隙を見抜かれたのか、回避した先にも数秒前に見たものと同じ切れ目ができていた。
 流石に間に合わない…!
 そう思った瞬間、ゴォォォと目の前に岩盤が盛り上がりエネルギー砲を防ぎ始める。
 呆気に取られているといつの間にか隣まで迫ってきていたキアに足を掴まれ、そのまま回転の勢いを加えて力いっぱいぶん投げられた。
「キア、アスタ!!」
「気にせず行け!!」
 2人の援護のおかげで助かった…ありがとう、2人とも。
 よし!と前を向き次々と繰り出されるエネルギー弾を斬りつけ、やつの頭上へ飛び上がると2刀の剣振り下ろす。
 だが当然動けるようになった覚嘘眼が黙っているわけもなく、2対の拳と撃ち合いになる。
 これじゃあボクは本体に近づけない。けど…
「リゼ!ちひろ!!」
「おうッ!!!」
 ボクに気を取られていた覚嘘眼の懐に潜り込んだ2人は互いの剣をやつに振り上げ斬り裂く。
 その際2人への遠隔攻撃は続いていたが、それを軽々とかわし攻撃を入れ続ける。

 流石だ…このまま押し切って一気に……⁈
「…なっ、なんだこの熱気は…⁈一体どこから……」
 ざわつく本能に従い一旦後ろへと下がろうとすると、この熱気の正体に気づいてしまった。
 嘘だろ…?でも間違いない!!
「ドラゴストーム…?!危ない、避けろリゼ!ちひろ!!」
 迫り来る熱気とボクの叫び声にいち早く気づいたリゼは、間に合わないと踏んだのかちひろの手を引き遠くへとぶん投げる。
 ちひろは「ふぎっ」と声を漏らしつつも助かるが、リゼは炎の中へと消えてゆく。
「リゼェェェェ!!!」
 炎の龍が通り過ぎ残っていたのは、体の形をなんとか保ってはいたものの真っ黒に黒こげていたリゼの姿だった。
 ボクは全速力でリゼの元へと駆け寄ると、大急ぎでトア君の名を呼ぶ。
 が、トア君は呼ぶ前からすでに走ってきていたようで、ふと横を向くとトア君は心配そうな顔ですぐに治療に入り始めた。
「トア君…リゼを頼む」
 その言葉にトア君は無言で頷く。

 今のは間違いなくスーパー能力…まさかこんな隠し玉を持っていたなんて……
 こうなると他のスーパー能力を持っている可能性もある。ここは一度全員で固まり策を考える必要が…
「よくも…よくもリゼをッ!うわああぁぁぁ!!!」
「?!」
「待てちひろ!無闇に行くな!!」
 怒りに我を忘れたちひろをキアが止めようとするが、静止の声も虚しくちひろは1人覚嘘眼へと斬り込んで行く。
「しまった、目を離した隙にちひろが…!」
 ボクもその場を離れ彼を止めに行こうとしたが、時すでに遅く空中を乱浮遊する雷の塊に空中お手玉をされたちひろはドサリと倒れこみ動かなくなってしまった。
「今度はミラクルビーム⁈…はっ⁈」
 驚きの声を漏らすのも束の間、冷気を見に纏い巨大な雪玉へと姿を変えた覚嘘眼は目にも留まらぬ速さでキアを轢き飛ばす。
 き、キアまで…!
「アスタ!!次の形態になる前にこっちに来るんだ!!早く!!!」
「…そんな事言ったって もう…遅いみたいだ」
 弾けた雪玉から飛び出した覚嘘眼の手には山ほどの大きさのハンマーが握られていた。
 振り下ろされる鉄槌にアスタはアッパーカットで応戦するが、抵抗も虚しく無慈悲にも地へと叩きつけられてしまう。
 地形は凹み地中から剥き出しにされた岩石がバラバラと飛び交い…巻き上がる砂埃からは笑った顔のやつがハッキリと映った。
「やはり最後はそうくるか…」
 砂埃が晴れ完全に姿を現した覚嘘眼の両手には、最後のスーパー能力であるウルトラソードが握られていた。
 あの能力がノーマルなソードに比べてパワーが桁違いなのは分かってる。だけど…
「やらなきゃいけない時だって…ある!!」
 目の前まで急接近していた覚嘘眼の初撃を読んで飛び上がり、2撃目の太刀筋をダークソードで斜めに反らすように弾きウルトラソードの上に着地すると、夢の剣でがら空きになっていたやつの体を斬り刻む。
 しかし…
「ぐっ、まだ足りないのか!!ならもう一発…」
 その瞬間、空を切る音と共に右腹にこの世のものとは思えない痛みが走り反射的に剣で抑える。
「き、斬られる…!!」
 だが力で押し切れるわけもなく、押される勢いのままに体を投げ出され頭から地面にのめり込んだ。

 あっ…ぐっ…!
 なんとか…真っ二つにされるのだけは阻止できたけど…か、体が動かない……
 重い瞼を見開くと雲ひとつない美しい夜空と、不敵な笑みを浮かべゆっくりと近づいてくる覚嘘眼の姿が視界に映った。
 た、戦わないと…ボク達は絶対に負けるわけには…!

「やめて!!!」

 透き通った少女の声が響き渡る。
 何もできずに視線だけ下へと落とすと、両手を力一杯広げたトア君がボクの前に立っていた。
 その様子を見たはずの覚嘘眼は何の感情も抱かずに重い拳をトア君へとぶつける。
 ドシャア!という嫌な音が耳に入り目を瞑るが、雪の中を歩く足音に目をもう一度開くと、深い傷を負いふらふらになったトア君が…またボクの事を守ろうと身を呈して立っていた。
 すると、またしても凄まじい風圧と共に吹き飛ばされてしまう。
 しかし…彼女は再び立ち上がり、よろよろと…一歩、また一歩と歩き出す。

 もうイイ…やめてくレ……
 君は十分戦ってクレタ。だかラ死ぬのだけハ…これ以上…は……

「ヤめてくれぇぇぇぇ!!!」

 パンッ!!!!
 もうダメだと叫んだ…その時だった。
 乾いた破裂音が鳴り響き、拳を突き出しかけていた覚嘘眼は大きく体勢を崩し始める。
 この音…聞き覚えがある。空気を震わせ、狙った獲物へと着弾すると破裂する…
「音響…弾」
 この銃を使える人物をボクは1人しか知らない。
 だが雪の中をザクザクと進んでくる足音へと目をやると、ボクが頭の中に思い浮かべていた人物とは違った。
 とんがり帽子に可愛らしい緑のリボンをつけ、手にはピンクと白の2ラインが映える狙撃銃を持ったその少女は、人は違えどボクの知っている人物に変わりはなかった。

 さらに…
「よっと!!」
 突如メガネをかけた少年が現れ、巨大なスプーンのようなものを振りかぶり覚嘘眼を容赦なくぶん殴る。
 予想だにしていなかった事態に覚嘘眼はなす術もなくすっ飛んで行く。
「やっぱりここで合ってましたね!なんだか凄い事にはなっていますが…」
 と少年が言うと
「ううう…あ、あれと戦うんですか…!き、緊張…しますね」
 と少女は返す。

 ここに来て助っ人なんて…来るわけがないと思っていた。だって今、ボク達ダークマターの力を持たぬ者以外は…この現実世界にいるわけがないのだから。
 でも…この2人はボクの前でしっかりと地に足をつけ、この決戦の大地に立っていた。
 驚きのあまり
「ミナノ君に…ユウス君…⁈」
 と2人の名前を呟くと、ミナノ君はゆっくりと振り向き…笑顔で言った。
 

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「助けに来ましたよ…ラレイヴさん!」

つづく。

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2件のフィードバック

  1. ミツコア より:

    キアとリゼの本気出す瞬間がかっこいい!

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