色を失くした勲章

夜が深まる頃、ヒュルエイのバー”満ち欠け”に2人の元軍人がいた。

「はい、ココア。今夜は冷えるみたいだから。」
「ありがとう。」
「…そういえば君、その軍服は…あの国の?あ、いや、無理して答えなくてもいいけど。」
「もう過ぎたことですから。いいですよ。教えましょう。」
全身に色が無いその男は、海戦で沈みゆく艦と共に自決したこと、海色の光を見たこと、そして現代で目を覚ましたことを語った。
聞き手である若そうな機関長は、目を丸くしてその話に聴き入っていた。
「…とまぁ、こんなところです。人生何があるかわかったものじゃないです。あなたの身体年齢が止まっているように、ね。」
自嘲気味に男は言った。
「そんな事が…。きっと神様に生かされたんだね。あなたは死ぬべきではない、と。…遠い過去に亡くなったはずの人とこうして話せるって不思議な気分だなぁ。」
「私も…その理由が知りたい。何故時間を超えて、現代に生かされたのか。世界各地を訪れてはいるのですが、何一つ手がかりとなるものはありませんでした。おかげさまでただのグルメ旅行ですね。堪能させていただいてます、神様。」
どこか哀しそうに、男は笑った。
「まあ難しいことは考えないほうが健康にもいいよ。楽しんだもの勝ちさ。そうだ、あと1日もすればラ・メルセントロに着くけど、このまま乗っていくかい?観光都市だからきっと楽しいよ。」
「メルセントロ…懐かしい響きだ。是非、そうさせてください。その間ヒュルエイのメンテナンスは私が受け持ちましょう。丁度海に面していますし、私の艦でもみせましょうか?」
「ありがとう。助かるよ。でも艦は沈んだはずでは?」
「それは後でのお楽しみです。ヒントはこれですよ。」
そう言うと男はデバイスコントロール(というらしい)を発動し、青白いホログラムパネルを浮かび上がらせる。パネルには、艦のスペックが細かく書かれているが、自分には理解できなかった。唯一わかったのは、その艦が大きいということくらいだ。
「うーん…難しいな。お手上げ。楽しみにとっておくよ。」
「きっと驚きますよ。あと、これを。友好の印です。」
男は勲章を差し出した。この世の物とは思えないほどに色が失われていて、金属の光沢も弱々しい。
「えっ、そんなもの受け取れないよ!勲章はやすやすと他人に渡す物じゃないからね!?」
「私が持っていても意味がないんです。いつまでも過去の栄光にすがっているわけにもいきませんから。今日からこれはあなたの物。同じ元軍人同士の、出会いの証です。」
男は僕の手を取り、勲章を握らせた。
「そこまで言うのなら…貰っておくよ。ありがとう。」
少しだけ、泣きそうになった。

 

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