イースター・パニック!

お菓子を満載したワゴンを押して、ルシアスが鼻歌を歌いながら廊下を歩いている。
ルシアスの後ろを、茶葉の袋を抱えたエドワードがついていく。
通りかかった窓辺から庭が見え、芝生に置かれた、お茶会の用意がすっかり整ったテーブルセットが目に入り、ルシアスはニッコリした。

今日のお茶会はエドワードと一緒に開くつもりなのである。
一人で静かに嗜むお茶会も良いものだが、仲の良い友人と和やかに過ごすお茶会も素晴らしいものだ。
後ろを歩くエドワードが目をキラキラさせてルシアスに尋ねる。
「お茶会楽しみだな!なあ、プリンはある?」
「ええ、そちらは今、冷やしているので……うわっ!」
後ろを振り返りながら歩いていたルシアスが、場内に飾られていた石像にぶつかる。その拍子に、壁と像の隙間から、丸っこい物体がコロリと転がり出てきた。
「ん?」
ルシアスとエドワードは、目を丸くしてそれを見る。ころころと廊下を転がっているのは、可愛らしい模様が描かれた卵のようだ。そこで二人は思い至る。もしかしてアレは、HEISSで使用された、割ると中から何が飛び出すかわからないイースターエッグ……。

「えええ?!」
悲鳴をハモらせている間にも、卵は階段に向かって転がっていく。
「危ない!」エドワードが飛び出す。転がり出た卵を、間一髪でキャッチする!
しかし不安定な姿勢で飛び出したものだから、卵を抱えたまま自分が転がり落ちてしまった。
落ちる先には、踊り場に据え付けられている大きな姿見――「エドワード様ー!」ルシアスが叫んで、階段の下を覗きこむ。けれどエドワードは居らず、あるのは、鏡面が波立った姿見だけ。

「あれ?」
耳をぴこぴこ動かして首を傾げるルシアスだったが、すぐに思い出した。エドワードは鏡の化身。鏡やガラス等を自由に出入りできるのだ。
ホッと胸をなで下ろしたルシアスは、鏡の前でエドワードが戻ってくるのを待つ。しかし、いつまで経っても出てこない。

「あれ……?」
ルシアスは静まり返った鏡面をそっと撫でた。不安が頭をもたげる。心配だ、探しに行ってみる方が良さそうだ。

 
HEISSライン
 

「うわあー!」
Mロボは大声で叫んで地面に転がった。

彼が経営するロールケーキのお店「Triple Role」、その店頭でお客の呼び込みをしていたら、背後からいきなりタックルを仕掛けられたのだ。
トレードマークの、くるりと巻いたアンテナを撫でながら、Mロボが振り返る。
ショーウィンドーの前に倒れていたのは、鏡の化身、エドワードだった。(ガラスを後ろにしていたのにタックルを掛けられた理由がこれでスッキリした。)

ガラスから飛び出してきた彼は、ロールケーキのように目をぐるぐるさせて気を失っていた。
ころり、と、エドワードの手から何かが転がり落ちる。拾い上げてみるとそれは、カラフルな模様が描かれた卵。それがイースターエッグである事に、Mロボもまたすぐに気付いた。
経緯や理由を聞こうにも、エドワードは目の前で気絶している。

「エートエート、こういう時は、」
困り顔で、ピンク色の空を見上げるMロボ。うん、と、ひとつ頷いて駆け出した。

 
HEISSライン
 

急いで走るMロボを見つけ、ミロフレーズは怪訝そうな表情で立ち止まった。

「王子。見つけたのですか?」
「あ、ああ、すまん。別人だ。」
従者のメルに向き直って首をふると、ミロフレーズは通りにぐるりと視線を巡らせた。
ずらりと並ぶ、カフェやスイーツの店。その店舗になっている建物自体も、全て巨大な板チョコやキャンディでできている。ボックスクッキーの敷き詰められた道路を人々が行き交う。お菓子の街、スイートストリートは今日も賑やかだ。

「王子!」
メルが鋭い声を上げた。人混みを掻き分けて、とある一角に向けて走ってゆく。
メルの後に付いていたミロフレーズも、それを見つけると、急ぎ足になってメルに並んだ。
ショーウインドーの前で倒れているエドワードを抱き起す二人。エドワードは「きゅう」と小さな呻き声を上げたが、目は覚めない。二人は顔を見合わせた。
「大きな怪我などは無いようですが。しかし、一体……?」
「うーむ。」
深刻な表情で見合うメルとミロフレーズのところに、
「エ、エドワード様ー!」
息を切らしたルシアスが現れ、二人は困惑した表情をルシアスに向けた。

……。

「……という訳で、エドワード様が姿見に飛び込んでしまったのです。」
二人に事情を説明し終えたルシアスが、ふぅっと息をついた。
「それはそれは……。
 ? しかし、エドワード様の周囲に卵の姿がありませんが。」
「ええっ!」
「どんな外見をしているんです。」
「ええと、先端が青くて、それ以外が白、下の部分に柔らかい黄色のマフラーみたいな輪っかの模様がありまして……」
卵の特徴を聞いて、「ん?」とミロフレーズが声を出す。

「それと似たような卵をさっき、Mロボが持っているのを見たぞ?」
「ええ?!」
「そういえば、ここはMロボの経営している店であったな。もしかしたら彼が拾って、どこかに持って行ってしまったのかもしれん。」
「わああ、早く探さないと!」
「そうだな。ふむ。しかしすまないが、こちらも人探しをしていて、人員を全て割くわけにはいかんのだ。メル!」
「はっ!」
「ルシアスと一緒にイースターエッグを探してやってくれ。もし街中で割れてしまったりしたら、皆に被害が及ぶかもしれん。」
「畏まりました。」
メルが慇懃に礼をする。ミロフレーズは「頼んだぞ」と頷くと、エドワードを背負って雑踏の中に消えていこうとして、
「いや、先にエドを治療してやらねばな。」
と踵を返し、エドワードを背負って、今度こそ雑踏に消えていった。

 
「よし、さっさと見つけますよ。」
と、メルが雑踏を見渡して目をこらす。ルシアスも通りを見回して、「あっ!」人混みの中に、くるりと巻いた特徴的なアンテナを見つけた!
「やった!」
転がるように駆けていく。
「すみませーん!」
「おう、何でえ!」
「?!」
振り返ったのは、Mロボとは似ても似つかぬ赤い目を持つカービィ。
そもそも、なんの装飾も着けていないMロボと違って、真っ赤なハチマキをしていて、大きな剣を背負っていて、足の色もよく見れば赤で。「ご、ごめんなさい人違いですっ!」ルシアスは慌てて頭を下げた。
注意して見回してみると、人混みの中にはアンテナが生えた球体がいっぱい居る。

「ど、どういう事なんですかー?!」
ルシアスの声が、賑やかな通りに響き渡った。

 
Mロボが販売している、特製手作りロールケーキ。それを3切れ食べると、彼が生やしているのと同じ、くるりと巻いたアンテナが生えるという――。

 
HEISSライン
 

その頃、本物のアンテナは。

「シャトールサーン!」
街中のパトロールをしているシャトールの姿を見つけ、ブンブンと手を振って駆け寄っていた。

「Mロボ殿。如何なされた。その手に持っているのは一体……」
Mロボの手にしている物がイースターエッグだと気付き、シャトールは口をつぐんだ。兜の面を上げて卵を見つめる。
「Mロボ殿、そのイースターエッグは。」
「見つけてびっくりして、持って来ちゃったんデス……。
 割っちゃおうかとも思ったんデスが、もし強い敵キャラとかが出てきたら大変だーと思いマシて。」
Mロボがシャトールに卵を差し出す。卵を受け取ったシャトールは、難しい顔で卵とにらめっこしていた。

「もし敵キャラが出ても、シャトール様ならやっつけられマスよね?」
「ああ、大抵のものなら遅れを取らないだろうが……。」
しかしシャトールには何か考えがあるようで、上から下から卵を観察する。
「敵キャラが出たとして、ちゃんと街の外に転送されるだろうか?」
「どういう事デス?」
「イースターからかなり経っている。転送魔法の効力が切れたりはしていないだろうか。」
それを聞き、Mロボもイースターエッグに目を落とす。

「それでも敵キャラならばまだ良い。出たら瞬時に叩けば良い話だ。
 しかし、もしバクダンなんかが出てきたとしたら……。」
Mロボは、よくミニゲームで出てくるような大きなバクダンが爆発し、自分達がコミカルに打ち上げられる様子を思い描いて、慌てて頭を振った。
「そんなの嫌デスー!」
「どうしたんです?」
上空から声がして、二人とも上を見上げた。

わたあめの雲が浮かぶピンク色の空から、黒い影が落下してくる。逆光が薄れて彼の姿が見えると同時に、シャトールとレフベルは、彼が着地できるようにサッと身を引いた。ちょうど二人の中央に着地した彼は、
「「レフベルサン(殿)!」」
スイートストリートの門番である。

「何してらっしゃるんです、お二人とも。なんだか不穏な空気ですが。」
「喧嘩とかじゃないデス。レフベルサンこそ、なんであんな高い所に?」
「ハイジャンプで移動していたんですよ。扉を開けに。」
「あ」
レフベルの言葉を聞いて、シャトールがポンと手を打つ。
「スイートストリート内で開けるのが駄目なのなら、レフベル殿の守っている扉の外で開ければ良いのでは?」
Mロボが「あー」と手を打った。

 
HEISSライン
 

一方。
「見つからない……。」
Mロボを探し歩くメルとルシアスの足取りは重い。表通りは人が多く、偽装アンテナのカービィも多い為、Mロボの捜索は困難を極めていた。
表通りから少し入った路地の壁に背をつけ、ため息をつく。

裏路地に転がっている、チョコレートやキャンディの廃材が目に入り、ルシアスは何とは無しにそれを眺めていた。
隣で座っていたメルが疲れた声を出す。
「俯瞰で探せれば良いんですがねえ……。」
ルシアスが、裏路地に置かれた廃材とメルの顔を交互に見た。
「そうだ!」
手を打ち鳴らしたルシアスを、メルが胡乱げな目で見つめる。
「私、良い方法を思いつきました!」

 
HEISSライン
 

Mロボとシャトールから事情を聞いたレフベルは、納得して頷いた。
「じゃあ、私がエッグを預かりましょうか。」
「頼みます。」
シャトールがイースターエッグを手渡す。レフベルはひとつ頷き、【ハイジャンプ】で空高く跳び上がった。

 
HEISSライン
 
横にした棒キャンディに板チョコの廃材を乗せた、簡素なシーソーのようなものが裏路地に鎮座している。
「いきますよー!」
意気込んだ様子で、シーソーに跨ったレフベルが手を振る。木箱を積み上げた台の上に乗っているメルは、それを受けてひとつ頷き、【メタル】で硬化して台を飛び降りた。

 
HEISSライン
 
裏路地を飛び越そうと、レフベルが屋根板を強く踏み込む。
 
HEISSライン

メルの落下で沈み込むシーソー。その反対側、てこの原理で跳ね上がった板先が、ものすごい勢いでルシアスを射出した。

 
「ぎょ」「えっ?!」
空中でウサギ2羽が激突する。
「ほわ?! レフベル?!」
「兄さっ……ルシアス! 何でこんな所」
少しだけ上空に舞い上がった後、容赦なく、きりもみ状態で降下して、
地面に激突した。

  
「レフベル殿?!」「大丈夫デスかー!」
二人がぶつかるところを目撃していたMロボとシャトールが、慌てた様子で路地裏に顔を出した。
シーソーに乗ったメルが振り返って「問題ない。」と言うので、二人とも困惑の表情を見合わせた。
 
飛び上っていた二人は、レフベルがルシアスの下敷きになる形で倒れていた。ルシアスが慌てて退く。
「あ、ああっ!レフベル様、大丈夫ですか?!
 ……って、あれ? レフベル……もしかして、私の事を庇ってくれました?」
ルシアスを抱える形で転がっていたレフベルを見て、ルシアスが呟く。レフベルは慌てて立ち上がって目を逸らす。不安げな視線は誰もいない路地に向いている。

「いえ、たまたまです、たまたま庇った形になりました。」
「そうですか。ありがとう御座いました。私の方が年上なのに、守られちゃって恥ずかしいですね。」
「いいえ。気になさらないで下さい、ルシアス様。」
どこか他人行儀な返答に、ルシアスがしゅんと耳を垂らした。けれど直後、レフベルが「あああああっ?!」と大声を上げたのにびっくりして飛び上がる。

「卵が無い!」
その言葉に、残る全員が顔を見合わせる。
「た、卵って……?!」
まさか、という顔をするルシアスとメル。
そんな三人の耳に飛び込んできた「パキリ」という音。恐る恐る、音がした方を見てみると、全身にヒビが入って今にも割れそうなイースターエッグ。そして卵が割れ、まばゆい光があたりを包んで――「う、うわあああ!」
割れた卵から飛び出す丸い影! 光が収まり、全員が恐る恐る目を開ける。そしてそのまま沈黙した。

悲鳴を聞きつけ、エドワードを背負ったまま駆けつけてきたミロフレーズが声を張り上げる。
「ああ、ノスマン殿! こんな所に居らっしゃったのですか!」

 
HEISSライン1.5
 

ハッピーイースターSSのイースターエッグは、中に何が入っているか分からないびっくり箱だ。
とはいえ中に入れられる物はお菓子、バクダン、敵キャラ、マジックアイテム、と、「アタリかハズレとして機能する物で、かつ、あまり大事にはならない物」に限定される。
イースターのイベントも、1か月も続けば中身がマンネリ化してしまっていて。
ならばイベントのサプライズにと、ノスマンが入ったスペシャルエッグを用意して隠したものの、回収を忘れて今までそのまま――。
つまり、そういう事らしい。

「申し訳ない、ノスマン殿。こちらの不手際で、長い間あんな所に閉じ込めてしまって。」
「いやいや、気にしないでくれ給え。卵に掛かっていた魔法の効果で、卵に入ってからの体感時間はほとんどゼロだったのだから。」
頭を下げるミロフレーズに、ノスマンがキラキラ輝く笑顔を返す。眩しい笑顔に陰りは見えず、此度の件は本当に気にしていないようであった。

「是非お詫びをしたいのだが、何か望む物はないだろうか?」
「そうだね、スイートストリートの観光をほとんどしていないから……。
 何か、スイートストリートを楽しめるような場所に連れて行ってくれないかな?」

そこで、気絶から蘇っていたエドワードがポンと手を打った。
「じゃあ、皆でお茶会しようぜ!」

 
HEISSライン2
 

スイートストリートの最奥に位置する城の、立派な芝生にて。
今回の騒動に加わった全員が、ワイワイ騒ぎながらお茶会の準備をしていた。

最初は渋っていたレフベルも、王族であるミロフレーズの「本日は臨時休業だ。これは王族命令である!」の号令に、戸惑いながらも最後には首肯した。
もっとも、いたずらっぽく笑うミロフレーズに対して、困ったようにしながらも笑みを浮かべていたので、悪い気はしていなかったようだが。
全員ぶんの紅茶とお菓子が用意され、ミロワールがお茶会の開始を告げる。和やかながらも賑やかしいお茶会が始まった。

エドワードはカラメルたっぷりの冷たいプリンにご満悦の表情を浮かべていたし、メルはいつもの生真面目すぎる様子はどこへやら、一心不乱に焼き菓子を頬張っている。

シャトールは兜を脱いで、色々なお菓子をひとつずつ味わっていて、ミロフレーズはノスマンと話し込んでいた。

甘いものが苦手でちょっと居心地悪そうなレフベルに、ルシアスがブラックコーヒーとサンドイッチを持ってきて、一緒に食べながら、ぽつりぽつりと話をしている。

Mロボのロールケーキを味わって、全員の頭にくるりと巻いたアンテナが生えて笑い合う。

賑やかなお茶会は、夕日が沈むギリギリまで続いたという。

おしまい。

  
【お借りした素材】
Frame illustさんより
[復活祭]イースターエッグ(卵・たまご)のライン飾り罫線イラスト
 

いらすとやさんより
洋菓子・ケーキのライン

Twitterでこのページを宣伝!Share on twitter
Twitter

コメントを残す