【小説】魔法少女 ミラクル•まいご①

「一つ…..聞きたいことがあります」

「ん?なんだ?」

「なぜ、このようなことを……」

「…..お前には関係ないことだ」

「……」

「さ、最後の戦いといこうじゃねえか!」

「あんまり気乗りしないけど、でも…..」

そう言って僕は懐からスプーンを取り出し巨大化させると、静かに構えた–

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「うーん……」

ふと吹き込んできた冷たい風を受けて目を覚ました。どうやら眠っていたらしい。

目をこすりながらゆっくりと体を起こすと、視界がぼやけていることに気がつき、急いで眼鏡を探す。

手探りであたりを探していると、何か硬いものに手が当たった。なんだろうと手を伸ばしてみると、どうやら皮か何かでできているもののようだった。

「んん…..?これは?」

「あの…..ユウスさん?」

「あれ、その声は……先生?」

「そうですが……何をしてるんですか、貴方」

「へ?」

直後手渡された眼鏡をかけ直しゆっくりと前を見ると、伸ばしていた手は僕が先生と慕う人のベルトに触れていた。

「あわわ!せ、先生!」

「おや、そんなに驚かなくても」

「すすすすいません!視界がぼやけて見えなかったんです!いや、本当に!」

「それなら気にしてませんよ。それよりも、なんでこんな町のど真ん中で寝ていたのですか?」

「え、寝ていた…..?町のど真ん中….で」

そう言われてあたりを見渡すと、見慣れた景色が広がっていた。

周囲からは小さく苦笑している声も聞こえ、ここで初めて恥ずかしいことをしていたのだと気付き、羞恥心のあまり咄嗟に頭を抱えた。

「うう…..穴があったら入りたいです」

「気持ちは分からなくもないですが……これまた随分と長い旅(迷子)をしてきたんですね」

「旅…..あ、そうです先生!僕また迷子になって…..」

そう言いかけて記憶を辿っていた自分だったが、どうしても昨日の晩の記憶だけ思い出せなかった。

「あれ、僕昨日の晩は何をしてたんだっけ…….」

「ここに戻ってきてすぐに寝たのではないですか?おそらくは」

「ま、まあそうですよね!無事戻ってこれてるんですし、問題ないですよね!」

「それは…..まあいいでしょう」

先生はメモ帳を取り出し何かを書き込むと、そのままそっと懐に戻した。たぶん今回の迷子の件について簡単に書き込んだんだと思う。

「ところでユウスさん。一つ気になってたことがあるのですが……」

「はい、なんですか?」

「なんか……いつもより声が高くありませんか?それに頬も少し赤いような……」

「え?いやいや、そんなことないですよ先生!ほらこの通り…..」

と立ち上がろうとしたのと同時によろけて倒れてしまった。「あれ、おかしいな……」と言いつつなんとか立ち上がるも、いつもなら簡単に立っていられるはずがすぐに倒れそうになる。

「あの、先生!なんだか体のバランスがすごく取りにくいんですが…..!!」

「ふむ、やはりこれは……」

「せんせ」
「可愛い女の子と何話してるんですか、ハトラさん!」

「え?」

今、確かに女の子という単語が聞こえた。気のせいかなと周りを見渡してみるが、ここには先生と僕しかいない。疑問に思い考えていたが、その答えは次の台詞によってすぐに解決した。

「あれー……よく見るとあなた、ユウス君?」

「ソマリさんにもそう見えるということは、やはり私の予想は正しかったみたいですね」

「あの、二人とも何を言って」
「おお、こんなところで何をしているんだい?」

「おや、ローゼルさんいいところに。手鏡を持っていますか?」

「もちろん持っているともさ!いつも3枚以上は持ち歩くようにしていてね、やはり自分の姿を常にチェックするにはそれくらいないと……」

「ローゼルさん、話は後で聞きますから、今は手鏡を……」

「ああ、そうだったね」

そう言って手鏡を取り出し先生に渡すと、先生はそれをこちらに向けて突き出した。

何故手鏡を僕に….と、不思議に思いながらも覗いて見ると、驚きのあまり一瞬声が出なくなった。

「え…..あ…..僕、女の子になっちゃってる……?!」

「そう……みたい」

ソマリ君が放ったその一言で、僕の思考回路はショート寸前にまで追い詰められた。

必死の思いでなんとか思い止まると、深呼吸を何度か繰り返してようやく落ち着きを取り戻せてきた。

そんな僕の様子を見ていた先生が口を開く。

「ユウスさん。何故こうなってしまったかを突き止めるためにも、とりあえず病院に行きましょう。何か分かるかもしれません」

「わ、分かりました」

「なんだ、もう行ってしまうのかい?これから私が今朝体験した愛しい自分との」
「ローゼルさん、その話はわたしが聞きますから…..」

おや、そうかい?と話のターゲットをソマリ君にローゼルさんが変えたところを見計らって、先生が僕の手を引っ張り歩きだした。

先生がソマリ君にグーサインをそっと出すと、ソマリ君はなんとも言えない表情で小さくグーサインを返してきた。

心の中でごめんと小さく謝ると、そのまま病院の方へと歩きだして行った……

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「んー、分かりませんねー。申し訳ないですが」

「そうですか…..」

病院に来て数十分後。少ないながらも希望を持ち病院に来た僕たちだったけど、病院の先生にはいともあっさりと匙を投げられた。

仕方ないととりあえず病院を出ようとしたところ、入り口でばったりと勉強好きの名前は確か…..ラムダ?さんに出会った。

「あれ、ラムダさん。どうしたんですか?」

「あ、ハトラさん…..お恥ずかしいながら、風邪を引いてしまって……」

「おやおや、それは大変ですね」

「はい……」

「勉強のし過ぎですか?何事もほどほどにしないと……」

「いえ、違うんです」

ラムダさんは小さくクシャミをすると、少し辛そうにしながらも話を続ける。

「昨日、気分転換に散歩をしていたらベルガモットさんとメロウさんが遊んでいるのが見えましてね」

「ふむ」

「昨日はこの町にしては珍しく肌寒かったので湖から出るように注意しようとしたんですよ。そうしたらうっかり湖に落ちてしまいまして……」

「それは……気の毒でしたね」

「でもベルガモットさんはなんともなかったみたいなんですよね。うーん」

ラムダさんがもう一度クシャミをすると、それでは僕はこれでと立ち去って行った。

先生は少し考えことをしたのちまた僕の手を引くと、「行きましょうか」と呟いた。

僕は「はい!」と言うと引っ張られるがまま病院を後にした–

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「んー、やっぱり分かりませんねー」

「はい……」

あれから僕と先生は、誰か原因を知ってるかもしれないとニーナタウンのいたるところを回った。でも結局、いい情報は得られなかった。

歩き疲れた僕と先生が屋台が並ぶ通りで休んでいると、突然聞き覚えのあるような声に呼びかけられた。

なんだろうと思い振り返ってみると、二本の紅い角を生やした白い球体の商人さんが店から身を乗り出しこちらを見つめていた。

それに気がついた先生が口を開く。

「おや、柊さんではないですか。今日はこちらで店を?」

「はい。今週はずっとここで店を出してますよ。何か買っていきますか?」

「いや、それよりも尋ねたいことがあってですね……」

そう言うと先生は、もう何回も聞いたであろう質問を柊さんにぶつけた。

柊さんは少しの間考える素振りを見せると、「すいません、知りませんねー」と答えた。

思わずガクッと肩を先生が落とすと、柊さんが「あ、それよりも……」と切り出した。

「この前入荷したばかりの凄いものがあるんですよ。試し…..見ていきませんか?」

「せっかくですが、今はそれどころでは…..」

「まあまあ、少しの間だけですから。あ、そこの貴女来てもらえます?」

「え、僕ですか?」

突然呼びかけられて咄嗟に聞き返すと、柊さんが満面の笑みで首を縦に振ってきたので恐る恐る店の前まで近づいた。

「あの、何の用です….」
「今だァァァ!!!」

突然の奇声に驚き後ろに下がろうとするも、驚き過ぎて足が動かず左手に何かをガッチリとはめられてしまった。

何をはめられたのか確認しようとするのよりも先に目の前が真っ白になり、気がついたら僕は座り込んでいた。

「う……一体何が……」

と地面に手をつこうとすると、何か布地のようなものに触れた。ゆっくりと目を開いてみると、目の前で自分が触れていたものに動揺を隠せなかった。

「な、何ですかこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「おや、予想以上に似合ってますねー!」

「ちょっと柊さん!ユウスさんに何したんですか⁈」

「いやー、最近入荷した新商品を少し試させてもらったんですよー」

「新商品?」

「そうです。名付けて〝魔法少女リング〟!これを装着すると心情変化があった時に自動的に魔法少女へと変身させてくれる、ナイスなアイテムなんですよ!」

「ええー……」

ふと視線を足元へ落とすと、ピンク色の布地に白いフリルがたくさんついたふわふわしたスカートをはいていた。

袖はだらんと垂れてギリギリ手が出せるくらいの長さで、上は…..うん、あんまり見たくない。たぶん可愛いとは思うけど。

「これはたまらないですねー……!!あ、少し待っててください!今カメラ持ってくるんで!」

そう言って柊さんは店の奥へと消えてしまった。

僕が恥ずかしくてもじもじしていると、見兼ねた先生が声をかけてきてくれた。

「ユウスさん、一つ提案があります」

「な、なんですか先生!」

「おそらくこの町でこのまま情報収集しても原因は分からないと思います」

「そ、そうですね」

「ですから、ヒネモストバリに行ってみてはどうでしょう?」

「ヒモネストバリ?」

「ヒネモストバリです。もう忘れたんですか?あそこは温泉が有名な観光地で、観光客も多いんです。きっとそこなら原因を知っている人もいるはずです」

「なるほど…..あれ?」

体に違和感を感じ足元を見ると、さっきまで身につけていた服が綺麗さっぱりなくなっていた。

僕が疑問に思っていると、先生が口を開いた。

「どうやらそれは平常心に戻ると解除されるみたいですね」

「え、あ……」

確かにそう言われてみると、心はいつの間にか落ち着いていた。

それにしてもヒネモストバリ….か。あんまり覚えてないけど、過去に迷子で何度か行ったことあるし、行ってみてもいいかもしれない。

僕はそう決心すると、先生に向かって言った。

「先生!僕、ヒネモストバリに行ってみます!」

「そうですか……でもなるべく早めに帰ってきてくださいね?」

「分かってますよ!」

僕はそう言い放つと、抜けない紅く光るリングを横目でちらっと確認し、そのまま先生に背を向け歩きだした。

絶対に……戻ってみせるんだからね!

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「お待たせしました!あ、その前に貴女に教えておきたいことが……」

「ユウスさんなら、もう行ってしまいましたよ」

「え⁈」

つづく。

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