ーーまあ、子どもに言うことを聞かせる為に、夜になると鬼がでるだとかいう、そういった類いの「作り話」っていうのはよくあるものです。
ええ、もちろん、この町にも。
この町では、どこの親も口を揃えて、「夜に外へでると“カゲ”に連れていかれるから、暗くなったらすぐに帰ってらっしゃい」と子どもに言いつけるそうです。
その“カゲ”というのが何なのか……というのは、なかなか答えが出ない問いですが、私が思うに……これは、いわゆる子どもが「怖がるモノ」の総称なのではないかと、思うのです。
これが“カゲ”だ!…というものはなく、例えばお化けであるとか、ダークマターであるとか、怪奇現象に夜の暗闇そのものなど……それに畏れを抱けば、それが“カゲ”になる……そういうものなのではないでしょうか?
まあ、つまるところ、“カゲ”なんていないよ、ということですね。
……ですが、ええ、
火のない所に煙は立たぬとも言います。
初めはただの口から出任せのつもりだったとしても、実はそうではないかもしれない。
「そういう話」があるなら「そういう事実」が、本当にあるのかもしれない。
あるいは、実際のところは、「そういう事実」から出来た話であったり。
ーー特に、この町ではそのようなことが、起こらないとも限りませんね?ええ、ええ……。
今日お話しするのは、そういった話の中の一つです…。
ーーーーーー
この町では、夜になると「オトモダチを欲しがっている女の子」が現れるというのです。
すっかり日も落ち、街灯の灯りもほの暗い夜の夕闇の中、路地にぽつんと佇む女の子が一人。
身なりもなかなか小綺麗で、可愛らしいものだから、余計に寂れた夜町からは浮いて見えて、
「おや、どうしたんだいお嬢ちゃん、こんな夜に一人じゃ危ないよ」
などと声をかけてみると
「……そう、あたし、一人ぼっちで、寂しいの」
うつむいた顔をこっちに向けながら、ぽつ、と呟いて
「だから、あたし、オトモダチが欲しいの。」
「あたしと……オトモダチになってくれるの?」
なんて聞いてくるそうです。
こっちは心配して声をかけているのに、お友だちが欲しい、だなんて言うのですから、もうなんとなくおかしな気分になります。
それでも、夜の町に一人で、もしかしたら家に居場所もないのかも。可哀想なことに、と女の子の質問に
「ええ、私がキミのお友だちになってあげましょう。」
……とは、言ってはいけませんというのがこのお話。
……
え、なんでかって?
それがどうしてか分からないので、今こうして試している所なんですよ。