【小説】ただの自己満足

「少し出掛けてくる」
「はい 行ってらっしゃいませ」
玄関の掃除をしていた使用人は頭を下げ男を見送る。

古めかしい屋敷を出て鬱蒼と生い茂る森の中。
暗く不気味な森の中でも、街へ伸びる道だけは綺麗に整備されている。
街へは歩いて15分程で屋敷との距離は近いのだが、この街の住人は祭りの時以外では外を歩く習慣が無いようで、大体は誰ともすれ違うことが無い。
人と関わる事が嫌いな彼にとっては好都合だ。
しかし用事があるのは外界。
町長への許可は取らなければならないのである。
「人気のない街で良かった…」
己の翼を使うことなく、律儀に足を使って塔を登っていく。
しかしそれが間違いだったらしく、重装備であるが故に思った以上に時間がかかってしまうのだった。

コンコンコンッ
最上階に着き、大きく構えた扉のドアノッカーを叩く。
ドドドドド…
すると何かがこちらに近づいてくる音が聞こえ、咄嗟に扉から距離を取った。
「いらっしゃーーい!!クランクゼィッニッヒ・イディアールの町長!!ハロウさんは居るよー!Yeah!!」
…正直このキャラにはついていけない。
「oh!エッカルトだったのネ!じゃあ、いつものアレで来たの?」
ハロウと名乗ったこちらの女性、大きな帽子に大きなリボン、四目(よつめ)に四手(よんしゅ)と不思議な姿をしているがこの街の長だ。
俺には馬鹿そうに見えるのだが、頭のキレが良い不気味なヤツ。
「外界に外出する許k「okok!!行ってらっしゃーい!!ちゃーんと夜には帰ってきてネ?ミー心配しちゃうからぁ♪あぁ、あとエクサクムにはミーから言っておくよ〜byebye!」
食い気味で会話が終了する。
…やっぱこいつ苦手だ。

外界に繋がる空間の裂け目を潜るとそこはホシガタエリアの平原。
ここからはコートを翼に変えて大空を飛ぶ。
今じゃ飛ぶことですら、あの頃を思い出すきっかけとなり気分が悪くなる。
そう言えば、近頃宗教同士のいざこざが目立ち始めているらしい。
今この世を治めている神がどんな奴かは知らないが、表立って来ないでもらいたいものだ。
神はろくでもない奴ばかりだからな。
天使は自分の手足、人は雑草程度にしか考えていない。
それでいて、力が全てと考えているものだから話は大抵通じない。
「あ」
そうしている内に、目の前には小さな森が広がっていた。
森の入口から少し離れた場所に白い花が咲く花畑があるのも確認出来る。
どうやら目的地に着いたようだ。

「…これで、いいだろうっ。」
森の入口にある小さな祠サイズの祭壇、とも呼んでいいのか分からない物を一通り掃除する。
彼は月1でこの祭壇を掃除するために態々ここへ来ていた。
掃除を終えたら花を添え、手を合わせ祈りを捧げた。
悪魔と呼ばれる彼、頭に大きな角が2本、手からは長く鋭利な爪が伸び、太く立派な尻尾がある。
そんな人が祭壇で祈りを捧げているのはどう見ても異質で奇妙な光景だが、そんな事は彼自身 百も承知だ。
外界に月1で掃除をしに来ているくらいだ、何か理由があるのだろう。

「ねぇ、貴方がこの祭壇の管理人さん?」

閉じた目を開いて、声がした方を向く。
するとそこには見知らぬ少女が立っていた。
「…管理人ではない。」
知らない奴が話しかけてきた、少し不安になるも相手は子供だ。下手に手は出せない。
「そうなの? 私ね たまにここを通るんだけど、この祭壇にはいつもお花がお供えされているの。きっとここでいつもお祈りする人がいるのよ」
よくよく見ると貴方はお祈りを捧げるような人には見えないわね、そう付け加え話を進める少女。
「…お前、なんなんだ?見ての通り俺は忙しいんだ」
すると少女はキョトンとしてこちらを見た。
「貴方にお話がしたいからよ、あっ そうだ!なら昔話をしてあげるわ!」
こいつ馬鹿なんじゃないのか…?
外界の住人はどうしてこうも話を聞かない奴らばかりなんだ。

「ずっとずっと昔ね この辺りに小さな村があったの どこにでもあるような平凡な村だったんだけど、ある時1人の天使が降りてきたんだって」
なんだかんだ言いつつも無意識に話を聞いていた彼が、天使と呟いた瞬間目の色を変えて少女の方を見た。
「天使は村人を幸福な道へ誘うべくお告げをしに訪れていたんだって そんなある日、天使と村の娘は恋に落ちたの!」
体が震える、まさかここでそんな話を聞くとは思っていなかった。
これ以上聞くのは正直怖い、しかし目と耳が少女を離さなかった。
「でも それを見兼ねた神様は天使に罰を与えたんだって その罰で村は跡形もなく焼き消されたらしいの」

「その話…」
その話、俺はよく知っている。
この少女より鮮明に、詳細に そう言いきれるくらいの自信がある。
「おばあちゃんから聞いたの 昔のお話 因みにその焼き消された村はこの先にある花畑の辺りなんだって …天使は恋しちゃいけないなんて大変だよねぇ」
大変だなんてそんな易々と口に出しやがって…怒りを押し殺して少女に問いかける。
「その後、天使はどうなったか知ってるか?」
さっきまで聞くだけだった悪魔が口を開いた事に少し驚くも ううん… と首を横に振り森の中を見つめた少女。
「貴方は、知ってるの?」
「さぁ どうだかな… でも、その天使は馬鹿だ 自分がしている事が何なのか分かっている上で禁忌を犯した、更にはその人間のおかげで心を手に入れちまった…天使に心は不要なのに」
天使には元々心が無いなんて、わたしはじめて聞いたよと笑って言う少女。
余計な事をしてしまった。
どうやら今の発言で、彼女による俺の評価が上がったらしい。

「はっ もう行かなきゃ!空がオレンジ色になっちゃった」
慌てて走り去る彼女を見送る、すると振り返って少女が叫んだ。
「今日はお話してくれてありがとう!!変な悪魔さん!!」
そう言いまた走り出し、完全に見えなくなったのを確認してから翼を広げる。
「神も天使も地上の奴らも今じゃ大嫌いだ…でも、たまには外に出て誰かと話しをするのは …」
何かに語りかけるように呟く。
平原を飛び立つ彼からは、少し肩の荷がおりたようだった。

「おっかえりー!エカルトエカルト、なんだかちょっと顔つきが明るくなったね?イイネイイネ!Happyな事でもあった?」
帰って早々うるさいヤツに絡まれて、折角軽くなった体がまた重くなった気がした。
「別に いつも通り」
ただ何故か苦笑してしまう。
それを見逃さなかったハロウがニヤッと悪い顔をして
「ユーって、何だかんだ悪魔になりきれてない中途半端な奴だよねぇ ヒヒヒ まぁ、お疲れー。Good night☆」
なんて余裕をかましている。
でも彼女の言う通り、俺は中途半端な悪魔なのだ。
「…はいはいおやすみ。 また1ヶ月後」

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