『才悩』
ここはホシガタエリア中央からやや南に位置する町、ムーンホール。
そして私は稀代の天才魔術師、ハーメスト!
そんな私がなぜこんな片田舎の地方都市にわざわざ足を運んでいるのかというと…
「ハーメストさん、次の方の診断お願いします~!」
「…はあ、分かっている、そう騒ぎ立てるな。」
…まあ、つまりは仕事だ。
最も、仕事だといっても普段はこんなに正直にホイホイついてくる私ではないのだが…
ーーーーーーー
「ハーメスト…貴方、どうやら今月の評議会の業務が滞っているようだね。」
「ああ、今月は忙しかったからな!魔術の資料を集めたり、魔術で死霊を集めたり……」
「今日の朝の会議で、今週中に今月のノルマを達成出来なかった場合、貴方の研究費を7割削減することが決まったから、宜しく頼むよ。」
「……は?」
「では、また。」
ーーーーーーー
……と、朝にエルクに告げられてしまっては流石の私も動かざるを得なかったという訳だ。
彼は普段は人畜無害で、まるで綿雲のように優しいくせに、眉ひとつ動かさず今日の朝のように鬼のような発言をするから困る。
流石の私でも射竦められるというものだ。
……はあ、
そういう訳で、今日はここムーンホールで、評議会の定期ステータス診断…まあ、言わば健康診断のようなものだな、をやっているのだ。
私の左目は特製でな、一目見ただけでそいつが持つ魔力の量や特殊なオーラなどの強さが分かる……評議会ではたしか、『特殊値』と定めていたのだったかな?
特殊値というのはその名前の通り特殊なものだ。力の測定ならダンベル上げでもなんでもさせればいい、速さ測定なら徒競走、体力測定なら持久走、知力測定なら筆記テスト等……やりようは色々あるが、こと特殊についてはそうはいかない。
それを目算とはいえ、数値化できる私は貴重な存在という訳だ。
そして、それは裏を返せば一度仕事に出れば酷使されるという訳で……
「ハーメストさん!次の方入りますよ!」
「あー、分かった分かった、騒ぐな……」
今日何度目かの目薬を左目に点し、くるりと正面に向き直る。
これだから仕事は嫌なんだ……大抵の場合は面白いこともないしな…
……
……ん
……むむ?
こ、これは……
「素晴らしい!」
思わず声を上げてしまった。
「うわっ、な、なん…ですか、どうかしましたか。」
おっと、つい声を上げてしまったようだ。目の前の青年を驚かせてしまったな。
「いや、すまない、余りにも驚いたのでな……」
「驚いた…あの、君がさっき言ってた素晴らしいって、もしかして……」
青年はおずおずと私に尋ねてくる。
「ああ、私はこの左目で特殊能力の才能が分かるのだよ!…そして、君を見たところだな……」
「…」
「君は素晴らしい!」
「おお!やっぱり僕には才能が!」
「素晴らしいほど才能がないのだ!!君にはミジンコ程も特殊の才能がない!私はこれでも色んな街で色んなヤツを見てきたが、これまで君ほど才能の無い奴は見たことのないほ」
「どッ…!?」
…何故かその日はそこから記憶が無いのだ。
気付いたら私は評議会のベッドに横になっており、エルクに休暇を貰った。
なんだ、彼も案外気が利くじゃないか。
しかし、なんだか今日はふらつくな…まるで体の半分が腫れ上がっているかのように体のバランスが悪い…
あれ、なんだか、じわじわと、痛、みが…