【小説】荒れた魔術書 第3話 月の幕間

大魔術師コーパル…
数々の魔術理論を提唱し、余りある魔術の知識を持って尚魔導の真髄への探求を続ける偉大なる魔術師。

閉鎖された地底都市にも度々彼の名を聞く。
以前、彼の著書(『特殊値と魔術の関係性 発行:よろずや柊』『魔導研究調書・コピー能力篇 発行:よろずや柊』『力5への道!大事なのは日々のトレーニング!! 発行:よろずや柊』等)を拝見したことがあるが、いずれも見事な魔術の考察、理論が記してあった。

コーパルこそが現代において”地上”を代表する魔術研究家、及び大魔術師と言えるであろう。

そんな彼の通り名は『首領(ドン)・奇マスター』

「ここに大魔術師のコーパルさんが住んでいるみたいですね。」

街の外観に沿う形のシンプルな意匠が施された区画がかの大魔術師の住居らしい。

なぜ知っているのか?
ムーンホールの広場の隅には住宅の地図が置かれてあり、コーパルさんの家の周りには柊さんが書いたような繊細な筆跡の二重丸とコーパルさんの著書の宣伝が記されてあり、まるで地図自身が『ここがコーパルさんの家デース』と主張しているようであった。

私はコーパルさんの家の前に着くと、住民達にある提案をした。
私がコーパルさんの話を聞きに行ってる間に他の住民達は街中で旅の準備をしたり情報収集などをしてもらう、という事だ。

なぜそのような回りくどい事をするのか?相手が知識欲が強い魔術師だからだ。
かつて魔法によって発展してきた巨大な国家があった。
禁忌を侵した魔術…通称『禁術』に分類されている『死者使役魔術』にも手を出しているらしい。
だが、その『死者使役魔術』の実験の過程には詳細を述べるのも悍ましい実験もあったらしい。

故に詳細を知り得ない地上にて名を馳せる大魔術師という類の者たちの多くは、そういった悍ましい魔術実験をする者がいる可能性もある為、基本的には信頼できない。

それにアンダーハーデスの住民達は特殊な体質の者が多い。
大魔術師の好奇心が彼らに向かないように、私が単独で話を聞くのが最善策だと判断した。

「しちょー。一人で大丈夫か?」
銅さんが心配そうな顔をする。
私も少し緊張している。地上の球体とは言え、相手は大魔術師。
厳しい事を言われるかもしれない。
大魔術師の逆鱗に触れ殺される可能性もある。
しかし私はこの魔術書について知らないことが多すぎる。
アンダーハーデスの闇を取り除く可能性のあるこの魔術書の情報を少しでも得れるのなら私は大魔術師であろうと神であろうと対峙してみせるとも。
「大丈夫ですよ。銅さん。少し話をするだけですから。」

私はそう告げ、銅さんらと別行動をとる。
住民達が遠くへ行ったのを確認し、彼の家のベルを鳴らした。

『ピンポーン』という音が鳴り、程なくして玄関の扉が開く。
眼鏡をかけた如何にも魔術師のような風貌の球体が顔を出し話し掛けてきた。
「柊…コピーの素『ポイズン』はいらないって言っ…あれ?どちら様ですか?」

キョトンとした表情の彼に、軽い挨拶とこちらの要望を告げる。
「お初にお目にかかります、大魔術師殿。私、アディスと申します。」

「あのさ…僕は魔術師じゃ…」

「早速ですがこちらの魔術書についてお聞きしたい事があるのですが…」
そう言い終え魔術書とソレの翻訳が書かれたメモ書きを差し出すと彼は興味津々にソレらをじっくりと観察する。

そして彼は急にキリッとした表情に切り替わり、扉を全開にし…
「入りたまえ。狭い家だが表で話す内容じゃないかもしれない。」
と言い、住居へと誘う。
私はその誘いに乗り、彼の住居へと入った。

噂通り、彼の家には所狭しと魔術や特殊能力に関する資料がギッシリと詰まっており、ヴァールさんや天城さん達のような魔術使いの方がいれば目を光らせていただろう。
資料の山のせいで少々窮屈だが私とコーパルさんが座る分のスペースは確保されていた。

机を挟んで向かい側にも同じようなスペースが確保されている。

フローリングに直接座るのは少々気が引けるがこの際仕方あるまい。

程なくして、心地よい香りが漂うブラックコーヒーが入ったマグカップを持ったコーパルさんが「ブラックで良いよね?」と聞きながら、カップの持ち手をこちらに向けてそっと置く。

「問題ありません。お気遣いありがとうございます。早速ですが、この魔術書について気付いた事などを教えていただけますか?」
と答え、魔術書を机の上に置く。

彼は私の向かい側に座り、私の持ってきた魔術書を手に取り再びじっくりと観察する。
ページをめくる…特別な光を当てるなどした後に彼は答えた。
「これは…とても危険な魔術書だね…。」

天城さんがアンダーハーデスで魔術書を見たとき、処分をしようか?と提案してきたことを思い出す。
天城さんはこの魔術書が危険な物だと薄々勘付いているのだろうか…
しかし、彼は…

コーパルさんは話を続けた。
「この魔術書の素材や文字、それらが一体何なのかは検討もつかない。ただ…あくまで直感だけども、僕が今まで見てきた魔術書達を複数のカテゴリに分類した時、とあるカテゴリにこの魔術書は該当すると思う。

『禁術が記されてある魔術書』。禁術というのは文字通り魔法使い界隈の者たちの間で使用を禁じられている魔法の事だ。その理由として、発動に多大な生贄を要したり、発動すれば世界が滅びかねない可能性があるからだ。

この魔術書はそんな禁術を発動させる恐れがある。」

コーパルさんはそう言い終えたかと思えば、突然魔術書を力いっぱい殴り出した!
衝撃波が部屋全体に響き渡り、資料の山は吹き飛んだ!
力5相当の規格外の怪力を目の当たりにした。
これが大魔術師の自己強化魔法を掛けたパンチの威力なのか!!

だが、魔術書は壊れないどころか傷一つつかなかった…。

「なるほど。僕のパンチをただの本が耐えられるわけがない。そしてこの感触…。
ただ硬い訳じゃない。最初からダメージを与える事が出来ないんだ。まるで無敵状態を纏っているみたいにね。」

「無敵状態…。無敵キャンディを舐めた時のアレですか?」

「そうだよ。ただの魔術書にそんな大層なセキュリティを使う訳がない。何があっても絶対壊れない。故に何が何でも禁術を発動させたい。この魔術書の作成者のそういう執念が見受けられるよ。」

何が何でも禁術を発動させたい執念…。
この魔術書の作成者は一体どんな禁術を発動させたいのだろうか?

しかしこの禁術がアンダーハーデスの闇を振り払う力があるのならば、血塗られた過去があろうが、アンダーハーデスの住民達から反感を買おうが発動させる覚悟は出来ている。

コーパルさんが生温くなったコーヒーを一気に飲み、マグカップを机に叩きつける。
その拍子に机とマグカップが壊れた。
すると彼が深刻な表情でこちらに問いかけた。
「アディスさん…と言ったね?君はまさかこの魔術書に記されている禁術を発動させる気なのかい?」

私もコーヒーを一気に飲み、マグカップを机に……机が無いから両手で握りしめて答える。
「ええ…。私達には……いいえ、”私”にはこの魔術書の禁術を発動させる理由がありますし、その責任もあります。無論、その禁術とやらが私の理想と違う結果を生み出すという確固たる根拠があれば別ですが、あなたの話し振りから察するにそうとは言い切れないのでしょう?」

コーパルは机とマグカップの残骸を雑に掻き集めて、部屋の隅にあるゴミ箱へ丁寧に入れる。
それからこちらに向けて歩みながらキッとした視線を向け答えた。

「君がどういう結果を望んでいるのか知ったこっちゃないさ。
ただ魔術の知識を齧るものとして禁術を発動させようとする者を放っておくわけにはいかない!!」
彼が私の真正面に来たタイミングで仁王立ちし、大魔術師コーパルとしての意思をぶつけてきた!!
「僕が!あんたの野望を!!食い止めてやるゥ!!!!」

ニタリ…おっと、ついつい口元が緩んでしまった。
大魔術師と言え所詮は地上の球体。
野蛮な地上人の思考は、結局は実力行使をして自身の考えを押し通すという結論に至るしかない。

だが、魔術師には魔術師なりの退けない理由があるのであろう。
私も魔術の心得はありますが、アンダーハーデスを取り戻す事が出来るのであれば禁術に手を出すのも仕方あるまい。

そして禁術発動という重い十字架。こればかりは彼ら(アンダーハーデス住民)に背負わす訳にはいかない。

「アディスさん…。広場へ…行きましょう…。」

「構いません。あなたを納得させる事が出来るのであればジャルダンの果てまでお供しましょう。」

コーパルさんは壁に立て掛けてある杖を手に取り外へ出た。
私も鞭剣を取り出し、彼の後を追いかけた。




アディスがコーパルの住居へ入って間もない頃、天城達もまたそれぞれ分かれてムーンホールを散策することにした。



トワイライト視点

天城君達と別れた後、僕は顔の恐い彼、天照君とムーンホールを廻ることにした。

昨晩、魔術書についての話し合いの後、個室に戻る前に雑貨屋で買った日傘を広げた。
何たって僕は太陽に弱いからね。

「天照君。僕たちはどうしようか?」

「分かりきったこと言うな。魔術書の手掛かりを探すんだろぉが。」

ぎゅるる〜
突然彼の腹の虫が鳴る。
「まっ、まぁその前に腹ごしらえも良いかもなぁ!!!」
天照君が照れながら答えた。
顔恐いから全然可愛くないけどね。

「それもそうだね。ちょうどそこにカフェがあるし。ちょっと早いけどランチにしようか。」

僕らはそう言いカフェへと入った。
カランコロンというベルの音に合わせながら店員さん達が「おかえりなさいませ!!!ご主人様ぁ!!!」と元気よく挨拶。

しまった。ここはメイドカフェか。
「おい。トワイライト。なんでコイツら、『おかえりなさい』なんて言ったんだ?いつの間にかこの店のオーナーになったのか?」
「ははは。天照君。ここはそういうカフェなんだよ。」
この通り天照君はメイドカフェという物を知らない。
この店の世界観に馴染めず、唐突に暴れ出し、メイドさんを冥土送りにする可能性だってある。
ここは僕がしっかりしないといけないな。

店員もといメイドさんの一人がこちらへやって来た。
綺麗なグラデがかかったフワフワヘアが特徴的で可愛いその人は
「お席に案内しますね!ご主人様!!」
と言って窓際のテーブルに案内してくれた。
うん。助かった。僕は平気だけど、天照君はこの店の雰囲気に耐えれないだろうから、いざとなればずっと窓の外の風景を見てもらおう。

「まずは魔法のお水をどうぞ♡」
と言い、どう見ても普通の水を渡してきた。
すると天照君が「魔法の水だってよ。ここで魔術書の手掛かりが掴めるんじゃねえのか?」と言ってきたので妙な事をしでかす前に足を踏み付け黙ってもらうことにした。
天照君は悶絶したが御構い無しだ。

「ご…ご主人様が長旅に出ている間に我々メイド達はお疲れになっているであろうご主人様が元気になるメニューを沢山思い付いたのです!!是非是非遠慮なさらずご注文くださいませ♡」

な、なるほど!僕たち『ご主人様』は長旅に出ていて久々に帰って来たから元気付けて貰うためにメニューを考えた…そういう設定なのか。
いやどんな設定やねん!!!

と…とにかく注文するか。
「え…えーっと、じゃあ僕は…『ドッキドキ♡フロカンゴッドも萌えて焼けちゃう♡セット』。」
なんて背徳的なメニューなんだ!!!
フロカンゴッドって絶対リエン君だよね!!!!?
思わず頼んじゃったよ!!!
と言うかフロカン人がこの店に来たらやばくない!!?
誰だよ!!!こんなメニュー思い付いたの!!!!!
ご主人様の疲れが飛ぶどころかフロカンの北側(すごく寒い所)まで飛ばされちゃうわ!!!!!

「『ドッキドキ(中略)セット』ですね!これは我々メイド達のご主人様への愛のパワーでフロカンのゴッドも萌えてしまうメニューなのです♡……まぁこのメニューは出資額1%のスポンサーの取締役の胡散臭い球体の方の考案なんですけど(小声)」
メイドさんはノリノリで僕の頼んだメニューの解説をした。
何やら不穏なセリフが聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。

そのメイドは今度は天照君にメニューを聞く。
「そちらの…堕天使みたいな方はどれにしますか?」
すると天照君はメニューを一通り見た後に一層恐い顔を見せた。

「ひっ!!」
メイドさんも思わず可愛い声を出す。

あっこれやばいかも。
僕は一瞬戦闘態勢になりかけたが…
「『最強(怒)最恐(強)ムンホクーヘン!!!』をくれ。」
となんと天照君は普通に注文をした!

「さ…『最恐(以下略』ですね!このメニューは(中略)なんです!」
メイドさんがメニューの解説をした後に注文を繰り返した後厨房へと向かった。

「一瞬。冷やっとしたよ。天照君、なんで恐い顔したのさ。」
「あん?気合い入れただけだ。何たってsweets(発音上手い)だぞ!!気合い入れなきゃsweetsに失礼だろぉが!!」
よくわからない持論を語ってもらったよ。

というかランチにスイーツを頼むのか…。
まぁ天照君らしいけどね。

程なくして先程僕たちの案内をしたメイドさんが料理を運んで来た。
大きい鳥の丸焼きの周りを雪のような大根おろしが囲んである。
それから…プレートの柄がとても可愛かった。
「今からルフナがこの『ドッキドキ(中略)セット』に愛と萌えパワーを注入しまぁーす♡」
そしてお約束のおまじないの掛け声が始まる。

「おい。それになんの意味があるんだ??」
天照君がこの店のタブーに触れた!
その発言はまずいよ!!!

「え…えーっと…そう!愛と萌えパワーを注入すると料理がより美味しくなるのです!!!」
「そうなのか!!!じゃあ大事だなぁ!!!」
ふぅ…何とか窮地は脱したか。
メイドさんのアドリブ力に感謝しよう。

「で…では愛と萌えパワー注入!!!ご主人様達も一緒に注入してくださいね!!!」

って、僕たちもあの呪文を唱えないといけないのか!!!
天照君、言えるのかな!?
天照君は相変わらず恐い顔してるし!!!

メイドさんは両手を料理に向けてヒラヒラさせながら
「萌え♡萌え♡キュンキュン♡」と唱えた

僕も同じように
「もえもえきゅんきゅん♡」と照れながらやる

天照君は言わないだろうと思っていたら、なんと彼も両手を料理に向けてヒラヒラ…というよりブルブルさせながら「燃え(炎)燃え(焔)ギュンギュン(鬼殺し火炎オマジナイ)」と唱えた!

これだと”おまじない”ってより”呪い”だよ!!!

「ご…ご主人様達と私の愛と萌えパワーがフロカンの神様に届き、今まさに尊さで燃えていますよぉ!!!」

なんだかメイドさんが訳の分からない事言ってるが後でリエン君に謝っておこう。

「トワイライト。冷めないうちに食えよ。」
と天照君は得意げに言う。
いや、なに得意げになってるのさ!

「いただきます。」と言い、チキンを口の中に放り込んだ瞬間…鶏の肉汁がジュワーと染み渡り口全体を纏う。肉厚で食べ応えのある肉は、これまでの鶏肉の常識を覆した。

二口目、三口目、僕はどんどんチキンを口の中へ放り込んだ。

僕がチキンを味わっていると再びさっきのメイドがやってきて、天照君の頼んだケーキを運んできた。

ってなんじゃこりゃ!!?
なんかおぞましい見た目してるぞ!!このケーキ!!!
切り株のように大きいバームクーヘンの周りをカブー型のクッキーが囲んでいる。
そしてツノ(?)が生えてるよ!!!

「こちら『最強(中略)ムンホクーヘン』となります!!え〜と、おまじないは要りますか?」

「何言ってんだ!!いるに決まってるんだろぉが!!!!いくぞ!!!!!
燃え(殺)燃え(死)ギュンギュン(デスボイス)!!!!!!!」
「ひぇっ!!も…萌え♡萌え♡キュンキュン♡」
「も…もえもえきゅんきゅん…」

そして天照君は美味しそうにそのケーキ(?)を口に頬張った。
もうダメだ。この堕天使。すっかりおまじないにハマってる。

ああ…早くこの空間から一刻も早く出たいよ…

僕は黙々と美味しいチキンを口に含ませ、目の前の地獄絵図(呪いをかけながらケーキを食べる天照君)を視界から外すように窓の外を見つめ続けた。




時は、天城達が別れた頃に遡る。


銅視点

「じゃあ俺らも自由行動と行こうか。魔術書の手掛かりを探すも良し。旅の準備をするのも良し。観光も良いけど、あまり地上の球体達と仲良くするなよ!!」
と天城が言った後それぞれ別々に行動することになった。

オレとカルティーは二人で町の散策をする事にした!

これはふくしちょーとして重要な任務。
カルティーの安全は絶対守ってやる!

「カルティー!オレがカルティー守るから安心して。」
オレはふくしちょーとしての意気込みをカルティーに伝えた。

するとカルティーはオレの左隣に近付き、なんと手を繋いだのだ!!

俺は思わず手を振り払い
「う”わ”!なんだよ!!」
と叫んでしまった。

するとカルティーは申し訳なさそうな顔で
「あら?貴方、さっき『オレが私を守る』と言ったでしょ?それで副市長さんが私をエスコートしてもらおうと思ってつい手を繋いでしまったの。こんなおばさんと手を繋ぐのは嫌よね。ごめんなさい。」と言う。

あ”あ”バカかオレは!
カルティーを守ると言ったのにいきなりコレだよ!
カルティー悲しませてしまった…。

オレはすぐカルティーの手を握り返して、咄嗟に思い付いた言葉でカルティーを元気づけようとする。
「そ…そういう事なら仕方ないな!オレが町案内するよ!…だから……離れないでね。」

「ええ!よろしく頼むわ。副市長さん。」

カルティーに手を握られた時、オレはよくわからない気持ちになった。
なんだろう。この気持ち…。
前にもこんな事あったっけ?

…わからない。わからない事は後回しだ!

とにかく今はカルティーをエスコートするぞ!!

「か…カルティーは何か欲しいのあるか?」

「そうね。色々あるけど…まずは街を一周しましょうか。」

カルティーの提案通りまずは街を一周することにした。
ちょうど上階と下階を挟む階段の近くにいたのでまずは上階をグルリと回ることにした。

人混みを避けて、カルティーの手を引く。
その光景は何て例えればいいのだろう。

恋人か?いや!違う違う!!そんなんじゃないから!
じゃあ友人同士?近いけどこれも違うかも。

じゃあ一体何だろうか…

なんて事を考えながら街を歩いていると、気になる店を発見。

「エーリ工房?」

「どうしたの?副市長さん?この工房が気になるの?」

正直、興味ある。
ムーンホールの工業、ふくしちょーとして知っておく必要ある。
でも、今はカルティーのエスコートしないと。

「あう…少し…。でもカルティーはこういうの興味無いよな?」

「あら。私、これでも庭の手入れをする為に色んな機械を購入したいなと思っているのよ。伸びすぎた茎を伐採する為の”水圧ハサミ”とか、害虫を振り払う為の”電気ネットハエ叩き”とかあるかもしれないし見てみましょ!」

電気ネットハエ叩き…そんな物もあるのか…
カルティーがハエ叩きをブンブン振り回してる姿を想像したら少し笑えてきたよ。

工房に入り、カルティーの手を離す。
途端にカルティーは工房内を見回す。
よくわからない部材のようなモノを手に取りじっくり観察したり、別の部材と組み合わせてみたり何やらガチャガチャしてる。

何やってるのかよくわからないけど、カルティーが機械(?)に強いと思わなかった。

オレもカルティーが目に届く範囲で工房内を観察する事にした。
オレ達が入った入り口付近には、部品が入ってる商品棚が所狭しと並んでる。
工房の奥側は設計図が置かれた机と、天井からぶら下がったよくわからない機械が付いている。
あそこは実際に機械を作ったりする作業スペースだろうか?

オレたちが商品棚を観察すると奥の作業スペースから男性の球体がやって来た。

「いらっしゃいませ。お客様、見ない顔ですね。旅のお方ですか?」

この工房の主人だろうか?
オレが抱く工房の職人のイメージはテンショウ(天照のあだ名)みたいなオラオラしてる感じだったのだが、この人は何だか『おだやか』だ。
とにかくこの人の問い掛けに答えなきゃ。
えーっとしちょーはアンダーハーデスの住民である事は隠してるから俺も隠さなきゃ…
なんて事を考えているとカルティーが先に答えた!

「こんにちは。貴方はこの工房の職人さんかしら?ええ。あなたの推察通り、私たちはただの旅人集団です。」

「ああ!やっぱりそうだったんですね!あっ。申し遅れました。僕はエーリ。あなたの推理通り、僕はここで働く細工師です!」

…さすがカルティーだ。
物腰柔らかい態度で相手に怪しまれる事なく和やかムードに持って行った。

「エーリさんと言うのね。私はカルティー。そちらのマフラーを巻いている”子”は銅君です。」

「!!…お、オレは銅!よろしく!」

子…子か…
オレってそんな幼く見えるのかな…

“アイツ”らに忌み嫌われていたところを、しちょーに拾われて、その感謝の気持ちで精いっぱい仕事やってふくしちょーになった今でもまだまだ半人前…か…

「エーリさん。この部品、全部でおいくらかしら?」
「はいはい。****¥となります。でも、この部品達で一体何をお作りになるのですか?見た感じ、この組み合わせで作れる物は無さそうですが…。」
「ふふ、秘密よ。ありがとね。」

カルティーは先程ガチャガチャしていた部品を買ったようだ。

「さっ。次のお店に行きましょ。」

「うっ。うん。」

カルティーは工房に行き着く前と同じようにオレにエスコートを頼んだが、オレは何となく断った。

次のお店では、カルティーの真上にある商品棚が崩れかけていたので、オレが庇おうとしたが、カルティーは茨で崩れそうになる商品を安定した位置に並べ替え、オレはそのままカルティーの真横をヘッドスライディングした。

その次のお店では、「髪生やさない?レディ?君きっと似合うよ!」なんて言ってくる変な球体がいたのでオレが追っ払おうとしたら、何だか植物系能力同士で意気投合したのかすごく仲良く話しててオレは思わず「なんでやねん!」とツッコんでしまった!(隣にいた獣耳のお姉さんが「ええツッコミやな」と褒めてくれたのは嬉しかったけど)

三件お店を回ったところでカルティーは喉が渇いたのでジュースを買うと言い、下階のジュース屋さんへと向かった。

オレはその隙にムーンホールの外へと走り出した。
自分でもなんでこんな事したのかわからない。
自分が半人前だからとか、カルティーが凄い奴だとかではない。

ただ自分がアンダーハーデスの住民にとって必要のない存在なのではないか?
そんな事を考えると、カルティーから…しちょーから…みんなから離れたくなった。

「オレはふくしちょーとして役目を充分に果たせないのだから…」

……気付けばムーンホールとアンダーハーデス役所裏口の道のちょうど中間地点まで着いた。

なぜアンダーハーデスに向かって走っていたのか…。
未だにあそこには闇に呑まれたアンダーハーデスがある。

……ダメだ。あそこに戻っても何もできない…。
だからと言って、みんなの元に戻っても何が出来るのか…。

帰るところがない…
オレはどうすれば…

「死ねば良いんじゃない?」

突然背後から野太い男性の声が聞こえたかと思えば、とてつもない殺気が自身に向けられていることに気付く。

その瞬間、辺り一面に火球が降り注ぐ!!

地表に追突した火球が轟音と共に地表を抉り、大きなクレーターが出来上がる。
そんな火球が雨のように降り注いだ!

避け切ることは出来ない…。
ならば…
「うおおおおおお!!!!」

オレは一心不乱に拳を振るう!
目の前に来る火球に関しては全て打ち砕く。
オレはほとんど無傷の状態のまま火球の雨を凌いだ。

「へぇー。やるじゃねえか!!ガキンチョ!!」
火球を降らしていたであろう者の声がまた背後から聞こえる。
声の主の方へ振り向くとそこには悪魔のような風貌の男が舌を出して立っていた。
舌にはテンショウの右眼の皮膚に刻まれた物と同じような六芒星の模様が描かれてあった。

「何者だ!!お前!!」
オレはその悪魔のような風貌の男に問い掛ける。
だがその男はニタリと笑い
「今死ぬ奴に言う意味あるかぁ!?」
って殺気を放ちながら答え、今度は炎のブレスを奴の手の先端から放射してきた。

熱い…が、オレは炎の耐性があるからそこまでダメージは受けない。
マフラーを振り回し、炎を薙ぎ払う。
だが、さっきまで奴が居た場所にあの悪魔の姿は無かった!

「どこだ!?」
辺りを見回す。

すると突然頭上から悪魔の嘲笑う声が聞こえる。
「マヌメめ!上だ!!」
さっきより特段大きい火球が奴の声の方向から飛んで来てオレの顔面に直撃!

頭がクラクラする…。

倒れそうになる所をなんとか踏ん張り、平衡感覚を取り戻す。

大きな火球の上にはあの悪魔が乗っていたのだ…。
火傷には至らなかったものの、火球そのものの質量に、あの悪魔の体重が加算されダメージは思ったより大きい…。

「へっ!お前が炎に耐性あるのは最初からお見通しなんだよ!!」

「お見通し?お前、オレのこと知ってるのか!?」

「チッ…喋りすぎたな。くたばりな!!」

奴はどんどん火球を飛ばしてきた!
ガードを固めてダメージを殺してるものの、ジリジリと押されていくのがわかる…。
体力に自信はあるけど、このまま受けるのはまずい…。

ならば!!
「速攻でカタをつける!!!」
オレはガードをやめ、ダメージ覚悟であの悪魔に向かい思いっ切り走った!
いくつもの火球がオレに直撃する…
痛い…だが、それだけだ!!
「うおおおおおおお!!!!」
悪魔との距離はおおよそ球体一人分。
充分オレの射程範囲内だ!

オレは渾身の力を込めて拳を振る!!

だが…当たらない!!!

奴は、オレが近付いたと同時に地面を蹴り距離を取ったんだ。

「へっ。ガードをやめてお得意の近接戦に持ち込む。良い案だが、俺は速さには自信があるのでね。」

「オレが格闘技が得意なのも知ってる!?お前、本当何者なんだよ!!!」

「答えないつもりだったが、ダメージ覚悟で特攻を仕掛けた勇気に免じて教えてやる。俺は…」

奴が自分の名を言いかけたとこで、オレの視界に見覚えのある球体が目に映る…。
奴の後方…そこには攻撃を仕掛けようとするカルティーの姿が見えた!!

「メガトウール!!!!愛らしい花に近付く羽虫をことごとく蹂躙なさい!!!!」
カルティーの前方の地面から極太の二本の茨が突如として現れ、悪魔に向かって突進する!!!

しかし、悪魔は間一髪のところで避けた。
「チッ、うざってぇな!……ほぉ、お前か…。ならばこれでも喰らいなぁ!!!!」

悪魔は炎の槍のようなものをどこかから生成したかと思えばカルティーに向かいぶん投げる!!

「カルティー!!!!避けろォォォおおおお!!!!!!」

爆発音と共に、槍が突いた先を中心に煙が立ち上がる。
程なくして煙が消える。

カルティーは…無事のようだ…。
二本の茨がカルティーを守るように覆う事で、槍の直撃を免れたようだ…。

だが、茨は致命傷を負ったのか地底へと退散した…。

オレが唖然としてる間にあの悪魔は槍を投げた方向にジリジリと歩みながら、叫び出す。
「はっはっはっ!!滑稽だなぁおい!ガキンチョを助けるために苦手な炎に立ち向かうとはな。」

カルティーも負けじと言い返す。
「お生憎様。私は貴方の炎如きに遅れを取るわけにはいかないのよ。アガレス。」

アガレス…あの悪魔の名前はアガレスと言うのか…。
奴の名を知ってるということは、カルティーと奴は顔見知りなのか?

だけどとても仲悪そうだ…

そして気のせいだろうか…
カルティーの声が震えてるような気がした…

アガレスはカルティーの目の前で立ち止まり…
「まだまだ火力が足りないようだな。」
と言ったかと思えば、カルティーを囲むような炎の渦が発生する!!

渦の中はカルティーとアガレスが二人。
アガレスは何か話しているが、カルティーは尻餅をつき、ただただアガレスの話を聞き流すのみだった。

炎の渦が消えたかと思えば絶望の表情で涙を流し倒れこむカルティーと、それと対極的に嬉々として嘲笑うアガレスの姿がいた。

その光景を見たオレはアンダーハーデスでの記憶を思い出した。
カルティーがオレに炎が苦手だという話をしている…
それからオレは極力カルティーの前では炎を出さないようにしていたのだ…

しかしこの悪魔…。コイツは躊躇なく炎の魔法を2度もカルティーに使った。
1度目は倒す為だろう…だが、2度目はカルティーを絶望の淵に追いやる為だった。

人の絶望する顔を見て愉しむ奴。
オレの怒りを有頂天に持って行くには容易い相手だった!

「お前許さねぇ!!!!」
込み上がる怒りを拳に乗せ、アガレスに向かい全力疾走する。

「お前も絶望しちまいなぁ!!!!」
アガレスは不気味な笑顔を見せながら火球を何発も何発もぶち込んできた!

本来感じるであろう痛みは怒りで消えた。
この一発をアガレスに当てるまでオレは倒れるわけにはいかない!!!!

アガレスの元に辿り着き、拳を振るう。
だがまた距離を取られ、空振りする。
そしてまたダメージ覚悟で特攻を仕掛ける。
射程範囲に入り拳を振るう。また空振り。

そんなイタチごっこの果てにオレの体力はとうとう底をつき地面に倒れ込んだ。

アガレスも随分消耗してるようだが、まだまだ余裕だと言わんばかりに炎の槍を何本も生成した。

「ここまでか…」

オレは死を覚悟し、目を瞑る…

「いいえ、これからよ…」

目を開く、すると目の前にオレのマフラーを握りながらうつ伏せに、しかし瞳はまっすぐこちらを向いているカルティーがいたのだ。

「カル…ティー…」
「確かに私は炎が苦手…あれだけの炎が自分を取り囲むと、つい体が動けなくなり目の前が真っ暗になるの。
でも暗闇に閉ざされた視界には、ガムシャラに頑張る貴方の姿が見えていた。
未だに体は上手く動かせないから大した援護は出来ないけども…。
貴方ならきっとアガレスを倒せるはず。」
「で…でも…オレ、エスコートは失敗するしアイツにパンチを一発も入れられないダメな奴だよ…」
「ふふ。大丈夫。
私は炎は苦手だけど、炎の事はよく知っている。
本来、炎は人を温かく照らすものなの。
貴方の炎はそんな優しい温もりに満ちているはずよ。
あの悪い悪魔に、火の扱いを教えてあげなさい。」
カルティーは優しい表情でそう告げるとマフラーを握っていた左手を離し、その場に倒れこむ。
カルティーの右手にはブローチのような物がそっと握られていた。
そのブローチをよく見ればムーンホールで買った機械の部品や小物などをツタで固定した手作りの物だった。
ブローチの側面にはオレの名前が刻まれている。

そうかムーンホールでの買い物はオレへの贈り物を作る為…だったのか…。

「ああ…そうか…。
そう言うことか…。」
ムーンホールでカルティーに手を握られた時、オレは確かになにかを感じたのだ。
それはオレが今まで忘れていた事だった。

子供の頃生まれ育った区画の住民達に忌み嫌われていたところを拾ってくれた、しちょー。
あの人の背中を見た時もこの温もりを感じていたはずなのだ。

他にもアンダーハーデスの住民達からこの温もりを確かに感じていたのだ。

しちょーやみんなはオレに優しく接してくれた。
それが日常化していくにつれオレは感謝はすれど、その温もりを感じにくくなった。
ついには恩を返しきれぬまま逃げ出そうとしていた。

カルティーがくれた言葉にブローチ。
カルティーからの贈り物は、オレが忘れていたこの温もりを思い出させてくれた。

「母…ちゃん…」

ついそんな事を口走る。
当然カルティーはオレの母ちゃんではない。
優しい言葉に嬉しい贈り物、大事な事を思い出させてくれたカルティーはオレが思い描く母親像なのかもしれない。

「なんて…温かいんだろう。」
優しい炎に心が包まれる感覚。

この炎が消えぬ内はせめて自分の周りを温かくしてみよう。

この気持ちは諦めかけてたオレを突き動かすには充分すぎた!!!

「覚悟しろ!!!アガレス!!!」
オレはカルティーが握っていたブローチをマフラーに付けた。
そしてマフラーの先端にはみどり色の温かい炎が煌々と燃え上がった。

「はぁ…はぁ…反吐が出るほどの甘い光景を見せられてゲロが出てしまいそうだ。幸せムードのまま死んでしまいなぁ!!」
アガレスが炎の槍をこちらの脳天に合わせる。

「アンダーハーデスふくしちょーとして、オレが!お前!!倒す!!!」
オレは先ほどと同じようにアガレスに向かい一直線に走る!

「地底都市の球体であること、言っても良いのかよ!?まぁ知ってた…」
奴が炎の槍をジリリッと引く
「けど…」
奴が呼吸を整え
「なァ!!!!」
奴の槍は次々と放たれた!!!

このまま槍を避けるとカルティーに当たる。
オレは槍を一本一本薙ぎ払いながらアガレスとの距離を詰めた。

再びオレの拳の射程範囲内。
アガレスは当然、避けようとする。…が、動けないだろ?
カルティーは倒れる前にアガレスの足元を氷の魔法で凍結させたんだ!!
炎の槍で溶けないかヒヤヒヤしてたが杞憂だったようだ。

「てめ…やるじゃねえか!!!副市長さんよぉ!!!!」

「うおおおおおおお!!!!!!!!」

殴る寸前、アガレスが一瞬不敵な笑みを浮かべた気がした。

「リッズブースト…」
その呪文が聞こえた瞬間、俺の拳を振るう力が弱くなった。

アガレスは歯を食いしばり、炎のナイフを生成する。
オレのパンチを耐えカウンターを仕掛けるつもりなのだろうか?

だけど…
「関係ない!!!!!!」

マフラーの炎は消え、代わりに拳に炎が纏う。
今までにない程の高出力の業火はオレの拳の威力を高める。
具体的には…アガレスを倒せるぐらいにだ!!!!

ゴッという鈍い音が鳴り響く。
その音と同時に悪魔は吹っ飛び岩に直撃した!!

アガレスは血反吐を吐き、そのまま倒れこみ気絶した。

「はぁ…はぁ…どんな…もんだ…」
あれれ?オレも…地面に…倒れてしまった…
あれだけの死闘をしたんだ…誰だって疲れる…

しかし、いつまでも寝てる場合じゃない。
オレは悲鳴をあげる体を強引に起こした。

「なっ!!」

先ほどまで倒れていたアガレスが意識を取り戻す。
いや、それよりタコのような球体がアガレスを背負っているのが視界に映り…絶望する。

「あ…新手…かよ……」
もうオレの体は満身創痍だ。
立っているだけで一苦労なのにこれ以上は戦えそうにない。

しかしタコのような球体は戦意は無いという意思表示を示すかのように両手を挙げた。
「おいおい。ちょっと待てよ。俺たちにもう戦う意思はないぜ。」と言いながら。

どういうことだ?アイツらはオレ達を殺すのが目的じゃないのか?

なんて疑問に思ってるとタコのような球体はアガレスに
「アガレス様ぁ。なんでいきなり戦闘なんか始めたんですか。しかも”杖”も持たずに。」
と呆れ気味に言っている。

なんだなんだ?本当は戦うつもりじゃなかったのか?

するとアガレスが
「はぁ…はぁ…うるせー。タコ焼きにするぞ。退屈な○○狩りよりも…こっちの方が楽しそうだったんだよ。」
と返事をする。

「まったく。まぁ”アイツ”の言うこと聞きたくないのはわかりますけど、無茶はしないでくださいね。」

「はぁ…はぁ…おい待てよ。俺は…別にあの方に反抗してる訳じゃないぞ!だけどチルドレンだけでも何とかなりそうな相手だからガキ共に華を持たせたんだよ!」

「もう。それでチルドレンがやられちゃったらどうするんですか!とにかく帰りますよ!」

アガレスとタコのような球体が会話を終えると、アガレスを抱え二人はこの場を離れようとした。
オレはついそんな二人に叫んでしまった。
「おい!!待てよ!!!お前ら何者だ!!?どうしてこんな事した!!!!」

タコのような球体はアガレスを下ろし、地面に転がっていた何かを拾いそれを投げる動作をした…かと思えば、オレの頬をものすごいスピードで小石が掠める。

全然見えなかった…。
なんて怪力なんだ…あのタコ…。

「おい!!!
アガレス様が見逃せと言ってるから見逃してやってんだ!!!!ありがたくお前らも帰れよ!!!!!
あと言っておくけど、アガレス様の本気はこんなもんじゃないからな!!!!!」
とタコの球体は叫んだあと、二人はどこかへと消えた。

あの二人の会話から察するに、どうも奴等には他にも仲間がいるみたいだ。

「ぐっ…あっ…」
今更傷口が痛み出す。
最早立つだけもままならない。

「帰…ろ……う……」

今度こそ意識を失いかけ、今まさに倒れこもうとする体を誰かが支えてくれた。

「ありがとう。貴方の炎…とても温かいわ…。これからも一緒に頑張りましょうね。」

と聞こえたような気がして、返事代わりにブローチを強く握った。

オレの炎は…まだまだ消えないようだ…。

Twitterでこのページを宣伝!Share on twitter
Twitter

コメントを残す