【捏造SS】黄昏に告ぐ

承前:【捏造世界史】ミネルヴァの見た原風景

西フロカン戦争後、イゼル、フクレセウ、ヒネモスの三街は一時的な同盟を解散し、領土・賠償金について協議をしていた。賠償金はそれぞれ公平に分配されたが、領土については辞退した(※飛び地になり、特に保有のメリットもないため)ヒネモストバリを除く二街間での議題となった。

だがこれについて両者は揉めに揉めることとなった。防衛への貢献度として公平に分割されるはずだったが、フクレセウ側があるラインからの分割を譲らず、イゼル側は拒絶したものの、フクレセウの強い態度について何か裏があるのではないかと推測した。

イゼル側はヒネモスの二重スパイを用い調べところ、フクレセウの要求する分割ラインギリギリに位置するとある病院に目星が付けられた。さらに探っていくとなんとそれが旧第三市帝国と関係することが判明する。

これについて追及するとフクレ側は「戦争以前から設立しており、今回の戦争には何も関係ない」と弁明。文献上は確かにその通りだった。しかしながら、両者間の緊張感は拭えない。そもそも、イゼルは当時ほぼ軍部が政権を握っており、さらにイゼル軍とフクレセウ軍は犬猿の仲であった。

フクレ側は高度な魔法技術と人体実験に感心が強く、イゼル軍としては「魔法などという不気味なものを振るい、人体を使っておぞましい実験を行うなど、まさに魔道である」と嫌忌し、フクレ軍は「鉄屑に固執し旧態依然を善しとする、野蛮な輩たち」とこき下ろしていた。

話を戻そう。協議が膠着する中もう一つ情報がリークされた。それは「病院にいる子供や老人を使って人体実験が行われていた」と。 本当ならばさすがのフクレセウでさえ許されない行為である。これを理由に、軍時介入すべきとの機運が高まった。秘密裏に特別小隊が編成され、”病院”へ突入する。

しかし病院の中はすでにもぬけの殻だった。―移設?いや、終末期の患者が多いこの施設でそうすぐ移動などできないだろう― 乱雑に残された資料からはすべて、最高責任者の名前だけが丁寧に消されていた。ふと、副隊長が地下への扉を発見する。

そこはまたも空であったが、一つだけ蠢くものが在った。”それ”はこの病院内部の人間だったようだが、どう見ても屍―いわゆるゾンビ―であった。小隊内は恐慌を起こすも一時撤退、資料と共にこの事を報告した。この報告をもとにイゼルは再び糾弾したが、フクレ側もまた困惑を示した。

実はその病院の管理者は戦争以前に左遷されており、以後は国の管理としながらも内部で何がされているのか把握せず、何らかの実験の指示もしていないと言うのである。報告書にあるゾンビが一体なんであったか、再び小隊が投入された。 しかし、街境近くにて行動を阻まれることになる。

現れたのは、一見年端も行かない少年兵の群―しかしそれは、生きているとは言い難い状態―であった。よくよく見れば中には立てるのがやっとだろう老人もちらほら。躊躇する小隊だが、隊長は「奴らはおそらく人間じゃない、かまうな!」と鼓舞し、戦闘を開始した。

だが恐るべきことに彼らは蛮勇のごとく銃弾を撃ち込まれても走り続け、自身の筋肉が裂けるほどの怪力で大人を返り討ちにした。侮ったわけではないものの、結果、小隊は9割を喪失、一割も撤退したが、不審な通信を最後に消息を絶った。 結果的に小隊は殲滅。さらに下記の通信内容は物議をかもした。

―「我がグラン・ギニョル達の実力はどうだね?」―

通信は戦線離脱直後から途中まで逃走経路のやや混乱した報告だったが、悲鳴とともに無音になり、その後ひどくノイズのかかった、声質不明の音声が流れた。 そしてほぼ同時刻にフクレセウ内で奇妙な事件が勃発しはじめたことが判明。
異常事態である、と判断した両陣営はそれぞれ部隊を編成、事件の鎮圧を企てた。しかしながら解決は難航、するどころか事態は悪化していた。

―遅すぎたのだ。

―すべては、腐敗していた。

―あの病院の地下を見つけた時には、すでに種は撒かれていた―

最終的に、フクレセウは陥落した。調査によると、此度のゾンビ化プロセスは魔力を媒介して感染するものと判明。魔力を持つ者、また魔法を扱えば即感染の恐れがある。最終的な対策として、魔法の循環を絶つため街全体の爆破及び封じ込め、その経過観察がされることとなった。

かくして、上空から蒸気水爆が墜とされ、衝撃波により死体は砕け散り、フクレセウは廃墟と成った。放射線の影響により以後しばらくは虫すら入れず、十数年はこのまま死の街として、封鎖されるだろう。

―それにしてもこの結末を招いたのは、小隊が地下を暴いた結果なのだろうか。
それとも、病院を必死に隠蔽しようとしたフクレセウの悪あがきが発端だったのだろうか、あるいは西フロカン戦争が起こる以前から、すでに”種”は撒かれていたのかもしれない。 消された最高責任者、グラン・ギニョルの終末兵たち、それを我が物と呼ぶ謎の人物―

誰そ彼の名を知る――。

<終>

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