【捏造SS】影に堕ちた少年、そしてバッドエンド

影に堕ちた少年

ある晩の薄明かりの中、司は見覚えのある”影”を垣間見た。見間違いかと思ったが、瞬間、それが目の前に現れる。それは忘れるはずもない、弟の―少しだけ成長した姿。”影”に惑わされているのかもしれない、と司は右手の「宵」を強く握った。
「久しぶり、姉さん」声色も弟そっくりだ。本物なのか?と司はたじろぐ。なぜならかつての弟は火の玉のような黒いオーラに包まれ、邪な笑みをたたえている。黙っていると、その”弟のような影”は次々としゃべりだす。「驚いた?姉さん。僕だ。本物ですよ」
「見てよ、この姿。今の僕は姉さんよりも強いよ」司ははっとして思い出した。「その燐火は…『燭』か!」
秘術『燭』を扱えるとすれば”九龍”に間違いない。しかしなぜ、目の前のそれは全身に纏っているのか。影に連れ去られた後、なにか…?
「別になんだっていいでしょう。さあ、手合せしよう。」”弟”の身体がオーラで妖しく浮かび上がる。「戻ってこい、××」司はようやく声を絞り出した。「お前ならできるはずだ、3代目当主になるはずだったお前なら」弟はふっと笑う。
「姉さん、実はね、影に攫われたのはわざとなんだ。僕は当主になんかなりたくなかったんだもの。」それを聞いて司は目を見開いた。「嘘だろう…」彼女の胸に怒りともやるせなさともつかない感情が渦巻く。それを無視するように弟は続ける。
「姉さん、3代目当主じゃなくなった今の僕はなんだと思う?僕はね…」 束の間、聞き慣れた放送がスピーカから流れ出す。夜が明けたのだ。気が付くと目の前には、自分自身の影が伸びるだけ。司は安堵した。「今のは、”影”が見せた幻だろうか」 ひとりごちて、帰路に着く。

バッドエンド:影に消えた少女

ある黄昏の中、いつもの影狩りと同じ ―はずだった。その敵は司にはあまりにも強大だった。

影に敗北し、よもや終いかとつかの間、司の目の前が白に染まった。手を見やるとすぐに分かった。色彩が反転してるのだった。ただ、”狐火”だけは依然としている。
影は九龍の血を書き換え、その性質をマイナス -”陰火”にさせた。よって司自身にも影響し、黒が白、闇を光と認識するようになったのだ。
もはや司は常闇の住人となった。眼界を認識するためには闇をまとわなければならない。

そして彼女は闇に消え、二度と還らない。

end.

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