紅牙の最高に無理ゲーな初指南

「どーしろってんだよ……」
この台詞さえも何回目だろうか。
そうは言っても本当に八方ふさがりなんだよ誰でもいいからこの状況を動かしてくれ。
『ははは、お前も昔こんなだったぞー。この情けなさといいそっくりそのままだ』
半笑いでんなこと言うなガアヴァ、術で口封じするぞ。と言いたいところだが流石に今この空気の中でやれる奴はよっぽどの勇者かバカだ。
「やっぱり…駄目なのか……」
俺達の前で途方に暮れているのはそれっぽいローブに身を包み眼鏡をかけた恐らく年上の男性…コーパル、と言うらしい。
旅の途中でふと立ち寄ったムーンホールで出会い色々と教えてくれた時は優しく頼りがいがある印象だった。のだが……
(あ~…何でこのひとに法術なんて見せたんだろ…)
今更なのはわかる、わかっているさ。でも言わせてほしい。
『異界の技術とはいえここまで出来ない奴もそうそう居ないぞ…(笑)』
「うぅ……放っておいてくれよ…」
……ごめんコーパル、今俺「それな」って言いそうになってあわてて止めた。
自分で札に術式を書くところからやっているのなら下手でも術がショボくてもまぁ納得はいく。
でもその札俺が術式書いたちゃんとしたやつだよ!?何でそんな微妙な術になるかな!?
さっきからトータル5戦全敗という清々しいまでの下手っぷりだ。もうこれはアレだ、本人に何かしら呪いでもかけられてるのではないかと疑うレベルだ。
『火の術はライター未満、風の術は自然の風以下、電気の術は静電気レベル…』
「丁寧に復習させないでよ!自分が一番よく分かってる!!」
こりゃあガアヴァの煽りの格好の餌食だ。切り上げるにしても早くしないと。
「紅牙…一体何がいけないんだろう……」
「え…あー、その、なーんて言ったらいいのか……」
急に話を振らないでください、大変混乱しております。
俺は術を使うのはそこそこ上手いと自負してるけど、だからと言って教えるのが上手いかということなら話は別だ。そう考えるとやっぱり親父はすごいな、と改めて尊敬した。
「ガアヴァはどう思うんだ?」
『おいおい早速丸投げか?まぁそうだな…強いて言うならs「うわああああああ!言わないでくれええええ!!」
うわー、察しがいいのも考えもんだな。多分「才能」とか「素質」とかそういうのを言いそうな空気を感じ取ったんだろう。くわばらくわばら。ガアヴァはこういう時躊躇なく斬るから相手のメンタルをかばうのに俺が忙殺される。今回は本人の反応速度が早すぎてその必要無かったけどさ。
「すぐそういうこと言うなってガアヴァ。多分コーパルのは術の力を当人の持つ力を通して強化する段階で異変が起きてるんじゃないか?」
「異変、かぁ……自分がわからない…」
あー…本当に対応に困るな。こっちだってここまで出来ない奴に会ったの初めてだから何もわかんねぇよ…
牙一族の存続の為に俺も将来跡継ぎに全部教える時が来るんだろうけど…未来の自分の弟子がこういうのじゃない事を祈るばかりだ。
『結局どうする?まだ続けんのか?』
俺……だいぶ疲れてんだな…コーパルの近くに某RPGの選択肢画面すら見える。大方もうこの問答のまとめ方がわからなくなった誰かさんの強引な〆だろう。

この不毛な指南を続けますか?

はい
▶いいえ

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