【捏造SS】眠り姫

※この掌編には設定の無視・改変などがあります。ご了承ください。

ある王国にピアットという末姫君がおりました。
姫はある事情から王族として扱われないどころか、まるでいなかったことのごとく、地下へ幽閉されていたのでした。
「悲しいわ、なぜこんなことをするのかしら」
彼女はそう言いながら持ち前の超能力で浮いてくるくる回って、退屈しのぎをしていました。
「わからないの。ボクはばかだから」
彼女は姉妹の中で唯一の白痴でした。
飽きるほどにぼーっとしていると、階上から甘い匂いが漂ってきました。3時のおやつの時間です。
「おなかがすいたなあ」
甘いものなんかほとんど食べたことのない彼女は、なけなしの想像力で空想します。
大きな砂糖のかたまり、固くて歯応えのあるもの、甘くてふわふわしたもの。
余計に空腹になっていきます。紛らわすために寝ることにしました。

夢の中で、ピアットはお菓子の国に辿り着いていました。兎の案内人がドアを開け、狼と赤髪の騎士が出迎えます。
茶色い帽子の女の子と歩きながら、美味しいロールケーキを買いに向かうのです。
そこでは彼女はその国の王女様でした。
「姫様、紅茶はいかがなされますかな?」
傍らのじいやがポットを持って声をかけます。さっき買ってきたロールケーキを頬張りながら、姫は答えました。
「もう1杯欲しいわ。砂糖とミルク、たっぷりと入れたものを」
ここでならいくらでもお菓子が食べ放題です。現実を忘れるように姫はケーキを貪りました。
「ふう、もうお腹いっぱい」
食べ終わると、今度は眠気がしてきました。夢の中でうつらうつらしていると―

そこは現実でした。薄暗い独房のような部屋で一人、ベッドに転がっている少女。
「今日のご飯はどうしたのかしら」
いくらなんでも見殺しにされるはずはありません。きっと、寝ているからと使用人が持ってこなかったのでしょう。
ドア越しに誰か、と叫んでみても誰も来ません。か細い声で呼びかけるのが彼女の精一杯でした。
やがて彼女は諦め、もう一度夢の世界へ行くことにしました。

「姫様、お紅茶が冷めてしまいますよ」
じいやに起こされて気が付くと、ミルクティーの香りが顔をかすめました。
「ううん、ぬるいのが、ちょうどいいの」
そういって姫はカップに口をつけました。しかし慌てて口を離し、顔をしかめます。
「なんだ、アツアツじゃない」
「大丈夫ですか、姫様」
慌てるじいやに姫は舌を出して、
「ウソ!」
笑っていました。

***

ある王国の、秘密の地下室には眠り姫がいるのです。
今の今までこんこんと眠り続け、起きる気配がありません。
たまに使用人が様子を見に来ても、不思議な事に変わりがありません。
幸せそうな顔でずっと甘い夢をみているのです。

end.

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※ここから考察※
ダウン症候群に加え外的要因による脳への損傷により超能力が発現した。もしくは先天性の障害を補う形で能力が、とか。
着ているものがふわっふわなので割りと寒冷地帯の人だろうな、など。

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