【小説】夢夜にねがいを 第9話(ラレイヴ編⑤)

「よし、これで夢のかけらも4つ目だ!」
「それが目的の物でござるか⁈」
「手に入ったの?なら早く脱出しないと……」
「そうですね。ですが簡単には抜け出せそうにないです」
「そんなのはここに入る時から分かってた事のはずだよ。ジキル、レクター、アズラク!急いで撤退するよ!」
「「了解!!!」」
 ボクは手に入れたばかりの夢のかけらを鞄の中にしまい込むと、今いる部屋から大急ぎで抜け出す。

 しかし飛び出した先の廊下では、待っていたといわんばかりの錆びれたロボットが、銃口を向け立っていた。
 パパパパッと機関銃を鳴り響かせながらそいつは突撃してくるが、ボクらはそれを避けロボットとは逆方向へ走り出す。
「まだいたの、あのロボット!!」
「いい加減しつこいでござるな!」
「どうやら、しつこいだけでは済まないようですよ」
「うわ、本当だ」
 アズラクの声に反応して上を見上げると、壁に引っかかり今にも落ちてしまいそうな船の上から飛び降りてくる2つの影が視界に映った。
 あれ、一体だけじゃなかったらしいね。まったく……
 ボクとジキルは軽く頷くと、向かってくるロボットの頭上を飛び越えて頭の上に着地する。
「今でござる!ラレイヴ殿、これを!!」
「おっけー!」
 飛んでくる鎖鎌を右手で受け取り、それを暴れ回るロボットのいたるところに縛り付けるとジキルにオッケーのサインを出す。
「よし、いくでござるよ!ぬん!!」
 するとジキルがめいいっぱい鎖を引き2体のロボットを引き寄せぶつけ合わせる。
 重なった装甲がギリギリと音を立てながら削れてゆくと、ロボットは苦し紛れなのか背部の装甲を開きミサイルを撃ち出した。
 ボクは無造作に飛んでくるミサイルを避けるが、遠くで見ていたレクターにヒットし、レクターは暗い谷底へと身を放り出されてしまった。
「レクター!!」
 くそっ、まさか最後の最後でミサイルを飛ばしてくるなんて。なんとか間に合え……!!
 ボクが走りながら手を伸ばそうとした瞬間、背後から颯爽とジキルが飛び出してきた。
 ボクはジキルを止めようと口を開こうとしたが、それを遮るようにジキルは声をあげる。
「レクター殿は拙者に任せるでござる!」
「でもその下はどこに続いてるか分からないぞッ!!」
「大丈夫だ!それよりも2人は先に着陸地点に戻っているでござるよ!必ず拙者達もそこへ戻る!!」
「……分かった!キチンと戻ってきなよ!待ってるから!!」
「了解でござる!!」
 そう言葉を残すと、ジキルとレクターは真っ暗闇の中へと吸い込まれていった。

「お2人は無事ですか、ラレイヴさん!」
「いや……落ちてしまった」
「え……この下にですか⁈」
「ああ。でもジキルが大丈夫と言ったんだ。ボク達はボク達で着陸地点に戻ろう。急いでね……」
「そうですね……」
 背後から鳴り響く重低音の足跡を聞き流しながら、ボクらはガラクタ道を進み始めた……

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「どう、アズラク。そろそろ下まで降り切った?」
「なんとも言えませんね……何分帰りの事を考えずに探索しましたから、軽く迷子状態です」
「それは困ったな……なんとかならない?」
「デバイスオペレートを使えば道を開けるかも知れません。少しお時間もらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。ならボクはロボットを近づかせないように、その辺歩いてるから」
「お願いします」
 そう言うと早速アズラクは脱出口を作り出すため、周囲にホログラムパネルを写し始めた。
 ボクは彼の邪魔にならないようにとその場を離れると、不安定な足場を黙々と歩き出す。
 それにしても、ここは今まで訪れたダンジョンの中でも群を抜いて奇抜だ。
 ダンジョンの名前はピレドアテッジ。いくつもの軍艦や傷んだ鉄骨物が積み重なってできているダンジョン……いや、動く要塞と言った方が正しいかな。
 場所を特定するのは難しい話ではなかった。いや、普通は見つけたくても要塞にかかっている濃い霧のせいで発見は難しいらしいけど、何故かウィッチが明確な位置を知っていたんだ。
 ウィッチが何故知っていたのかというのは気になったが、あいつを問い詰めても何も言わなさそうだし、もしもそれで協力を断られたりなんかしたら残りの夢のかけらがどこにあるのか分からなくなってしまう。
 だからなんかいいように使われてるようで癪にさわるけど、今はウィッチの言う通りにするしかないというのが現状だ。
 まあそれはさておき、このダンジョンに入るのには苦労したよ。近づくなり砲弾を雨あられのようにお見舞いしてきてくれたからね。
 アズラクの戦艦操縦がうまかったおかげでなんとか着陸できたけど、帰りも同じように撃たれるかと思うとゾッとするな……
「あー、帰りの事は帰りのボクに任せよう。きっとなんとかなるはずだし……」
「……ラレイヴ…!」
「この声は……グリーン?」
 ボクが声に反応して後ろを振り返ると、大きな瞳をふるふると震わせながらこちらを見つめているグリーンの姿があった。
 とにかく驚かせないようにと、ゆっくりと口を開く。
「まさかこんなところでまた会えるなんてね……」
「ボクも驚いたよ。でも…また会えて嬉しい……!!」
「それはこっちもだよ、グリーン」
「ねえ、お話の続きしようよ。いっぱい喋りたいこと、聞きたいことがあるんだ!」
「いいよ、しようか」
「ありがとう!」

 それからボク達はいろんな話をした。お互いのこと、世界のこと、好きなこと、嫌いなこと、楽しいこと……などなど。
 ボクは最初、グリーンが球体と同じ思考を持っているなんて信じられなかった。でも会話をしていくうちに、それは紛れもなく本当の事なんだという事がよく分かった。
 それでも警戒の目を逸らすことはできなくて、グリーンもそんなボクの事を見て感づいたのか、突然突拍子も無いことを聞いてきた。
「ねえラレイヴ」
「なに?」
「ボクらダークマターと球体が、本当に分かり合える日は来るのかな……」
「……」
「ラレイヴはどう思う?聞きたいんだ、君の考えが」
「そんなこと急に聞かれても……分かんないよ……」
「そう……だよね。ごめんね、変なこと聞いて」
 そんな事はないとボクは返すが、グリーンは俯いたままだった。
 ダークマターと球体が理解し合える日……か。そんな日が来るのかは分からないし、簡単に答えが見つかるわけもない。

 でもボクは……

「あ、もうそろそろアズラクの元に戻らないと」
「もう行くの?もっとお話していたいのに……」
「そうしたいところだけど、ボク達急いでここから脱出したいんだ。だから戻らないと」
「……脱出口は知ってるの?」
「いや、分からないけど……」
「ならボクが教えてあげる!ボク、脱出までの道程を知ってるから!」
「本当に⁈それは助かるよ!教えてくれるかな、グリーン!」
「うん、えっとねー」
ボクはグリーンの言葉を1つも取りこぼさないようにしっかりと聞き取ると、大きく手を振りながらグリーンに別れを告げていった……

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「あ、やっと戻ってきましたか。どこまで行ってたのです?」
「いや、ちょっと色々あって……それよりも、脱出口は作れたの?」
「それがここ一帯の機械類にかかっているプロテクトが予想以上に固くてですね……申し訳ありません」
「そっか。やっぱり聞いといて良かったよ」
「えっと……何がです?」
「こっちの話。脱出口が分かったんだ」
「本当ですか?」
「うん。こっちだ!」
 ボクはアズラクの手を引き先導すると、行き止まりの通路を右に曲がる。
 確かグリーンの話では真っ赤な染料で塗りたくられた船体の末端から飛び降りるのが1番早い脱出方法だって聞いたけど……
「赤い船体、赤い船体……どこだ⁈」
「赤い船体ですか……?それってあれでは?」
「え?あ、あれだ!」
 アズラクに指差しされた方角へ振り向くと、そこには忘れ去られたかのようにポツンと目的の物が置いてあった。
 ボクは瓦礫を飛び越え赤い船体まで近づくと、希望を持ちつつ道の切れ目から真下を覗き込んだ。
 だけど真下の光景はあまりにも酷く、飛び込めば命はなさそうだった。
「ここから……本当に飛び込んで大丈夫なの⁈」
「ラレイヴさん、脱出口ってまさか……」
「うん……」
 ボクがコクリと頷くと、アズラクは青ざめた表情で「それはちょっと……」と呟いた。
 いや、気持ちは分かるよ?ボクだってこんな所から飛び降りたくないし。  
 でもグリーンが言ったことが、本当だって信じたい……そんな気持ちが心の奥底で揺らいでいるのが分かる。
 どうする…どうする……!!

 ゆっくりと目を閉じ、ジッと心の中で考える。考えるんだ、今どうすべきかを。
 ほんの一瞬の思考の果てに自分の答えを見つけ出すと、ふっと目を開いた。

 ……やろう。
 こんなところで迷っている場合じゃないのは自分が1番分かっているはずだ。それに、きっとなんとかなる!
 ボクはそっと青ざめている彼の手を掴むと、大きく口を開いた。
「アズラク、いこう!この下へ!」
「ええ⁈正気ですか!!こんなところから飛び込んで無事じゃ済みませんよ⁈」
「それでもいくんだ!覚悟を決めろ!」
「そんな、少し待ってくだ」
 っとアズラクが言いかけたが、問答無用で地面を強く蹴った。
 聞こえてくる悲鳴と風を切る音が混ざり合って、奇怪なハーモニーを奏で始める。
 グリーン、君は言った。
 「ダークマターと球体が本当に分かり合える日は来るのか……」と。
 その答えは見つからないけど、少なくともこのまま荒れ狂う海の中へダイブすれば、分かり合うことができないという事だけは証明されてしまう。
 でもそれだけは証明されたくない。だから頼む。何か起きてくれ……!

 そう願った瞬間、突然体が強い衝撃を受け目の前の景色が90度回転した。
 まさかロボット達に砲撃された……?!いや、それにしては痛みを全く感じない。
 これは……!!
「海風⁈」
 そうか、グリーンはこの上昇気流を利用して最下層まで届けようとしていたのか……!!
 それならと、激しい上昇気流の流れに乗り近くの足場まで向かおうとするが、体が思うように動かない。
 くそっ、これじゃ空中ダンスを終えたのちに海中ダンスコースまっしぐらだ。なんとかあの足場まで、あそこまで!!
「シャドウエントリー!」
 そう思った瞬間、どこからか声が聞こえてきたかと思うと、突然何かに足をぐっと掴まれそのまま宙吊りにされる。
 ゆらゆらと揺れる視界が足場を捉えると同時に、掴まれる感覚が消え地面に叩きつけられた。
「痛ァ!」
「ごめん、大丈夫?」
「なんとか……ってレクター!無事だったのか!」
「はい、ジキルさんのおかげでなんとか。アズラクさんも無事なようでほっとしたよ」
「無事に……見えます?」
「あはは……ところでレクター、ジキルはどこに?」
「ジキルさんは先ほど偵察に行ってそれから……ん?」
 とレクターが言いかけた瞬間、騒がしい爆発音があちらこちらから鳴り響いてきた。
 辺りに注意を散乱させ身構えると、正面から何かが近づいてくるのが見えた。
 嫌な予感がしながらも目を凝らしてみると、こちらに向かって息を切らしながら全力疾走してくるジキルの姿が映った。
 まあ、ジキルだけなら良かった。後ろに要らないものを引きつれていなければ。
 ジキルはボク達3人を見るなり大声で叫んだ。
「みんな、逃げるでござる!!」
「ジキルー!ボク達はロボットの追加注文なんてしてないぞー!!」
「サービスってことで許してはくれぬか?!!」
「こんな時に冗談は勘弁してください……」
「仕方ない、みんな下へ降りるぞ!」

 ボクの掛け声でここから更に下へと続く通路を3人で駆け下りてゆくと、足元に暗い影がかかった。
「上か……」
 咄嗟に身をよじり左方の壁を蹴り込むと、自分とロボットが水平に並ぶタイミングを狙って強烈な足蹴りを喰らわせた。
 だがロボットの装甲は予想以上に固く、破壊するどころか横に吹っ飛ばす事もできない。
 それならばとダークソードを固い装甲に突き立てると、大声で叫ぶ。
「ジキル!なんでもいい、炎でできた忍具をこちらに投げてくれ!!」
「に、忍具でござるか⁈ならこれを!!」
 一直線に飛んできた炎のクナイをダークソードで受け取りファイアをコピーすると、その炎を突き立てたダークソードに撃ち込んだ。
 すると炎による熱に装甲が耐えられなくなり、小さな爆発と共にロボットは海の中へと吸い込まれていった。
 よし、なんとかなった。あとは……
「アズラク!ボク達が食い止めてる間に、船を呼ぶんだ!ここからなら船に乗れるだろ⁈」
「おそらく大丈夫だと思います」
「よし、頼んだ!ジキルは鎖鎌を手に持ったままボクにパスを、レクターはギリギリまであのロボット達を引きつけてから避けてくれ!」
「でもこの先は行き止まり……」
「そういうことでござるか!任せるでござるよ!!」
 いち早く察したジキルが投げた鎖鎌のチェーン部をボクは受け取ると、ジキルと共にレクターとアズラクを飛び越え行き止まりで勢いを殺しながら着地する。
「急を要します。浮上せよ、アズール!!」
 そうアズラクが叫ぶと、何もない海面が盛り上がり水しぶきを上げながら巨大な戦艦が顔を出した。
 戦艦が完全に水面に上がりきったのを確認すると、アズラクはめいいっぱいの助走をつけて船へと飛び込んだ。

 さて、問題はここだ。ロボットの関心が今どこに向いているのかが大事なんだ。あいつらはどこを狙う……?
 ジッとロボットの方を見つめると、ロボット達は一瞬動きを止めながらも再び目の前のレクターに飛びかかってきた。
「よし、狙い通りだ!レクター、そのまま影で側面の壁に避けろ!」
「分かった!」
 ボクの声を聞いたレクターは、ロボットによる砲撃を受ける一歩手前で姿をくらまし、驚いた先頭のロボットはキョロキョロと辺りを探し始める。
 だが後方から続いてきたロボット達はそうもいかず、勢いを止められないまま先頭のロボットもろともボクらの方へと突っ込んできた。
「おっけー、そのまま海の中へ誘ってあげるよ!!」
 ボクが道から落ちないギリギリのところでチェーンをピンと張ると、それに足を引っ掛けたロボット達が次々と海の中へと飛び込んでいく。
 しかし後方まで来るとそうもいかず、勢いを止めた数体のロボット達が一斉に主砲の爆撃をお見舞いしてきてくれた。
 それを読んでいたボクはダークソードで全て切り裂くと、ロボットの頭を踏み台にし戦艦へ向けて深く蹴り込んだ。
 だけど……
「うっ、あそこからじゃ遠すぎたか!おち……」
「これを!」
「!!」
 その様子を見ていたアズラクがロープを目の前に放り投げてきたので、必死の思いでそれにしがみつき……そのまま振り子のように船体にぶつかった。
「痛ッ!!……でも海のもずくとなるよりはマシか……」
「今引き上げますよ!」
「うん、頼むよ」
 アズラクにロープごと引き上げてもらうと、ほっと息をつく。するとレクターを抱えたジキルが甲板へと飛び込んできて、ゴロゴロと転がりながら勢いよく船体の一部へと衝突した。
 悲痛な叫びをあげながら頭を抱えこむジキルを確認すると、アズラクは戦艦の進路を変え、鳴り響く銃撃音をバックにしながら急いでその場を離れる。
 その様子はさながら映画のワンシーンのようだった……

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「ふう、ここまで来ればもう安心でしょう。お疲れ様でした」
「お疲れ様ー。大変な目にあったけど楽しかったよ」
「拙者もでござる。いつぞやの宙船防衛戦以来でござるな…..」
「みんなありがとう。アズラク、このまま陸地までお願いしてもいいかな?」
「分かりました」
 静かに吹き渡る潮風にあたりながら、どっと腰を下ろす。
 これでやっと半分。残りは3つ。ウィッチの話によれば、ここからが本当に辛くなってくるそうだ。
 気合いを入れていかないとね。
「ところでラレイヴ殿、次に挑むダンジョンは決まっておるのか?」
「ああ、次はターンオーバータワーを攻略しようと思ってる」
「あそこでござるか……噂では摩訶不思議なダンジョンと聞いてるでござるから、十分に気をつけるでござるよ」
「もちろんだよ」
 少し笑いながらそう答えると、ふいにレクターがボクの肩を叩いてきた。
 なんだろうとレクターの方を振り向くと、レクターは指を差しながら口を開く。
「ねえ、あそこに浮かんでるの……人じゃないかな?」
「え?あ、確かにあれは人だ!アズラク!」
「お任せください」
 アズラクは緊急用の浮き輪を慣れた手つきでプカプカと浮かんでいた者に引っかけると、近くまで手繰り寄せてハシゴで直接上まで引き上げた。

 甲板まで連れてくるとアズラクは急いで人工呼吸を行う。するとゴホゴホと咳き込みながら海に浮かんでいた少女らしき子は少しずつ目蓋を開いた。
 少女はぼーっとした様子でボク達の顔を眺めると、目をこすりながら口を開く。
「あれ……ここは?あたしは確か、頭痛が酷くて寝ていたはずなのに……」
「君、名前は?」
「名前……?あたしはトア。ねえ、ここはどこ?リゼさんやノッテさんは⁈」
「お、おれには分からないよ……」
「どうやら訳ありのようですね」
 トアと名乗ったその少女は、透き通ったマリンブルーの瞳を震わせながら、ただ一点を見つめていた。

つづく。

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