【小説】夢夜にねがいを 第4話(ラレイヴ編②)

「ふうー、やっと着いた」

ボクは来た道を振り返り、そっと息を吐く。

ウィッチと別れた後、夢の泉から1番近いダンジョンに向かうということで、この〝蒼の遺跡〟を目指してきた。

歩いてる途中で、変わらぬ景色に少しうんざりしてたけど、なんとか無事に着けたようで良かった。

それにしても……

「ウィッチはここに手があいてそうな人を送るって言ってたけど、誰もいない気が……」

「おーい!!」

「ん?」

声がする方を振り向いて見ると、猛ダッシュで走ってくる男の人の姿が見えた。

こちらに向かって手を振ってくるということは、もしかして……

確認のため手を振り返すと、その人はやっぱり!という顔つきでボクの目の前まで来て、ピタリと立ち止まった。

「やあ、やっぱりお前さんがそうだったか」

「うーん、どうやらそうみたいだねー」

「無事に会えて何よりだ。自分はカンバ。よろしく!」

「ボクはラレイヴ。こちらこそよろしく」

お互いに挨拶を済ませると、協力の証として握手を交わす。

それにしても、この人が協力者……か。旅慣れはしてそうだけど、あんまり戦闘とかは上手くないって感じだなぁ…..

そんなことを考えていると、カンバが後ろを指差しながら口を開く。

「お前さんの後ろにあるのがダンジョンの入り口かい?」

「え?あー、うん、たぶんそうだと思うよ」

背後を振り向いて見ると、ゴツゴツした石の壁の中央に真っ青な扉がそびえ立っていた。

ダンジョンの入り口なだけあってか、扉からはただならぬオーラが感じ取れる。

「なんだか一筋縄ではいかないって感じがする」

「それがいいんじゃないか!ここにはまだ来たことがなかったからな、今から入るのが楽しみだ!!」

「……はあ」

目をキラキラと輝かせながら扉を見つめるカンバを横目に、重くため息を吐く。

ここに何がいるかも分からないし、本当に夢のかけらがあるのかさえも分からない。

そもそも、ボクはこの星のダンジョンの類に入るのはこれが初めてだ。

「無事攻略できるのかなー」

「ハハハ、自分に任せておけば何も心配はいらない。ダンジョン攻略ならお手の物だ」

「へー、そんなこと言って真っ先にリタイアするんじゃねえだろうな!」

「誰だ⁈」

どこからか聞こえてきた謎の声にカンバが声を上げると、入り口前の柱の影から鋭い目つきをした少年が顔を覗かせてきた。

その少年はボクの前まで歩み寄ってくると、鋭い目つきのまま口を開く。

「お前だろ?ウィッチってやつが手を貸して欲しいと頼んできたやつってのは」

「そうだけど」

「オレの名はトウヤ。うーむ、今の会話や見た目からしても、悪いやつって感じはしないな」

「当然じゃないか。自分は放浪者ではあるが、悪いことは何一つしたことはない」

「いや、てめぇは見るからに冒険家バカって感じだから警戒はしてねえよ」

「冒険家バカ……まあ、否定はしないが」

うんうんと頷きながら返事をするカンバ。

それでいいのだろうか……?
まあ本人が納得しているなら、別に構わないんだろうけど。

「さて、これで全員かな?まだ他にもいるとか?」

「いや、自分は他にも協力者が1名と聞いたから、これで全員だろう」

「へっ!3人で攻略か。ま、無駄に人数が多いよりはいいんじゃねえか?連携とかも取りやすいだろうしよ」

「そうだね。じゃあ2人ともよろしく頼むよ」

「了解」
「おうよ!」

2人と十分打ち解けたところで、早速ダンジョンの入り口へと足を運ぶ。

重々しく構える扉からは、冷たい空気が漏れ出していた。

「開けるよ」

ボクは扉に手をつけグッと押し込むと、掠れた金属音を響かせながらゆっくりと扉を開いた。

中はなんとか前が見える程度の暗さで、進めないことはないけど十分な視界は確保できそうになかった。

するとカンバが「それなら」と背負っていた鞄から小型のランプを取り出すと、マッチで火を付け辺りを一気に明るくした。

「これで進めるだろう?」

「流石冒険家だね」

「ま、それくらいはしてもらわねえとな!」

「さ、行こうか。2人とも、自分について来てくれ」

ランプを持ったカンバはそう言うと、辺りを照らしながら前を進み始める。

ボクらもはぐれないようにと、その後を追う。

洞窟内をひたすらに進むけど、これといって何かが襲って来たりとかはなく、順調に奥地へと……下へ下へと向かっていった。

やがて5,6層ほど階を下った辺りから、洞窟内のあちらこちらに蒼い光がぼんやりと点在しはじめた。

気になったボクはカンバに問いかける。

「これ、一体何なんだい?」

「それはこの洞窟で採れる蒼の鉱石だよ。中々珍しいものだから、結構な値で売れたはずだ」

「こんな石っころが売れるのかよ」

「山育ちのトウヤには分からないだろうけど、町で暮らしてる人達は自力で採取できないからこういった鉱石は珍しいのさ」

「ふーん、そういうものなのか」

分かったような、分からないようなそんな微妙な顔をしながら、トウヤは拾った鉱石をまじまじと見つめてそう答える。

そんなこんなでどんどん奥へと進み、やがて蒼い光が洞窟全体を照らす明るさになってくると、カンバはランプの火を消し鞄にしまいこんだ。

「さて、もうじき11層目だ。ここまでくればランプも必要ないが……1番の問題点がやってくる」

「問題点?」

「ああ。2人とも耳を傾けてよく聞いて欲しい」

カンバは鞄からペンと紙を取り出すと、地面へと広げ何やら絵を描き始めた。

なんだろうと思っていると、絵を描き終わったカンバが再び口を開ける。

「いいか?このダンジョンの最奥地には先ほどの蒼い鉱石なんかよりも大きな大鉱石がある。だが、その大鉱石を守るために、その手前の11層目でやっかいなやつが待ち構えている」

「やっかいなやつって?」

「それがこの絵に描いたラズライトライオンというやつだ」

「あんまり絵は上手くないんだな、お前」

「ははは、気にするな。要は伝わればいいんだ」

「そういうもんか?」

「そういうものだ」

紙へさらにペンを走らせながらそう言うと、カンバが話を続ける。

「まあ、そいつを倒さなければ最奥地には行けないため戦闘は避けられない。そこでもう1つ注意点がある」

「なんだい?」

「このダンジョンでは能力及び武器系統を使用することはできない」

「「?!」」

「自分も噂に聞いていただけなので今さっき試してみたが、どうやら本当のことらしい」

「えー!じゃあオレのリールショットも使えねえのかよ!ってかリールショットが手元にねえ!!!」

「どうやらここに入った時点で、なくなってしまったみたいだね」

「嘘だろー!!」

1人地面をドタバタと踏みつけては悔しそうに壁を殴りつけるトウヤ。

それにしても困ったな。

能力が使えないとなると、基礎的な能力値が大きく響いてくる。

でもボクは力もスピードも、そんなにある方じゃ……

「そこでだ。自分たち3人で連携をかけ、挟み撃ちにする形で仕留める」

「あぁー?挟み撃ちだあー?」

「そうだ。自分は左、トウヤは右からだ。ラレイヴ、お前さんには正面で注意を引いて欲しいのだが…..頼めるか?」

「注意?叩くのではなくて?」

「叩く必要はない。それは自分とトウヤがやる。お前さん、あんまり肉弾戦は得意じゃないんだろう?」

「な、なんでそれを……⁈」

「そう顔に書いてあったからだ」

うっ、顔に⁈

まさか表情に出てたなんて思わなかった……
そんなにボクって顔に思ってることが出るタイプなんだろうか。

話を終えたカンバは「さ、気合い入れていくか」と立ち上がりながら言うと、紙をしまい蒼い光が反射する洞窟内を進み出す。

先ほどの話を聞いてやる気満々といった様子のトウヤと一緒に、ボクもカンバの後について行く。

ほどなくして大きな扉の前にたどり着くと、カンバが「覚悟はいいか?」と聞いてきたので、コクリと頷く。

ギィィィと錆びれた音を立てながら扉が開かれると、そこには巨体の蒼いライオンが静かに立っていた。

「うおお!!てめぇが話に聞いたライオン野郎か!!」

「予想よりはるかに大きいな…..」

「でもやるしかない…..いくよ!!」

その一声でボク達は先ほど考えた作戦通りの陣形を組むと、ボクは正面から大きく飛び上がる。

相手もボクらの意を理解したのか、大きな咆哮を上げると真っ先にボクの元へと飛び込んできた。

「きたッ!!」

大きく振り下ろされた右腕を避けると、その右足に着地し顔面目掛けて飛び蹴りを喰らわせる。

「まずは先制!次は!!」

急いで空中をバク転しながら後ろに下がると、ボクに気を取られていた相手の両サイドから2人の強烈な回し蹴りが炸裂した。

流石にこの攻撃は堪えたのか、相手の足元が一瞬ぐらつく。

今がチャンスだ!
一気に相手の懐へと潜り込…..

「待て!まだいくな!!」

「?!」

その声と同時に聞こえてきた風を切るような音。

ふと視線を上にずらすと、鋭く巨大な爪が目の前まで迫ってきていた。

い、いつこいつはボクの上を…..?!

咄嗟に避けなければという考えが頭をよぎったが、次の瞬間には固い地面へと顔を叩きつけられていた。

あまりの衝撃に意識が飛びそうになる。

い、痛いなんてものじゃない…..

「あ…ゔ……」

なんとか必死に顔を上げるが、目の前では獲物を狩る目つきを光らせたラズライトライオンが、トドメを刺すべく左腕を振り上げていた。

ここ…..までか……

「オラァ!!」

直後ドゴォ!
という衝撃音と共にラズライトライオンが左側へと大きく傾く。

「ふん!!」

かと思うと、今度は勢いよく右側へと傾いた。

そうだった。これはボク個人の戦いじゃなかった。ここには……

「よくやったラレイヴ!後は自分達に任せてくれ!」

「おかげで隙だらけだぜコンチクショウ!!」

「トウヤ、自分に合わせてくれ!!」

「何言ってやがんだ!!てめぇがオレに合わせるんだよ!!!」

「全く、手に負えないね!!」

「そりゃ悪かったな!!」

2人は相手に反撃の隙を与えずに交互に攻撃を繰り出す。

トウヤがアッパーで空中に浮かせれば、カンバがメテオで地面へと叩きつける。

カンバが右に回し蹴りをすれば、トウヤが左に回し蹴りを繰り出す。

2人の容赦ない攻撃を全て喰らい続けた相手は苦し紛れに雄叫びを上げるが、その叫びはかなりかすれていた。

それを感じ取ったのか、2人は互いにコクリと頷くと、相手の目の前へと切り替えしながら大声で叫んだ。

「「ダブルラリアットッ!!!」」

2人の全力ラリアットが相手に直撃し、壁の奥へととんでもない勢いで吹き飛ばした。

相手は壁にめり込んだ体を力なくぶらんっとさせると、地面に吸い込まれるようにドサッと倒れて動かなくなった。

「よっしゃあ!!どんなもんだい!!」

「ふう、なんとかなったね。あ、ラレイヴもお疲れさん。立てるか?」

「な、なんとか……」

ボクはふらふらとしながらも立ち上がると、2人とハイタッチを交わした。

それにしても、今の戦いを見ててひょっとして自分はいなくても良かったんじゃないのか……?とも思ったけど……うん、考えなかったことにしよう。

それよりも夢のかけらだ。
ここまで苦労したんだから、あってもらわないと……困る。

ボクらは期待を膨らませながら、ゆっくりと奥地に足を運ぶ。

今まで以上に入り組んだ狭い道を抜けると、そこには眩いほどの蒼い光が壁一面に反射した美しい大広間が広がっていた。

2人が口を開け「おおー……」とか「すげえ……」と感動に浸っていた最中、ボクは蒼く輝く大鉱石の前にある物を見つけた。

あれはまさか……

近づいてジッと見てみると、虹色に輝く結晶のようなものが宙に浮いていた。

ゆっくりと手を伸ばし触れてみると、結晶は光を破裂させながらビー玉くらいのサイズまで縮んでしまった。

そこに満足そうな顔をしたカンバがやってきて、口を開いた。

「おや、それは?」

「たぶん……夢のかけら」

「その小さいのがかい?」

「うん。触れたらこのサイズまで縮んでしまったけど、今なお7色の光を照らし続けているところを見ると間違いないと思う」

「良かったじゃないか。これで無事1つ入手できたわけだな」

「そうだね。ところでそちらは?」

「大満足だよ!こんな美しい空間があるなんてね。微量ながら大鉱石の一部も採らせてもらったし、苦労したかいがあった」

「そっか。じゃあ戻ろうか。えっと出口は……ん?」

出口を探そうと辺りを見回していると、この場所には似合わない影がチラッと見えた。

まさかとは思うけど……

「ごめんカンバ。先にトウヤと2人で外に戻っててくれないかな?」

「おや?まだ何かあるのか?」

「少しばかり用ができてしまったようで」

「分かった。なるべく早くな。トウヤが黙ってないだろうから」

「うん」

話を終えたカンバは大鉱石の欠片をかじっていたトウヤを捕まえると、来た道を戻っていった。

2人が完全にいなくなるのを確認すると、ボクは大鉱石の影に隠れていた岩に向かって声をかけた。

「そこにいるのは分かってる。今すぐ出て来るんだ。そうすればこちらからは何もしない」

「…….」

「やれやれ」

ふっとため息を吐きながら岩の後ろを覗くと、そこには見覚えのあるやつがひっそりと浮いていた。

一瞬どうすればいいのか分からなくなったけど、無心で口を開く。

「君はあの時の……」

「また、会えたね」

緑色の瞳をしたその黒い影は、そう答える。

間違いない。以前スイートストリートで出会った緑色の瞳を持ったダークマターだ。

そうだ。また逃げられてしまう前に聞くことを聞いておかないと!

でもこんな質問して大丈夫かな……

不安を抱えながらも、恐る恐る口を開ける。

「ねえ、君は一体何なの?普通のダークマターと変わりないって言ってたけど、やっぱり君は特殊だ。その眼も、喋り方も……」

「……君達と近いようで近くない存在…..それがボク」

「近いようで近くない……?」

一体どういうことなんだろう?
近い……?

「難しく考えないで。そのままの意味だから」

「んー……つまりは?」

「……姿はダークマターでありながら、球体と同じ思考を持つ……ってこと」

「球体と同じ思考を……?!」

「うん。でもそのせいで仲間外れにされちゃって……それで……もしハーフである君が良ければ、その……友達になってくれないかな……?」

「友達……か」

もしかしたら罠かもしれない。

でも、この子が嘘を言っているようには見えないんだよね……

こんなことは初めてだし、どんな選択が正しいのかは分からない。でも、望みがあるというのなら……

「いいよ、なろう」

「本当に⁈」

「うん。ボクの名前はラレイヴ。君は?」

「えっと、ボクに名前はなくて……」

「じゃあ、緑色の瞳をしているから〝グリーン〟はどうかな?すごく単純だけど」

「うん、それがいい!ありがとう、ラレイヴ!」

「こちらこそよろしく、グリーン」

ボクらは互いに見つめ合うと、にっこりと微笑んだ。

それにしても、何か忘れてるような……

「あ、忘れてた!そういえば2人を外に待たせてるんだった!!」

「じゃあ今回はこれでさよならだね」

「そうみたいだね。また会えたらお話聞かせてよ」

「うん。じゃあまた今度」

ボクは手を振り別れを告げると、踵を返し出口へと走っていった……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「遅いぞラレイヴ!何してやがったんだ!!」

「あはは…..ごめんごめん」

「全く、用事くらいすぐに済ませろってーの!!」

トウヤは怒りながらそう叫ぶ。

やっぱり待たせすぎたか……
怒るのも無理ないよね。

ボクは何度も謝り、なんとかトウヤの気を落ち着かせた。

トウヤが落ち着くのを見計らって、横からカンバが話しかけてきた。

「いやいや、今日は本当にお疲れさん。色々とあったけど、自分は楽しかったよ」

「ボクもだよ」

「それで、お前さんは次にどこへ向かうつもりだい?」

「次?それはまだ決めてないけど……」

「だったらスタビレッジのジャンボジャングルに向かうといい。ここから1番近いダンジョンならあそこだし、お前さんの村もそこだろ?これから長くなりそうだし、準備はしっかりしておいた方がいい」

「分かった、そうするよ。今日は本当にありがとう」

「こちらこそ」

「礼なんていらないぜ!それよりも、途中でくたばんじゃねえぞ?」

「分かってるよ。それじゃあね」

「ああ!」
「頑張れよ」

ボクは2人に頭を下げると、その場から離れてゆく。

残るかけらはあと6つ。

まだまだ先は長いけど、それでもやるしかないよね。

新たな決意を胸に、真っ白な道を一歩一歩進んで行った……

つづく。

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