【小説】メカノゴーグラーズの挑戦〜ビックニーナパフェ戦記〜

フルーラというカービィが経営する屋台にて、「ビックニーナパフェ」なる大盛りチャレンジメニューがあるらしい。

噂を聞いたルーカス、カルノ、ハヤトのゴーグル装備三人組(メカノ在住。通称メカノゴーグラーズ)は、好奇心に目を輝かせて件の店を訪れた。
店頭のチラシを見れば、「ビックニーナパフェ」はニーナタウンの形を模した、食べごたえたっぷりの巨大パフェ。制限時間40分以内に完食できれば賞金だそうだ。冒険心をくすぐられるではないか。
ゴーグラーズは迷わず3人分のパフェを注文し(総額15,000円也)屋台の傍に設置されているテーブルに着いた。

程なくして、化物が姿を表した。

調理用のボウルみたいな大きさの器にゼリーがなみなみと注がれ、その上にパンケーキを土台としたパフェの本体がデカデカとそびえている。巻き貝のようなニーナタウンの姿を模して何枚ものパンケーキが積み重ねられているのだが、とにかくでかい。背伸びをしないと、パフェのてっぺんに手が届かない。
ゴーグラーズ達は口をあんぐりと開けて、しばしその様相を見守った。
唾を飲み込み、決意の表情でフォークを握りこむ。

ストップウォッチのボタンが押され、三人はフォークを勢いよくパフェに突き刺した。
最初にギブアップしたのはハヤトだった。ニーナの天文台とその土台部分をやっつけたところで、「もうムリ……」という言葉を残して上を仰いだ。
次にカルノが半分地点で、「パンケーキの海……」と謎の言葉を残してテーブルに突っ伏した。

最後に残ったルーカスはパフェを猛然と食べ進める。
パフェはなかなか減らない。普通のパフェならばスプーンで掬って口に入れて飲み込むだけで良いのだろうが、ビックニーナパフェの土台はいかんせんパンケーキである。
土台をザクザクと切り崩して口に運ぶ。咀嚼する。切り崩す。口に運ぶ。咀嚼する。
飲み込むまでにタイムラグが出来る事で、満腹感が余分に高くなる。 
エベレストのようなパンケーキの山が悪魔的な笑いを発しているような気がした。
少しでもタイムラグを無くそうと、一気にパンケーキを頬張って飲み下す。しかし、欲張りすぎた。詰め込みすぎて咀嚼しきれなかったパンケーキが喉に引っかかりそうになり、むせ返った拍子に胃の中の物が逆流しようとする。
吹き出したらアウトである。
ルーカスは口を押さえてただ耐える。吐き気の波が収まった所で、水の入ったコップを煽って一気に飲み下した。
そこからは慎重に、しかし出来る限り素早くパンケーキを片付け、遂にパンケーキがあと一枚、という所までこぎつけた。

最後のパンケーキは今までで一番巨大で、さらに、すぐ下に敷かれているゼリーの水分をたっぷり吸い込んでいた。
躊躇ったのは一瞬、ルーカスは猛然とパンケーキに食らいつく。
水分を吸ったパンケーキは、口に入れるとモチモチした食感を残し、とうに限界を超えた満腹中枢に大きなダメージを与えた。

腹が一杯になりすぎて感覚がおかしい。胃の中に入り切らないパフェを体の隙間に無理矢理詰め込んでるんじゃないかってくらいに気持ちが悪い。視界がぐるぐる回って、上も下も分からない状態でそれでもフォークを動かし続ける。
がちん。
動かしたフォークに、重い感触。パフェを入れた器(残るは最下層のゼリーばかりとなっていた)が傾き、ひっくり返りそうになる。支えようとして身を乗り出したルーカスの手は空を切り、そのまま椅子から転げ落ち……彼の視界は暗転した。

目を開けると、ハヤトとカルノが心配そうに覗きこんでいた。
「どうなった。」ルーカスは静かに呟く。
「残念ながら」
「器がひっくり返っちまってアウトだ。」
ハヤトとカルノが苦笑する。
「そうか」とだけ呟き、ルーカスはしばし黙る。
やがて、顔に笑みを浮かべてこう言った。
「化け物だったな。」
「うん、強敵だった。」
「でも、いい勝負だったろ?」
「ああ、いい勝負だった。」
負けた事は悔しい。だが、それ以上の達成感が三人の内に満ち満ちている。こんなに清々しく素晴らしい気持ちなんてなかなか無い。そう、俺達は5,000円でこの気持ちを買ったのさ――。

「ニーナパフェ、ください!」

知った声がそんな注文を吐く声が聞こえ、ゴーグラーズの3人はぎょっとしてカウンターを振り返った。

そこに居たたのは、メカノゴーグラーズ裏メンバーのアーク少年(ここで言う裏とは対立メンバーとか秘蔵っ子とかいう意味ではなく、単に「メカノアート裏町のメンバー」という意味である)だった。
小さな体を期待に膨らませ、ニーナパフェの写真を指してにこにこ笑っている。自分の顔よりも大きなニーナパフェの画にも怯まず、なんでもないように椅子に座る。運ばれてきた化け物パフェを見て、ぺろりと舌なめずりする余裕まである。
スタート! 
ストップウォッチのボタンが押された。
アークはフォークとスプーンを手に取ると、片手でパンケーキを切り崩し、反対の手でスプーンを操って、上に乗っているクリームが溢れないギリギリの速さでパフェを口に運ぶ。
その勢いは凄まじく、まるで吸い込みでもしているかのようだった。スプーンが残像でブレて見えない。アークとパフェの間にだけ小さな銀色の橋が掛かったようだ。
あれだけ化け物のようだったパフェの高さがみるみる減っていく。
かちん、と、スプーンが器の底に当たる音が聞こえ、そこからはアークは器を持ち上げてパフェの残りを一気に口に流し込んだ。
幸せそうな表情で咀嚼する。
口元についたクリームまでぺろりと舐め上げ、
「ごちそうさまでした。」
ストップウォッチをカチリと止める。まごうことなき新記録。

その様子を、メカノゴーグラーズの三人は呆然と、穴のあくほど見つめていた。

世の中には、信じられないような事を成し遂げる人種がフツーに居る。

 おわり

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アークはこのあと、メカノゴーグラーズに「アークすげえ!お前すげえよ!」といたく感動され、胴上げされます

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