【小説】香りテロの結末

ぐつぐつと鍋の音。カゲキはその音を聞きながら、先ほどまでタマネギを刻んでいた左手を水で洗い流している。カゲキの家に包丁はない。ソードをコピーすれば左手限定で使えるからだ。鼻歌を歌いながら、炊飯器に近づいた所でガタンと外から音がした。覗き込むとロギがいる。

「オマエそんなとこで何やってんだぁ?」声を掛けると何故かロギが半泣きになって叫ぶ。「ボスが悪いんですよ!こんないい匂いさせて!」「はあ?」ムーンホールの夕方、各家庭では夕飯の準備をする時間。「カレー食いたい時に食って何が悪い?」「人がお腹すいてる時にぃ!」

「そうやって各家庭に文句つけてまわってんのか?」「カレーが憎いだけっすよぉ…」盛大な腹の音。「…うちで食ってくか?」「そうこなくっちゃあ!」舌なめずりをして喜び立ち上がるロギをカゲキは慌てて押しとどめた。「やっぱやめだ!」「えー何でっすかぁ?」時すでに遅し。

「アニキー!」「アニキー!」ドヤドヤドヤとロギの子分達が現れた。「げー!やっぱり来やがった!」うんざりした顔のカゲキに対して「ボス今夜はカレーっすか!」「ごちになりまーす!」頭を下げる子分たち。「や、やめーい!全滅する!この人数は無理だ!」しかし部屋に上がり込むロギと子分達がその言葉を聞き入れるはずがない。

「野菜の切り方大雑把ですねー」「肉が多い!さすがっす!」「りんごはないんですか?」鍋を覗き込んだり部屋を物色しだす彼らにカゲキが一喝入れようとしたちょうどその時「わー何なん?賑やかやーん」「かれー?」このはとクドが窓から部屋を覗いていた。

「ふたりもどう?」「おいロギ」カゲキの静止も聞かずに女の子を部屋に誘い込むロギ。「勝手に招待するな!」「いいじゃないですかぁ~!この人数ならふたりくらい誤差の範囲内ですよ!」「もう米もルーもねぇよ!」喧嘩のすきに子分達が隠し味のチョコを加える。「お米ないの…?」クドが首をかしげた。

「トリアくん、コーパルくん」クドは家の外を通りかかったふたりを呼び止める。「お米かってきて…」「「なんで?」」至極当然の反応が返ってきた。このはがフォローに入る。「カレーパーティーするんやけど材料が足りなくなったんよ」「何で僕がパシリやらないといけないの…」「僕は今夜はビーフストロガノフにする予定だったんだけど」「もう材料は買っとるん?」「これから買いに行く所」「だったら今からカレーに変えればええやん!ほな皆で買い出しいこかぁ」「えー!」

ふたりを巻き込み外に出ようとするこのはの前にひとりのカービィが立ちはだかった。「神は言っています!」マジュコだ。「甘口にすべきですと!」「あ、マジュコちゃ~ん!おいでおいで!」ロギが突然の闖入者にも喜んで応対する。それはマジュコが『女子』だからほかならない。「りんごとはちみつも追加で頼んでいいか」諦めてぐったりした顔のカゲキが財布をコーパルに投げた。

しかし四人が買い出しに行くことは叶わなかった。

「ごめんなさいどいてくださーい!」エーリの声と同時に箱がドサドサと玄関にぶちまけられる。ついでに四人が下敷きになった。「わーんごめんなさーい!」ツールボックスで箱の撤去作業がはじまった。箱から転がり落ちたのはたくさんのりんご。

「何事だよエーリ…!」「ごめんなさい!これ、ナシラさんからの差し入れなんです…僕は届けるのを手伝っただけで…!」「ナシラはどうした?」「え、一緒にりんごを持って…」視線を落とすと箱の下に白いしっぽ。「ナシラさあああん!」総出で箱撤去に取り掛かる客人達、カゲキは溜息をつく。

「エクス!」窓の外に向かってカゲキは大声で叫んだ。通りを歩いていた少年が慌てて町長の元に駆け寄る。「ボスこんばんは!今夜はカレーですか!?」「オマエ、バイト探してたよな?」「いつも探してます!」「米と肉と野菜とカレールーを買ってきてくれ」カゲキは予備の財布を押し付ける。

「時給いくら!?」「何時間もかけんなすぐに行って戻ってこい!給料はカレーパーティー参加権だ」「甘口?」「辛さは各自りんごで調整しろ」「了解っす!いってきまーす」10分後、なぜか柊と共に戻ってきたエクス。「何でオマエもいるんだ…」「ひとり増えても一緒でしょう」

「せっかくいい肉も下ろしたんだからご一緒させてくださいよ」「オマエの店、食料品も取り扱ってるのか?」「たまたまマーニーさんが来ていたので」「ああ、即横流しか…」りんごの箱はあらかた片付いて、カセットコンロや予備の鍋を使って次々とカレーが量産されていく。

「さすがに狭いな」「すごいカレーの匂いだ…外、出ていい?」トリアの不機嫌そうな一言にカゲキは手を打った。「それだ!外でやるか」「へ?」こうしてみんなでがやがやと広場に集まり、満月の空の下でカレーパーティーがはじまる。「あら何かのお祭り?」空をまっていたルルイが降りてきた。

「オマエもカレー作る時は気をつけた方がいいぞ」カゲキの助言にルルイはただ笑い返すだけ。「そうだ、りんごのコンポートもあるけど食ってくか?ナシラがつくったやつだ」「気持ちだけ受け取っておくわ」再びルルイは舞い上がった。それを目で追った先にカゲキはグレイとルフナをみつける。

「おーいグレイ、ルフナ!仕事あがりか?」「賑やかですねぇ!お祭りですか?」「訳あってカレーパーティーだ。オマエらも食ってけよ」「あー」カゲキの誘いにグレイが鈍い返事。「…オマエひょっとしてまたオムライス…」「カレーは辛口か?」「鍋ごとに違うみてぇだぞ」「じゃあ味見だけして帰る」

人混みに紛れるグレイを見てルフナがくすくすと笑った。「味見って完成前にするものですよね」「そうだったか?」ふたりで話しているとすぐにロギが現れてルフナを輪の中にご招待。続いて現れたルノウがニヤニヤとした顔でカゲキに皿を押し付けた。「そういやまだ食ってなかったな」サンキューといってカレーを一口食べる。

「辛ぇぇぇえ!」ムーンホールにカゲキの怒号が響く。それを見てルノウやエクスやマジュコや柊がゲラゲラと笑った。つられて他の住民達も笑い出す。「くそっ」タバスコやハバネロが混ぜられたカレーをなんとかたいらげて、最後にクドが差し出した冷たい水を飲み干した。「明日は魚料理にするか」

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