The suppression of Darkmatter ~空からの来訪者と襲撃者~ #1

誰かが私に向かって話しかけている。その言葉は上手く聞き取れず、何を言っているのかわからない。聞こえないから、近づこうとしたら、見ている風景が変わった。黒い塊。その中に、ギョロッとした目が何個かついていて、私を見下している。ダークマター。その奇怪な姿を見てひと目で理解したと同時に、嫌悪感が溢れてきた。
誰かが叫んだ。
その声も、壊れたラジオから聞こえるように、私には届かない。
そして、遠くなっていく。
段々、けど、着実に。

遠くへ。

遠くへ…

………

The suppression of Darkmatter ~空からの来訪者と襲撃者~
1:暗黒物質の奇襲
ここはサルヴェインスカイ。ならず者たちが集う宙の船。俺はその船内のとある部屋に用があって来ていた。
「お~い…」
「……」
おかしい。さっきから呼びかけているのに返事がない。
「…おいってば!」
今までより、ひと回りもふた回りも大きい声で呼んだ。すると、ゆっくりとではあったが、エルムがこちらを振り向いた。
「…コハクか」
「そんな無視することないだろ」
俺は目を吊り上げて言った。確かに、いつものことなら無視されたり、叩かれたりして慣れっこだけど、人が呼んでいるのに無視されるとさすがに頭にきた。
「すまない。少し、物思いにふけっていた」
エルムが言った。少しボーッとしているようにも見えた。
「あ、もしかして…寝てた?」
「そんなことは………」
俺がからかい気味に言うと、エルムは反論しかけたが、途中で言葉が切れた。どうやら、図星だったみたいだ。
「やっぱり寝てたのか~」
「……!」
エルムの表情が僅かに険しくなった。多分、この次には双犀が飛んでくる。どうやって逃げようかな。
「だから私は……」
ビィィィィィィイイ!!!!
エルムが話し始めたときだった。突然、部屋中にけたたましい音が鳴り響く。俺とエルムは顔を見合わせ、互いに頷いた。
この音は、間違いようがない。
ダークマター奇襲のサイレンだ。

まずいことになった。
俺は空を見上げる。そこには、無数の黒い影がちらついていて、今やその個体一つ一つに大きな一つ目がついているのが見えるほど、近くにいた。
その内の数体が目からレーザーを繰り出す。狙ったのは俺ではなく、この船そのもの。その証拠に、俺は動かずとも、レーザーを受けることはなかった。
「このまま落とす気か…!?」
この高度で落ちれば、サルヴェインスカイといえど、ただでは済まないだろう。かと言って、地上に近づけば、今度は地上の者たちが被害を受けることになるだろう。後のことを考えるなら、それはできるだけ避けたい。
「光!!」
後ろから、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「コハク、エルム…」
俺は後方に立つ2人を確認して、再度敵を見上げた。
「敵の狙いは?」
「…わからない。けど、俺たちじゃなく、この船を射撃している。このままだと、じきに飛べなくなって、墜落する」
エルムの問いに答えつつ、俺はこの状況を打破すべく、結論を出した。こうなったら、やるしかない。
「コハク、エルム!今現在宙船にいる者たちを甲板に集めるんだ!全員で反撃に出る!!」
「その必要はありません、光様」
落ち着いた声がした。
「もう、皆ここへ集まっています。後は、反撃を開始するだけです」
俺はもう一度、後ろを見た。そこには、先ほどの2人以外に、ズィスを始め宙船内にいたであろう者たちが大勢駆けつけていた。俺は頷いて、マフラーの手でリングから銃を取り出した。
「全員、位置につけ!宙船を護衛しつつ、ダークマターの殲滅に取り掛かる!!」
オオォォーッ!!と船員たちが意気込む。瞬間、船から空のダークマターに向かって飛び込む者が見えた。
「先手必勝!片っ端から片付けてやるぜ!!!」
アーレイドが無数にいるダークマターの内の一体に突っ込んでいった。真正面から突っ込んでくるアーレイドをダークマターは難なくかわす。
「甘いぜ…!」
アーレイドはそう言った後、綺麗な曲線を描いて方向転換した。狙うのは、先ほどと同じダークマター。しかし、今度は相手がこちらを見ていない。
下降している最中、アーレイドの姿がホイールに変身する。そして、そのダークマターを含め、彼の軌道直線上にいたダークマターを残らず引き裂き、宙船上に降り立った。
アーレイドが一仕事している最中に、他の者たちも動き始めていた。エルムはアーレイド同様、空中へと飛び出し前衛でダークマターたちを叩き落とし、コハク、ウィスタリア、光は甲板から空中戦を抜け、宙船に接近してきたダークマターたちを剣、銃、電撃などを駆使して残党すら出さないように仕留める。ズィスは後方からの指示を出し、船員それぞれがこの状況で最大限の力を発揮できるよう支援していた。
「おそらく、前衛チームが持ちこたえられるのは序盤のみ。少数では、どうしたって厳しくなる。そのときが来るまで、俺たち後衛チームは的確にサポートを行っていくんだ!」
俺が叫んだ。戦場となった宙船上は、雄叫びや武器の擦れ合う音などが混じり合っている。もしかしたら誰にも聞こえていなかったかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。俺は目の前に来たダークマターの巨大な目の中心を、銃弾で貫いた。
「数が多い…!このままだと押し負ける!!」
コハクが一度にダークマターを2体切りつけながら言った。
「ウィスタリア!貴方は後ろでサポートに専念…万が一、修理をしなくてはいけないときに備えて」
ズィスが前の方で電撃を繰り出すウィスタリアに指示を出した。ウィスタリアはその電撃で一体のダークマターを仕留めた後、「了解」と言って後ろに下がった。
「小型船の準備をしておけ。前衛組が撤退したときに、こちらから相手をむかえ打てるように…」
俺が全て言い終える前に、甲板に影が差し掛かった。雲はなかったはず。そのはずなのに、何故…?
途端に俺は最悪の事態を想定した。恐る恐る、空を仰ぐ。そこには、今まで戦ってきたダークマターたちとは比にならないほど、巨大な黒い塊があった。
「これは………!」
驚いている最中、俺は巨大ダークマターに向かっていく一人の姿を目の端で捉えた。
エルムだった。双犀を構え、高速でダークマターに突っ込んでいく。
「やめろ!エルム……」
そう言った矢先だった。エルムがダークマターに到達する前に、見えない力に弾かれた。途端に双犀が消える。彼女が戦闘不能になった証拠だ。弾かれたエルムは、そのまま、宙船に弾丸のように飛んできた。その先には…
「うわっ!!」
別のダークマターと対峙していたコハクの背に、エルムが激突。2人は宙船の外に放り出された。
「しまっ……」
コハクがそう言ったのを最後に、声が消えた。
「…!そんな……!!」
宙船の絶望はまだ終わらない。
一際大きな目玉が俺を見下ろし、あざ笑うかのように目を細めた。

落ちる!
宙船から放り出された直後、雲を突っ切って見えてきたのは広大な陸地。地上が迫ってくる。このまま地面に叩きつけられれば、ひとたまりもないだろう。かといって、俺は空を飛べるわけでもない。
…万事休すってやつか。俺は堅く目を閉じて、次に来るだろう衝撃に備えた。
それはすぐにやってきた。何かが弾ける音、続いて、冷たい感覚。思ったよりも痛みがない。不思議だった。
目を開けると、俺は水の中にいた。たまたま水のあるところに落ちたらしい。安堵する間もなく、水面を探すが、周囲は暗い上に、水中で視界がぼやけている。このままでは溺れてしまう。その考えが頭をよぎり、いよいよ焦り始めた瞬間、足元から何かに押されるような感じを覚えた。その力は次第に強まっていき、周囲も明るくなっていく。
パシャン!と水の弾ける音がしたと同時に、呼吸が可能になった。どうやら、謎の力のおかげで水上まで行くことができたらしい。
「た、助かった…」
俺はホッと安堵の息を漏らした。側には、何やら平たい建物がそびえ立っている。その建物の柱は、丁度自分の浮かんでいる、湖と思われるそれの水底まで伸びているようだった。
「と、とりあえず、陸地に上がらなきゃな…」
岸を探すが、見当たらない。建物を登ろうにも、何処も掴めそうなところがない。俺は次第に体が冷えていくのを感じた。
「あー…そこの君?」
「うおっ!?」
突然、背後から声が聞こえたので、驚いてそちらを振り返った。しかし、誰もいない。
「だ、誰だ!出てこい!」
薄気味が悪かったので、大きな声を出して威嚇した。
「ごめんごめん。今顔を出すから」
また声がしたかと思うと、そばの水面に何かが現れた。よく見ると、水面に目が浮かんでいる。本当に、目だけが。
そのあとのことはよく覚えていない。でも、たった一つ、今までにないくらいの悲鳴を上げたことだけは記憶に残っていた。

「ごめんねー。驚かせるつもりはなかったんだけど…」
水色のカービィが申し訳なさそうに言った。俺はそいつをまじまじと見ながら、「お、おう…」とだけ返事をした。
出会いこそ最悪だったが、その後は双剣で切りかけてもなだめようとしてくれたし(こちらの双剣が効かないので余計薄気味悪く感じたけど)、現に今こうして建物の上―――じゃなくて橋の上にいるのも目の前にいるこの人のおかげだった。
「自己紹介が遅れたね。僕はツェルト。ここ、『ビルレスト大橋』の案内人をしているんだ」
「俺はコハク。ツェルト、さっきは助かったぜ。ありがとな」
俺が返すと、ツェルトは人の良さそうな笑顔をこちらに向けた。話によると、どうやら俺が水底にいたときに押し上げてくれたのも、この人だったらしい。何でも、落ちる人が多いから、案内人をしつつ、ここ周辺の溺れている人の救助もするのだとか。
「お互いに色々と聞きたいことはあるだろうけど、今日はもう暗いし、何より、疲れてるだろう…?知り合いに頼んで、ホテルに一日だけいれるように手配するよ」
ツェルトはそう言ってくれたが、俺はうつむいた。サルヴェインスカイのことを考えると、休んではいられない。そのことを、伝えなくては。
「あのさ、俺……」
俺はそこで言葉を切った。誰かがこちらに走ってくるのが見えたからだ。
「ここにいたのか!なんで肝心な時にホテルにいないんだよお前は……」
走ってきた人が、ツェルトに話しかけた。被っている帽子には大きめの黒と黄緑のリボンがついている。
「ん、スロイツか。どうしたんだよ。そんなに慌てて…寝坊でもしたか?」
その人の方を向いた途端にツェルトの態度が変わった。よくわからないけど、営業(サービス)の闇を感じた。
「ちげえよ!大体仕事のことでお前を呼ぶか……って、そんなことはどうでもいい!!早く来い!!!」
スロイツと呼ばれた人が大慌てでまくし立てる。ツェルトも流石に妙だと感じたのか、スロイツに事情を聞いた。
「一体どういうことだ…?」
「ダークマターだよ!!」
遂にしびれを切らしたらしいスロイツが言った。俺はその言葉を聞いて、ゾッとした。
「それもかなりの数だ…あいつら、急に空から落ちてきやがった!!」
                 ――To be continued.

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