「着いた……やっとここまで来れたよ、キーラさん……」
「そうね〜。ずいぶんと長かったわー。原因が彼ならいいのだけど〜」
「そうだね…..すでに犯人扱いにするのは申し訳ないけど、今はそう願いたいよ」
僕は外堀に張り巡らされた水路を元気そうに泳いでいる魚を見つめながら、そう答える。
「それじゃあー中に入りましょう〜」
「うん」
視線を下がりきった跳ね橋へと向けると、町の中へと足を踏み入れてゆく。
跳ね橋を渡りきり、町の中に完全に入りきると、目の前には見覚えのある顔の人が立っていた。
その人は一呼吸おくと、「ようこそ、ムーンホールへ!」と大きな声で挨拶をしてきた。
僕とキーラさんが軽く挨拶をすると、その人はかなり緊張したような態度で話しかけてきた。
「ぼ、僕はここの町長でコーパルと言います!初めてましてキーラさん!ユウスさんはお久しぶりです…..」
「あの…..コーパルさん」
「は、はい!なんでしょうか!!」
「その喋り方…..かなり無理してません?」
「えっ⁈」
その言葉が図星だったのか、突然汗をダラリと流しながら焦り始めたコーパルさん。
キーラさんが「大丈夫〜?」と声をかけると、コーパルさんは「だ、大丈夫ですよ!や、やだなぁー」とテンパりながら答えた。
このままだと会話が進まない…..そう思った僕は、ショート寸前のコーパルさんに声をかける。
「コーパルさん、どんな事情かは分かりませんが、いつもの喋り方でいいですから!無理せずに!」
「……え⁈そ、そう…..?」
「はい。それに今の喋り方、なんか……コーパルさんらしくないというか何というか…..」
「僕らしくない…..か」
コーパルさんはその言葉で何かに気がついたのか、ふぅっと息を吐く。
「そうだよね、僕らしくないよね。ごめん、心配かけたね」
「いえいえ。そっちの喋り方のがやっぱりコーパルさんらしい…..そんな気がします」
「ありがとうユウス。さて、それじゃあ町を案内するよ。どこへ行きたい?」
「エクスさんという人を探しているんです。その人が今どこにいるか分かりませんか?」
「エクス…..?ああ、少し前にここに引っ越してきたあいつか!でも申し訳ないけど、それは探してみないと…..」
「そうですか……」
だとすると、やっぱり町の中を探すしかないかな。でも1人だとまた迷子になっちゃうかもしれないし……2人と一緒に行動した方がいいかも。
そう思った僕はコーパルさんに町案内を頼み、3人でエクスさんを探すことにした……
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「なんか…..妙に静かですね」
「え、そうかな⁈」
「前に来た時はもっと騒がしかったような……」
僕がそう言うと、コーパルさんは少し暗い顔をしながら俯いてしまった。
聞いちゃまずかったのかな……
僕はコーパルさんの様子を見て、そう思った。
それからしばらく歩いていると、どこからか美味しそうな匂いが漂ってくる通りに出た。
キーラさんもそれに気がついたようで、周りをキョロキョロと見回し始める。
そんな僕らを見たコーパルさんが不思議そうな顔をしながら話しかけてきた。
「ん、どうかしたのかい?」
「あー、いえ、美味しそうな匂いがするなって…..」
「ああ、それか。ちょうどこの通りにはルフナが働いてる喫茶店があるからね。そこから漏れてる匂いだと思うよ」
「喫茶店…..」
ゴクリッ……と唾を飲むと、それに反応したのか途端にお腹が鳴り始める。
僕らは顔を見合わすと、耐えきれなくなって笑い始めた。
「ははは、どうする?とりあえずご飯にするかい?」
「はい!実は今日は起きてからまだ何も食べてなくて……」
「私もお腹ぺこぺこだわ〜」
「じゃあルフナのいる喫茶店に行こうか。すぐそこだから」
「了解〜」
軒並みにずららと並んでいる店々の通りを歩き2階へと続く階段を上がると、お洒落な見た目のお店が可愛らしい看板を掲げながら立っていた。
お店の目の前まで歩み寄り全面ガラス張りのドアを見ると、そこには「OPEN」と書かれたプレートが吊るされていた。
コーパルさんが先導しドアを開けると、中から甘い香りが漂ってきて思わずヨダレが出そうになったけど、なんとかそれを堪える。
店内にはテーブル席とカウンター席があり、大勢でくる人のが多いからかテーブル席の方が多く設けられていた。
僕が店内の様子に気を取られていると、いつの間にかやってきたお店の人が笑顔で僕らを出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ!ご主人様!何名様ですか?」
「えーと、3人だよ」
「かしこまりました!こちらへどうぞ!」
そう言うと店員さんが踵を返し歩き始めたので、僕らもそのあとをついていく。
席に案内され皆座ると、店員さんが人数分のメニューと水を僕らの前に差し出した。
渡されたメニューをめくったところで、ここに入った時から気になってたことを思い出し、去ろうとしていた店員さんを呼び止める。
「あの、すいません!」
「はい!何かルフにご用でしょうか?」
「入った時から気になってたんですけど、奥の席の方がずいぶんと騒がしいみたいなんですが……」
「あ、それ私も気になってたわ〜」
「僕もだ。何かやってるのかい?」
「えっとー……」
店員さんは奥の席の方を一瞬チラッと見ると、再び笑顔で答えた。
「実は今奥の席で、オムライス作り対決をしてまして…..」
「オムライス作り対決?」
「はい。ここのシェフの方とオムライス作りで有名なぽむ様、どちらのオムライスのが美味しいかという対決をすることになりまして」
「え、ぽむ来てるの?」
「はい、来てますよ」
「なっ…..!!こうしちゃいられない!2人とも、奥の席にいこう!もしかしたらぽむのオムライスが食べられるかもしれないよ!」
「え⁈わ、分かりました!」
話を聞いた僕らは一斉に席を立つと、コーパルさんの後に続いて奥の席へと足を踏み入れる。
入ってみると奥の席では料理をまだかまだかと騒いで待っている人たちがいた。
コーパルさんはその人たちと軽く挨拶を交わすと、こちらに向かって手招きしてきたので側に近寄る。
僕が目の前までいくと、「とりあえず座って」と言われたので、素直にそのまま席に着いた。
僕とキーラさんが席に着くのを確認すると、コーパルさんが口を開いた。
「2人に紹介するよ。ここで騒ぎながら座っていたのはここの住民で、手前からエーリ、ロギ、それからマジュコだ」
「初めまして、お2人さん。僕はエーリといいます。今日はここに審査員としてきました(本当はお腹空いてたから無理矢理座ったなんて言えない)」
「オレ、ロギントゥスで皆からはロギって呼ばれてんだ!よろしくな!(このメガネの子激マブだなぁ〜)」
「私はマジュコっていうのです!あなた達、神様に信仰してみませんか?(あ、コーパルは今日町長なのですね。似合ってないですねー!(笑))」
「あ、あの……どうぞよろしくお願いしま」
「君達!!心の声全部バッチリ漏れちゃってるじゃないか!!」
「そんなこと言われてもなあー」
「漏れてしまったものは仕方ないですよね」
「その通りですよ〜」
「なんかイラっとくるな君達!!というかマジュコは完全に僕の悪口だろそれ!!」
「えー?神様がそうお告げしたんですよー」
「へえ〜、君の神様はそんなくだらない事を言うんだねぇー……」
「なっ⁈神様を侮辱するのは許しませんよ!!」
「僕もともと神様なんて信じてないし。神に祈るくらいなら本を読んで勉強するし」
「どうせ勉強したって、鈍器マスターへの道一直線ですよ…..」
「ああ!言ったな!!もう怒ったぞ!表に出ろマジュコ!!!」
「いいですよ?マジュもそろそろこの拳で制裁しようと思ってたところです」
「あ、2人ともちょっと!」
僕が慌てて止めるようとするも2人は聞く耳持たずといった感じで席を立ち、そのまま店を出て行ってしまった。
ああ…..行っちゃった…..
町探索はコーパルさんが居なくてもできるけど、喧嘩はやっぱり良くないよね……
そう思っていても止められなかったという思いに浸っていると、奥の厨房の方から「お待たせしました!」という声と共に2人の方が出てきた。
1人はいかにもシェフといった感じの格好で、もう1人は全体的に真っ黄色な色合いの女の子だった。
黄色い女の子はテーブルに座っていた人の数が変動しているのを見て、キョトンとした顔で口を開く。
「あれ?マジュコがいないね。それにそこの2人は?」
「あー、それは僕が説明……お腹空いたぁ……」
「オレが説明するぜ!」
空腹でテーブルに顔を思い切り打ち付けたエーリさんに代わって、ロギさんが今までの状況を説明する。
するとシェフの2人は状況を飲み込めたようで、黄色い女の子の方は僕らに顔を向けてきた。
「話は聞いてると思うけど、あたしはぽむっていうんだ!よろしく!」
「よろしくねー」
「それよりも、オムライスくださいオムライス!僕はもう腹ペコで死にそうですよーーーー」
「あ、そうだったね」
ぽむさんは思い出したかのように手に持っていたお盆からオムライスの乗ったプレートを持ち上げると、それを皆の前に差し出す。
黄色くてふわっとしたまん丸のオムライスからは、少しだけついた焦げ目と美味しそうな匂いが溢れ出していた。
「少し余分に作って置いて正解だったよ。それじゃまずはあたしのオムライスから召し上がれ!」
「「いただきまーす!!」」
と、僕が最初の一口を口の中へ運ぼうとした時だった。
カランという鈴の音と共にお店のドアが開く音が鳴り響く。
新しいお客さんかな?
と思いながらも止めたスプーンを再び口へと動かそうとすると、入り口の方からルフナさんだっけ?の声と新しく入ってきたお客さんのもめてる声が聞こえてきた。
ルフナさんの「今そちらの席に行くのは困ります!」という声が鳴り響いたかと思うと、「いいじゃねえか、別に」というお客さんらしき声の主が歩いてくる音が聞こえてくる。
やがてその足音が近づいてくると、「ここだな」と言いながら僕らの前へと姿を現した。
その人はオレンジの体色に帽子を逆に被った青年くらいの人で、特に悪い人でもなさそうだったのでまだ一口も食べてないオムライスを口に運ぼうとした。
……次に出た言葉を聞くまでは。
「よう、やっと来たか!待ちくたびれたぜ……ユウス」
「え、なんで僕の名前を⁈それじゃあやっぱりあなたが……」
「そうだな、お前のお察しの通り俺がエクスだ。そして……お前の性別を変えたのも俺だ」
「な、なんで……」
「おっと、その話は下の広場でしようぜ。ここでするには狭すぎる。ついてきな」
エクスさんは踵を返し外へと出て行くと、僕もスプーンをそっと置き席を立つ。
隣ではオムライスをいつの間にか食べ終わったキーラさんがこちらを見つめていた。
「キーラさん…….」
「分かってる。こうなるって薄々気づいてたもの。だから……いつも使っていたスプーンを出して」
「……?」
僕は言われた通りにいつも使っている黄色のスプーンを取り出し巨大化させると、キーラさんはそこに大きな水の塊を一滴落とし入れた。
するとスプーンの柄の先についている3つの透明な石のうち1つが光出し水色へと変化した。
変化した石を確認すると、キーラさんはいつもと変わらない優しい顔で僕の手をそっと握ってきて…..
「私は信じてる。貴方がこの旅のピリオドを打つことができるって」
と零した。
僕はその言葉をしっかりと聞き入れると、店の外へと歩き出す。
店を抜け、言われた通り階段を降りてすぐの広場に足を強く踏み入れると、コーパルさんとマジュコさんが戦っているのをバックにエクスさんが立っていた。
ふと横を見るとすぐさま追いかけてきたであろうロギさん、今だ幸せそうにオムライスを口にほうばっているエーリさん、そして何も言わずにただこちらを見つめているキーラさんの姿があった。
僕は大きく深呼吸をすると、ゆっくりと口を開く。
「一つ…..聞きたいことがあります」
「ん?なんだ?」
「なぜ、このようなことを……」
「…..お前には関係ないことだ」
「……」
「さ、最後の戦いといこうじゃねえか!」
「あんまり気乗りしないけど、でも…..」
そう言って僕は懐からスプーンを取り出し巨大化させると、静かに構えた−
決着の後編につづく……!!