「あー、綺麗だなぁ…..」
そう呟きながら、僕はティーカップに注がれた紅茶をゆっくりと口に運ぶ。
シンプルにデザインされた四角い窓からは、広大な緑が流れていく。
不思議なことにぼーっと見ていても飽きることはなくて、もうかれこれ1時間くらいはこうして外を眺めながらくつろいでいた。
「ヒュルエイじゃこうはいかないもんね……いつもいつも慌ただしくて」
僕は今までの出来事を思い返すと、はあーっとため息を吐く。
でもいいんだ。明日になればまたそんな生活に戻るのは分かりきってることだから…….
「でももう少しこの特急に乗っていたかったなぁ……」
ちょっと残念な気もするけど、まあ仕方ないかな……
そんなことを考えていると、ガタタ….という音を立てながらテーブル向かいの椅子が奥へと下がった。
前を見ると、水色の体色に白い帽子を被った女の子が「向かい、いいですか?」と聞いてきたので、「もちろんです」と快諾した。
視線を合わせないようにと再び窓の外を見つめ始めたけど、オーダーをしている向かいの女の子の発言に驚いて思わず声をかけてしまった。
「あの……そんなに頼んで大丈夫なの?随分と注文してたけど……」
「全然問題ないのです!普段はそんなに食べないけど、ここのご飯が美味しくて美味しくて……!!」
「まあ確かに美味しいのは分かるけど……」
でも少し頼みすぎじゃないかなっと思った。
少し経つと注文した料理がずらりと並び、女の子は笑顔で「いただきますなのです!」と言うと料理を口に運び始めた。
僕が女の子の食べっぷりに圧倒されていると、女の子は突然食べる手を止めてこちらに話しかけてきた。
「あ、まだ自己紹介をしてなかったのです!あたいはノート!ロストナービズという船でせんちょーをやってるのです!」
「えっと、僕はヒュルエイという汽車で機関長をやってる者でサートというんだけど…..」
「ヒュルエイ⁈それってもしかして、よく故障するって噂のあのヒュルエイなのですか!」
「噂ね……そうだね…..」
「やっぱりそうなのですか!そこの機関長に会えるなんて嬉しいのです!」
「僕も氷の上を走れると噂の船の船長さんに会えて嬉しいよ」
「ありがとなのです!あ、握手しましょ握手!」
そう言いながら差し出してきた手を握ると、ノートさんは「やったあ!」と叫んだ。
まさかこんなところでロストナービズの船長さんに会えるとは思ってなかったなぁ。
でももう一つ聞いた噂では“よく迷子になる船”って聞いてたんだけど…..これは聞かないでおこう。
僕が飲みかけの紅茶を飲んでいると、横から「隣いいかな?」とまた声をかけられた。
「いいですよ」
「お、ありがとう。あなた達もこのレストランの料理を食べに?」
「僕はお茶を飲みに来ただけだけど……」
「あたいはそうなのです!ここの料理は絶品なのです!」
「やっぱりあなたもそう思うか!こんな料理、サルヴェインスカイじゃ食べられないもんな…..」
「「サルヴェインスカイ⁈」」
「え?そうだけど……」
さ、サルヴェインスカイ……‼︎
神出鬼没の宙船で、ギルドと呼ばれる組織で結成されているって聞いたことがある。
詳しくは知らないけど、前々から船の機関がどうなっているのか気になっていたんだ。
でもまさか……
「こんなところで宙船の方に会えるなんて……感激だよ」
「そんな大げさな……あ、俺は光って言うんだ。あなた達は?」
そう聞かれた僕達がお互い軽く自己紹介をすると、光さんは一瞬驚いた顔を見せた。
「へえー、こんな事もあるのか。まさか陸海空の乗り物の代表者達が揃うなんて」
「全くその通りなのです!」
「偶然にしては出来すぎてる気もするけどね」
「あ、あなた達はなぜこの特急に?」
「僕はジークフリートに行った帰り道…..かな。ヒュルエイが待ってるメカノアートに帰る途中なんだ」
「あたいはやっと(無理やり)取った休暇で、スタビレッジにいると聞いた妹に会いに行くために乗ったのです!」
「なるほどなるほど……2人とも今は休暇中なんだな。俺は単に乗ってみたかっただけだけど」
「へえ〜」
それから僕たち代表者は、たわいもない話で盛り上がった。
責任者は色々と大変だとか、お互いの船や汽車の話とか、個人的な趣味の話などなど……
気がつけば時計の針は夕方の4時を指していた。
窓から差す夕焼けの光に包まれていると、突然アナウンスが流れ出す。
「あ、そろそろ終点のメカノアート駅なのです!」
「おや、もうそんな時間か。楽しい時間はあっという間だな」
「そうだねー。でも今日はお話できて良かったです」
「あたいもなのです!」
「俺もさ。また機会があれば会いたいな」
「会えると思うよ、きっと」
「うん!」
僕たちは互いに手を振ると、降りる準備をするためそれぞれの部屋に戻っていく。
だがまだこの時の僕らは、この後すぐに特急が故障し、盗賊に襲われ返り討ちにするが、警察沙汰になるのが嫌で逃げるものの迷子になってしまうという事を知るよしもなかった……
おわり。