【小説】あの日の記憶

その日は呆れるくらい閑散としていた。

静かな空間の中に枯れかけた木々がぽつぽつと立っており、雲で覆い尽くされた空では木漏れ日すらできない。

周りを見渡せば周囲には朽ち果てた家が軒並みに並んでおり、家々の隙間から吹いてくる風は不気味さを感じさせる。

そんな誰1人いないような空間に、震えながら座り込んでいる2人の女の子がいた。

1人は紫色の体に黄色の三角帽子を被り、空色の瞳を弱々しくうつむかせている。

もう1人は水色の体に白い無地の帽子を深々と被り、藤色の瞳を力強く見開いていた。

2人は一言も言葉を交わしていなかったが、1枚の毛布の中で寄り添っているところを見ると、どうやら姉妹らしい。

藤色の瞳の子が「大丈夫?」と口をやっと開き聞くと、空色の瞳の子は「うん……お姉ちゃんがいるから……」と静かに返した。

その言葉を聞いたお姉ちゃんと呼ばれた藤色の瞳の子はそっと目を閉じると、そのまま夢の世界へと誘い込まれていった……

どれくらい経っただろうか。空色の瞳の子がふと目を開けると、横で寝ていた姉をゆさゆさと揺らし始めた。

揺らされた姉がまだ眠そうな目を擦りながら「どうしたのです?」と聞くと、空色の瞳の子がか弱い声で「お腹空いた…..」と小さく答える。

それを聞いた姉は静かに立ち上がると「ここで待ってるのです」と告げ、ふらつきながら霧の中へと消えていく。

水色の瞳の子はその後ろ姿を見つめながら「これで…..さよならは嫌だよ……?」と零した……

それから小1時間ほど経っただろうか。姉が真っ赤なリンゴを1つ、大事そうに抱えながら戻ってくると、そこには先程までいたはずの空色の瞳の子はいなかった。

つい先程までいた空色の瞳の子がいない事に気がついた姉は途端に青ざめ、抱えていたはずのリンゴはいつの間にか地面の上で砂だらけになっていた。

姉は必死に空色の瞳の子の名前を呼ぶが、返ってくるのは静かな静寂だけ。

そんな静寂を打ち破らんとばかりのエンジン音が突如鳴り響く。

煩く響き渡るエンジン音に気づいた姉は、とても嫌な顔をしながらもエンジン音の方へと振り向くと、驚愕なんて軽く通り越してしまったような顔で口を開けていた。

エンジン音が近づきその音が聞くことができる最大の音に達すると、姉は突如我に返り大きな声で叫ぶ。

「そこのトラック止まるんです!!荷台にいる妹を返すのです!!」

姉が必死に見つめる先には、ロープで身動き1つ取れないように拘束された妹と呼ばれた子が目を虚ろにして座っていた。

縮まるはずのない距離を離すまいと姉は必死に走るが、悪魔のいたずらか姉は瓦礫につまずき、地面へと吸い込まれるように叩きつけられた。

死に物狂いで震える手を地に立て顔を上げると、今にも涙でぐしゃぐしゃになりそうな顔で呟く。

「返して……返してよ……妹を返してよ……あたいのたった1人の大切な人を……」

しかしトラックはそんなことは知らんという態度で、黙々とその距離を離していく。

「ミナノ……ミナノォォォォォォ!!!!!」

その叫び声を最後に、トラックは完全に見えなくなった……

その後、姉と呼ばれた子がどうなったかは分からない。

だが、彼女達が離れ離れになったフクレセウと呼ばれたその場所は、のちにゾンビが溢れる廃墟街と化すが、それはまた別のお話。

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