【小説】魔法忍者 ミラクル•じきる④(後編)

「初めましてですね、地上の民。失礼ですがお名前は?」

「拙者の名はジキル!早速でござるが、お主の後ろでぐるぐる巻きにされている2人を解放して貰いたいでござる!」

アディス殿は横目でチラッと2人を見ると「それはできません」と答えた。

まあ、簡単に返してはくれないでござるよな……

そもそも拙者にはあの2人を返してもらう理由はない。けれども、目の前で誰かが困っているとあれば助けるのが忍でござる。

……やっぱり忍者かっけえ。
そして魔法忍者はもっとかっけえ……

「かっ….」
「うーん….あれ?」

「ノート殿⁈」

「あ、ジキルさん!おはよーなのです!」

「お、おはようでござる….」

むう、叫ぼうとしたところを遮られてしまったでござるが….ノート殿が無事目覚めたので良しとするでござるか。

ノート殿はバッと立ち上がると、辺りを見渡して突然「あー!!!」と大きな声を上げて叫んだ。

「あれは雪兎さんにキーラさん!!そこのあなた!今すぐ2人を解放するのです!!」

「つい先ほどあなたの隣の方にも申し上げましたが、それはできません」

「何故なのです!」

そう聞かれたアディス殿は2、3秒ほど黙り込むと、先ほどまでと変わらぬ態度で答えた。

「本来ならばここに迷い込んだ地上の民は、軽い尋問をした後地上に返す決まりです」

「それなら……」

「だがしかし、あなた方はここに迷い込んだ際に逃げ回り……おとなしく連行されなかったばかりか、この街の一部を破壊してしまった」

「あー……あははは…..」

「ですから、あなた方を簡単に帰すわけにはいかないのです。全く、こんなことは滅多に起きないんですけどね。これだから地上の民は……」

アディス殿は蔑んだような目でそう答えた。

しかし困ったでござる。そうなると、交渉をしてもこちら側の案は通してもらえそうにない。どうすれば……

俺が目を閉じ必死に良い考えを導こうとしていると、「それならー」という声とともに突然黒い影が現れた。

その者は派手な色のステッキを抱えながら、皿に盛られたケーキを美味しそうに口に運んでいた。

拙者が「お主は?」と聞くと、その者はまだ食べかけのケーキの乗った皿をテーブルに置き答えた。

「んー?僕は死神。名前はトワイライトって言うんだ。よろしくねぇ」

「死神…..でござるか⁈」

「そうそう。まあ今はその事については置いといて……君達ずいぶんともめてるみたいじゃないか」

「それはそうです。この地上の民たちが好き勝手やってくれましたからね」

「それなら僕にいい案があるよー」

「いい…..案?」

その死神は少し笑いながら「そうそう」と答えると、変わらぬ口調で話を続ける。

「そのいい案っていうのはね…..君とアディス君が1対1で戦って、勝った方のいい分を通すんだ」

「「?!」」

どんな案を出すかと思って聞いてみれば、拙者とアディス殿が戦う….?!一体この死神は何を考えているでござるか!

ふと前を向けば、正面に無表情で立っていたアディス殿でさえも驚きの表情を隠せずにいた。

いや、アディス殿だけではない。ここにいた全員が皆同じような反応をしていた。

このまま沈黙が続くと思われていたが、「そんなの、納得できない!」という声によってその予想は打ち消された。

「悪いのは全部 この人たちだ!なのになんで……」

「いやー、その方が早いかなって。それにほら、銅君だって久しぶりにアディス君が戦ってるかっこいい姿みたいでしょ?」

「う….. それは その」

「私は構いませんよ。丁度体が鈍ってきた頃ですし……それに、この方には絶対に負けませんから」

「しちょー…..!! (カッコイイ‼︎)」

「それで…..あなたの意見を聞きましょうか?」

そう言うと同時に冷たい視線をこちらに向けてくる。

まさかこんな状況になるとは思ってなかったでござるが、これは思ってもないチャンスでござる!

アディス殿はおそらく相当の手練れ……だがこの勝負に勝てばすぐにでもここから出られるでござる。これに乗らない手はない….なら……

「分かったでござるよ。その勝負、受けて立つでござる!!」

「よーし、それなら決まりだねー。じゃあお互い向き合おうか」

死神に言われるがままに数歩前に進み向き合うと、スッと構える。

「頑張ってジキルさん!あたい達の運命はジキルさんにかかっているのです!!」

「しちょー! まけないでー!」

「それじゃあいいかな?このステッキが地面に着いたと同時にスタートだよ」

そう言うと同時に死神は持っていたステッキを天高く投げ上げた。

くるくると不規則な動きをしながら落ちてゆくステッキを一瞬だけ捉えると、拙者は目を閉じる。

コツンッ……..

その音が鳴り響いた瞬間、後ろにバク転をしながら手裏剣とクナイを同時に何枚もぶん投げた。

一直線に飛んでいった手裏剣やクナイは、アディス殿の眼前で突如消え去った。

突然の出来事に目を疑う。

「あれは……」

「鞭剣です。それくらいの攻撃ならこれで弾けますよ?」

そうきたでござるか!
ならば今度は魔法で攻める!!

炎と水でできた手裏剣を繰り出し相手に投げつけると同時に、前に向かって走り出す。

すると案の定炎や水は掻き消されたが、小太刀を構えながら懐へと潜り込んだ。

そのまま相手目掛けて斬り上げたが、甲高い音と共にその一手は防がれる。

すかさず身をよじりながら弾き返し黒汚れた剣先を辛うじて避けると、しゃがんだ状態のまま足払いを仕掛ける。

が、これも読まれていたのか飛んで避けられ、その勢いのまま黒光りした剣先が眼前へと迫ってきた。

「くっ!!」

拙者は床を転がりながらそれをかわすと、炎の鎖鎌を作り出し狙いの定まらない相手へと投げつける。

「そんなもの効きませんよ」

「それはどうでござるかな!!」

あっさりと掻き消された炎の鎖鎌を見つめながらそう叫ぶと、右手を大きく後ろへと引く。

「……ッ!!フェイク?!」

そうアディス殿が呟いた時にはすでに遅く、拙者はアディス殿の左足に巻き付いた炎の鎖鎌を引っ張ると、そのまま自身を軸として振り回し始めた。

十分に勢いがついたところで手を離すと、アディス殿を大きな遠心力がかかった勢いのまま壁へと叩きつけた。

「どうでござる!!!」

「しちょー!!」

「あーらら…..こりゃ負けた時どうなっても知らないよ……?」

「すごいです!すごいです!!そのままとどめですよ、ジキルさん!」

「了解でござる!!」

拙者は小太刀を右手に構えたまま用心深く近づき、相手との距離を詰める。

瓦礫に埋もれていたアディス殿が埃を払いながらゆっくりと起き上がると、下を見つめたまま口を開いた。

「やられましたね。危うく勝負がついてしまうところでした」

「いや、もうほとんどついてるでござるよ!」

「いえ、まだです。そして……あなたの負けですよ」

そう言いながらアディス殿は何か小物を取り出すと、こちらを見つめながらそっと構える。

あれは……メモ帳か何かでござるか。何かあるに違いないでござるが…..ここは速さで押し切るでござる!!

右から攻めると見せかけて、目の前で左に切り替えし斬撃をお見舞いして終わりでござるよ!!

思いついた作戦を頭の片隅に置きながら相手のすぐ目の前まで迫ると、素早く小太刀を振り下ろす。

アディス殿はすかさず鞭剣で防ごうとしたが、それを見て作戦通りと言わんばかりに左方向へと切り返す。

「これで……」

「……」

終わりだと思った瞬間、大きな衝撃と痛みと共に体が宙を舞った。

一瞬の出来事に頭がついていかなかったが、飛び散る見慣れた布地の断片を見て、ようやく自分が斬られたということに気がついた。

痛みを堪えながらなんとか受け身を取ると、突然目の前が暗闇に染まった。

「な、なんでござる?!いきなり目の前が真っ暗に!!」

「私の闇魔法であなたの視界を封じさせてもらいました。さらに…..」

「あっ……う”う”う”!!!!」

声を聞き終わるか終わらないかくらいのタイミングで突然体がひりひりと痛みだした。

これは…..この痛みは間違いなく焼かれてるでござる!!アディス殿は炎呪文まで使えるでござるか!!

普段ならかっこいいと思うところでござるが…..今はとに….かく….ぐっ!

「このままでは焼かれ死ぬでござる!!!」

「降参しなさい。そうすれば今すぐ炎を消しますし、傷の手当てもしてあげましょう」

「それは…..降参だけはしないでござる!!」

「それは残念ですね。なら気絶でもしてもらいましょうか」

「!!」

突如焼かれる痛みから解放されると同時に、目の前を覆っていた闇がきりはらわれた。

だが今度は少し肌寒いような…..
それにこの白い霧は…..?!

「おや、その顔は気付いたようですね。そうです、これは氷魔法を使う前の前兆です」

「なるほど…..凍らせて拙者を強制的に動けなくする作戦でござるな…..!!」

「察しがいいですね。その通りですよ」

1ミリも変らぬままの冷たい目をこちらに向けたまま、アディス殿はそう答える。

流石に氷漬けにされてしまったらその時点で勝負ありでござる…..だが……

「氷漬けにされる前にお主を倒せばいいだけでござる!!」

「それは無理だと思うよー?」

「死神?!何故でござるか!!」

「だって彼、テレパシーが使えるもの」

「テレパシー….?」

「そうそう。君、さっき彼にフェイントかけたのに読まれてたでしょ」

「それは確かに…..」

「あれね、彼が君の考えてることを紙に文字として浮き出させたからなんだよ。だから君に攻撃を当てるのは無理。もう諦めたら?そこそこ楽しかったし!」

「攻撃を…..読まれる…..」

そうか、そういうことだったのか。

先ほどの攻撃をまるで最初から分かっていたかのようにカウンターしたのは、やはりあの紙が…..

俺はふと目の前を見つめ直す。

目の前ではもう今にも攻撃を放ちそうなアディスがメモ帳を右手に構えながらこちらを見つめている。

あれがある限り、こちらの攻撃は全て読まれてしまう。おそらく無意識での攻撃はほとんど不可能だろう。

ならどうするか……

「さて、もう終わりにしましょう…..」

「……やるしかない」

「何を…..」

「これをやらなければ勝てない!!!」

俺は残っていた全ての魔力を使い炎の煙玉を作り出すと、それを地面に叩きつける。

「……っ!!」

「まさか….⁈」

再び襲ってきた焼かれる痛みを感じた瞬間に、俺は何も考えずにただ真っ直ぐに走り出す。

「そこまでするかっ!」とか「もういいのです…..やめて…ジキルさん!!」という声が聞こえた気もしたが、今はそんなことどうでも良かった。

「これだから地上の民は…..!!か、紙が燃えて?!」

これで……!!

燃え盛る火炎に包まれた手を伸ばし相手の布地を引っ張ると、そのまま勢いを止めることなく壁へと衝突した。

大きな衝撃と共に倒れこむと、相手も同じように倒れていたのが辛うじて確認できた。

「え……引き分け…..?」

「しちょー!!」
「ジキルさんー!!」

その言葉を最後に、俺の意識は闇へと落ちていった……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここは……」

「あ、気がつきましたよ!大丈夫ですか?」

「ああ…..なんとか…..」

まだ痛む体を起こしてみると、体のいたるところに包帯がぐるぐる巻きにされていた。

「この処置はお主が….?」

「いえ、僕じゃないんです」

「では誰が……」

「僕ダヨ、じきるサン」

「お主は….ヴァール!!」

思わぬところでの知り合いとの再会に、思わず声を上げてしまう。

だがここはアンダーハーデス。住民のヴァールがいてもおかしくは….

と思ったのだが、周りに写り込む冬景色とひんやりとした冷たい感覚を感じるからにして、ここは…..

「外…..でござるか?」

「ソウダヨ。ココハふろーずんかんてぃねんとノ雪山ノ中。君達ハ無事脱出デキタンダヨ」

「脱出できた….⁈でも」

そう言いかけた瞬間、背後から突然どしりとしたものが乗っかかってきてたまらず呻き声を上げる。

拙者がやめて欲しいのを察したのか、上に乗っていたものは途端に頭から落ち去り、拙者の目の前に現れて語りかけてきた。

「ご、ごめん!大丈夫だった?」

「な、なな…なんとか…..」

「良かった!ボク、キミに助けられたんだ!ありがとう!」

「え…..?」

そう言われてよく見てみると、あの時捕まっていた水色帽子の子がこちらを見つめていた。

「私も貴方のおかげで助かったわ〜。ありがとねー」

「れ、礼は要らぬでござるよ。お主たちが無事で良かったでござる」

そう捕まっていたもう一人の人に答える。

頭の整理がつかないまま周りを見渡していると、ふとある事に気がついた。

「ノート殿…..ノート殿はどこでござるか?」

「ノートさんは…..」

「ソレハ僕ガ話スヨ」

そう言うとヴァールは今の状況にいたるまでの経緯を話し始めた。

話によると、拙者とアディス殿との戦いは引き分けに終わり、気絶した拙者をよそ目に死神とアディス殿はどうするか考えていたらしい。

そこで死神が出した案が「直接壁の破壊をしたノート殿だけをここに残し、あとの者は地上に帰す」というものだった。

アディス殿はその案を渋々了承。だがノート殿は最後の最後まで嫌だと駄々をこねていたらしい。

その後は銅殿が拙者達を無事ここまで送ってきて、そこでヴァールと偶然にも会ったらしい。

なるほどなるほどと、軽く頷く。

「経緯はよく分かったでござる」

「ソレハ良カッタ」

「そういえばお主達はヒネモストバリに行くんでござったよな?」

「そうだよー!」

「なら拙者もついて行くでござる。ヒネモストバリまでの道なら知ってるでござるし、何よりノート殿のやりかけの仕事を引き継ぐ義務があるでござるからな!」

「そうなの〜?それは助かるわ〜」

「それはそうと……」

と先ほどから気になっていた疑問をオレンジ帽子の子にぶつける。

「お主は何故無事で……」

「え?あの、気がついたら迷子で…..」

「え?」

「気がついたら外にいて……ヴァールさんに会って…..迷子で……」

「え?」

「迷子……」

「……え?」

つづく。

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