拙者の名前はジキル。
忍術と魔法を自在に操る魔法忍者でござる。
普段は当てもなくフラフラとしているだけの放浪者でござる。
そして今日も目的地を決めず、ただフラフラと移動していたのでござるが……うっかり雪原にぽっかりと空いていたクレバスに落ちてしまったでござる。
え、怪我はないのか?でござるか?
その点は心配ご無用でござる!拙者は魔法忍者!その程度のことでは怪我などしないでござるよ!
……まあ、ここまではただの状況説明でござる。本編はこの後からでござるよ!!
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暗闇。
それは人によってとらえる意味が違う。単純に暗いだけと答える者もいれば、怖いというもの、またその逆で暗闇の中で生きることが全てという者もいる。
肝心の俺はというと、もちろん前者だ。暗闇というのは単純に視界を悪くするものでしかない。
そんな厄介な暗闇に今、まさしく俺は囲まれていた。辺りは見渡す限り真っ暗で、一寸先は闇とはまさにこのことだと噛み締めていた。
まあ暗闇と言っても、真っ黒な道路に沿って吊るされている街灯が、なんとか薄ぼんやりと前が確認できるくらいには照らしてくれていた。
灯りを頼りに突き進むそのすぐ側には、何やら怪しげな毒々しい色をした水を流し続ける水路が張り巡らされていた。
ここはアンダーハーデス。
地上からの民の侵入を拒む地底都市である。
普段は滅多に来ることはなく、来るとすればここの住民のヴァールに顔出しする時くらいである。
だが今日は会いに来たのではなく、偶然にもクレバスに落ちてしまったのが原因でここにいる。
「とにもかくにも、早くここから出ないとまずいでござるな。もしヴァール以外の住民にでも見つかったりしたら……」
そんなことになれば、かなり面倒なことになる。毎回ここに来るときはヴァール以外の住民には会わないように気をつけている。
何故かというと……
「おい、あそこにも侵入者がいたぞ!!」
「やはりこうなるでござるか!!」
嫌な予感的中といわんばかりに、拙者は踵を返し颯爽と通路を走り抜ける。
そう、ここの住民は極度なまでの〝地上の民嫌い〟なのである。拙者はこの事を前もってヴァールから聞いていたので、見つからないようにはしていたのだが……
「ついに初めて見つかってしまったでござる!でもそういえばさっき〝あそこにも〟と言ってたでござるな!もしかしたら拙者以外にも地上の民が…..?!」
そう言いつつ手元からりんごくらいのサイズをした煙玉を取り出すと、そのまま後方に向かって投げつけた。
すると煙がもくもくと立ち込みはじめ、追っ手がその場でもがいてる間にその距離を突き離す。
「これでいいでござる!」
そのまま勢い任せに角を右に曲がりながらそう呟くと、突然何かにぶつかった。
すぐさま立ち上がり前を見ると、白い帽子に緑のリボンをつけた女の子が頭を抱えていた。
もしや今ぶつかったのはこの子では?と声をかける。
「お、お主!大丈夫でござるか⁈」
「いたた….あ、大丈夫なのです!これくらい問題ないのです!」
「それなら良かったでござる!ところでお主は1人でござるか?」
「はい。あ、あたいノートっていうのです!」
「拙者の名はジキル!よろしく頼むでござるよ、ノート殿!」
そう軽く自己紹介をすると、ノート殿が何やらジッとしてられないという様子で突然走り始めた。
その行動に驚きながらも急いで追いかける。
「ノート殿!一体どこに行くのでござるか!」
「あたいの船客を助けに行くのです!!」
「船客でござるか⁈」
この後走りながら聞いた話によると、ノート殿の船はヒネモストバリに行く途中で大きな氷石にぶつかったらしい。
それを自身のボムで壊した際に地面に大きなクレバスができてしまい、そのクレバスにヒネモストバリに連れて行くはずだった船客3名と共に落ちてしまったというものだった。
「それで、気がついたらここにいたということでござるか」
「そうなのです!今だ誰一人とも見つかってないのです!早く見つけないと…..あれ?」
「どうしたでござる?」
「えっと…..」
ノート殿が突然止まったのでその先を見てみると、そこには真っ黒な壁がそびえ立っていた。つまり、行き止まりである。
拙者が引き返そうと提案すると、ノート殿は首を横に振りながら黒い手裏剣を取り出した。
手裏剣を右手に持ったまま大きく振りかぶり壁に投げつけると、手裏剣と衝突した壁がいとも簡単に崩れ落ち……
え?手裏剣が爆発した…..?
それってまさかまさか……!!
「す、すごいでござる!!手裏剣が爆発したでござるよ!!なんでござるか!もしかしてお主も魔法忍者なのでござるかぁぁぁ?!!!」
「え…..いえ、ただのカッターボムですけど……」
「カッターボム!そんなものがあるのでござるか!!そんなものが…..」
「とりあえず行くのです!おそらくこの先にみんながいるのです!!」
「了解でござるよ!!」
まだ落ち着かないドキドキを胸に走り行くノート殿についていく。まだまだ拙者の知らないものがこの世界にはあるのでござるな!!
その後真っ黒な通路をただひたすらに走っては行き止まり、また壊して進んでは行き止まり…..を数回繰り返したが、それでも新しい発見はなくさまよっていた。
ノート殿がもう疲れたと言って座り込んだ時、ふいに背後から大声で叫ぶ声が聞こえてきた。
すぐさま後ろを振り返ると、そこには息を少し切らしながらこちらを見つめている者がいた。
その者は黒い帽子を浅く被り、目は黄色と紫色のオッドアイというずいぶんと変わった姿をしていた。
その者は息を整えると、大きく口を開いて叫び出す。
「やっと見つけたぞ地上の民!!ずいぶんと探させやがって……というか壁壊しすぎだろお前ら!!!」
「あー、ごめんなのです!それ、あたいが道ないからと言ってやったんです!」
「いや、迂回しろよ!!なんで壊してんだ貴様は!!」
「まあまあ、落ち着くでござるよ」
「む、むう…..そうだな…..」
その者は目を閉じ深呼吸を数回すると、やっと落ち着きを取り戻し冷たい眼差しをこちらに向けてきた。
「取り乱してすまなかったな。さて、早速だが貴様らはここで捕まってもらう」
「それはできぬ相談でござるな」
「そうか……なら力づくで捕まえるまでだ!!」
そう叫んだ直後、その者は懐から二対の銃を取り出しそのままこちらに向かって撃ち込んできた。
拙者は銃弾を避けるため咄嗟に左右へ避けたが、避けた銃弾がそのままノート殿に直撃してしまった。
「しまった!ノート殿!!」
「ふぎゅぅー……」
「き、気絶してしまったでござる……」
「予定と違うが、これで残るはお前だけだな」
「くっ……」
気絶してしまったノート殿をそっと壁に寄りかからせると、拙者は相手の方に向き直る。
「さっきより敵意が強くなったような目をしているな。だがお前も同じように気絶させてやる!!」
「そうはいかぬでござるよ!!」
拙者は炎をクナイの形に具現化させると、それを相手に向かってぶん投げる。
もちろんそれは簡単に避けられ、代わりに今度は相手からの銃弾が雨あられのように向かってきた。
それをなんとかかわしながら少しずつ距離を詰めていく。
相手は距離を詰められたくないのか、徐々に後ろへと後ずさりし始めた。
もう少し…..もう少しで……!!
それからさらに2、3歩前に進んだ瞬間、拙者は本物のクナイを一本取り出して銃弾の中へと突っ込む。
驚いた相手は咄嗟に大きく後ろへとステップしたが、直後ドンっという音と共に背後の壁にぶつかった。
「壁っ⁈」
「今でござる!!」
拙者はクナイを迷うことなく相手に向かって振り下ろした。
が、直撃したと思った刹那ガキンっという鈍い音が響き渡る。
「残念だが、ニンジャの能力はお前だけのものじゃないぜ……!!」
「お主も使えたでござるか…..!!だが拙者の勝ちでござる!!」
「はっ?!」
拙者はそのまま逃げ場のない相手に足蹴りを喰らわせ相手をひるませると、相手の体をがっちりと抱え込んだ。
嫌な予感がしたのか、相手は青ざめながら叫ぶ。
「おい、まさかお前……!!」
「そのまさかでござる!」
「やめろォ!!!」
「いずな落とし!!!!」
ドゴォォ!!
と大きな音を鳴り響かせながら、勢いよく地面へと叩きつける。
宙返りして距離を取り相手を見ると、その者は目を回しながら気絶していた。
「中々の強敵だったでござるな…..だがしかし!魔法忍者の敵ではなかったでござる!やべえ!やっぱり魔法忍者かっけぇぇぇぇぇ!!!!」
「あのー、もういいかしら?」
「やべ……え?」
興奮しているところに突然声をかけられ、途端にテンションが下がる。
声の主の方を向くと、その者は2色に分かれた体色で左目が埋まっており、かつ黒い布地をかぶってこちらを見つめていた。
ジッと見つめる瞳は何かを悟ったような、そんな不思議な雰囲気を漂わせていた。
拙者が無言で片目を見つめていると、相手が一瞬ハッとした表情を見せながら口を開いた。
「貴方達が侵入者ですね。全く、天城はこんなにも呆気なくやられてしまって……少し情けないわ」
「というと……もしやお主も……」
「そうよ、ここの住民でカルティーっていうの。貴方達を今ここで捕まえますわ」
「それまたできぬ相談でござる!」
拙者はすかさずクナイを取り出し、戦闘体勢を取る。
相手もやる気と言わんばかりに構える。
「まずは先手必勝でござる!!」
そう言って炎でできた手裏剣を数十枚作りだすと、そのまま真っ直ぐ投げつけた。
さあ、どう出るでござる!
どう…….
拙者が相手の様子を伺った次の瞬間、相手は「ひぃぃ!」と甲高い悲鳴を上げながらその場にうずくまった。
予想外の反応に驚いた拙者は警戒しながらも、少しずつ距離を詰めていく。
すぐ側まで近づき耳を澄ますと、小さな声で「火……火はやだ……」と呟いていたのが聞き取れた。
なんだか拍子抜けしてしまった拙者はクナイを懐に戻すと、そっと踵を返しノート殿の元に戻る。
「よく分からないでござるが…..とりあえずこれで先に進めるでござる!」
そう言いながら目を閉じたままのノート殿を背負うと、暗闇の中へと足を踏み入れて行った……
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「はやく運ぶ運ぶ!しちょーがお待ちだよ!」
「「了解です、副市長!」」
せっせと運ぶ者達はそう答えると、何かを担いだまま歩き出す。
「あれはまさか……」
一つ手前の角に隠れていた拙者はそっと呟く。
さっきの緑色のマフラーを巻いた副市長と呼ばれた者とここの住民達。そしてその住民達は何かを担いで移動していた。恐らくあれは…..
「きっとあれがノート殿が言っていた船客3名のうちの2名……」
薄っすらとしか見えなかったが、1人は水色の帽子に耳のようなものを生やした子で、もう1人は大きな貝殻を頭に乗せていた。
ここの住民という可能性もあったが、ロープでぐるぐる巻きにされていたあの姿はどう考えてもここの住民とは考えにくい。
「さて、どうするか……」
頭をフル回転させながら何かいい案はないかと模索して見るが、いい案は見つかりそうになかった。
こうなったらと腹をくくる。
「こうなってしまった以上は直接乗り込むしかないな。俺1人だが……行くしかない」
考えるのをやめ、ノート殿を背負い直すと市長室と書かれた扉の前に立つ。
一呼吸入れドアを力強く開けると、そこは本当に市長室なのかと言わんばかりの広い空間が広がっていた。
「ここが市長室でござるか…..?!」
「そうですよ」
「⁈」
「お主がもしかして……」
「そうです、ここで市長を務めさせて頂いているアディスという者です」
「アディス……殿」
「ようこそ、アンダーハーデスへ」
この街の代表は冷たい眼差しのまま、そう答えた。
後編へ続く!