【小説】魔法少女 ミラクル•まいご③(後編)

「ダークマター……ですか?」

「そうだ。最悪だ、全くもって」

そう言うとライロさんは帽子に挟んであった手袋を取り出すと、そっと両手に着けた。

「いいか、ダークマターっていうのは相当危険な奴等だ。絶対に油断するな」

「う〜んと、危険と言うとどれくらい危険なの〜?」

「それは…..」

そうキーラさんに聞かれたライロさんは、はあっーと白い息を一息吐くと、難しい顔をしながら答えた。

「正直、俺も詳しいことは分からねえ。ただ、少し前に噂で聞いたことがある」

「噂〜?」

「ああ。少し前にホシガタエリアで起きた事件の事は知ってるよな?えっと確か名前は……」

「〝おだや化事件〟ですよ、ライロさん」

「そう、それだ。流石聖職者は情報通だな」

「別に情報通ではありませんよ。ビルレスト大橋が封鎖されるくらいの大きな事件でしたから。でも確かその事件って……」

「ああ、確かたった一体のダークマターによる事件だったと聞いてるぜ。あの時は数人の勇士によって倒され無事解決したらしいが」

ライロさんは氷の柱を作り出しながら、そう話した。

ダークマター……僕はその存在を一度も見たことがなかったけど、まさかこんなかたちで会うなんて…….

僕がまっすぐにダークマターの方を見つめていると、淀んだ黒色の瞳が重々しく開き……こちらをカッと見つめてきた。

「ああ!気づかれちゃいましたよ‼︎」

「くっ!お前らは下がってろ!俺が速攻でケリをつける!!」

「あ!待って!!」

僕はライロさんを止めるためそう叫んだけど、時すでに遅くライロさんは一直線にダークマターの方へと飛び出していった。

「一突きで終わらせてやる!!」

ライロさんは先ほど作った氷の柱を軽く持ち直しながらダークマターへと突っ込んだ。

「やった⁈」

っと叫んだけど、ライロさんの突きは虚しくも外れダークマターはライロさんの頭上を取っていた。

すかさず体勢を戻そうとしたライロさんだったけど、直後にダークマターから紅い光線が放たれ、ライロさんに直撃してしまった。

「ライロさん!!」

「ぐうっ……強い!!」

ライロさんがその勢いのまま真っ白な雪の上へと叩きつけられると同時に、今度は僕らの方へとダークマターが突っ込んできた。

「こっちに!」

「まかせて〜」

キーラさんは頭にかぶっていた貝殻を巨大化させると、そのままダークマターに向けて振りかざした。

……が、それも軽く避けられ目の前が真っ赤になったかと思うと、物凄い風圧と熱さとともに後ろへと吹っ飛ばされた。

「あっつ……」

僕が急いで起き上がり前を向くと、そこにはダークマターの姿はなかった。

咄嗟に周囲を見回してみるが、この白い景色には似つかわない黒い影がどこにも見つからない。

「どこ……どこに行った⁈」

「後ろだよ、ユウスちゃん!!」

「⁈」

遠くから響いてきた雪兎君の声を聞き取ると同時に、再び背中を焼きつくような痛みが襲ってきた。

耐えきれなくなった僕は思わず声を上げる。

「熱っつつついっ!!!」

「ユウスちゃん!」

「俺に任せろ!!」

ライロさんはそう叫ぶと、僕の上空に氷の氷柱を作りだし、そのまま僕ごとめがけて突き落としてきた。

「え⁈ちょっと!」

氷の氷柱が突き刺さると思った瞬間、突然目の前が真っ暗になった。

なにこれと思っていると、目の前に光が差し込みだし、気づくとキーラさんが立っていた。

「キーラさん!」

「間に合って良かったわー。貝殻のガード〜」

「すいません、ありがとうございます」

「お礼はいらないよ。それよりも今は…….」

キーラさんが見つめる方向を見ると、氷柱が刺さりながらも今だにライロさんと雪兎君の2人と戦っているダークマターの姿があった。

2人がかりなら有利と思っていたけど、ダークマターは予想以上に強く、2人が徐々に押されているのがよく分かった。

「ど、どうしようキーラさん!このままじゃ2人とも……」

「う〜ん、待ってねー。今考えてるから〜」

「考えてる暇なんてないよ!僕はとにかく行くよ!!」

僕は考えたまま動かないキーラさんに背を向け、ダークマターへと走り出した。

2人ともかなり危ない状態だ。間に合って……!!

息を荒くしながらそう思った瞬間、チリン…..という小さな音が鳴り響いた。

「この音は…….ッ⁈」

「ディン•フィナーレ!!!」

僕が疑問に思うよりも早く、大きな叫び声とともに上からアリスさんが急降下してきて、両手に持っていた巨大なベルをダークマターめがけて振りかざした。

この攻撃は予想外だったのか、黒い瞳は上を見上げながら地面へと叩きつけられ、そのまま破裂して消えていった。

「ふう……なんとか倒せましたか……」

「アリスちゃん!!」

「やれやれ、助かったぜアリス」

「お2人とも無事で何よりです」

「みなさんー!やりましたねー!!」

僕は手を振りながら3人に近づくと、笑顔でハイタッチをかわした–

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんだ、もう行くのか?」

「はい、先を急ぎますので」

「気をつけてくださいね、お2人とも。旅のご無事を祈ります」

「ありがとうございます、アリスさん!」

「ところで雪兎君はどこに?」

「あいつか?少し前まではいたんだが……まあ俺から伝えておこう」

「よろしくお願いします。それではみなさん、お元気で!」

僕はそう言うと、踵を返しまっすぐに歩き始めた。

教会を出て30分くらいたった頃、僕とキーラさんは中心街のベンチに座りこみ、〝すまぁとふぉん〟というヒネモストバリで大流行したというお菓子を食べていた。

僕はお菓子を頬張りながら疑問に思っていたことを口に出した。

「あの、キーラさん」

「んー?何かしら〜」

「不慮の事故とはいえ、キーラさんは今回の件とは無関係です。だから、キーラさんはイゼルに帰っても大丈夫なのだけど……」

「……いえ、一緒に行くよー」

「え」

「本来なら着いていたはずの場所に着いていないのは、私のせいだもの。それに、パイロットは一度依頼を引き受けたらお客様を無事目的地に届けるのが仕事よ〜」

「え、じゃあ…..」

「うん、もう少しだけよろしくねー」

「うん!」

そう返事をした時、ドゴォという何かを引きずるような音が町中に鳴り響いた。

周囲にいた人々も何事かと騒ぎだす。

「な、なんだろう今の⁈」

「さあ〜。分からないわねー」

「こんな時でも落ち着いてるんだね、キーラさん……」

多くの人々がこの場から急いで離れていく中、僕は近くにいた真っ黒な警官さんに声をかけた。

「あの、すいません!何かあったんですか?」

「ん?申し訳ないですが、今は急いでるので後でいいですか?」

「えっと、今知りたいんです」

「困ったな……」

その黒い警官さんは短い尻尾をパタパタとさせながら考え、やれやれといった表情で口を開いた。

「仕方ないですね。本当は一般人を巻き込むのは違反ですが、特別に共に見にいくことを許可しましょう」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「ただし!こちらの言うことは聞いてもらいますよ。いいですか?」

「分かりました!」
「了解よ〜」

「ではこちらへ」

そう言うと黒い警官さんが歩き始めたので、僕たちもその後に続く。

ほんの数分歩くと、街に入るか入らないかのギリギリのところで一隻の船が止まっていた。

僕が呆気に取られていると、その船を見た黒い警官さんが「またか…..」と小さく呟きながら、船へと近づく。

その足音を聞いたのか、それとも偶然か、船の甲板から白い帽子を被った女の子が身を乗り出したかと思うと、そのまま飛び降りた。

その女の子は小さく「うぎゃっ!」と声を漏らしながら地面に足をつけると、まっすぐこちらへと歩いてきて言った。

「こんにちはー!ロストナービズ、ただいま到着しました!」

「おう、それはそれは毎度毎度ご苦労様だな、船長殿」

「そうですねー。あ、今回はきちんと期日どおりに着いてます?」

「残念だが、4日オーバーだ。いい加減その遅刻癖を直したらどうだ、船長殿」

「あははー…..ごめんなのです。でもあたいとビーストリヒさんの仲じゃないですか!今回も許してくれません?」

「今回ばかりはダメだ。毎回のように物資配達を遅刻する上、今回はレンガ道の一部まで壊しおって。そもそも俺はお前と仲よくなった覚えはないぞ」

「ええー!そこをなんとかー!」

「ダメなものはダメだ」

「ちぇー」

船長と呼ばれた女の子は不満そうな顔でそう呟くと、こちらに気がつきまっすぐに歩いてきた。

別に自分に用はないだろうと思って道を開けると、その女の子は突然僕の手を掴んできた。

僕が驚いて動揺しかけると、その女の子はゆっくりと口を開いた。

「あなたがユウスさんですね!それとそちらの方はキーラさん!」

「え、なんで僕とキーラさんの名前を⁈」

「頼まれたんですよ、あなたのお友達さんに」

「え?」

僕がそう聞き返すと、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

声のする方を向いてみると、先ほどの大きな船から身を乗り出した雪兎君が、大きく手を振っていた。

「雪兎君⁈」

「やっほー!ユウスちゃーん!キーラさーん!こっちこっち!!」

僕とキーラさんが手を振る雪兎君の方へと歩いて行くと、雪兎君は大きくジャンプしてそのまま僕に抱きついてきた。

「う、うわぁ!」

「えへへ〜!待ってたよー2人とも〜!」

「な、なんで雪兎君が⁈帰ったんじゃなかったの⁈」

「そんなわけないよー!その逆でボク、ユウスちゃん達についていくことにしたんだ!」

「え、僕たちに?」

これまた一瞬驚きながらも、とりあえずべったり張り付いたままの雪兎君をなんとか引きはがし、僕はそれならなんで船に乗ってたのかを聞いてみた。

雪兎君が「それはー」と続けようとした時、船長さんが横から割って入ってきて「それはー」と続けた。

「それはですね、雪兎さんがあたいにユウスさん達をヒネモストバリまで届けるように頼んで来たからですよ!」

「ヒネモストバリに〜?そうなの、雪兎くんー?」

「うん!その方が早いと思って!」

「そういうことらしいのです!次の目的地がちょうどヒネモストバリだったから、ついでで届けるのです!」

「船長さん…..!!ありがとうございます!」

僕が今日何度目になるのか分からなくなってきたお礼を告げると、船長さんは笑顔で「お礼はいいのです!」と答えてくれた。

「それでは物資の取り引きが終わり次第、早速出発するのです!」

「おい待て!」

「むう、なんですかビーストリヒさん……」

「今回ばかりはダメだと言っただろう!署まで一緒に来てもらうぞ」

「えへへー、嫌ですもんねー!あたいを捕まえられるものなら捕まえてみるのです!」

「こら待て!逃げるな!!」

そう叫んだ黒い警官さんからさっそうと逃げ出す船長さんを僕は呆然と見ていた。

今度こそ無事たどり着けるといいな…..そう思いながら、2人の鬼ごっこをいつまでも見ていた……

つづく!

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