ごうごうと吹雪が吹雪くここはジークフリート。一年を通して寒い日々が続く土地である。
その中で雪に少し埋もれかかった大きめの岩石にもたれかかり、何やら考えごとをしている者がいた。
考えごとをしていた白い球体は「ふぅ…..」と息をつくと、懐からカチコチに凍ってしまったクッキーを一枚取り出し、嫌そうな顔をしながらもガリガリと噛み砕いた。
「はあ、ついてないな、今日は」
そう言いつつ再び懐に手を突っ込むと、これまたカチコチに凍ったキャンディーを取り出し、これもやっぱり嫌そうな顔をしながら口に頬張っていた。
「今日は、日も出てないから、少し散歩するだけだったのに、この吹雪……」
白い球体がふと視線を前方に向けると、吹雪のせいで一寸先も見えないくらいに視野が狭まられていた。
「どうしよ……」
「なんだい、困りごとかね?」
「え⁈」
突然声をかけられびくりとしたものの、白い球体が後ろへと視線を向けると、これまた同じ白色をした球体が目を輝かせながら岩石に寄りかかっていた。
「キミは確かブランシェット君だったね!こんな吹雪の中どうしたんだい?まさか私を探して」
「違います」
「なんだ!じゃあ迷子とかかな?」
「う……」
そう言われて図星の様子のブランシェットは、帽子のツバで目を隠しながら、短く「そう、です」と答えた。
「なんだそうだったのか!まあ確かにこの吹雪では仕方ないね!でも私は自分の美しさに見惚れ迷子になっていたのだけどね!」
「そう、ですか……」
「なんだい、先ほどから少しそっけないね?もっとぐいぐい来てもらっていいのだよ?」
「僕は、そういうのは、ちょっと苦手です、ノスマンさん」
「なるほどなるほど。つまりキミは自分に自信がないタイプなのかな?」
「う……」
またもや図星なことを言われて軽く俯くブランシェット。そんな様子を全く気にもせず、ノスマンは話を続ける。
「そうかそうか!でも自分に自信を持つというのは大切なことだ!それだけで毎日が楽しくなるぞ!」
「は、はあ…..」
「そうだ!ここで会ったのも何かの縁だ。折角だし自分に自信が持てるように協力してあげようか?」
「あの、申し訳ないですけど、結構で……」
「そうか聞きたいか!ならば教えてあげよう!自分に自信を持つためにはまず自分の美しさに見惚れるくらい自分自信を愛さなければならない!決して難しいことではないぞ!まずは鏡で自分の姿を眺めてだね…..」
「……」
ブランシェットはノスマンの話を無言で聞いていた。一度歯止めが効かなくなってしまったノスマンは止めようにも止めることができないことを知っていたからだ。
ノスマンが語り出してから数十分経ったくらいのころ、延々と話を聞いていたブランシェットはうんざりした表情を見せないようにしながら、早く終わってくれないだろうかと、それだけを考えていた。
そんなことを考えていると、急にノスマンの話がぴたりと止んだ。
ブランシェットはやっと終わったという顔をうっかりしながらも、ここから去るため口を開こうとすると、再びノスマンが口を開き始めた。
「よし、今の話で分かったかな?それでは実践してみようではないか!」
「……へ?」
実践という言葉を聞き急いで踵を返そうとしたブランシェットだが、ノスマンに手を掴まれ、儚くもそれは叶わなかった。
「さあ!まずは相手の目をきちんと見て話すところからだ!」
「え、えっと…..」
「ほら、左目も閉じてないで開けて開けて!」
「あ、これは、だめです。これだけは!」
「そんなこと言わずに!さあ!さあ!さあさあ!さあさあさあ!!さあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあ!!!!!」
「うっ‼︎」
ノスマンの突然の執拗な切迫に驚きブランシェットがうっかり左目を開けると、周囲にはっきりと聴こえるくらいの何かが鳴り響いた。
その音を近くにいて、もろに聴いたノスマンは「なんだい、この耳鳴りは⁈」と言いつつフラフラしながら後ろへと下がると、うっかり足を滑らせ転倒し、背後にあった岩石に思い切り頭をぶつけ、そのまま気絶してしまった。
ブランシェットは自分の左目が開いていることに気がつき、すぐさま閉じ直すと、急いで顔を上げた。
「……あれ?」
周りを見渡し気絶しているノスマンを見つけると、何がどうなったのか分からないといった表情で、ただただ見渡す限り真っ白な雪原の中、ブランシェットは呆然と立っていた。
激しかった吹雪はいつの間にか止み、周囲には静寂だけが残されていた…..
おわり。