グルメグランプリ!

超大型汽車、ヒュルエイ。いつもは一つの街として機能しているこの汽車が、期間限定の「ECCグルメグランプリ」の会場となっていた。
「あのなぁ…」
会場内では、さっき着いたばかりのライロが大げさにため息をついた。
「なんでお前がここにいるんだ?」
ライロが横目で見る先には、彼のしかめっ面とは対象に、機嫌よさそうにニコニコとしているミツがいた。
「このグルメグランプリでは、色んなお菓子も用意されてるって聞いたから。新しい和菓子の開発素材になるかもしれないな~、と思って」
「あっそう…俺は単に面白そうなグランプリだと思っただけだが。…お前の言う、和菓子の素材が見つかるといいな」
ミツは元気よく頷いた。久しぶりに兄に会えて嬉しそうな様子が見え見えであるが全く気にしていない。
「さて、俺はあっちの方から見てくるか…」
ライロは一番近くにあった、グランプリのエントリー作品のあるテーブルへと向かう。
「…おい」
しかし、テーブルに着く前にライロが振り返った。
「なんでついてくるんだ」
見れば。ミツがその後ろで立ち止まっていた。
「別にいいでしょ?それとも、お兄ちゃんと一緒にいちゃダメなことでもあるの?」
ミツが言った。ライロはもっともらしい理由を探したが、生憎、見つからなかった。
「あ~、わかったわかった!お前の好きにしろ!」
「ありがとう!でも、どうしてそんなに不機嫌そうなの?」
「別に不機嫌でもなんでもねえよ…!」
今や不機嫌を通り越して涙目になりかけるライロ。ミツにはライロの心情が理解できるはずもなかった。



一方、こちらはライロたちが向かったテーブルとは別のテーブルの前。
「お前…まさか、本当にこんなものでこれに出たのか!?」
エルムが驚いたような、呆れたような調子で言った。
「お~!もしかしてわかってくれる感じ?さっすがエルムーn…」「やめろ貴様」
コハクは最初、機嫌よさそうに話していたが、エルムの双犀(片手)が現れたのを見て、すぐに口をつぐんだ。
「それと、誰がこんなものに魅力を感じると言った。もはや食材アートの成れの果てだろ、このウッディクラメディ…」
「あ、今噛んだ…」「コハク…!」
うっかり口に出してしまったコハクを、その場にいた光が真っ青になりながら、慌てた様子でその口を抑える。
「…とにかく、私はそのウッディパンとか言うのについては特に興味はないからな」
さすがにここで一悶着起こすのはまずいと思ったのか、エルムは出かかった手(大きい方)を収めた。コハクと光はホッと息をついた。
「あれ、どこ行くの?」
コハクは背を向けたエルムに向かっていう。
「少し…散歩してくる」
エルムは一言、そう言ってコハクたちのいるテーブルから離れていったが、コハクたちにはエルムがグランプリのエントリー作品を巡回しにいったようにしか見えなかった。



「それで、一通り回ってきたわけだが…」
ライロは隣にいるミツをチラチラと見ながら言った。ミツは見るからに上機嫌で、鼻歌でも歌いだしそうな様子だ。
「どの作品も、個性とか、まぁ色々あって良かったと思うぞ」
「知り合いの人にも会えたしね。かれこれつくぼん以来かぁ…」
ミツは意気揚々と話し続けるのに対し、ライロはげんなりしていた。たまたま会場にいたジークフリートの面々に会ったときは、今まで妹のことを黙っていた言い訳を考えるのに必死だったが、特に聞かれる様子もなく終わった。そして無駄に体力だけが削られた。
「それで、投票についてだが…」
ライロがまず先に投票先を述べた。
「俺は『ムンホロール』に一票だな。角はさておき、美味かったな。まさかコーパルにあんな才能があるとはな…。地元への愛着もあるし、俺は甘いものは好きな方だからな。なに?ムンホクーヘン?あぁ、それについてはノーコメントだな」
「私は『全長60cmパフェ』に一票!あれだけたくさんのものを組み合わせながらも、味が意外と整えられているところがすごいと思いました。ところで、お団子が入ってましたが、あれはどういう材料を使っているのか気になりますね…私の店でも参考にしたいのですが…。見た目のインパクトも抜群ですし、素敵な作品でした!」
「(いや、あれってミツのところの団子だろ。ていうかほとんど地方から集めてきたものの盛り合わせだったじゃねえか)」
ミツの投票理由を聞きながら、ライロは密かにそう思うのであった。
「ところでお兄ちゃん」
ミツがライロに向かって言った。
「ムーンホールの人たちが言ってたんだけど、『ライロはたまにどころか一ヶ月に一回あるかないかレベルで帰ってきてる』って、これ本当?」
「あっえーと、それはだな…」
ミツの顔色を伺いながら、ライロが慌てて答えを探す。
「ま、まぁ、そうだな…冬は特に…」
ライロの言葉は尻すぼみに小さくなっていった。
「また私に何も言わないでそういうことしてるわけ?まったくもう。少しくらい連絡してくれたっていいのに」
「別に帰るのは人の勝手だろ…」
「ほら、そういうところ!私だって、たまにはムーンホールに帰りたいし、一緒に行けたらいいな~と思ってたのに!」
「もうガキじゃねえんだから、そんなことする必要ないだろ…」
軽い口喧嘩のような言い合いをしながら、ライロとミツはヒュルエイをあとにした。



「さて、私の投票は…」
エルムは少しの沈黙の後に、こう言った。
「『白身魚のパイ』、だな。食物に関してはあまり興味はないが、あれは普通に良かったと思う。地上のものと考えたらあのパン以外は選べなかったが、あれに投票するのは気が引けた。それで、このパイに入れた、というのもあるが」
「あ、エルム。こんなところにいたんだ」
光がエルムを呼んだ。
「あれ、もしかして…投票した感じ?」
光の問いを聞いて、エルムは少し睨みつけたが、そのあと、ため息をついた。
「コハクには言うなよ。後でうるさいのはごめんだ」
「はいはい…」
「私は先に宙船に帰る。やはり、地上の空気は好きじゃない」
エルムはそう言うと、ヒュルエイの出入り口へと向かった。

☆投票結果☆
ライロ:ムンホロール
ミツ:全長60cmパフェ
エルム:きのことたまねぎと白身魚のパイ

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