ーーぽつ
「おや?」
ぽつ、ぽつ…ぽつ……
ここはバンバタ。一年を通して暑く、乾燥しており、洞窟やダンジョン目当ての探検家で賑わう火山の町……なのだが。
そんなバンバタには珍しく、にわかに雨が降り始めた。
「バンバタで雨とは珍しいですね…そういえば、九曜さんが空模様が変だとか言っていましたっけ。」
そう言って空を見上げるのは採掘所帰りのテスタだ。バンバタが”バンバタ”と呼ばれるようになる前からここにいる彼でも、ここでの雨は珍しいようで、暫く空を見上げていたが…
「…あっ!!」
「これじゃ晩酌のアテにしようと思ってた干物がダメになっちゃいますよ~!」
はっと我に帰り自分の家にあわてて走っていったのであった。
ーーーー
ーー
ー
「…雨、止まないねぇ。」
「そうですね…先日雨が降り始めてからもうこれで5日目……バンバタでここまで長く雨が降るのは珍しいです。」
「こんなに雨が続くと…じっとりして、動きたくなくなります……」
バンバタの食堂でテーブルを囲み、思い思いの料理をちまちまとつまみながら話すのはルイナ、九曜、ロヴィーナの三人組だ。
中でもロヴィーナはサウナのようになっている室温に耐えきれなかったのかぐったりとテーブルに突っ伏している。
普段は冒険者たちでそれなりに賑わっているこの食堂も、慣れない雨と、それに伴う蒸すような暑さのせいか閑散としており、人もかなりまばらだ。
「この調子じゃ美味しい干物も作れないし、お外でダンスもできないよ~」
「はは…まあ、確かにこの天気と湿度じゃ、折角の名物も作れないですが……ルイナさんらしいですね」
こってりとした肉の角煮をつつきながら、窓の外に目をやったルイナが愚痴ると、それに返すように九曜が苦笑いをしながら干し肉を口に運んだ。
「そもそも、バンバタでこんなに雨が続くことなんてありましたっけ…」
目線だけ上げたロヴィーナがもごもごと呟くと、九曜がここぞとばかりに答える。
「そうなんですよ!テスタさんにも言ったんですが、ここのところの空模様はなんというか不自然で…」
「おや、みなさんお揃いでしたか。」
と、九曜の言葉を遮るように食堂に入ってきたのはテスタだ。
「うおっ、ここも蒸し暑……おいテスタ、これクーラーモードにしていいか?」
そして、テスタに続いて汗だくのダスタと、涼しい顔の蜜柑が食堂に入ってくる。
「テスタさん!」
「わわ、び、びっくりした……」
「どうしたんですか?三人お揃いで…」
「先ほどおっしゃっていた雨についてですよ。…あ、ダスタさんたちも、座って下さいね。」
テスタは先に座っていた三人の顔をそれぞれ一瞥してから、席につき、軽く咳払いをする。
「んん…えー、皆さんも気づいてると思いますが、最近のバンバタでは例年にない程の雨が降っていますね。」
「ええ、そうね」
テスタの隣に座っていた蜜柑が相槌を打つ。
「お陰で薬草が湿気っちゃって…困った雨よねぇ。」
「そうなんですよね~、他にも、この雨で皆さん困っていることはあると思うんですが、それよりも問題なのはですね…」
と言うと、テスタはテーブルの上に何やら大判の紙を広げて見せる。
「これは…新聞ですか?」
「そうです。あまりにも雨が続くので、気になって知り合いに取り寄せて貰ったんですよ~」
「これ…『なぞの長雨、各地で続く…』って、」
「その通り。」
ルイナが新聞の一面見出しを読み上げると、テスタが頷く。
「どうやらこれ、バンバタだけじゃなくて、少なくともホシガタエリア全体で起こってるみたいなんですよねぇ。」
「そ、それって…大変なことなんじゃあ…」
新聞を呼んで顔を青くしたロヴィーナが気弱な声をあげると、テスタは対照的ににっこりと笑って
「なので、皆さんにこの雨の原因を調査しに行って頂こうかと!」
と言いきったのだった。