【小説】悪夢の鏡 1

「ほれほれどうじゃ? まぁ妾に掛かれば容易いことよの おっほっほ!」
「ほぅ…確かにこれは素晴らしい。お前は鏡を創り出すことに関しては一流だからな」
鏡以外も一流よと返すは女王ミラージュ
鏡の魔女と呼ばれていた彼女は、今や一国を治める女王陛下である
そして向かいに立つは古くからの知人である悪夢の魔女、ナイトメアウィッチだ
「して?新しく鏡を創ってあげたのじゃ 何か妾に礼の1つや2つ、あるのだろう?」
と期待の眼差しをナイトメアに向ける
人から物を貰ったならば基本倍返しが筋というもの
女王はお礼の品が気になって仕方なかったのだった
「あぁ、そうだったな」
すっかり忘れていたと、懐から包を取り出すナイトメア
「お主 さては声をかけられるまで忘れておったな?はぁぁ~呆れて言葉に詰まるわ」
「我はお前とは違って、欲しいものは自らの手で掴み取るが主義なのでな」
その台詞を聞き、顔がひきつる女王
思考がまるで違うのを実感した
「おほんっ まぁ良い お主が寄越すものなど、たかが知れておる」
「そう言うと思った、ので今回はこんなのを作ってみたんだ」
そう言い魔女は包を開いてみせた
中には何やら星屑のような粒がゴロゴロと詰められていた
開いた拍子に粒が1つ床に落ちる
それを見ていたミラージュは拾い上げるが
「…これのどこが妾に相応しい贈り物なのじゃ?」
別に期待していた訳では無い
「接触した物の色に染まる金平糖だ、珍しいだろ」
「お菓子で喜ぶと思っていたのか!?妾は子供ではないぞ!はぁ…お主、本当に見る目が無いのぅ…」
砂糖の塊が礼だ?ガッカリだ
無くなることが前提の物に興味など無い
我は面白いと思ったんだがな…と呟きナイトメアは金平糖を口に頬張る
ボリボリボリボリ口の中で噛み砕く様を、ひたすら見つめていたミラージュが問いかけた
「そう言えば…以前もこれと同じ鏡をお主に創ってやったのぅ…?」
「あぁ、それが割れてしまってな こうしてまたお前に創らせた訳よ」
はて…魔力を宿した鏡がそう簡単に割れるはずないのだが…
「しょうがない、今度は別の土産を持ってこよう 菓子は嫌いなんだろう?」
「そうじゃなぁ この美しい妾に似合う物を用意するが良い」
まぁ割れる時は割れるか、扱っているのが魔女だしのぅ

パラレルパレスを後にし、夢の泉に戻って来たナイトメアウィッチは早速作って貰った鏡を飾る
その横には割れた鏡も飾られていた
「ふぅむ また力をかけすぎると壊れてしまうだろうな」
そう、以前作らせた例の鏡だ
元魔女が作った鏡
弄りがいのある品に、ナイトメアが手を出さないはずがなかった
結果鏡は壊れてしまったのだが…
反省はしていないが少しショックだったので、最近は仕事に集中している
「しかし面白かったな…」
自分の力を分け与えたら
意思を持ち、魔獣を生み出し、魔獣の応用で自分の体まで作ったのだから
「鏡に宿った命はあの日を境に消えた 足が生えて逃げ出したのか………まぁ我にはもう関係ないことか」
偶然の産物に過ぎぬが故にあまり気にとめていなかったナイトメアだった…が
「うーん、気になりだしたら意外と頭に残るものだな」
もし本当に足が生えて何処かで暮らしているなら魔力を感じることが出来るはず
「暇つぶしに、探してみるか」

「「…これにて公演はお開きにございます!本日はお集まりいただき、ありがとうございました!!」」
響き渡るアナウンスの声
会場に広がる歓声と拍手を受ける団員
エンターテインメントでお腹が膨れた観客達
そうここはクレセントサーカス
ジャルダンニュアージュ内で有名なサーカスだ
そして今日はそのサーカスの公演日
自由気ままなサーカスとしても有名なため、開催されるとなれば瞬く間にチケットが売れてしまうのである

「いやぁ今日も疲れた疲れた」
「そうだねぇ 最近はお仕事多かったもんね」
舞台裏の休憩所でシュエメイとアリシィが椅子を並べた上で寝転がっていた
片付けを済ませた団員たちが自室に戻って行くのを横目にのびのびしている2人
完全に体が椅子に根を張ってしまい動きたくないのが伺える

「はぁ〜お風呂めんどくさい〜」
「さすがにそれは汚いと思うなあ」
仰向けになり天井を見つめ足をパタパタさせていると、誰かが駆け寄ってきたのでしぶしぶ顔を上げるシュエメイ
あれ?2人共まだここに居たの?
と駆け寄ってきたのはルビィだった
「「あ、ルビィ」」
「疲れたのは分かるけど、休むなら自室戻りなよ〜」
と言われやむを得ず椅子から立ち上がる
重力が体に乗り、疲れがより一層感じられた
「分かったです〜」
とゆっくり歩き出すシュエメイ
それに続きアリシィも歩き出した
「ねぇルビィ」
「うん?」
何かに気づいたアリシィが
「帽子の中に何か隠してるね それ何?」
と問いかける
「ふふん、それは皆が集まってから教えてあげる」
会話をしながら月の前にやってきた3人はプライベートエリアに入る
ロビーでは既に一服中の団員たちが寛いでいるのが見えた
「さぁ、お風呂入ってご飯食べようか!」
「「はーい」」

「はいはーい!皆集まったかな?」
部屋着に着替えた団員たちが集まるロビーでルビィが大きな声で言う
「団長の手紙を貰いに行く今日の係はこのルビィちゃんだった訳ですが」
そう言い何やら手紙を取り出す
先程アリシィが気にしていた物は、どうやら団長の手紙だったようだ
「隠していたのは、団員からの言伝かぁ」
アリシィは1人で納得する
「なんと!今日から1ヶ月!サーカスはお休み!!しかも、次の公演場所もここシナバーサンシャインだよー!!」
それを聞いた瞬間皆は顔を上げ、ルビィに視線を送った
それもそのはず、移動が無いという事はシナバーサンシャインを拠点にこの1ヶ月を過ごすのだ
それに伴い外出の許可が下りるのである
「あとは日々の練習を怠らないようにって書いてあるよ〜、ルビィちゃんからのお知らせはこれで終わりで〜す はい、解散」
その言葉を合図に皆が外出の話題で盛り上がった
「早速お出かけしようかな!」
「あら、明日でも良いんじゃないかしら…」
「お姉ちゃんは心配性だなぁ」
「グリマは眠いから寝まス〜」
「そうよ、皆疲れてるんだから今日は諦めなさいな」
ちぇっ、と舌打ちをし残念がるルビィ
折角のお休みなのだ
初日から堪能したくてしょうがない
そんなルビィにお構いなく未成年の団員達はノロノロと自室に向かい、皆の誘導をしにベリィがロビーを後にした
他の団員たちも各自部屋へ戻っていき
ロビーにはルビィと、本を読むスペーディの2人だけが残った
諦めきれずに椅子にしがみつくルビィの耳には、ページを捲り紙が擦れる音だけが聞こえてくる
「ねぇスペーディ、今から外に行かない?」
本当に諦めが悪い彼女に
「1人で行けば良いでしょう」
案の定返された言葉は冷たかった
実際の所あまり期待はしていなかったのだが、この際一緒に行ければ誰だって良い
「夜に女性1人で外出なんて危ないでしょ?」
「なら明日の朝にでも行けば良いじゃないですか」
正論すぎる
しかし、だからこそ外出したくなるもの
「お願いしますっ!!おわぁ!?」
しがみついていた椅子がバランスを崩し、床に転がり落ちたルビィ
大きな音を立てて倒れる椅子
おかげで本への集中が途切れた
やれやれと小さく囁き自室へ歩き出したスペーディを見て、咄嗟に彼女はしがみつく
「お願い!!見捨てないでぇ!!」
「私は本が読みたいんです もう邪魔をしないでください」
「分かった!!着いてきてくれたら本を買ってあげる!!だから!!」
「一種の餌付けですか?本くらい自分で買いますので結構です」
この堅物が…とムッとするルビィ
こうなったら1人で遊びに行ってやる
手を離し体を払い裏口に向かい出した
「夜は危険だと、先程自分で言ってませんでしたか?」
「大丈夫です〜!ルビィちゃんは強いので夜も平気なんです〜!…多分」
聞く耳持たず裏口から外へ飛び出して行った彼女を見て思わず後を追いかけるスペーディ
本をロビーのテーブルへ置いて、彼もまた外へ飛び出して行った

「…ほほぅ 動いているのかお前は 探してみるもんだ」
日が暮れ星が瞬き始めた頃ナイトメアは
遥か遠くの地に、覚えのある魔力が活動していることに気づく
「面白い 我は今のお前に会ってみたいぞ」
そう言い魔女は泉から湧き出る水を辿り島の外へ出る
「今日2回目のフライトだがしょうがないな…」
ぼんやりと気配の感じる空の彼方を見つめた
今日パラレルパレスに居たにも関わらず全くと言って良いほど
魔力を感じなかったのは少々気になるが
とっくの昔に壊れたと思っていた道具だ、会えるのが楽しみで仕方がない

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