旅とはご機嫌なものだ。毎日が新しい発見に溢れ、世界が輝いて見える。
──でも、昨日は少し気味の悪い体験をしたのさ。
俺は、スターライト・エクスプレスっていう寝台列車を(勝手に)拠点にして、旅をしてるんだ。
くたくたの足でホームにたどり着き、いつものように列車を待っていた。
そしたら、急に駅員に声をかけられたんだ……
「エクス、そこに止まる車両……今日はなんだか危険そうなんだよな」
って。変な忠告だろ?
どよめきの中、俺ひとりだけが街に引き返した。
──あの時、視界の先の電灯が一瞬まばゆく光った、気がした。
その車両なんだけど、
夜中に突然、緑に覆い尽くされちまったんだってよ。
俺は難を逃れたが、乗客も駅員たちも大パニックだ。
──紅さん、しょっちゅう不思議なこと言うからな……
車内一面のコケ、こけ、苔。
勘弁してくれよな…いくら掃除したって、終わりが見えない。
昨晩はこの車両の見張りに入ったんだが、
止めようとした俺もコケまみれになって、文字通り手も足も出なかった。
…アレはあいつにだけ伝えたんだっけ。あいつ以外、信じてはくれないだろうからな。
…”きこえる”って、疲れるな……
──きこえるはずのない、”誰かの声”が。