【小説】噂:城に響く謎の音

淡い青が馴染み、色とりどりの金平糖が瞬く夜
スイートストリート城内の一室では
時たま何かを磨く怪しい音が聞こえてくるらしい…

「それって、あのお城に伝わる七不思議の1つかしら?」
今日も観光客と住民で溢れかえる城下町では、紳士淑女が自慢話や噂話で紅茶を飲む
沢山の会話の中で不気味な程にクリアに聞こえたその話題に、周りの数名も食いついた
とくに話しかける訳でもなく、じっと聞き耳を立てる
「でも…そんな誰でも知っているような話 今更美味しくないわ」
「そ・れ・が 私の友人にお城の使用人として働いてる方がいるんだけど なんでも最近、聞こえるらしいの!」
嘘臭いわねぇと言わんばかりに眉を寄せる
そんな、子供でさえも喜ばない話にムキになるなんてと1人が呟く
「ふふふ… 女性はいつまでも夢見る少女でいたいものよ」

なんでも使用人である友人は、ここ数日夜な夜な不気味な音を耳にしているという
そして2日前、意を決して音のする部屋を覗いた所…
「部屋には沢山の等身大の鏡、そしてその1つが床に寝かされ 部屋にはロウソクの灯りが灯されていたの」
「なるほど、誰かが真夜中に鏡の手入れをしていた音だったのねぇ」
七不思議なんて、真相を暴けば大した事無いわね
1人の感想に、熱心に聞き入っていた人々は馬鹿馬鹿しいと言ったように彼女の話題から離れようとする
「そうよ 誰かが鏡を磨いていた…でも その【誰か】までは見つからなかったわけ」
「消えちゃった〜なんて言いたいわけ?そんな非現実的な事ありゃしないわよ 幽霊じゃあるまいし」
等身大の鏡が置かれた部屋なんだから鏡の裏に隠れてたのかも、という意見も出た
そのあと「無許可で鏡を磨いていたから人にバレるのを恐れて隠れた」と簡単な憶測を付けられてしまい、女性の話題は強制お開きにされてしまった

強制お開きにされる少し前に聞き耳を立てていた内の1人がその場を立ち去った
買い出しの帰り道にお城の話題が聞こえてきたもので、つい足を止めてしまったのだった
「良い土産話が出来ましたね」
と口元の髭を揺らし気持ち早めの足取りで城へ向かう

その日の夜…
城の中を静かに移動する1つの影
その影は例の鏡部屋の扉前で立ち止まる
「………」
周りに人が居ないことを確認し、こっそり鍵を開ける
「ガチャッ」
静かな廊下に鍵の開く音が響いた
「………」
もう一度周囲を確認した後、影は扉を開け中に入る
部屋には昼間の女性が言った通り、等身大の鏡がいくつも保管されていた
均等に並べられた鏡は1枚1枚布がかぶせられてはいるが、やはり不気味な雰囲気が部屋を漂っていた
影は早速棚の上に置かれたロウソクに火を付ける
明かりの灯された部屋で、とある鏡の布を外し目を細める、そして一呼吸した後鏡を移動し始めた
予め作っておいた広めのスペースに布を外した鏡を優しく寝かせる
「よし…」
貯めておいた新聞紙をガラス用クリーナーで濡らし鏡面を拭いていく
「くっくっく…これでお前も 年貢の納め時だ!」
…ガチャッ!!
次の瞬間、勢い良く扉が開かれた
今から気持ちよく作業に取り掛かるところを邪魔された影は開いた扉を睨む
俺の行動を嗅ぎ付けている奴がいるのは知っていた、現に先日は部屋の中まで入られたからな
しかし、こっちも作業が溜まっているんだ
今日という今日は相手を黙らせてでも…こいつを…汚れを…殺るッ
「…っ!」
しかし、中に入ってきた人物を見て言い淀んでしまった

「これはこれは こんばんは、エドワード様」
「プレザのじいさん…」
「最近面白い噂話を耳にしまして 真相を確かめるべく、お邪魔させていただきました」
プレザは、昼間淑女の話を聞いていた1人だった
思い当たる節があったため、夜中に彷徨くエドワードの後を付けていたという
「真夜中に不審な音、音がする部屋に入ってみればあら不思議 鏡を磨いていた跡を残して人影は忽然と姿を消している 貴方様には、簡単な事でしょう」
年配様には頭が上がらないなぁと
エドワードは痺れを切らして口を開けた
「…確かに、俺は2日前 この部屋に使用人が入ってきたもんだから、咄嗟に鏡に逃げ込んだ」
やはりそうでしたか…自分の推理が当たっていた事に顔から笑みが溢れる
「だ、だってさ!これを見たらいても立ってもいられなくなって…」
彼が指差した先には寝そべられた等身大の鏡が1つ
それを目にしたプレザは一瞬で顔色を変える
「…この鏡…は」
エドワードは驚くプレザを見つつ、作業を再開した
この部屋は歴代の王をモチーフにされた等身大の鏡が保管されている
どれも立派な装飾がされた煌びやかな鏡だ
しかし、彼が拭き掃除をしている赤い装飾のされたこの鏡は…
「なぁプレザのじいさん この鏡、いくら拭いても姿が映らないんだ…あまりに頑固過ぎねぇか?」

そう 鏡の部分が今にも光を飲み込もうとしている程に真っ黒になっていた
鏡を覗こうものなら、無数の手が生え引きずり込まれそうに思える程に不安感を駆り立てる
「2週間くらい前に、この部屋から声が聞こえたんだ 最初は幻聴か何かだと思っていたんだが 日に日に煩くなるもんで」
彼の話では、この鏡の周りに置かれた鏡が助けを求めていたという
無論鏡の声など聞いた事は無いし、聞いた者を居なかった
彼が魔女の鏡だから聞こえた、鏡だけに聞こえる言葉なのだろうか
「…さ…」
そもそもこの鏡がこうなった原因は何なのだろう
「プ…ザ…いさ…」
この鏡は、あの御方の…
「プレザじい!!!」
「は、はいっ」
「大丈夫か?眠いならじいさんも休みな 夜遅くまで起きてるのは体に毒だし、プレザのじいさんだって歳なんだから…体は大事にしろよな」
彼は心配しつつ黙々と鏡を磨いている
装飾は随分綺麗になったのにも関わらず、鏡面の闇は一向に晴れない
それはきっと【汚れ】なんかじゃないことはエドワード自身も薄々気づいていた
でも、今の自分にできる事はこれくらいしかないのだ
もしかしたら鏡全体の汚れに怒っているのかもしれない、大事にされたものには神様が宿ると言われるくらいだ
こうして掃除をすれば…きっと宿った神様の怒りが収まり、普通の鏡に戻ってくれる
そう思っていた

「エドワード様、もう朝の4時でございます」
「…そうか」
城の住民も活動し始める午前4時
俺はくしゃくしゃになった新聞紙を纏める
今日はここまでのようだ
「わたくしも知ってしまった身、ご協力いたしますよ」
「ほ、本当か!?」
「ええ、ですが 何故このような重大な事を隠していたのですか!!」
ビクッと体を跳ねらせて苦笑いをするしかなかった
自分1人で解決出来るとばかり思っていたし、正直焦り始めてからでは、打ち明かすのに割と勇気がいる
今回の件でよーく分かったと反省するエドワード
反省は程々に、すぐ部屋の片付けをし部屋を後にする2人
布を被す際も真っ黒な鏡面は変わることは無かったが、きっとなんとかなると思い始めているエドワードと
逆に焦り始めていたプレザ
鏡は姿を映す道具、異変があるとよからぬ事が起こると昔話等で度々題材になる代物
そしてあの鏡は…いづれ王位継承をするはずだった■■■■■■■の…

【からかってやっただけなのだが…ふふふ………】

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