【小説】ディーラーとプレイヤーと

今日も、ネオプログヤードのとあるカジノは賑わっている。
どこを見ても富裕層から来た様なプレイヤーばかり。
当たり前の事と言えば、そうなのかも入れないが、貧困層から来たようなプレイヤーは見当たらない。
誰もが硬すぎず、柔らかすぎず。な服装。故に、貧困層が混ざっていても違和感はない様な気がするが、そもそも、此処(カジノ)に来ているお客(プレイヤー)は、遊び(勝負)に来ている。
生きるので精一杯の人々は到底足を運べない場所であろう。

そんなカジノの裏口で、ふぅ。と息を吐く女性が一人。
イブキだ。
彼女はこのカジノで働くディーラーだ。今は休憩時間らしい。
しかし、休憩だと言うのに、浮かない顔をしていた。

「はぁ…最近、違法行為をするプレイヤーが増えている気がする…。違法してまで勝ちたいのか…。
私には、全く理解出来ない。したくもない。イカサマなんかして、何が勝負だ…」

小さな声で呟く。
イブキが口にしたのは、違法行為の事だ。
イブキが勤めるこのカジノも、昔は正式なカジノだった。しかし、最近では違法行為に手を染めかけている。それに従い、勝負に来るプレイヤーも「イカサマ」をする様になってきた。
前まではどのテーブルにもあった「アイ・イン・ザ・スカイ」が少なくなった。それに伴い、カジノ全体を監視する「サベイランス」自体が半分ぐらい機能しなくなっている。
それのせいで、プレイヤーが「チーティング」したり「マーキング」したり等が度々起こるようになった。
彼女はそれらの行為が嫌いである。
不正行為をしてまで、勝ってどうする。何が楽しいんだ。と。
それ故に、最近のカジノでの勝負にも若干嫌気がさしている。
はぁ。と、大きめの溜め息を吐き、休憩が終わる少し前だが、フロアに戻ろうとドアに向かった時だった。

「よォ。アンタがそんな大きい溜め息吐くなんて、珍しいんじゃないのかぁー?」
「……!?…あんたか、ティーラ。あんたが、私に声をかけて来るなんて、珍しいじゃないか」

後ろから急に声をかけたのは、ティーラだった。
カジノの裏だというのに、彼女は何処から入ったのだろう。と、野暮なことは思ってはいけない。彼女は神出鬼没だから。

「チョット暇でねぇ…。なぁ、イブキ。ワタシと遊ばないかい?」
「嫌だね。賭け事は好きだけど、あんたは「イカサマ」をするから嫌」
「冷たいねェ……。いいじゃないか、どうせ遊びだ。遊びで騙したって意味が無い。だろ?」
「じゃあ、しなきゃいいだろう」

ティーラの誘いを、イブキは冷たく突っぱねる。
彼女の言う通り、ティーラは己の能力や、如何様、得意の話術で、カジノに来たプレイヤー相手にイブキの一番嫌いな「イカサマ」を息をする様にする。
それ故に、イブキはティーラを良くは思っていない。出来れば会いたくない。

「ワタシにだって、そういうキブンの時があるンだよ。それに、騙された。っていう顔、チョーット見飽きたのさ」
「そんなに騙したのか……!!」
「オイオイ、そんなに怒ったカオするなよー。今日はあくまで、正当に戦ったつもり。暫くは、騙しはしないさ」
「何を企んでいるつもりだ?どうせ、大事を起こすんだろう?」

にたり。と、口元に弧を描き、片目を閉じて「やれやれ」と、いう風な身振りをするティーラに、イブキは多少の怒りと警戒心を抱く。
彼女が「イカサマ」をしない?息をする様にする奴が?それこそ、彼女の口車に乗せられているかも知れない。と、イブキは思い、一切隙を見せない様に尖った態度を取り続ける。
そんな彼女を見て、ティーラは「本当に信用が無いなぁワタシは。ウヒヒヒ」と、不気味に笑った。
「普段の行いのせいだ」と、イブキは言い放った。

「大事を起こすつもりはないさ。そんなモン起こして、財団だの科学者共から狙われるのは心底ゴメンだからねぇ。今回の事は、ルーファとの賭けに負けた罰ゲームだよ」
「ルーファとの賭け?イカサマをしてまで負けたのか?」
「ア?してねぇよ。した所でアイツには見破られるカラな。アノ野郎……ホント腹が立つ……!!」

「アー!!思い出しただけでムカつく!!!」と、ティーラは唸る。
キイイイイ!!!と言っている、ティーラを放置してイブキはフロアに戻る為、ドアを開け、閉める。が、締まり切る直前、「ワタシはココで待ってるぞ。逃げるなよ?ウヒヒ」と、聞こえたが、イブキは聞こえないフリをしてドアを少し強めに閉めた。

—―――――――――――――――――――――――――――――――

フロアに戻った後もカジノは賑わいを見せていた。イブキが休憩に入る前よりもだ。
フロアの中心で、ルーレットをしているからだろう。殆どのプレイヤーがそこに集中している。そして今のイブキはデッド・ゲーム状態であった。
人だかりが出来た場所を、少し離れたテーブルから「あそこでもイカサマがされているのかな…」などと考えながらぼーっと眺めていた。
そんな時だ。

「一勝負いいでしょうか?」
「え?あっ、はい!!大変申し訳ございません、お客様!考え事をしていまして…!!!」

突如、声をかけられ、イブキは慌てる。仕事中だというのに。仕事に集中しなくちゃ。と脳内で自分を叱責した。
声をかけたのは、ルーファ。彼の幸運の強さは、カジノに通っているプレイヤーやディーラーならば誰もが知っている。噂ではまだ一度も負けていないのでは?と囁かれている程に。

「いえ、気にしないで下さい。ディーラーさん、先程の答えは如何です?」
「それにつきましては、勿論、Yes。でございます。本日はどの様なゲーミングに致しましょう?」
「そうですね…。ブラックジャック。で、お願いいたします」
「承知しました。…では、ブラックジャックを始めます。いくら賭けますか?」
「このぐらいから、勝負しましょう」
「では、ゲームを始めましょう」

—―――――――――――――――――――――――――――――――

「…そう言えば、ティーラさんにはもうお会いしましたか?」
「え?あー…先程、お会いしました。この後、遊ばないか。と言われてしまい、気が大変重い状態でございますよ…」
「そうですね、あの人は普段から、ごく自然に息をするかの様に話術で騙したりイカサマしたり…。イカサマが嫌いなあなたにとっては、相手もしたくない人でしょうね」
「全くその通りでございますよ…」

イブキとルーファは自分達以外に聞こえない様、小さな声で会話をし始めた。
勿論、ゲームをしながらだが。普段なら、そんなことは全くしないのだが、イブキとルーファは、ディーラーとプレイヤーを通して顔見知りになっていたし、今となっては常連中の常連故の。という訳だ。
話の内容は、先程絡んできたティーラの話。
イブキは心底、嫌で、出来れば関わりたくないという声色で話す。本当に関わりたくない。出来ればスルーをかましたい。しかし、そういう態度をし、嫌そうな顔をする人を見るのが好きなのが、あの性格の悪い黒猫なのだ。

「それ程嫌でしたら、魚の柄のモノとか投げつけてみては?」
「魚?」
「ええ。あの人、猫なのに、魚が嫌いというか、苦手なんですよ。折り紙でさえ、凄い悲鳴をあげますよ。猫なのに。っていうのは、私の固定概念のせいかもしれませんが…」
「へぇ…。あんな奴にも苦手なものがあったのか…。今度からその手を使うか…っと、失礼しました」

これは良い事を聞いた。とばかりに、口元を押さえながら小さく笑うイブキ。
それと同時に、普段はニヤけた顔をしている話術師が、悲鳴を上げている姿を想像して笑った。
きっと今頃、あいつはくしゃみでもしてるんじゃないだろうか。そんな思いも、ふと浮かんだ。

「あぁ。そうだ。彼女、言ってませんでしたか?私のと罰ゲーム付の賭けに負けた。って」
「言ってましたね。心底、悔しそうにしてまいしたよ」
「薬となってくれればいんでしょうが、無理でしょうね…。ちなみに罰の内容は、私が負けたら持ち金全部寄こせ。で、ティーラさんが負けたら、一か月騙す事や嘘、幻術禁止。でした」
「で、ルーファ様が勝利した。という事ですね?」

ええ、勿論です。というルーファ。ちなみに、ルーファとティーラの勝負の勝敗は9:1である。
なので、今回行われた罰ゲーム付の勝負も結果は見えていた。状態だ。
それでもティーラは諦めが悪いので、勝敗が目に見えていても、唸りながら頭を捻っていたらしい。
頭の回転をも上回るのが、ルーファの運の強さなのだ。

そして、色々と話しているうちに、ディーラーとプレイヤーの勝負は、プレイヤーが大半勝利して終わった。

「とてもいい勝負でした。そして、ナイスキャッチ!で、ございます」
「有難う御座いました。おかげで本日も楽しい勝負が出来ました」
「プレイヤーの皆様に楽しんで頂けたのなら、大変喜ばしい事です。本日はもうお帰りで?」
「あぁ、そうさせて頂くよ。また近いうちに来ますね」
「その日をまた楽しみに待っております。本日はお疲れ様でした。お気をつけてお帰り下さい」

「イブキさんも、帰りは気を付けて下さいね」と、別れの言葉を言って、ルーファは出口を目指し、人に紛れながら消えていった。
ふぅ。と小さく息を吐き、時計を見るともう上がる時間だった。丁度、シフトマネージャーから「上がっていいよ」と、インカムが入ったので、「承知しました。お疲れ様でした」と、言って、イブキは、スタッフ用の入り口の方へ消えていった。

—―――――――――――――――――――――――――――――――

帰る支度を終えたイブキは、こっそりと裏口を開ける。周りの様子を注意深く伺いながら。
何処にあの神出鬼没な猫がいるか分からない。見つからない内に帰ろう。どうせ飽きっぽいからもういないだろう。そう思いながら、ドアを閉めた時。

「随分と、コッソリ出て来るんだなぁ。イ・ブ・キ・サンよぉ」
「っ!!!???」
「ウヒヒヒヒ!イイねえ、イイねえ、そのカオ…!!酷く驚いたカオ!最高だよ!!」
「…うるさい…。急に声をかけたあんたが悪い…!」
「オヤオヤ…。ワタシ、言っただろ?ココで待ってる。逃げるなよ?ってな」
「あんたの事だから、てっきり飽きて何処かに行ったと思ってたよ」

背後から…ではなく、急に目の前に現れた黒猫。それにかなり驚いたイブキ。
もはや、ビックリした。よりも、恐怖的な感情が一瞬出て来た。突然目の前にいるのは誰でもそう思うであろう。
先程まで、誰もいなかったのだから。
不気味に笑うティーラにイブキは恥ずかしさと驚かされた怒りで少し声を荒げる。それすらもティーラを喜ばせる材料でしかない。と悟ったイブキは、通常通り、冷たく接する事にした。

「いーや。今さっき、此処に戻って来たトコロさ。アンタが上がるまで暇だったからねぇ」
「…騙したりしてないだろうね?」
「してないさ、約束だからねー。流石に約束はマモルさ」
「どの口が」
「このクチだよ」
「……………」

無言の時間が少し流れる。本当に、どの口がいうんだ。と、イブキは思った。
あまりにカッとなったので、鞄でアレを手に握る。どうせ、ティーラの後ろは壁だ。逃げようとしても道は上かイブキの左右。そして、掴まれればティーラの力じゃ逃げられないだろう。力1だし。
警戒されずに接近出来れば逃げられることも無い。今ここで試してやろう。

「…………」
「…?オイオイ、何だよ、そんなカオして」
「そういえば、噂で聞いたんだけど、あんた、コレが苦手なんだってね?」
「ハァ?ワタシにニガテなモノ?そんなモノあるワケな」
「えいっ」
「プベラッ!」

ティーラが若干焦った様な感じの声色になった。そして少し早口。
そんなティーラの会話をさえぎって、イブキは鞄の中からアレを取り出して…。
顔に思いっきり叩きつけた。
その形が、何か。分かった瞬間、顔が引きつり、青ざめていくティーラ。そして。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!魚!!!!!!魚イヤアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
「やっぱり、噂通り。あんた、魚嫌いなんだろう?それと、かみな」
「もう言うンじゃねえ!!!!!!」
「そんなに怖いんだ…。ふーん…。そりゃ」
「投げるなバアアアアアアアアアアアアアアアカ!!!!!!!!!!!!」
「あははは!!!!!あんたもそんな風に怖がるんだ!!面白い!!あはは!!!!紙なのに!!!!!」
「オマエ覚えてろよ!!!!!!笑いながら投げるなあああああああ!!!!!どんだけ入ってンだよそのカバン!!!!!!!!!!止めろ!!!!!!!」

辺り一帯に響き渡る悲鳴。これでもかという悲鳴。もはや絶叫。
普段全く見る事の出来ないティーラの姿を見て、イブキは笑う。
笑いながら鞄から、折り紙の魚を投げる。投げる。投げる。これでもかと投げる。
ひたすらにそれを避けながら逃げるティーラ。必死に上下左右、飛び逃げ回っている。
それすらも面白くなったのか、イブキはひたすらに折り紙の魚を投げている。一体幾らその鞄に入っているのか、謎でしかない。

—―――――――――――――――――――――――――――――――

どのくらい時間がたったのだろう。多分、3~5分だったと思う。
全力で投げ、全力で避けていた二人にとっては10分あったような錯覚。
全力だったので、二人ともぜーはーぜーはーと荒い息を上げる。そこは仕方がない。二人とも体力は2だから。
話す体力すらなく、身体は酸素を欲しているので、また数分、言葉は交わさず、互いに息を整える。
比較的早く息を整え終わったのはイブキだった。

「はぁ…はぁ…。あそこまで声を荒げるほどに、魚が、苦手だったなんてな…意外ね…」
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…。誰にだって、ニガテなモンぐらい、あるだろう、が…」
「さーて。どうだろうね…。じゃあ、私、帰るから」
「ハァ!?オ、オマエ、逃げるのか…!!!」
「誰が逃げる。だなんて言ったんだ。そこまで疲労してる、話術師さんへの優しさだよ。じゃあね」
「ま、待てコラ…!!うっ…。紙と、分かっても、魚、ムリ…」

イブキが帰ろうと後ろを向いた時、バタッ。と音がした。
振り返ってみると、ティーラが目を回していた。紙の魚でさえ苦手なようだ。
完全に目を回して、暫くは起きそうな感じがしない。だからと言って、このまま放置しておくのもアレだろう。と、イブキは、周りに散らばって落ちている紙の魚をかき集めて…。
ティーラにかけた。
例えるならアレだ。落ち葉。落ち葉に埋もれるアレ。そんな感じでティーラにひたすら、周りに落ちている紙の魚をかける。
イブキのちょっとした優しさである。決して嫌がらせではない。仕方がない。
周りに毛布なんて便利なものは無いし、都合よく落ちてる訳もない。
だったら、無いよりはマシだろう。という理由で、紙の魚をかけている。苦しくない様に顔周りは避けて。
……よし。と、一息つき、満足げなイブキ。ティーラは紙の魚の山に埋もれている。
そして、くるり。とまわり、自分の帰る家への帰路を進める。少し進んで、止まり、紙の魚の山を見ながら、言った。どうせ、気絶してる本人には聞こえない。

「イカサマしなきゃ、遊んであげる。ただし、次から驚かしたら、折り紙の魚投げるから。
…風邪ひかないようにね。じゃあね」

そう言って、イブキは今度こそ、立ち止まらずに家へ帰って行った。

—―――――――――――――――――――――――――――――――
おまけ

「……おイ。何んなとこで寝てんダ」
「ンア…?誰だ、オマエ…」
「寝ぼけてんのカ?っていうか、お前、大っ嫌いな魚に埋もれながら寝るって、どういう自虐プレイしてんダ?」
「その言い方、ヨギリだな?誰が好き好んでンな自虐プレイするんだ。ハッ倒すぞ」
「ヒャヒャヒャ!やれるもんなら、やってみろヨ。聞こえたゼ?お前の大絶叫w最高傑作だったゼw」
「ヨッシャ。ブッ倒す。絶対に今日こそブッ倒す」
「戦いが出来ない如何様話術師様が何ぬかしてやがんダ?ア?」
「ンだとコラ。戦闘だけが戦いって、何処の間抜けが言ってんだ?アァ。目の前にいたわぁ。その間抜け」
「よシ。ぶっ飛ばス。今日こそぶっ飛ばス絶対にダ」
「ハァ~~~???オマエ風情にぶっ飛ばされるワタシなワケがないだろアホ!!!」
「ぜってぇにぶっ飛ばス!!!!!!!!逃げんじゃねエ!!!!!止まれアホガ!!!!!」
「スピード勝負も立派な戦いでぇ~す!!!!!バーカバーカ!!!!!」
「一回で良イ。ジャルダンニュアージュまで飛んでケ!!!!!!このバーカ!!!」
「オッ断りだよ!!!!!!!クラヤミ使ってオマエが飛んでけ!!!!!!」

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