【小説】噂:タバコ

「外から余計な物が来たらしいデスネ」
ここはスイートストリート
知る人ぞ知るお菓子の国である
その国の中央通り一角に構える「Triple Role」の中では
休憩中のMロボとつまみ食いをしに来たラコラスが話をしていた
「…?てっきり知ってるのカト」
「あ〜 まぁ知ってるけど」
ハッキリしない彼の返答に
「もしかして危ない物だったりしマス?」
と質問してしまうが
「判断しかねる」
これまたハッキリしない返答
彼も下手に動けないのだろう

「ア」
もう少しで休憩が終わることに気づいたMロボ
それと同時に試作品の試食を終えたラコラス
「ごちそーさま ワタシ的には甘さ控えめで好きな味だ」
「そうデスか!感想ありがとうございマス」
職場に戻るMロボに礼を言い、店の裏口から出る
「“アレ“が危険なモノか そうじゃないかと聞かれたら ワタシは危険なモノというより害あるモノって言いたいところかニャ」

いつものように建物の屋根と屋根を飛び越えていくラコラスは、最近噂の代物についてどう収集を着けようか考えていた
別にあっても良いのだが、害があるには違いのないもの
特にこの国とは相性が宜しくない
そんな代物がスイートストリートの大人達の間でちょっとした流行りになっていた

ラコラスの仕事は
・噂や流行、毎日の出来事を記録する不思議な本棚の管理
・上記で保管された情報の提供
彼がこの国の意思そのものから与えられた役割だ
その為、国のあらやる出来事を記した本を後に城へ提出しなければいけないのだが…
「タバコが流行ったなんて見せたくねぇな〜」

「ココで煙草が吸えるなんて思わなかったよ、 ねぇ兎君?」
「…まぁそうですね」
二人の男がタバコを吸っている
一人はパステルカラーで彩られた大きな帽子を被り、もう一人はモノクルをかけ存在感のある懐中時計を持った白い兎だ
「我々は流行りに流される生き物ですが、今回はちょっと期間が長い気がしますね」
「それだけ皆ストレスたまってるんじゃないかい?」
お菓子で出来た空間に草の焼けた匂いはとてもじゃないが異臭だ
馴染みのない臭いに吸わない者はすぐ気づく

「なーにやってんだお前ら」
ニット帽とスカーフの間から口を見せた猫なんかは特に早い
「やぁ猫くん 毎度の事ながら君は嗅ぎつけるのが早いね」
吐き出した煙を纏った二人を見つけたラコラス
「ワタシの長所だからニャ」
屋根から地面に飛び降りてニヤッと笑う
「人気の無い路地裏で吸うタバコは美味しいか?」
こそこそ隠し事をするのは大人の特権だもんな?
やたら突っかかってくるラコラスを睨み返すレフベル
元々仲が良い訳ではない彼らを
面白い物を見るように眺めるマークリー
「要件は手短にお願いします」
「タバコやめろ」
「…国からの忠告かい?」
ま、そんな所だ
「景観条例に引っかかる可能性があるニャ お前らみたいに隠れてる奴もいれば、堂々と吸ってる奴もいる 観光客から見たらスイートストリートのイメージダウンに繋がるんだニャ」

「残念だね」
一足先に吸い終わったマークリーはタバコを皿に押し潰す
レフベルも一服終わったようで吸殻を皿に置いた
「大人は我慢してなんぼだぜ?なぁ扉」
「私の名前は扉ではありません! 用が済んだならさっさと消えてください」
少し興奮気味の兎だがそんな彼の反応が面白い猫は煽る
「お前にはもう扉しかないだろ?その時計が言ってる」
「…」
「今の姿をアイツが見たら!きっとガッカリするぜ」
その言葉を合図にレフベルがラコラスに飛びかかろうとした
「そこまでだ二人共」
が、流石に見兼ねたマークリーが止めに入る
「貴方のそういや所、大嫌いです」
「ワタシなりのスキンシップなんだけども…気に触ったか?まぁ謝らないけどな!」
ヒヒヒと引きつり笑ってみせるラコラスだったが、意外にも礼儀正しくお辞儀をして、煙のように姿を消した


「喧嘩するほど仲が良いって言葉、最高に可笑しいと思わないかい?」
今だ猫のいた暗闇を見つめる兎の気を
こちらに向けたい帽子屋が話しかける
「えぇ 仲が悪いから喧嘩をする以外に理由がありませんから」
「…君たち もっと自分に素直になりなよ」
「私はともかく、あの方は正直では?」
「猫くんは自分の事になると苦虫を噛み潰したような顔をするくらいには面白い奴だよ」
と笑って男は言う
「趣味悪いですね マッドハッターと言われるだけの事はあります」
「マッドハッターだなんて 俺はしがないただの帽子屋だよ ちょっと思考が歪んでいるって言われるけどねハハハ」
立ち話を終え、それぞれの持ち場に戻る二人
その様子を屋根から見ていたラコラスは、彼の言った通り面白くなさそうな顔をしていた

それから数日後
一時の流行りに過ぎなかったのか
国からタバコは消えたらしい

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