【捏造SS】VIPルームの噂

ホテルの地下にある”VIPルーム”の噂、知ってるか?。月に何度か秘密裏に要人が訪れ、専門の婦人方との接待が夜な夜な行われているという… っと支配人、なぜここに?
支配人は口に指を当てそっと言った。「内緒ですよ?」階下へ導かれ、豪奢なドアの横、スタッフルームの鍵を開ける支配人に従う。もう一つのドアをくぐると…嬌声と音楽。これが噂の。
「あなたもどうぞ」と支配人が手を差し伸べる。内心ひやひやしていたが、安心した。…いや、口封じのつもりなのだろう。せめてたらふくデザートでもいただくとしよう。嬉々として私は皿に山盛った。
パパンッ、と拍手の乾いた音がなる。支配人はそしてインカムマイクでこう告げた。「レディス・アンド・ジェントルマン 今から楽しい楽しい余興をお見せいたしましょう」すると突然スポットライトが私に当たる。
突然に注目を浴び、呆然としている間にも案内は続く。「さあ、こちらの方と手合わせしたい方はいらっしゃいませんか?」一体どういうことなのか、計りかねる間もなく屈強な男性―テレビで見たことがある、たしか陸上か何かの世界選手だ―が手をあげ、こちらに近づき、いきなり腹へのパンチを食らわす。手に持っていた皿は落ちデザートが床へ散らばり、私はうめき声を上げた。そのまま背中へ鈍い痛みが続けざまに響く。生ゴミになったデザートを舐めるように這いつくばりながら、(テレビ画面じゃあんなに爽やかな面してたくせに…)と思う。
少し経って相手が言葉を吐き捨てながら手を止め、去っていく。気づかなかったが、会場は嘲笑の嵐だ。屈辱やら情けなさやらで心底ぐちゃぐちゃになりながらご婦人方に手を取られ、会場の隅に追いやられた。
そのまま夜明け間近になって会場がしずまりかえる頃、掃除をする支配人がようやくこちらに声をかけてきた。「おや、あなたまだいたのですか」その言葉でしょうがなく体を起こし、立ち上がる。支配人は裏口のドアを開け、「コインシャワーは曲がって右手ですよ」と言った。
親切なことだ。「ああそれから」と支配人が私の手に何枚かの札を掴ませる。「よい余興でしたよ」 まったく、笑顔で そんなことをのたまうことが信じられない。こいつは…。
そうだな、これ以上言うのはよしておこう。次はどんな目に合わされるか、わからないからな。

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