【小説】旅人と幽霊屋敷~中編~

「さて、お邪魔しまーす。」
扉の軋む音を響かせてカンバは館に入っていった。
暗く、静かな館の中で一人呟く。
「・・・うん、そうだよな、誰もいないよな。さすがにいきなり会えるとは思ってなかったよ、うん。」
「誰に?」
「うおぉっ!?」

背後から声をかけられたカンバは飛び上がった。
振り返っても誰もいない。
「な、なんだ!?」

すると、今度は周りの家具がガタガタと揺れ始めた。
「ひぃっ・・・!」
さすがのカンバでもこれは怖い。かなり怖い。

そして、とどめと言わんばかりにカンバの背後から・・・
「ばぁっ!!」
「ぅわぁぁぁぁっ!!!」

腰を抜かして床にへたり込んでしまったカンバが恐る恐る振り返ると、

「ははは、やったねミュールくん!これは大成功だよ!!」
「俺は大したことしてないがな。おまえの作戦がよかったんだな。」

二人の幽霊(?)がはしゃいでいた。そして、イエーイ!とハイタッチ ―よく見ると、一人は腕が無いのでランタンを差し出している― をした。
すると、一人がカンバに話しかけてきた。
「やぁ!ビックリしたかな?」
・・・まだバクバク鳴っている心臓をなんとか抑えつけながら、率直な感想を伝える。
「あぁ、そりゃあもう・・・!完全に油断していた。」
「ならよかった!久々のお客さんでね~、わくわくしてたんだよ。」

(この人たちは・・・幽霊、なのか?)
目の前ではしゃぎ回る「幽霊」たちを眺めていると、鳴りっぱなしだった心臓も落ち着いてきた。
「そ、そうか・・・。お前たち、名前は?」
すると、話しかけてきた方が答える。
「僕かい?ペートルスだよ。で、こっちは・・・」
ランタンを持っていた方も名乗った。
「俺はミュール。…いや、俺は取り憑いてる幽霊で本体の方はコクリコというやつだ。」
「なるほど。自分はカンバだ、よろしくな!」
何がなるほどだ自分、イマイチ分かってないじゃないか。と心の中で突っ込んでみたが意味はなかった。
カンバは、気になっていたことを聞いてみる。
「なぁ、ここにはお前たち以外に誰か住んでるのか?」
「もちろん!んー、まずはルナ様だね~。ルナ様に会うかい?案内するよ。」
そう言ってペートルスは歩き出した。・・・ん?歩き・・・
(足、生えてるな・・・)

そうして案内された部屋に入ると、カンバはピリッとした空気を感じた。
あと埃っぽさも感じた。
(へぇ・・・様付けで呼ばれているだけあるな。何かが違うらしい。)
ペートルスが暗い部屋の中で呼びかける。
「ルナ様~?お客さん来ましたよ~?」
やがて、暗闇に目が慣れてくる。そこには、ソファに座ったルナがいた。

「やぁ。ようこそポルター・ストールへ。」
・・・ルナは、どうやってお客さんを迎えるか考えた結果、「普通に迎える」ことに決めたのであった。
「僕はルナ・レナードだよぉ。みんなはルナ様って呼ぶけど、レナードでいいよぉ。」
「こんばんは。自分はカンバという者だ。突然お邪魔して大丈夫だったか?」
カンバの問いに「全然オッケーだよぉ」と答えつつテーブルを挟んだ向こうのソファを勧める。
(なんか暗いなこの部屋・・・。まぁ幽霊だから明かりは点けちゃダメなのか。)
カンバが心の中でそう呟いたとき、
「あ、ごめんねぇ、暗いよねぇ。ロウソクつけていいよぉ。」
カンバはソファからずり落ちかけた。
(いいのかよ!!)
「あ、俺が点ける。」
そう言って、ミュールが手早くロウソクに火を灯した。
「まぁ、ゆっくりしていってねぇ。マシュマロはダメだけどそれ以外のお菓子なら出すよぉ。」
そしてペートルスとミュールの方をちらりと見て付け加えた。
「最初のは・・・まぁ彼らなりのお出迎えみたいだから許してあげてねぇ。」
ペートルスはそれを聞いて一瞬震えあがり、小声で呟く。
「見てないのに何で分かるんだか・・・おぉこわ。ねぇミュール?」
「すぴぃ…」
「!? コクリコになってる!!逃げたねミュール!?」

そこへ、「失礼致します」と声がかかって、メイドらしき人物が入って来た。
「いらっしゃいませ、お客様。お茶とクッキーになります。」
そう言ってカンバとルナの前にティーカップと皿を並べていく。
カンバの皿にはクッキーが乗っているが、ルナの皿にはマシュマロの袋が乗っていた。
「やぁ、ミッチェル。仕事が早いねぇ。」
ルナの言う通り、カンバは今来たばかりだった。
すると、ミッチェルはくすくすと笑った。
「いいえ、ご主人様。準備をしてくれたのはココロさんですわ。私は少し手伝わせていただいただけです。」
よく見ると、ミッチェルが入って来た扉の向こうから、そぉーっと、ココロが覗いていた。
「これはありがたいなぁ!頂くよ。」
ココロはお茶を飲むカンバを心配そうに見つめている。
「お茶、おいしい・・・?」
「あぁ!こんなに美味いお茶は久し振りに飲んだよ。」
それを聞くと、ココロの顔がぱぁっと輝いた。
「ほんと!?よかったぁ・・・。」
そしてミッチェルに促されてそっと部屋に入ってきて、ルナの横に座った。
全員が部屋に入り、各々の位置についたところでルナが話し出す。
「さぁて、まずはいらっしゃいませ、だねぇ。そして、何かご用件はあるのかな?」
カンバはティーカップを置いて答える。
「いや、特にないよ。強いて言うなら観光、かな?」
それを聞いて、ルナのみならず他の住人達も表情を和らげた。
「よかったよぉ。まぁなんとなく分かってはいたけど一応ね。たまにやれ研究だのやれ取り壊しだの言って押しかけてくる人たちがいるんだぁ。」
マシュマロを大量に頬張りながら喋る。・・・食べる。また食べる。
まだ食べる。・・・いつの間にかマシュマロを食べることに夢中になってしまったようだ。
持っていたマシュマロの袋が丁度空になる頃、ミッチェルが新しいマシュマロの袋を「どうぞ」と差し出す。
「あぁ、ごめんねぇ。自分で取ってくるからいいのに。」
そして開かない袋に苦戦しながら、突然目の前の客を思い出したように呼び掛ける。
「うーん。観光と言っても特にこれと言って何かあるわけじゃないしねぇ。まぁ、荒らさなければ自由に見て行っていいよぉ。」
カンバは少し遅れて、
「あ、あぁ。感謝する。適当に見ていくことにする。」
と返す。

その瞬間、何かが裂けるような音とともに、カンバの目の前が真っ白になった。
「!?!?!?」
続いて、声になっていないルナの叫びが聞こえた。
何事かと思って頭を振り、前を見る。
すると、無残な姿になったマシュマロの袋と、床に散らばるマシュマロたち、その上に崩れ落ちるルナ、が見えた。
「あーあ、やっちゃいましたねルナ様―。」
「ルナさま、だいじょうぶ・・・・?」
「・・・無事か?」
「あらあら・・・。ご主人様ったら。」
周りの者からも声が上がる。
どうやら、ルナが袋を引っ張り過ぎて袋は二つにパカッと割れ、中のマシュマロが飛び散ったらしい。
ルナはまだ床の上でプルプルと震えている。
「・・・ごめんねぇぇ、僕はちょっと立ち直れそうにないから探検するなら誰かに案内してもらってねぇ。」
カンバは反応に困る。当然である。
そんな心境を察してか、ペートルスがカンバを呼ぶ。
「さぁさぁカンバくん、ご案内するよ~。」
「ココロも行くっ!」
「なら俺も行くか。暇だしな。」
カンバは3人に引っ張られるまま部屋を出た。
バタン、と音を立ててドアが閉まる。

「・・・ご主人様?」
「うぅぅマシュマロぉ・・・僕のぉ・・・」
未だにマシュマロを失った悲しみから立ち直れない主を、ミッチェルはただ見つめていた。
やがて、「失礼します。」と前置きをして、ルナの頭をポンポンと叩いた。

続く

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