【小説】旅人と幽霊屋敷 ~前編~

「ここか・・・?」
カンバは呟いた。

ルーナ・エ・マーレ・イゾレのエンパスィオーネ、その海岸沿いに建つ一軒の館。
「なんか不気味だなぁ・・・まあ噂通りではあるが。」
その館は、カンバの言う通り見るからに不気味であった。
壁にはビッシリとツタが伸びており、まるで館にカーテンを下ろしたようだ。これほどの外観だと、人が近寄らないのも頷ける。

『ヒトではないものが住み着く館がある。』
そう聞いて目的地をここに決めたのだが、実はこの場所を探し出すのに相当苦労したのだった。
なにせ人が近づかないので情報が少ない。訪れたらしい人に話を聞いても「覚えていない」と言われる。その話が広まるとまた気味悪がって近づく人がいなくなる。と、こんなことが繰り返されているらしい。
その噂話と【ポルター・ストール】という館の名前だけを手掛かりに、必死に聞き込みを続けてやっと場所を探り出し、こうしてやって来た。
『なぜそこまでするのか?』答えは一つ、『この目で見たいから』だ!

さて、時は夕方、元から不気味な館がさらにおどろおどろしい雰囲気を纏ってくる時間である。
「うん、真っ暗になって入るのが怖くなる前に入ってしまうか。」
カンバはそう言って、館の門をくぐった。

カンバが館の前に辿り着いた頃。
館の住人たちも訪問者の存在に気付き始めた。

「ルナさまっ!」
ココロがルナ・・・ルナ・レナードのもとに駆け寄って来た。
「ん?どうしたのぉ?」
のんびりと答えるルナに、ココロは嬉しそうに息を弾ませる。
「あのねっ、おきゃくさんが来たみたいだよ!」
「お客さん!へぇ~。」

それを聞いていたペートルスが笑いながら言った。
「今度は普通のお客さんだといいね~。変な人じゃなくて。まぁ、そもそもお客さん自体珍しいけどね。」
そして、今までソファに座っていたペートルスはふわっと浮き上がり、「お客さんのお出迎えの準備してくるね~」と言ってどこかへ行ってしまった。
「ん~?何をする気なんだろうねぇ?まぁいっかぁ。」

小さい声でココロが言った。
「こ、ココロはなにをすればいいかな・・・?」

するとルナは、ゆっくりと軽く微笑んで言った。
「ココロがしたいことを、すればいいと思うよぉ。」

それを聞いて、ココロは「わ、わかったっ!」と言うと、とたとたと走って行った。
一人残されたルナは呟く。

「さぁて、僕はどうやってお迎えしようかなぁ。」

続く

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