砂漠の氷菓

暑い時はアイスクリームが食べたくなる。
…まぁ、僕は寒い時もアイス食べたくて仕方ないんだけどね。

右半身を大きな足の形に変え、その上の作った日陰に寝転びながらそんなことをぼんやりと考えて歩いていた。
やはりこの体は便利だ。机の上に指をトコトコと歩かせるくらいの感覚でだらけながら移動ができる。
僕は今、ノワードグライドに来ている…がどこを見ても砂漠なのでアテもなく移動しているところだ。特に目的地はない。
「ひとり旅って気楽だけど迷うと面倒だし、なにより退屈だよなぁ…」
大きなあくびをしながらそんなことをぼやく。
「あっ!もしかしてこの体上手く活用すればホバリングしないでも飛べるんじゃね?!」
突然自分で思いついたことに目を丸くしながら勝手にワクワクする。
「何事もチャレンジって大事だと思うんですよ〜!それじゃ早速やってみましょー!」
今日の僕はやけにテンション高いな。
誰もいないのにひとりで騒がしくしてアホだなぁと心の隅で思いながらも砂漠に降りて翼を形成してみようと奮闘してみる。
「えーと、羽っていうとー…コピーのウィングとか…悪魔の羽みたいなのとか…あとはエンジェルみたいなのとかかな?」
両肩…からはさすがに生やせないので、真ん中より少し右側を大きな翼に変質するよう、目を閉じて集中しながらイメージしてみる。
こんなものか、と目を開け自分の後ろを見てみると悩みながら作ったからだろう、うっすらと紅藤に染まった大きな翼が乾いた空気を扇いでいた。
「おぉ…我ながら中々良いではないか…よーし!飛べ!フライング幽憂!」
自分でも変なことを言っているなぁと思いつつ、掛け声と共に大きく翼を羽ばたかせた。
「うぇっ!?うわっぷ…ひええ……」
飛べると思っていたが翼は大きな風を起こし、砂埃で視界が悪くなっただけだった。
「あー!もう!飛べないじゃん!!なんで!?…あっそうか、鳥とかジャンプしながら飛んでるよね。それなら早速やってみよう!それいけ!幽憂パンマン!」
また訳のわからないことを言いながら今度は大きく跳躍し、強く羽ばたいた。
空が近くなり、風を切る音と羽ばたきの音以外が消えた。
「おお…すごい…!やればできるもんだなぁ…ていうか高いのコワイネ。疲れて落ちたら死ぬじゃん」
ここまで高く飛んだのは久しぶりだったので若干の恐怖を覚える…がその恐怖を楽しみながら空の旅をすることにした。

しばらく空の景色とひとつになっていることを楽しみながら鼻歌交じりに飛んでいるとあることに気が付く。
「これさぁ…気持ちいいし楽しいんだけど…手足宙ぶらりんで超疲れる!!誰だよ!飛ぼうって言ったやつは!」
自分である。知ってるさそんなこと…
自分のアホさに呆れながら適当な場所に降りてまた大きな足で歩こうと思った。
「よーし、どこか降りれそうなところは…うん、砂漠だからどこに降りてもいいね」
そう言ってゆっくりと高度を落とし始める。
「あっ、でも着陸のとき砂埃舞うなぁ…どうしよう…かと言って地面に突っ込むのはもっとバカだし…」
ここまで考えてどう足掻いても無駄だと悟り普通に着陸することにした。
地面にほど近いところまで高度を下げ、態勢を変えて羽ばたき勢いを殺す。その時に舞い上がった砂で目をやられる。
「ぐわぁぁああ!!目が!目がぁぁあぁあ!!!」
どこかの悪役黒眼鏡が言っていたような叫びをあげ、なんとか着陸する。
「あー…もう…なんてことしてくれるんだ…目ぇ痛いぞ」
便利な右手で左目隠せばよかったな、なんて今更思う。でももう遅い。砂によって目に大ダメージを与えられた。
しばらくして砂埃がおさまり、目も回復して開けられるようになりどのくらい移動したか周りをキョロキョロとする。
「結構移動したと思ったけど…砂だらけでわかんないな…ん?なんだあれ」
着地地点からそれほど遠くない場所で揺れる光を放つものを見つける。
その光にどうしようもなく惹き付けられ、自然と足がそちらに向いた。
光の元に着くとそこには太陽をきらきらと反射させる黄金のなにかが埋まっていた。
「ほほう?お宝かな?いや、でも誰かのものかもしれないし盗むのはよくないかな…でもこれなんなのか気になる…」
よくないかなーなんて言ってるのに右半身は正直である。黄蘗色と鮮緑が混ざり、弾けるように揺らめきながら黄金を掴んでいた。
「あちゃー!僕の右半身さんったら!まったくもー!…で、これなんだろ?見た目的に…カレーのルー入れる…たしか…グレイビーボード!…違うか。うーん…金の急須!…違うか」
ひとりでボケながらもう一度それをよく見る。
「なんだろな、ランプ?アラビア〜ンのやつ。違うかな?」
考えてみるもやはりよくわからない。しかしとても綺麗な輝きを放っていて、どこか幻想的なソレを手放すのは妙に惜しい気がした。
「誰がこんなものを落とした?捨てた?んだろう…綺麗なのに…砂で汚れちゃってるじゃないか」
綺麗なものは綺麗にしておけよー!とか思いながら砂を払い、息を吐きかけ磨いてみる。
その瞬間黄金の細い口から蜃気楼のようなものが立ち上りたちまち球体に収束し、ひとりの青年が目の前に優雅に舞い降りた。
「貴方が新しい御主人ですか。願いは一つにつき十万から、二回目以降はプラス料金がつきます。こちらの契約書にサインをお願いします」
どこか営業のような口振りで突然紙とペンを渡そうとしてくる。
「えっ?えっ?ちょっと待って?え?何?誰?」
突然の出来事に狼狽する。
彼は少し意地悪そうに微笑み紙とペンをぐいと押し付けてきた。
「私のことは『ランプの魔人』、とでもお呼びください。さ、この契約書にサインをお願いします。たったで十万どんな願いでも一日三つまで叶いますよ」
張り付いたような笑顔とその奥に隠れた下心が異常に怖くて無意識のうちに青鈍の心の壁を相手との間に作ってしまう。
しかし彼はそんなものはなかったかのようにするりと壁から顔を出す。
「ほら、サインしてください」
「ま、待って待って。とりあえずあの、願いが叶うって言ってたけど、どこまでできるの?」
動揺して話を逸らそうとしたが失敗した。話は一直線でサインに向かってるじゃないか。
「そうですね、大抵の事はできますよ。でも国を潰すとかそういう事はしませんからね」
少々のドヤ顔と呆れ顔の混じったような表情で彼が説明してくれる。
「十万ってのは絶対に十万?他のなにかじゃだめ?さすがにそんな大金持ってないよ」
断るのはとりあえず置いておいて、話だけでも聞いてみよう。なんてなぜか思ってしまった僕はちょっと馬鹿だろうか。
「そうですね…冷たくて甘い物をくれれば考えてもいいです」
少し考えて彼はそう言った。
冷たくて甘い物?アイスか。なんだ彼もアイスが好きなのか。ちょっと仲良くなれ…るかはわからないな…なんて考えながら突然の価値の低下に少し笑う。
「あ、じゃあさ。アイス作り出して、一緒に食べよう!なんてお願いはどう?」
自分に一切損は無いしアイスが食べられるなんて浅い考えで提案してみる。
「あー…私アイス系のコピーだけは使えないんですよね…チッ…」
明らかに怨念の篭った顔をしている。ていうか今舌打ちしただろ。
アイスの能力だけは使えないから冷たくて甘い物で願いを叶えてくれるのか。納得した。
「あ、じゃあこの辺りの街とか、魔人さん?が元々住んでたところに連れて行って貰えます?冷凍庫あるなら自己流だけどアイスの作り方教えますし、冷凍庫ないならどこかでアイス奢りますよ」
これならどうだ!と思い願いをひとつ言ってみる。
「仰せのままに。それでは私が元居た場所…イフェルタルへお連れしましょう」
「ちゃんとアイス買えるとこと冷凍庫、ある?」
「もちろんです」
アイスの話をするとなんていい笑顔するんだこの人は。そんなに好きなのか?僕も好きだ。
「それでは急ぎますので、しっかり気を保っていてください」
そう微笑まれ、体が宙に浮いた。
…嫌な予感がする。
「あのー…えっと?ちょっと待うわああぁぁぁぁぁぁぁ………」

「さぁ、着きましたよ。ここがイフェルタルです」
なんていい笑顔してるんだこの人は…絶対性格悪い…肩で息をして右半身を真っ青に染めながらそんなことを思う。
「それで、アイス奢って作り方も教えてくれるんでしたよね?」
両方やることになってる。
やっぱり性格悪い。うん。酷い。
「ま、まぁ…うん…それでいいや…」
諦めた。反論する気力はないし、この人なんとなく頭良さそうだから論破されそう。
「それで、この辺りに美味しいアイスが売ってるところあるの?」
なにはともあれアイスは楽しみだ。僕はアイスが大好きなんだ。三度の飯をアイスにしたいくらいだ。
「そうですね、例えばあそことか、あっちとか、こっちとか…」
次々と甘味処を指さしていく。全部奢らせる気かな?
しかし僕もアイス好きのひとりとして異国のアイスは放っておけない。
「よし、一軒ずつ回ろう。おすすめのアイス教えてね?」
まさか乗るとは思っていなかったのか彼は一瞬驚いた顔をする。
「僕もアイス大好きなんだ。三食アイスで生きて行きたいくらいにね。」
彼は口角を少し上げた。なんだか挑戦的な目もしてる気がする。
「結構ありますよ?食べ切れるんですか?食べきれなかったら私が頂きますけど」
「とりあえず行こう?」
彼の挑発で食べられない分まで買って彼のお腹に収まってしまってはたまらない。さっさと行こう。
まず一軒目。さぁここではどんなアイスが…
「ここはですね、フルーツを使ったアイスがとても人気なんです」
性格は悪いがアイスのこととなればそれは別の話だ。おすすめのアイスを紹介してくれる。いい人じゃないか。
「なるほど…そうだな…僕はマンゴーのヤツにしよう」
「私も同じものを」
頼んで程なくしてマンゴージェラートが運ばれてきた。
「おお…!美味しそう!」
ふたりでいただきますと呟きスプーンいっぱいの冷たい果実を口に運ぶ。
その瞬間ひんやりとした感覚にしゃりっとした食感、芳醇な甘い香りと味が口の中に広がった。
「おいっっっしい!!!」
思わず声が漏れる。目の前では幸せそうにジェラートを頬張る魔人が居たのでその雰囲気に飲まれ次々と口へ運んだ。
「やはりマンゴーはねっとりとした甘味とほんのりとした酸味のバランスがとてもいいですね」
やっぱりこの人頭良いんだろうなーと思いながら相槌を打つ。
「美味しかった…次のお店は?」
「そうですね、ではあちらの店へ行きましょう」
少し歩いて別の店へと入る。
椅子に座り、右半身を淡い黄色に輝かせながら聞く。
「ここはなにが美味しい?」
「そうですね、ここは苺がとても美味しいですよ他にもバナナ、桃、メロンなどもありますがやはり苺がイチオシです」
ここもフルーツ系…特に苺か。よしそれにしよう。
「よし、苺を…ふたつでいいよね?魔人さんも苺でしょ?」
「ええ、お願いします」
少しして淡いルビーのようなジェラートがふたりの前に並べられた。
「わ…すごい…綺麗なアイスだねぇ」
美しいジェラートを前にしてつい心が踊ってしまう。もちろん右半身は檸檬色に弾けている。
「ここは盛り付けも丁寧で素材の味をよく引き出していて、私はとても気に入っているんですよ」
そう言いながら彼はスプーンをふわりと浮かび上がらせジェラートに潜り込ませた。
へぇ、と短い返事をして僕もスプーンを手に取る。
口に入れ、広がる酸味を噛み締めながら苺の味を楽しむ。
「んんん〜!これも美味しいねぇ」
彼は笑顔で次々と口へ運んでいる。食べてるとあんまり喋らないのかな。
しゃりしゃりとジェラートを食べ終え、ふたりで余韻に浸る。
「酸味のある苺もさっぱりして口当たりがよく、食べやすくていいものですね。やはり美味しいです」
この人食レポとかすればいいのに。アイスの本出してくれよ。

そこから店を渡り歩きプルーンや梨、蜂蜜やヤシの花蜜、果てはワインのアイスも食べた。
プルーンは控えめな甘みと独特の味が美味しかった。
梨はみずみずしい甘さと梨の香りがすごくよかった。
蜂蜜はいい蜂蜜を使っているのだろう、花の香りがして濃厚な甘さが喉を焦がした。なんの蜂蜜かは魔人さんが教えてくれた。
「この蜂蜜はシダルハニーと言い、ナツメの花から取れる蜂蜜で結構高級なんですよ」
魔人さんは蜂蜜の種類まで把握してるのか。やっぱり本だそうよ。博識すぎるよ。
ヤシの花蜜は包み込まれるよう優しい甘さで美味しかった。血糖値が上がりにくくて健康にいい?魔人さん色々知りすぎじゃない?
ワインのアイスなんて初めて食べた。ブドウの芳醇な香りと濃い甘味、ちょっと効いたアルコールがアクセントになってこれは美味しい…
「たくさん食べたねぇ…お腹は膨れたけど財布が痩せたよ…次はどうする?」
財布は痩せたがそれ以上に心とお腹が満たされた。悪くない使い方だ。
「そうですね、次で最後にしましょう。とっておきの場所です」
そう言って彼はこの国の一番大きな建物…見るからに王宮のような場所へ向かって滑るように飛んだ。
「えっ!?ちょっと待って!?あそこって王様いる所じゃないの!?入っちゃって大丈夫なの!!?」
「あー、大丈夫です大丈夫です」
間延びした声が帰ってくる。
えええ…本当に大丈夫なのかな…不安だ。マナーとかよくわからないし…
少し控えめに彼を追いかけていると彼は突然止まり、あ、と声を漏らした。
目線を追うと遊んでいる子どもたち…の中にひとり青年が紛れている。なにをしているんだあの人は。
「国王様、丁度いいところに」
ほう、なるほどあの人は国王様なのか。
「えっ…ええええええ!!?!?!?!ここここ国王様!!?!?」
「どうしたんですか鶏みたいな声をあげて…」
呆れた声と顔をするんじゃない。どう考えても子どもと国王が遊んでいたら驚くだろう。
「あー、ここの国王はあんななんですよ。アホなんです」
え?国王様そんなふうに言っちゃうってキミ何者なの?神様かなにか?あ、魔人か。
ぽかーんとしていると国王様と呼ばれた人がこっちへと走ってきた。元気だね。
「はぁ〜い!シェラードくんじゃないか〜!どったのー?あと、そこのお隣さんは誰かな??」
「この方は僕の新しい御主人ですよ。あと、王宮へ行くので僕の御主人に厨房使用と食事の許可ください」
ちょっと待て色々と聞いてないぞ?とりあえず挨拶しなくては。
「えっと、初めまして幽憂と、申します…?えと、魔人さんと国王様はお知り合いで…?」
ここまで位が高い人への挨拶なんてしたことがないから言葉遣いがおかしくなる。申し訳ない。
「シェラくん我のこと見捨てちゃったの〜!?我泣いちゃうよ?キミはユウくんっていうのかー!どうもどうも〜国王のロトファさんで〜す!よろぴく〜!んーっとね、シェラくんは元々我の護衛だったんだけどね〜、最近見ないと思ったらキミのところにいたのか〜」
え?なに?馴れ馴れしいよ?そんな砕けた感じでいいの?
「えーと、このランプを砂漠で拾いまして…国王様のお付きの方だったのならえっと、お返し?致します」
しどろもどろしながらランプを国王様へと差し出す。
「返してくれるのは嬉しいけどちゃ〜んと三つお願いした??してないならお願いしてから返してくれればいーよん?シェラくんアイスあげればなんでもきいてくれるよ」
そういえばさっきからアイス奢りまくってる。あとふたつ願い叶えてもらえるかな?
そう思いちらっとシェラードと呼ばれていた彼を見ると白々しく目を逸らして口笛を吹いていた。
「えーっと、魔人さん?あとふたつお願い残ってますよね」
「追加料金が発生します」
詐欺師かよ。
「アイスふたつ追加」
「なにをお望みでしょう?」
この人って実は欲の塊なんじゃないかなって思うんだ。
「じゃあひとつ目。ここアイスいっぱいあるからしばらく滞在したいんだよ。だから宿っていうか泊まれる所を提供してほしい。あとひとつは…今は思いつかないな」
宿代にしようと思っていた財布の中身はアイスと共に溶けてしまったのでここでお願いできたのは助かった。
「かしこまりました。国王様、どこか空いている宿などありましたら御主人に貸して頂けませんか?」
国王様へ向かって彼が聞いたが、国王様は少し理解していないような顔をしていた。
「え?寝るとこあればいいんでしょ?王宮の客室でも貸しちゃえばいいじゃん」
王様待って?僕に王宮はハードル高いよ?
「まぁ…国王様が良いと言うのなら…」
渋々と彼は客室を使うことを受け入れた。マジデスカ…
「ロトファさん王宮案内しちゃうよ〜!」
これはもう逃げられないな…大人しく従おう。
ふたりに連れられ王宮へと向かった。

王宮の中へ入ると豪華な家具に煌びやかな壁。扉から床までピカピカに磨かれていて明らかに僕は場違いだった。
途中人に会ったような気もするが緊張しすぎて誰となにを話したかまるで覚えていない。
国王様が異様にルンルンしていたことと魔人さんが呆れたような顔をしていたことだけは記憶にある。案内もされたがなにがなんだかさっぱりだ。トイレと出入口だけはなんとか覚えた。5回くらい聞き返した。
「さぁここが客室だよ!シェラくん拾ってくれたからお礼だと思って好きなように使ってねん」
ありがとうございますと短くお礼を述べて部屋に入る。部屋きらっきらで眩しい…
「あ、そうだ魔人さん、最後のお願い。僕のぶんと魔人くんのぶん、アイス買ってきて。魔人くんのはふたつだよ?いいね?」
ぐったりとしながら最後のお願いを適当に済ます。
「え?そんなことでいいんですか?」
シェラードは驚いた顔をした。
体力というか気力の回復お願いでもよかったかもな。
「あ、そうだ忘れてたアイス作るの教えるから材料も一緒に買ってきて。生クリーム200mlと卵ふたつ、バニラエッセンス一本、あとグラニュー糖をそうだな…70gお願い」
レシピを思い出しながら材料をあげる。
「かしこまりました。少々お待ちを。すぐに買ってきます」
そう言い残して彼は目を光らせ外に飛び出した。どれだけアイス好きなんだ。人のこと言えないな。

しばらくしてシェラードが袋をふわふわさせながら帰ってきた。
ふわっふわのベッドに感動しながら休んでいたから起き上がるのに一苦労した。これは人をダメにするね。
「おかえり、買ったアイスは冷凍庫に入れておいてアイス作ろうか。キッチンって借りても大丈夫なのかな?」
というか彼はアイスの作り方くらい知ってるんじゃないのか?
「調理器具でしたら出せますよ」
そう言って彼はふわりと調理器具の数々を僕の前に並べた。
「…魔人さん、すごいねぇ…ていうかアイスの作り方、知ってそうだよね…」
ここまで万能なら知ってるだろうと思い聞いてみる。
「まぁ、一応知ってはいますが自己流とのことでしたので。新しいアイスの道が開拓できるかと思いまして」
なるほど。飽くなきアイスへの追求。嫌いじゃない。むしろ好き。
「それじゃー…僕がやったほうがいいのかなこれ?」
ちらりと彼を見るとどうやら見て覚える気満々なようなので調理器具へ手を伸ばす。
「まず卵を卵黄と卵白に分けてそれぞれボウルに入れます。で、卵黄のほうにグラニュー糖を40g入れて、白っぽくなるまでホイップします」
何度も作ったからだいぶ慣れている。サクサクと進めていこう。
「卵黄ホイップしたら小鍋に生クリームを全部入れてバニラエッセンスも中を扱き出して入れて皮も入れよう。それで沸騰直前まであっためます…っと火はどうしよう?」
そういえばキッチンっぽいけどここキッチンじゃない。
「火なら私が出しますよ。火加減は?」
さすがだなこの人は。できないことアイスだけなんじゃないか?
「強火でいいよ……沸騰直前まであったまったらさっきの卵黄を混ぜながら少しずつ生クリームを加えます」
ボウルの中が玉子色から少しずつ乳白色へと染まっていく。
「それでこれを混ぜて小鍋に戻す。そのあと…また強火でお願い」
鍋の中の乳白色の液体をくるくるとかき混ぜながらシェラードに頼む。
「これで本当は82℃まであっためるらしいんだけど…まぁなんとなく見た目でいけるから、淡黄色になって粘りが出て美味しそうになったらオッケー。底までしっかり混ぜないとなんかおかしなことになるらしいから注意ね」
しばらくさらさらと乳白色を遊ばせているともったりとして濃いカスタードの香りがしてきた。
「そろそろいいかな、これを適当な容器に濾して入れて粗熱を取ったらカスタードソースの出来上がり」
ゴムベラでふるいの上から淡黄色の甘味を容器に入れる。
「後は〜余った砂糖と卵白で適当にメレンゲを立てて…」
卵白にホイッパーで空気を混ぜ込みながら砂糖を少しずつ加える。
しばらくホイッパーが回り、砂糖を加えてまたホイッパーが回るだけの無言の間があり、半透明だったものが真珠のような輝きを放つものになった。
「もうあとはこれこのふたつ混ぜて冷凍するだけ。冷凍の途中に混ぜる手間は無いんだよこれ。簡単でしょ?」
ふたつの色を混ぜ合わせ輝きを持った乳白色の液を容器に入れて冷凍庫へとしまう。
「途中混ぜなくていいのは楽でいいですね…でもこれ似たようなものをどこかで…」
「さー!買ってきたアイスでも食べようかシェラードくんよ!」
どっかの縦縞三本、青白赤の国のヌガーグラッセなんてお菓子知らない。
「シェラードくんのアイスどれー?ふたつあるんでしょ?」
冷凍を開いて彼に尋ねる。
「あぁ、私のは袋から出てるやつです」
「おお、これか美味しそうだねぇ投げるよー」
スプーンと共にアイスを彼の方へと投げる。途中で勢いが殺されその場で漂う。
「アイス投げないでくださいよ…」
嫌そうな目で見るんじゃない。
「まぁまぁ、ほら一緒に食べよう」
そう言ってる間にアイスの包装を取っている。早い。
アイスを食べ終え、時計を見るともうだいぶ夜が濃くなっていることに気が付いた。
「そろそろ寝るかなぁ…」
あくびを噛み殺しながら呟く。
「今日、アイスしか食べてないですけど大丈夫なんですか?私は食べなくても生きていけますが貴方はそうもいかないでしょう?」
普通に心配されて少し驚いた。
「いやほら、アイスって卵と牛乳と砂糖で三大栄養素摂れるじゃん?だから大丈夫。フルーツジェラートも食べたしね」
ダメだこいつみたいな顔しないで。
「まぁ、いいでしょう。とりあえずおやすみなさい」
「あぁ、そうだ待って。シェラードくん国王様に返さないといけないから国王様のところまで案内してくれるかな?帰りもできればお願いしたいけど…アイス一個追加するからさ」
断られるか高額な金を請求されそうなのでアイスを追加しておく。
「まぁ、それなら。着いて来てください」
なんとなくこの人の扱いわかってきた気がする。

「ここが国王様の部屋です」
連れてきてもらったはいいもののやはり相手は一国の王様。緊張します。
震える手で扉を叩いた。
「失礼します、幽憂です。ランプの魔人さんを返却しに来ました。」
なんか職員室入る時こんなこと言うよね。そう思いながら言葉を並べた。
「ん〜?お、ユウくんいらっしゃい。シェラくん返しに来てくれたんだね、ありがと〜」
夜遅いから少し眠いのか半目の国王様がふにゃりと笑った。
「これ、ランプです。お借りしててすみませんでした」
ぺこりと頭を下げる。
「落としちゃったの我だしね〜持ってきてくれてありがとねん」
この人すごくいい人だ…国の繁栄でも願うようにしよう。
「あ、それでは部屋まで魔人さんに送って貰うのでこれで失礼します。おやすみなさい」
それでも偉い人は慣れない。またひとつぺこりとしてからシェラードに部屋へ案内してもらう。
「じゃ、シェラードくんも部屋までありがと、おやすみ」
「おやすみなさい」
軽く手を振りシェラードと別れる。
なんだか濃厚な一日だったなと思いながらふかふかのベッドに潜り込む。
明日シェラードくんが暇だったらまたアイスの美味しい店を紹介してもらおう。お金は飛ぶけど。
そう考えているうちに現実が朧気になり夢の中へと落ちていった。

〜Fin〜

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