明るいベルの音が、店内に鳴り響く。
「いらっしゃいませー!」
茶色の帽子に水色チェックのリボンを着けた少女、レイミィ・カレットは、友人Mロボの店『Triple Role』でバイトをしていた。ウェイトレスとして、入店したお客様の元に駆け寄る。扉の前に居るのは、桃色の体に赤い靴、天色(アマイロ)の瞳を薄赤く染めて、目元に今にも溢れんばかりの雫を溜めた少女。
彼女の震える口元から、
「お母さん…どこぉ…?」
とても悲しそうな声が零れた。
🌟🎀🎀🌟🎀🎀🌟
「勢いで飛び出しちゃったけど、どうしよう…?」
休憩時間の直前だったのと、彼女のお人好しな性格も相まって『私が何とかします!』と叫んで店から出たものの、アテなど全く無い。
「そういえば、君の名前は?」
未だ涙目の彼女と同じ目線になりながら、質問する。
「…リカ」
「リカちゃん、だね!お母さんはどんなヒト?」
「えっとね…センセイなの!」
「…先生?」「うん!
優しくて、スッゴく頭が良いんだって!」
(…言い方が悪かった、かな?)
この賑わう街の中、その情報で母親を見つけることはほぼ不可能だろう。少し考え、質問を変える。
「どんな帽子を被っているの?」
「えっとね、真っ白な帽子に、水色のメガネをかけてるの!それから、私と色チガイのリボンを着けてるの!オソロイ!」
彼女の頭には、赤いチェックのリボンと、星の飾りが着いている。そこまで分かれば、街のヒトに聞いて回ればきっと…
「うん、わかった!じゃあ、お母さんを探そう!」
「おーっ!」
二人で掛け声をあげ、天に拳を突き上げる。
🌟🎀🎀🌟🎀🎀🌟
『あ、レフベルさん!』
『おや、レイミィさん。どうしたのですか?』
『かくかくしかじかで、この子のお母さんを探しているのです』
『なるほど…私も探しましょう』
『ありがとう!お願いします!』
『レイミィさん。こんにちは』
『シャトールさん、こんにちは!…そんなに慌ててどうしたのですか?』
『…また姫様が脱走しまして』
『…見つけたら注意しておきますね』
『すみません…では、先を急ぐので』
『…お疲れ様です』
『あれ、レイミィ!と…そっちの子は?』
『こんにちは、エドワード君!
かくかくしかじかで、一緒にお母さんを探してるの』
『そっか…俺も手伝うよ!』
『ありがとう!』
『ところで、その子…いや、何でもない。
じゃあ、また後でな!』
『…?また後で!』
『あ、プレザさん!こんにちは!』
『…おや、こんにちは、レイミィ殿』
『もしかして、プレザさんもピアットちゃんを…?』
『ええ…全く、姫様の脱走癖には困ってしまいます。
では、じいはこれで…』
『お、お疲れ様です…!』
『あ、ドーナちゃん!こんにちは!』
『あ~、こんちはぁ、レイミィ
その子はぁ?マイゴ?』
『はい、お母さんとはぐれちゃって…』
『なるほどぉ~
それなら、あたしも手伝うよぉ』
『ホント!?ありがとう!』
『あ、レイミィだー!』
『ピアットちゃん…二人が探してたよ?』
『…だって、みんなに会いたくて!レイミィにも会えたし!』
『…早く帰りなね、凄く心配してるから』
『うん、わかったぁ!
またね、レイミィ!』
『うん、またね!』
『にゃはは、こんにちはぁ、レイミィ』
『ひゃっ!?…ラコラスさん!』
『…………………』
『あっ…ご、ごめんなさい、[チシャ猫さん]』
『…気を付けてくれニャ。
それで、そのコドモは?』
『えっと…迷子なんです!お母さんを探してて…』
『…ふうん。[見つかる]と良いニャ。
じゃ、ワタシはこれで。頑張れニャ』
『へ?…行っちゃった』
🌟🎀🎀🌟🎀🎀🌟
街を一周し、彼女の母親を探したが、それらしい人物には会えない。
「…お母さん、見つからないね」
「………ふぇぇ、お母さぁん………」
彼女の瞳に、再び大粒の涙が溜まる。今にもこぼれ落ちそうだ。
「な、泣かないで!?きっと直ぐに会えるから!
お姉ちゃんを信じて!ねっ?」
「…うん」
繋いだ手を引き、街を歩く。
(ここまでして見つからないなんて、もしかして…)
最悪の状況が脳裏に浮かぶ。頭を振って、そんな考えを打ち消す。
(この子の方が不安なんだから、私がしっかりしないと!)
そう考えている時、
「…リカ?」
彼女に似た声が、聞こえた。
🌟🎀🎀🌟🎀🎀🌟
「…ごめんなさい、取り乱しちゃって」
「い、いえ、大丈夫ですよ!」(ちょっと驚いたけど…)
娘と再開した時の彼女は、回りの人々が揃って振り向く程の慌てぶりだった。
「本当にありがとう、えっと…」
「レイミィです」
「ありがとうね、レイミィちゃん。
私とうちの子が迷惑かけて…」
「リカはいい子にしてたよ!」
「ホントにー?」
「ホントだって!」
…母娘のやり取りを見ながら、
(見つかって、良かった)
そんなことを考えていた。
「じゃあ、私達はこれで…
本当に、ありがとうございました」
「バイバイ、お姉ちゃん!」
「バイバイ、またねー!」
『―さよなら。ありがとう』
―扉から外に出た二人を見送って、振り向くと…
橙色に染まった空が、街を包んでいた。
🎀🌟🌟🎀🌟🌟🎀
「…あれ?」
視界には自分の部屋、手元には毛布。
「…夢、かぁ」
(…懐かしいな)
あの時の母娘は、元気に過ごしているだろうか?
「…よし、今日も頑張ろう!」
支度を済ませ、部屋から飛び出す。
🌟🎀🎀🌟🎀🎀🌟
街を歩いていると、ショーウィンドウから飛び出すひとつの影にぶつかりそうになる。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
咄嗟に避けると、目の前にはふわふわの尻尾。
それが動き、私の方を振り返る。
「…っと、ゴメンな、レイミィ!」
「あ、エドワード君!おはよう!」
彼はそう言いながら、私に手を差し出す。
つられて手を出すと、強く掴まれ引っ張って立たせてくれた。
―夢で見たあの日も、彼はこうして助けてくれたのだ。
「そうだ、あの時はありがとう!」
その時のことを思いだしながら、目の前の彼にお礼を言う。
「あの時って…どの時だ?」
彼は少し不思議そうな顔をする。
「リカちゃん…迷子のお母さんを探してくれた時!」
「ああ…
あの時はあまり役に立てなかったな…」
「そんなこと無いよ。手伝ってくれて嬉しかった!」
感謝の気持ちをそのまま伝えると、少し照れたような顔をしながら、
「…この街に来たヒトには、笑顔で帰って欲しいからな。そのために、俺に出来ることなら何でもするさ!」
私が大好きな、太陽のような笑顔で答える。
「…本当に、ありがとう!
そうだ、キャルちゃんと約束してたんだ!じゃあまたね、エドワード君!」
「ああ、またな!」
手を振って、目的の場所に…彼女の店に向かって駆け出す。
🐶**🐶**🐶
彼女を見送りながら、あの日の少女を思い出す。
(レイミィには、言わなかったけど…
あの時の子供は、)
「―”ヒト”じゃない」
(どちらかといえば、…そう、)
「俺と”同じ”」
(…いったい、何だったんだろう?)
小さな引っ掛かりを感じながらも、パトロールを再開する。
…今日も、スイートストリートは平和だ。
おしまい