【小説】All the world’s a stage 第一幕

 

おかしい。

 

アタイは”ゆけむり”の従業員出入り口から中に入ったはずだ。

しかし、眼前に広がるのは荒れ果てた街。無数の石造りの建物は風化が進み、緑が生い茂っている。
この街は随分前に滅んだのかもしれない。見たこともない景色に心を奪われてしまったのか、アタイは”ゆけむり”のことを完全に忘れてしまっていた。

 

少し歩くと、広場に出た。中央には煉瓦で構成された窪みと、その真ん中にオブジェがある。きっと噴水か何かだろう。

 

「ん…?人…?」

 

よく見ると、窪みに入ってオブジェを見上げている人影がある。旅人だろうか、アタイは迷わず声を掛ける。
「おーい、そこの人!ちょっと話を聞いてもいいかな!」
人を見つけた安心感から、小走りで近づくその足は人影をはっきりと視認したところで止まった。

 

違う。あれは人じゃない。

 

アタイの第六感が危険信号を発した。背筋が凍るような緊張感。その人”のようなもの”は甲冑に身を包んでいる。間違いない。

 
幽霊だ。

 
偶然持ち合わせていた大太刀、”楓”の柄に手をかけ、戦闘体制に入った。
幽霊はこちらのほうに向き直る。だけど、不思議なことに殺気は感じない。
「おや、あなた”も”迷子ですか?」

 

幽霊は面甲を上げ、顔を見せる。向こうに敵意はないということだろうか。

 

「…今からアタイの質問に答えたら教えてあげよう、亡霊さんや。」

 

__________________________

 

「ごめん、本当にごめん!こんな場所だからてっきり悪霊かと…!」
「いえいえそんな…顔を上げてください、トモエ様。私は事実幽霊ですし、むしろそれを見抜いた貴女に感心しています。お願いですから顔を上げてください…まず状況を整理しなければ。」
「そ、そうだよな…コホン。シャトールさんといったか、あんさんはスイートストリートという国出身で、アタイはヒネモストバリの出身。共通点は突然この地に迷い込んでしまったことだけ…。」
「そうですね。私の場合、空間に亀裂が入るような違和感を感じました。おそらくそれが前兆かもしれません。」
「空間に…亀裂…?幽霊だとそういうのも感じ取れるようになるものなのかい?」
「これはあくまでも推測なのですが、おそらく私自身が幽霊という超常的な存在故、近いもの…超常現象に敏感なのだと思います。」
「なるほどねぇ…。アタイはせいぜい幽霊を感知する程度だし分からないや。来てしまったものは仕方ない、生活の拠点と食べ物が必要だ。あんさんは飲み食いは必要ないんだね?」
「ええ、私はこの通り幽体ですのでお気遣いなく。」
どうやら幽霊は飲み食いする必要はないらしい。こういう時にアタイも幽体だったら飢えの心配もなかったというのに。少し羨ましい。
「んじゃ、アタイは食べ物を探…」

 
そう言いかけた時、凄まじい地響きがこっちに向かって来るのを感じた。

 
「シャトールさんや!何か来るで!」
「はい!」
咄嗟に2人は身構える。

数秒も経たないうちに、目の前を小さな人影と、それが豆粒に見えるほど大きな塊が眼前を横切った。
あまりの大きさに唖然とするのもつかの間、その人影は大きな塊に突き飛ばされる。
「ドラゴン…」
シャトールさんがそう呟く。ドラゴンは空想上の生き物として広く知られている。それが今、アタイ達の目の前にいる。

 

「_____________!!!」

 

ドラゴンは威嚇するかのように咆哮をする。凄まじい爆音にアタイは思わず耳を塞ぎ、ドラゴンを睨む。

 

横を見ると、シャトールさんの姿がない。きっと突き飛ばされた人を助けにいったのだろう。さすが騎士様だ。肝が座ってる。

 

「なら、アタイのやることは一つだね…!」

 

大太刀”楓”を振りかざす。

 
「この地を揺さぶりし魂よ、この世を清めし灼炎よ!今こそ狂熱たる音を轟かせ、荒ぶる神の如く舞い踊れ!

 

我が舞楽『轟炎』、刮目せよッ!!」

 

 

 

第一幕 滅びの街の轟炎

 

 

 

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1件の返信

  1. 零黒 より:

    改行うまくいかないうごごご

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