【捏造SS】こんなに月がきれいな夜には

「あなただけに教えてあげるわ。私ね、駆け落ちをしてきたの。」
またいつもの話だ。
米寿を過ぎた祖母は、どうやら認知症のようで、孫である私を昔の友人と勘違いしているのだ。
自分の孫を忘れても、繰り返し何度も語るほど、駆け落ちはとても嬉しい出来事だったのだろう。

祖母は遠くの国にある、とても裕福な家だったという。おそらく貴族だったのだろう。
うら若き頃の彼女には婚約者がいたが、ある日身分違いの恋に落ちて親から隠れるように逃げ、この地に駆け落ちをしたのだと言う。

…その祖母もつい先日亡くなった。顔はまるで乙女のような、朗らかな顔だった。きっと駆け落ちをした頃の、幸せな記憶の中のままで往ったのだろう。
棺にに被せられた薄布は、まるで花嫁のヴェールのようだった。

―祖母には二つの墓がある。
一つは遠い故郷のものだ。実は彼女が駆け落ちした後、両親は娘を死んだことにして婚約破棄の理由としたそうなのだ。
娘を取り戻すよりも、面子を保つために。薄情とはいえ、上流階級とはそういうものか。
もうひとつは、私の目の前にある、わびしく小さな墓。
その隣には、私の祖父―彼女の夫が眠っている。

月の堀には、ある伝説があるという。
満月の晩の真夜中に広場へ行くと、紫のヴェールを纏った美しい女幽霊が人知れず踊っているのだ。

「こんにちは。月がきれいな夜ね。私が死んだ日もこんなに明るい夜だったでしょうね。…どうしてこんな気持ちになるのかしら。」未練なんてないはずなのに。

―彼女はまだ、彼を待っている。

end.



ルルイ「え?そんな噂になってるの?とりあえず美しいって言われるのは嬉しいわ!」
そういや博識なのは先進的な貴族だったに違いない。あとギャルリやってるのも目が肥えてるからだろうなあ
ルルイさんを元アンサン出身にしたい。貴族だが下層の住民と駆け落ちして後にムンホとなる地でバッタリ。それで相手の方はそこに埋葬してそこにムンホが…など。

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