「ダークマターと球体が分かり合える日は…来ない。残念……だけど」
「……ソッカ」
ボクは夢の剣を手前に引いてから、勢いを止めることなくグリーンの瞳に突き刺す。
ドロドロと零れ出す黒い液体が、足元の雪に浸透していくのと同時に、グリーンと夢の剣が光の粒となって見えなくなってゆく。
…これでいいんだ。これで……
頬を伝う涙を拭うこともせず、ただただ友達の最期を見送る。
「…マタネ……」
「…ッ!!」
弱々しくも聞き慣れた優しい声が涙のようにポタリと落ちた時には、空虚な世界の中にボク1人だけが取り残されていた。
…ずるいよ。最後の最後で…そんな……そんな言葉を残すなんて………
凍てつく寒さと痛みの中、ボクは泣き叫びながら崩れ落ちた−
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「着いたー!!久しぶりのカンパニュラ!!」
そう大声で叫んだトアは、軽快なステップで街を駆けてゆく。
晴天の空の下ウキウキ気分で進んでいると、とある少女の後ろ姿を見つけ
「リリオちゃーん!!」
と名前を呼びながら抱きつく。
「わっ⁈と、トアちゃん⁈」
急に抱きつかれたリリオは顔を真っ赤にしながら驚くが、トアはそんなの御構い無しといった感じで顔をすりつける。
「や、やめてよ!こんな道のど真ん中で……は、恥ずかしいってば!!」
「無事で良かったァ〜」
「…?何を言ってなさるのかサッパリ分からないわ…」
「あら、お2人とも。今日も仲睦まじいですね」
「あ!ノッテさぁぁぁん!!」
トアはリリオから離れると、今度は偶然通りかかったノッテにもベッタリとくっつく。
そんなトアの様子にリリオとノッテが首を傾げていると、トアが2人の手を引き笑顔で口を開く。
「そうだ!お茶にしよう、お茶に!ささ、早く早く!」
ザァーと聞こえてくる波の音と共に、カンパニュラはいつも通りの平和な時を刻んでいた。
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「おい」
「ん、なんだ」
「なんでお前がここにいる。3秒以内に言え。でなきゃ、斬る」
「ええ⁈お、落ち着けリゼ!」
キッと睨みつけたままのリゼに気押しされ、キアは慌てて口を開く。
「い、いや!シエルヴィルに帰る前にもう一度お前に会っておこうと思ってな⁈それでそこにいる従業員に聞いたらここで待ってろって…」
「ああ?」
キアが指差す方向に振り向き怒りの矛先を壁に寄りかかっていた少年に変えると、その少年はキョトンとしたままリゼを見つめる。
「おい、てめえ…セロ。どういうつもりだ…」
「ん?何がですか?」
「ここはあたしが寝泊まりしている部屋だぞ!!そこにキアを呼ぶとはどういうことだ!」
「ああ、スピノさんに頼まれていてですね。キアさんという人が来たらリゼさんのベットまで案内して、お熱い夜をお楽しみくださいと伝えてください…と言われていましたので」
「あーのー糸目野郎ォォォォ!!!!」
リゼは顔を真っ赤にしながら勢いよく部屋から飛び出して行くと、ドタバタと階段を上って行く。
わけが分からないキアは「何故あいつは起こっているんだ?」とセロに聞くと、セロは淡々と「さあ?」と返す。
2人が疑問符を頭の上に浮かべていると「野郎、ぶっ殺してやるッ!!」というリゼの怒鳴り声がホテル内に響き渡った。
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「はい、これ。ミナノの分のケーキ」
「あ、ありがとうございます…」
差し出されたお皿をビクビクしながら受け取り、そっと自分の前に置く。
そんなミナノの様子を見かねたユリカは、声をかける。
「何をそんなに震えているの?」
「だ…だって私、ユリカさんのア、アルペジオを勝手に持ち、持ち出してしまったから…」
「あー、そのこと?大丈夫、怒ってないよ」
「ええ…?」
ユリカはミナノの頭を撫でると、話を続ける。
「だってミナノの話が本当なら、あたしらが寝ている間にキミはまた世界を救っちゃったんでしょ?それって凄いじゃん!」
「で、でも…」
「別に勝手に武器を持ち出したくらいで怒ったりしないよ。ミナノは優しい子で、あたしの友達だもん。それに武器なら壊れてもまたロイドに修理をお願いすればいいだけだもんね!」
「ユリカさん…!」
「ささ、一緒にケーキ食べよ!今晩はニコ達も呼んでるから、きっと盛り上がるよ!!」
「は、はい!」
笑ってケーキを頬張るユリカにつられて、ミナノも満面の笑みを浮かべて見せた。
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ぱらりっ。
お洒落なカフェテラスの外席でアスタは1人お茶を飲みながら本を読んでいた。
普段は外にあまり出ず家に引きこもっている彼だが、この日は新しい本を買うために外出していて、今は無事手に入れた新作の本を帰る前に少し読んでいる…という感じである。
幸いにもこのカフェの外席は広い屋根の下に位置しているため日に当たらず日陰になっており、引きこもりのアスタでも辛くない席だった。
黙々と紙をめくり読書に没頭していると、突然ガタリとテーブルが揺れアスタが顔を上げる。
「アスタみーっけ!」
「ここにいたんだ。珍しいね、外にいるなんて」
グイッと近寄るちひろとユウスに対してアスタは「うわっ…」と嫌そうな顔を一瞬見せると、何事もなかったかのように読書に戻る。
「何してるのー?」
「…読書 見れば分かるでしょ」
「まあーそれはそうだけどさー」
アスタのぶっきらぼうな態度に、ちひろは少しムッとするが、その間にユウスが「まあまあ」と入ってアスタに話しかける。
「そうだアスタ。ちひろが君と僕にこの街の案内をして欲しいんだって!」
「……」
「…じゃあ僕とちひろ君だけで行こうか。まずはアスタの家から案内する−」
「いや…気が変わった ボクも街案内しよう」
そう言って椅子から立ち上がると、アスタは先頭を切って歩き始める。
「あ、待ってよー!」
「全く、こうでもしないと動かないんだから」
と小さく微笑みながら呟くと、2人の後をユウスは追っていった。
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「…暇だ」
「……」
「暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だーー!!!」
コンコンと雪が降り続ける夢の泉のすぐ近くで、ナイトメアウィッチは1人叫ぶ。
「くそ…ラレイヴのやつと話していた時間があったせいで、いざ1人に戻ると暇で仕方ない」
ウィッチは空中で意味もなく回転し続けながら、そんな言葉を口にする。
「あーあ、また球体どもを悪夢の中にでも閉じ込めてやろうかのう…だが昨日の今日でそんな事をすればラレイヴどもが黙っていないだろうし…くっ、暇をつぶす相手が欲しいッ!!」
「俺でよければなろうか?」
「……?!」
足元からする声に驚きウィッチは咄嗟に視線を落とすと、飴を咥えたウラノスがウィッチの事を見つめていた。
「お前…いつからいた」
「あー、数分ぐらい前から」
「どこから我の独り言を聞いていた」
「最初からだな。たぶん。あ、飴でも食うか?」
「いらん」
「じゃあ話相手に」
「…ならん」
「ならせめて飛び方を教えてくれ」
「教えん!!」
ウィッチは力任せに拳を振り下ろすが、ウラノスはそれを軽々と受け止め雪の中に引きずり落とす。
攻撃を受け流された事に多少驚きつつも右手を引き上げると、ニヤリと笑ってウィッチは呟く。
「よし、それなら我と戦え。少しは暇潰しにはなるだろう」
「まあ…それでいいなら」
とウラノスが返事をすると、互いの拳をぶつけ戦いを始めた。
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「……」
今日は…空が綺麗だな。星がくっきりと見える。満天の星空とは、まさにこういう空の事を言うんだろうな…
1人木の上で夜空を見上げては、そんな事を思う。
「……」
できればこの美しい景色をグリーンと一緒に見たかった。でも…隣に君はいない。
「本当にこれで良かったんだろうか…」
周りに誰もいない空間で、ポツリと呟く。
ボクはあの時、ダークマターと球体が分かり合える日は〝来ない〟と言ってしまった。
覚嘘眼のこれまでの努力と経緯、それと悪夢の中での出来事、仲間達の経験したこと…これらを全部合わせて見てみれば、とても分かり合えるとは思えなかったから。
それに…覚嘘眼の
「過ちは繰り返さないでくれ」
という最後の言葉を聞いてしまったから、もう安直に分かり合えるなんて言えなくなってしまった。
きっと…グリーンも薄々その事に気がついてはいたんだと思う。気づいていながらも迷っていて…だから最後の最後であんな質問をボクにしてきたんだ。
「だけど…それでもやっぱり諦めきれない。今は確かに不可能で、ただ努力しただけでも無理なのは分かった」
「……」
「でも…でもさ、きっといつか現状を変える大きなきっかけが来るはずだよ。それが何年後、何十年後、はたまた何百年後になるかは分からないけど、その時までは絶対に不可能とは言い切れないんじゃないかな」
そうさ、きっと来る。そんな日が。
それまでは…夢を見ていたっていいよね…グリーン。
そんな想いを込め、夢夜にねがいをかけて。
The End.
トゥルーエンド!完!
さりげなくトアリリとキアリゼを挟み、ロイドに丸投げ系ユリカちゃんェ… 日常に戻りましたね。
お疲れ様でした!
ありがとうございます!
平和な日常が清々しいほどのトゥルーエンド感を出せたと思います(リゼキア流行れ)
本当の本当にお疲れ様でした。
最終的にみんな救われてよかったです。
Bエンドを見た後だからか、ラレイヴが苦渋の決断をしなければ…と思うとゾッとしますね。
ラレイヴはこれから先幸せになると信じよう。
糸目ぇ…。
ありがとうございましたァ!
ラレイヴとしては純粋なハッピーエンド…ではなく、望んでいた形での旅の終わりではないと思いますが、きっと後悔だけはしていないでしょう。
糸目はあの後爆散しました()