【小説】夢夜にねがいを 第21話(運命の選択)

 グリーン…待ってろ、今元に戻してあげるから。謝るのも、誤解を解くのも…それからだ!
「行くぞ!!」
 夢の剣を片手に地を蹴り、一直線にグリーンへと向かって行く。
 ボクを見つめた瞳はキラキラと輝き出すと、エネルギーを凝縮し一気に解き放つ。
「そんなのは効かないよッ!!」
 放出された高密度の熱光線を避け、彼の間合いに踏み入って行く。
 なるべくこの一撃で終わらせて…
「?!」
 ブンッと振り下ろした剣は空を切り、突如背中に痛みがこみ上げてきたかと思うと地面に叩きつけられる。
 何が起きたのか分からず体を起こすが、周囲を見渡そうとした視界は180度回転し今度は頭から雪の中に突っ込む。
「ぐっ…まさか…」
 雪の中に顔を埋めたまま耳を傾けると、自分の周囲で風を切る音だけがブンブンと聞こえてくる。
 どうやら目にも見えぬ速さで攻撃されたらしいね…なんて速さだ。
 体を起こし周りを確認するが、依然として空を切る音だけが響き、グリーンの姿は捉えることができない。
「がはっ?!」
 そうこうしている間にグリーンの攻撃が再開し、腕に、頭に、背中に、体のいたる所に傷跡が増えてゆく。
 くそ、このままじゃマズイ。どうにかして攻撃を当てたいが、速すぎて剣先が擦りすらしない。何か…何か手は……
「…そうだ」
 ボクは虹の剣を足元の雪に突き刺すと、自身を軸にして回転しながら薙ぎ払う。
 地中の砂ごとえぐり取り火山が噴火するかのごとく雪が飛び散ると、そのうちの幾らかが何もない宙で反射する。
「そこだッ!!!」
 不可解な飛び跳ね方をした雪へと剣を振りかざすと、強い手応えが伝わり思い切り吹っ飛ばす。
 ゴキッと殴られたグリーンは地面をバウンドしてしまいながらも、羽を使い上手く体制を立て直しこちらを鋭く見つめる。

 いい感じにヒットしたね…よし、このまま攻める!!
 勢いづいてきたボクはいつグリーンが回り込んで来ても反応できるようにしつつ、距離を詰めてゆく。
 その様子を眺めていたグリーンは目を大きく見開き光の粉を撒き散らし始める。
 なんだあれは…?
 よく分からないけど、きっと何かある。極力避けて行った方がいいな…
 っと、浮遊する粉を避けようとした瞬間だった。
 突如粉が赤みを帯び凄まじい熱を放出したかと思うと、通り過ぎようとした横で爆発を起こす。
 これは…爆弾⁈
「洒落になってないよ、ちっとも!!」
 宙に放り出され何もできないまま、次々と引火してゆく爆発に身を焦がされながらも、必死に耐え続ける。
 熱いなんてものじゃないよ、これ…だけどやられっぱなしではいられない!
 地面と頭を垂直にし落下速度を上げて熱の海から抜け出すと、剣で地を弾きスピードを落とさないままグリーン懐に潜り込む。
 よし、ここまで密着していれば爆発は起こせない!さらに!!
 剣を振り上げると見せかけて左方に切り返し羽を掴むと、羽ごとグリーンを地面に叩きつけた。
「これでさっきのようには逃げられない…」
 羽は左手でがっちりと離さずに、右手に握りしめた虹の剣の剣先をグリーンの額に向ける。
 やっと捕まえた…でも問題はここからだ。浄化しきれるかどうか…
 ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、口を開く。
「ごめんな、グリーン。ちょっと痛いかもしれないけど…我慢してくれ」

 そう言って夢の剣を一思いに突き刺した。
 だけどグリーンは苦しむ様子もなくジッとボクの事を見つめ続ける。
 これで浄化されて…これで…これで……
「何も起こらない?浄化…されない⁈」
 そ、そんなはずはない!ダークマターの力を浄化してくれる…その力がこの剣にはあるはずなんだ。それなのに何も変化がないわけが…
「それならもう一回ッ!」
 ダメ元で剣を一度抜き取り再度差し込もうとするが、その一瞬の隙を狙ったのかゼロ距離で大爆発が起き爆風で遥か彼方に吹き飛ばされる。
 まさか自分にもダメージが入る事を承知で爆発を起こすなんて…油断した。
 ボクは空中で体制を立て直して、もう一度グリーンに軽い切り傷を負わせるが、彼はピクリともせずに突進しボクは重い一撃を喰らってしまう。
 …やっぱりダメだ。何度斬りつけてもグリーンから溢れ出るダークマターの力が払えない。
 もしかして…効かないのか?グリーンには、特殊な能力の干渉を受けない素質がある…そう考えるしかない。
 でも…だとするならば……

「グリーンを救う手立てが…ない」
 ここまで来て導き出された結論に、ガクリと膝を落とす。
 助け…だせないのか?他に何か手はないのか?何か…何か…!
 答えを追い求める度にグリーンはボクに無慈悲な攻撃を仕掛け、考えるのに精一杯なボクはただ目の前に迫ってくる追撃から身を守ることしかできず、次第に防御の手も緩み始めてゆく。

 グリーンと初めて出会った時、ボクは正直あまり快く思ってはいなかった。
 瞳の色が他とは違くて、ボクら球体と同じ言語を喋ることができて…不可思議なやつだなとは感じたけど、結局はダークマターだし、きっと敵なんだろうと認識していた。
 でも…あちこちのダンジョン内でグリーンと出会い、互いの事を話しているうちに、そうではないんじゃないかと思い始めていた。
 もちろん見た目は球体が恐れ、畏怖し、人によっては憎む姿ではあったけれど、ふっと目を閉じて耳を傾ければいつも聞こえてくるのは優しい声だった。
 目だけのグリーンから感情を読み取るのは至難の技だったけど、段々とその声から感じ取れるようになってきて…ウッディクラメディフィスで真実を語ってくれた時には、警戒の目は自然と解けていた。

 …グリーンは、ボクの大切な友達。
 今ならしっかりとそう言える。

 だからこそ助けたい。覚嘘眼は救えなかったけど、せめてグリーンだけでも…

 それに、先の見えない暗い底に堕ちてしまったとしても、そっと手を差し出して引き戻してあげるのが、本当の友達だ…!

「グリーン!!ボクの声が聞こえるかい!!聞こえるなら返事をしてくれ!!!」
 今、自分が出せる最大限の声で叫ぶ。
「ボクは君を助けたい!!だけど、君に宿る邪気を払う事ができない!」
 頼む、伝わってくれ…
「でも方法はきっとある!だからそれまで耐えて…」
 そう、言いかけた時だった。
 爆発の雨が止み、グリーンが突然動かなくなる。
 まるで時の流れが止まったのではないかと錯覚してしまうような感覚に囚われていると、衝撃的な声が響く。
「…コロシテ」
「ッ…⁈」

 コロ………………………え?

「コノママ…トモダチノ…….ママデ、シニタイ」
「な、何を言ってッ」
「ヨビモドッタ、ジガモ…モウジキキエル。ソウシタラ…モウ……」
「そんな……」
「ダカラ…オネガイ。キミノテデ……」
「……」

 嘘…だよね?
 そんなの…できっこないよ。でも…友達の本気のお願いを聞き入れるのも友達。だけどこんなの…あんまりじゃないか。
 ボクは黙ったまま剣を構える。するとグリーンはか細い声で、おそらく最後であろう言葉を放つ。

「サイゴニ…キミノ、ホントノキモチデ……キカセテホシイ」
「な、なんだい⁈ボクに答えられることなら…!」
「ボクラダ-クマタ-ト…キュウタイガ……ホントウニ…ワカリアエル…ヒ、ハクルノカナ……」
「グリーン…君……」

 それが本当に最後の言葉で…いいのか?それが……
 ボクは自分の胸に手を当て、目を閉じてボク自身とボクと共に戦った仲間達の今までの事を振り返る。

 悪夢の世界での出来事。

 現実の世界での出来事。

 そして…覚嘘眼の想いと、最後の言葉。

 言わないと。友への言葉を。
 見せないと。友に贈る最後の行動を。

 収まらない鼓動と共に口を開く。

「ボクは……」

次回、完結。

Twitterでこのページを宣伝!Share on twitter
Twitter

コメントを残す