【小説】夢夜にねがいを 第17話(ラレイヴ編⑨)

「クロイツ…君は今ボクの覚悟を見極めると言ったね?それはどういう意味だい?」
「そのままの意味だ」
 クロイツは依然刀を構えたまま、言葉を続ける。
「お前はこれからこの星をかけた戦いをするのだろう?ならばそれに見合った覚悟を持っていて当然だ」
「だけど、それと君との戦いには関係が…」
「ある。俺は…いや、今までお前に協力をしてきた者達は、お前に全てを託し、重い責任を負わせてしまった。だが任せた以上はその覚悟を知る義務がある」
 目つきを更に鋭く光らせながら、クロイツは鞘から刀を抜き取る。
「どうやら拒否権はないみたいだね…」
 戦いが避けられない事を悟り、生成されたダークソードを両手に握る。
「ほう…二刀流か。ならばこちらもそれに応えよう」
 そう言うとどこからか取り出した十字形のアクセサリーを光らせ天高くかざすと、渦々しいオーラと共に妖しく映る黒刀が姿を現しクロイツの体を包み込む。
 それと同時に苦しい表情を浮かべるが、覚悟を持った瞳は先ほどと比べて微塵も変わってはいない。
 様子から察するに、どうやらあの黒い刀は相当体力の消耗が激しい業物のようだ。
「大丈夫かい?辛そうだけど…」
「敵に情けなど無用だ」
「くっ…」
「ルールは先に一撃入れた方の勝ちとする。いいな?」
「…分かったよ」
「いくぞッ!!!」

 戦いの始まりを告げたクロイツは一直線にボクの元へと駆け出す。
「は、速い…!」
 想像以上の速さにたまらずワンステップ後ろへと下がると、剣先が擦りかけるギリギリのところまで彼は距離を詰めていた。
 続く2撃目をダークソードで受け流し右へとステップを踏みながら深く切り込む。
 しかしこれを読んでいたのか、クロイツは左手に握った黒刀でボクの攻撃をブロックし、そのまま空いていた軍刀で真下から抑えられていたダークソードを打ち上げる。
「しまったッ!!」
 攻撃を封じていた黒刀が自由になり、すかさず刀を振るうクロイツ。
 右手のダークソードでは間に合わない!そう瞬時に判断したボクは体を大きく仰け反り、間一髪妖しく照らされた刃を回避しつつ、バク転をしながらその場を離れる。
「ふう、危ない危ない…」
「…やるな。あれを避けるか」
「だてにダンジョン攻略してきたわけじゃないよ」
「なるほど。なら、これはどうだ?」
 そう言うとクロイツは二刀の刀身を重ね「はああああ!!!」と声を上げ稲妻を纏わせる。
「なんだ…?黒い雷……?!」
 嫌な予感が頭を過ぎり新たに生成したダークソードを左手に握り直すと、距離を取るため後ろへと飛ぶ。
 よし、これで…と思った瞬間、目の前が真っ白になり更に後ろへと吹っ飛ばされる。
「ぐ、ぐふっ?!」
 背中に走る衝撃で意識が飛びかけるが、考えるよりも先に地を蹴り左手へと転がる。
 ドゴォ!という爆音が聞こえたかと思うと、吹き荒れる風圧で再び吹き飛ばされる。
「な、なんて威力だ…!」
 定まらない視線を元いた方向へと向けると、真っ黒に焦げた大樹が悲鳴を上げながら崩れ落ちてゆくのが見えた。
 さっきはあれを喰らってしまったのか…?だとするとボクの負け…いや、体は痺れていない。なぜ……
 依然宙を舞ったままで両手に握った2対の剣を見てみると、バチバチと音を立てながら雷を纏っていた。
 そういう…ことか。
 どうやら無意識のうちに体だけが反応し、稲妻を受ける直前にダークソードでさばいていたようだ。
「やれやれ、命拾いしたよ…全く!」
 ふとクロイツへ目をやると、更に追撃をかけようとしている姿が見えたので、衝突しそうになった大樹を蹴り別の木へと移動する。
 するとクロイツがボクの様子を伺いながら続けて稲妻を撃ち放ってきたので、次々と木々を蹴りその攻撃を避けていく。
 黒焦げていく木々を見て「うわあ、なんか悪いことしたなぁ…」と思いつつも稲妻を避け続けると、クロイツが撃ち止めたのを見計らって一気に距離を詰める。
 ボクが近づいて来ることを確認したクロイツは刀を構え直し目を閉じると…ふっと笑った。

 その瞬間、背筋が凍りつく。
 …だが、ボクは覚悟を決め躊躇することなくクロイツの間合いへと駆け抜けてゆく。
 この感じ…間違いなく大技が来る。だけど大技というのは威力が絶大な分外した時の隙も大きい。その事は当然彼も分かっているはずだ。それでもあえて大技を出すってことは…

 次で決着をつけるということ…‼︎

「来い、クロイツ!ボクは君を乗り越えて、先に進むッ!!」
 地面を思い切り踏み込みトップスピードへ持って行きながら剣を構え、クロイツの動きを一瞬でも見逃さないよう目をみはる。
「…一閃轟」
 ボソリと聞こえた声を認識するが、その声と同時にクロイツの姿が消えていた。
 ボクは意識を集中させ、全身の五感をフルに研ぎ澄まして目を閉じる。

 ……来るッ!!

 頭上に流れる空気が僅かに震えるのを感じ取り、まるでホイールのように回転をしながら自分の真下に落ちて来る雷を斬り取り…そのまま目の前に現れたクロイツへと刃を振り下ろす。
 ガキンッ…と鈍い金属音が鳴り響きボクの刃とクロイツの刺突した軍刀がカタカタと小刻みに震えながらぶつかり合う。
「うおおおおお!!!」
 クロイツの雄叫びに気を押されそうになるが、負けじと声を上げる。
「ぐうううおお!!!」
 擦れ合う刃から火花が散ったのを合図に、ボクはダークソードをズラしクロイツの勢いを分散させる。
 するとクロイツが体勢を崩したため、すかさず回し蹴りをクロイツの右手に浴びせ軍刀を落とさせる。
 続けて左手へと蹴り込もうとするが、クロイツはボクの蹴り足を軸に空中で半回転しその蹴りを避け、更に残った黒刀でボクが左手で握っていたダークソードを弾き飛ばしてきた。
「ぐっ!!」
 お互いに1本ずつ獲物を失った。そして回転する勢いは互いに逆回転。だとすれば…!
「「これが最後の一撃ッ!!!」」
 残っている力を振り絞りクロイツ目掛けて剣を真横から振りかざす。
 当然逆からの回転を加えたクロイツも黒刀を同じように振りかざす。
 刃と刃が衝突し、その衝撃で吹き飛ばされてしまいそうなほどの風が巻き起こる。

 ……一瞬でも気を抜けば、このつばぜり合いに負けてしまうだろう。
 だけど負けるわけにはいかない。覚悟はできた。友達と約束もした。だからこんな所で終わるわけには…

「行かないんダァァァッ!!!!」
 渾身の力を込め、片足を更に一歩前に踏み出し、筋肉が悲鳴を上げながらも彼を黒刀ごと斬り飛ばした。
 されるがままに吹っ飛び大樹をへし折ると、それで勢いが弱まったのか地面に数十メートル引きずられた所でクロイツは静止した。
「はあ、はあ…」
 もくもくと立ち込める煙に飲まれ姿が見えなくなったクロイツの無事を確認しに行きたいが、体がいうことを聞いてくれない。
 それでも一歩ずつ前に進もうと試みるが、初めの一歩目で視界がぐるりと回る。
「うっ…倒れ……」
 そう思った瞬間、誰かに支えられ視界が元に戻ってゆく。
「おい、大丈夫か?」
「ノヴァ…」
「待ってろ、今トアを呼んで来てやるからよ」
 ノヴァはそう言うと背を向けどこかへと走り去っていった…

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「もう、2人して何してるの!クロイツさんは重症だったし、ラレイヴは筋肉繊維がめちゃくちゃになってたし!!」
「だからごめんってば、トア君…」
「ごめんじゃ済まされないよ!あたしが治してなかったら2人ともやばかったんだからね!」
「あ、あははは…」
 プンスカと怒るトア君に押され、思わず苦笑いをする。
 すぐ近くではノヴァと白緋が小声でひそひそと話をしていた。大方小さな女の子にボクら大人が怒られている姿が面白いとか、そんなところだろう。
 ボクがスッと立ち上がり岩場で座り込んでいたクロイツの元へ近寄ると、それに気がついたクロイツが目を合わせ口を開く。
「すまなかったな。一方的な押し付けをして」
「そうだね。かなり一方的だったと思うよ」
「やはりそうか」
「だけど…同時に感謝もしている」
「感謝…?」
「ああ。クロイツのおかげで、自分の中の覚悟を固めることができた」
「そうか…」
 クロイツは目を閉じクスッと笑って懐から七色に光り輝く結晶を取り出すと、ボクの手を引きそれを手渡した。
 するとボクの手のひらで結晶は弾き飛び、美しい光と更に小さくなった結晶だけが残る。
 ボクはこれを知っている。ここまでずっと追い求めてきたもの。
「これって…」
「お前らが探していたもの…そう、夢のかけらだ」
「「えーーー!!!!」」
 夢のかけらという探し物の名前を聞いた背後の女性衆から、驚きの声が甲高く響き渡る。
「ちょっとクロイツさん!それいつ見つけたの⁈」
「ここに来てすぐ…だな」
「ええ⁈それならなんで私達に言わなかったの!」
「こいつを託していいやつなのか、直接本人と会ってから決めたくてな。お前らには黙っていた」
 全く悪びれた様子のないクロイツは、淡々とそんな言葉を口にする。それを聞いた白緋はクロイツを襲いそうになるが、その前にノヴァにがっちりと押さえられたため、足をジタバタとさせていた。
 先に来て探してくれていた白緋には悪いけど、クロイツにはクロイツなりの考えがあったのだし、まあ仕方ない…と思いたいが、別に黙ってる必要はなかったんじゃないかな…とも思う。
 何はともあれ、これで無事7つ全ての夢のかけらが集まった。後はこれでウィッチの元へと戻って…

 そう、思った時だった。
 得体の知れない寒気が全身を駆け巡り、足元が真っ黒に染まり始める。
 これは…まずい!直感がそう告げている……‼︎
「みんな飛べ!!」
 最初に声を上げたのはノヴァだった。
 ボクらはノヴァの声に従いできるだけ高く飛び上がると、ドラゴンへと姿を変えたノヴァの背中へと着地する。
「見て、あれ!!」
 トア君が青ざめながら真下を指すので恐る恐る覗いてみると、先ほどまで立っていた浮島は凹凸の区別がつかないほどの闇に覆われ、そこからは無数の赤い瞳がこちらを見つめていた。
「あれ全部がダークマターか⁈」
「なんて数だ…」
「ど、どど、どうしようか!」
「落ち着くんだ白緋。ノヴァ、急いでこの島から脱出だ!!」
 ボクの指示を聞いたノヴァは水球を突き破りダンジョンの外へと飛び出す。
 ふう…といつもなら一息吐くところだけど、今回はそうもいかないみたいだね…
 背後へと振り向くと、嫌というほどの数のダークマター達が一斉にボクらを追ってきていた。
 仕方なく戦闘体勢に入ろうとすると、ボクの前に割入ったクロイツが「やめろ」と呟く。
「なんで止めるんだ⁈」
「お前が戦う場所はここではない。そうだろ?」
「そう…だけど!」
「分かっているなら、前を向け。後ろは振り返るな」
 クロイツはそう言うと白緋の方へ向き直って口を開く。
「おい、ラレイヴとトアを目的地まで届けてやれ」
「ええ、私が⁈」
「そうだ。その間、俺とノヴァであいつらを足止めしておく」
「…分かったよ」
 白緋は渋々と返事を返しつつ、ボクとトア君の元へと駆け寄ってくる。
「さ、2人とも。私の手に掴まって」
 と、差し出された手を取ろうとしたが、その前に…
「クロイツ。最後に言いたいことはあるかい?」
「そうだな…俺とサシで戦って勝ったんだ。無様な敗北は許さんぞ」
「…分かった」
 クロイツの最後の言葉をしっかりと受け止め、白緋の手を握る。
 トア君も同じように掴んだのを確認すると、ボクらのために戦ってくれる2人に背を向け地上へと飛び降りた…

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「ここだ。降ろしてくれ」
「オッケー!」
 炎の翼を広げた白緋は地面との距離を見積もると、地上に向けてゆっくりと降下してゆく。
 やがて足が着く高さまで下りきると手を離し、地上へと無事着地した。
「じゃあ私は急いで戻るよ」
「ああ、助かった」
「ありがとう、白緋さん!」
「礼なんていいよ。それじゃあ頑張ってね」
 そう言うと火の粉を撒き散らしながら大空へと羽ばたいていった。
 凍えるような寒さと静止したような時の中でジッと見つめてくるトア君に微笑むと、そっと手を差し出し言葉をかける。
「…行こうか」
「…うん」
 ニコッと笑うトア君は少し照れ臭そうにしながらもボクの手をぎゅっと握る。
 温かいな…とても。
 ボクにはない、そんな温かさをトア君から感じる。それが純粋無垢な子だからなのか、それとも違う理由なのかは分からないけど、ボクの心に元気をくれていることは確かだ。
 そんな元気をくれるトア君に感謝をしながら雪の中をザクッザクッと歩いて行くと、夢の泉の姿が見えてきた。だがそれと同時に3つの影が映り込み、首を傾ける。
 影のうちの1つはウィッチだろう。それはサイズ的に見て間違いない。問題はその隣にいる2つの球体らしき影だが…?
 疑問を抱えつつも近づいて行くと、徐々にそのシルエットがあらわになってゆく。まだ少しぼやけるが、どうやら球体であることは間違いないようだ。
 ボクが手を振りながらウィッチの名前を呼ぶと、それに気がついた向こうの3人が一斉にこちらへ振り向く。
「おお、戻ったか」
 無表情のままウィッチがそう言ってきたので、ボクは「ああ」とだけ返事を返す。
 で、横の男女2人組はというと…なるほど、この感じ…ハーフか何かか。どういう経緯でここにいるかは知らないけど、目を見るからに事件と無縁って訳ではなさそうだ。
 まあ当然あちら側もボクがどういう存在か感づいているようだったが、少女の方は目を丸くしていた。
 なんだろうと思っていると手を握っていたトア君が離れ、勢いよく彼女の元へと駆け寄っていく。
「リゼさん!!!」
「と、トア?!トアなのか!!」
 勢いのままリゼと呼ばれた少女にトアは抱きつくと、涙を浮かべて何度も彼女の名前を呟く。そうか、海で助けた時にリゼさんはどこと聞いていたが彼女の事だったのか。
 依然胸の中でわんわんと泣くトアの背中をポンポンと叩きながら「もう…大丈夫だから……」となだめるが、彼女自身もまた綺麗な涙を流していた。
 きっと互いに会いたがっていたのだろうな…と思いながら感動の再会を眺めていると、そんなのは知らんといった顔でウィッチが口を開く。
「全員合わせて4人…か。まあラレイヴ1人よりはマシといったところだな」
「ウィッチ。約束通り夢のかけらは7つ集めてきた。しかしどうやってこの悪夢の中から出るつもりなんだい?」
「ほう…ここが悪夢の中だと気がついていたか。ならば早速説明をしてやろう。おい、お前らはいつまで泣きあっている。話を聞け」
 今だ泣きあっていた彼女らに水を差したウィッチに対し、隣にいた少年がキッと睨みつけるがリゼは「ああ…すまない」と呟きトア君と共に顔を上げる。

「いいか。今現実での我の体は覚嘘眼という憎たらしいダークマターに乗っ取られてしまっている。そのため我はここから動けず悪夢の中からお前らを目覚めさせる事もできない」
「ならばどうする?」
「急かすな。そこでラレイヴに集めさせた夢のかけらを使う。おい、集めてきたかけらを全部出せ」
「はいはい」
 命令口調なのが少しイラッと来るが言われた通りに夢のかけらを全て取り出すと、かけら達は空中で衝突し眩しい光を放つ。
 あまりの眩しさに目を閉じてしまうが、ゆっくりと瞼を開くとそこには七色の光を帯びた剣がふよふよと浮いていた。
 周りを見渡すと、皆あまりの美しさに言葉を失い驚愕の表情を浮かべている。
「これが…夢の剣?」
「そうだ。かつて伝説と謳われた虹の剣を夢の泉の力で再現したものだ」
「虹の…剣」
 過去に星の戦士がダークマターと戦った時に振り払ったと伝えられている伝説の剣。その力を秘めた剣が、今目の前に…
 恐る恐る手を伸ばし剣をしっかりと握りしめた瞬間、今まで感じたことのない強大な力が体に流れ込んでくるのを感じた。
 しかし同時に体全体にドッと疲れのようなものが重くのしかかり、倒れこんでしまう。
「ぐ、ぐう…」
「ラレイヴ!!」
「…その剣は力が強大な分、体への負担も大きい。立てるか、ラレイヴよ」
 た、立てるかだって?よくとまあそんな事を平然と言えたものだ。この剣のデメリットを最初から知っていて言っているのだろうから、タチが悪い。
 だけど…このくらいでへこたれるボクじゃない…!
「うぐぐぐぐ!」
「無事立てたか…!」
「まあ、そうでなくては困るがな。後は天高くかざせば光が密集し、お前らを現実世界へと引き戻してくれるはずだ」
「天高く…」
 必死に剣を構え振り上げようとしたところで、ボクは自分の胸の内にできていた言葉をウィッチにかける。
「ウィッチ…君の事はあまり好きじゃないけど、でも…ありがとう」
「なんだ、礼など言いおって」
「君がいなければこの剣を集めてここまで来ることはできなかった…そう思っただけさ」
「ふん、そういうのはやつに勝ってから言うんだな。現実の我の体ごと吹き飛ばしても構わん。だから…きちっと我の体を取り戻してこい、球体ども」
「分かったよ。それじゃあ行こうか!えーっと…」
「キアだ」
「あたしはリゼ」
「うん、行こう!ラレイヴ!」
「キア、リゼ、トア君…か。行くぞ!!」
 そう叫びながら剣を天高くかざすと、眩い光に包まれ目の前が真っ白に染まっていった…

「頼んだぞ、ラレイヴ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…はっ!ここは…」
 ふっと目が覚め周囲を見渡すと、先ほどまでと変わらない銀景色が広がっていた。
 まさか失敗した…?
 そうも思ったが、トア君達の姿を見てそれは違うと認識した。
「みんな!起きろ!!!」
 ボクの声で目を閉じていたみんなが次々と目を開けると、自分たちが置かれている状況に気がつき声を上げる。
「おいなんだこれ⁈なんであたしら縛られているんだ⁈」
「くっ、解けない…」
「ラレイヴ、これって…!」
「うーん、どうやら早速ピンチのようだね…」
 ダラリとこぼれ落ちる汗を頬に感じながら顔を上げると、目の前には不適な笑みを浮かべたウィッチがボクらの事を見下ろしていた。
 どす黒いオーラを放ち空中を浮遊していたそいつは、濁りきった青い瞳をこちらに向け言葉を綴る。
「ヨケゾココマデタドリツイタナ」
「その喋り方…やはり君はウィッチじゃないな!」
「ソノトオリ。ワレノナハ”メザメ” キュウタイト、ダ-クマタ-ヲムスビツケルモノ」
「違う!君がやっている事は一方的な縛り付けだ!」
「そうだぜ!あたしにはダークマター達が襲ってきているようにしか見えなかった!!」
「俺の故郷でも住民を洗脳していたな」
「あたしの大好きなカンパニュラの人達を返して!!」
「ソレハデキナイ。ナゼナラキミタチハココデ、ワレラトワカチアウノダカラ…」
 やつの言葉に反応するかのようにウィッチの体から黒い液体が4滴ほどポチャリとこぼれ落ちると、雪に染み込んだ液体は姿を変えダークマターと化した。
 そして、産み落とされたダークマター達は徐々にこちらへと近づく。
「おいおい、まずいぞ!こいつら、あたしらの体を乗っ取る気だ!!」
 みんなが考えていたであろう事をリゼが代表して叫ぶ。
 このままでは確実にマズイ…なんとかしてこの縄を解きたいが、固く結ばれていて解ける気配が全くしない。

 このまま何もできずに終わるのか…?
 そんな考えが頭をよぎった時だった。
 風を切る音が聞こえてきたかと思うと、どこからか飛んできた岩石がダークマター達へと降り注ぎ四散させてゆく。
 何が起こったのかも分からないまま呆然としていると、急に手足に自由が戻ったため、伏せていた体をゆっくりと起こし始める。
「いやあ、ギリギリ間に合ったね、アスタ!」
「そうだね ちひろ」
 ズンッズンッと響く足音に目をやると、茶色の猫耳帽子を深く被った少年がオレンジ色の瞳の少年とハイタッチを交わしていた。
 2人組の少年達はボクらが立ち上がるのを確認するとウィッチを警戒しつつ口を開く。
「大丈夫だったか?」
「ああ、君たちのおかげで助かった。名前は?」
「ボクはアスタ」
「それでぼくはちひろ!まさかぼく達以外にもアレを倒しに来た人がいたなんて驚きだよ!しかも4人も!!」
「ちひろ…喜んでる場合じゃない 構えろ」
「うん!!」
 ちひろと呼ばれた少年はミラー帽子を被りグッと戦いの構えをする。
 ちひろにアスタ。どうやらこの2人もダークマターと関係があり、この事件に因縁があるようだ。その経緯はやはり分からないが、戦う仲間が増えるのは嬉しいね。
 助けられたボクら4人は互いに頷き合うと、各々が戦闘の体勢へと入る。
 
 …これが最後の戦い。
 何がなんでもこの戦いにだけは勝って、みんなを悪夢の世界から解放し…そしてこの覚嘘眼も救うんだ…‼︎

「ギギ…コイ,ドウホウタチヨ…!!」
 ボクは右手に持った夢の剣を構え、剣先を覚嘘眼へと向けた。

『この星をかけた最後の戦い』へと
つづく…!

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